非嫡出子の相続分|違憲判例で何が変わって、いつから適用?
「非嫡出子の相続」について、民法改正前後の内容や、改正された理由、いつからの相続ならば相続分が平等となるのか、今でも…[続きを読む]
父親が亡くなり相続が発生すると、妻以外の女性との間に子どもがいることが判明することがあります。いわゆる「婚外子」です。
こうした婚外子に、家族が遺産を相続させたくないと思うのはある意味当然でしょう。
果たして、婚外子にも相続権が認められているのでしょうか?
本記事では、婚外子がどんな場合に相続権を得るのか、また、婚外子に相続させたくないときにとりうる方法を解説していきます。
目次
婚外子とは、婚姻関係にない、内縁関係の男女間に生まれた子どもを指し、法律上は、非嫡出子と呼ばれます。
これに対して、婚姻関係にある男女の間に生まれた婚内子は、法律上嫡出子と呼ばれます。
非嫡出子は、出産した母親が法律上も親となり、出生と同時に母方の戸籍に入り、非嫡出子の「父親」の欄は空白となります。一方、父親との血縁関係は法律上証明することはできません。
つまり、非嫡出子の出生だけでは、法律上、父親は親として認められておらず、父親の相続権を持たないということになります。
法律上、非嫡出子が父親の相続権を得るためには、父親が子供を自分の子であると公に認める「認知」という行為が必要になります。
父親は、自分の意思で非嫡出子を認知することで非嫡出子と法律上の親子関係を成立させることができます。これを任意認知と言います。
父親は本籍地のある役所に、認知届と必要書類を提出することで、任意認知をすることができます。ただし、胎児を認知する際には母親の同意が、非嫡出子が成年に達していれば、非嫡出子の同意が必要になります。
父親は、遺言でも認知をすることが可能です(民法781条2項)。
ただし、遺言認知は、父親が亡くなってから効力が発揮されるため、遺言執行者を指定しておく必要があります。
父親が認知を拒んだとしても、非嫡出子やその母から認知を請求することが可能です(民法787条)。
強制認知で父子関係が立証されたら、父親は認知を拒むことがでず、非嫡出子は相続権を取得することになります。
さらに、生前に認知していなくても、父親の死後に認知を請求することができます。
死後認知請求は、父親の死亡後3年以内に(民法787条)、父親もしくは非嫡出子の最後の住所を管轄する裁判所で行います。
父親は既に亡くなっているため、公益の代表者として検察が被告になり(人事訴訟法12条3項)、DNA鑑定や関係者の証言などをもとに父子関係の存否が判断されます。
以前、民法には「非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1」という規定がありました(旧民法900条4号ただし書)。
しかし、最高裁判所は平成25年9月4日大法廷決定で、この規定が法の下の平等に反し違憲であるとの判断を下し、それを受け民法が改正されました。
改正後の現在は、嫡出子であっても、非嫡出子であっても、法定相続分は同等です。
ただし、具体的な事案で新民法が適用されるか旧民法が適用されるかは、相続発生の時期によって異なります。
非嫡出子の相続分について詳しくは以下の記事をお読みください。
非嫡出子と嫡出子とは「異父兄弟」の関係にあります。異父兄弟は、半血兄弟とも呼ばれています。
亡くなった親を、子として全血兄弟と半血兄弟が相続する場合は、法定相続分は同等です。
しかし、兄弟姉妹が亡くなり、半血兄弟と全血兄弟が相続する場合は、半血兄弟の法定相続分は全血兄弟の2分の1となります。
異父兄弟や異母兄弟の相続については以下の記事で分かりやすく解説しています。
それでは、非嫡出子に相続させたくない場合には、どのような方法が考えられるでしょうか。
考えられる方法は、主に以下の4つです。
ただし、認知された以上非嫡出子にも正当な相続権があり、「全く相続させない」というのは難しいといえます。
相続開始前に非嫡出子がいることが分かっていれば、遺留分を放棄してもらい、父親に非嫡出子を外した遺産分割を指定する遺言書を作成してもらう方法が考えられます。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に法律上最低限保障されている遺産の取得割合で、相続放棄とは違い、相続開始前に放棄することも可能です。
ただし、遺留分の放棄は、非嫡出子の意思に基づいて行ってもらう必要があり、現実には、非嫡出子に遺留分相当の遺産を渡すことは覚悟しておく必要があるでしょう。
次に、父親に資産をできるだけ生前贈与してもらい、相続開始時の相続財産をできるだけ減らしておく方法が考えられます。
ただし、相続から10年以内の法定相続人に対する生前贈与は、遺留分侵害額請求の対象となります。また、贈与者・受贈者双方が遺留分を侵害することを知って贈与を行うと、いつ行ったかに関わらず、すべての生前贈与が遺留分侵害額請求の対象となってしまいます。
さらに、年間110万円を超える生前贈与を受けると、贈与税が発生することになります。
父親の遺言書がなく、非嫡出子が相続開始後に現れた場合には、非嫡出子も交えて相続人全員で遺産分割協議を行わなければ無効となってしまいます。
そこで、遺産分割協議中に、非嫡出子に他の相続人に対して相続分の譲渡をしてもらう方法も考えられます。
相続分の譲渡とは、自分の相続分を他人に譲渡することで、家庭裁判所などの手続きは不要です。
ただし、相続人同士で無償で相続分を譲渡することは原則として「贈与」にあたると判断された判例もあり(最高裁平成30年10月19日判決)、場合によっては遺留分の侵害と判断されてしまう可能性があります。
最後に非嫡出子に相続放棄をしてもらう方法をご紹介します。
相続放棄をすれば、放棄した相続についてはじめから相続人ではなかっことになり、相続権を失います。
ただし、相続放棄することにはメリットがなく、非嫡出子が相続放棄に応じてくれる可能性は低いといえるでしょう。
相続放棄は、非嫡出子の意思で行わなければならず、他の相続人がうまく説得できるかどうかにかかっているでしょう。
4つの方法について解説してきましたが、いずれにせよ、非嫡出子を交えて家族間での話し合いが必要です。
遺産分割はただでさえ揉めるケースが多い中、相手が自分の夫や父親の隠し子となると、より抵抗感を覚える方も多く、解決が困難になります。
困ったときはまず、交渉のプロである弁護士に相談するのが一番です。
本記事では、非嫡出子に相続させたくないときにはどうするべきかを解説してきました。
非嫡出子は認知されなければ父親の相続権を持ちません。しかし、父親の死後であっても認知される可能性があります。
非嫡出子に相続させたくなければ、予め遺言書で対策しておくか、うまく交渉していくしかありません。
非嫡出子がいると、遺産分割が困難になることが多く、少しでも不安な方はまずは弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか。