【図解】法定相続人の範囲と相続分|相続できる人が一目で分かる
親族の中で相続人になれる範囲や優先順位、その人がもらえる相続分は民法で決まっています。「結局誰がどれくらい相続できる…[続きを読む]
普通方式の遺言には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。中でも特にオススメしたいのが「公正証書遺言」です。公正証書遺言とは、公証役場において「公証人」という専門家に依頼して作成してもらう遺言書です。最も確実な遺言方法とも言われ、相続開始後の検認も不要で公証役場で保管してもらえるといったメリットがあります。
この記事では、公正証書遺言の作成の流れと作成手順の詳細、費用を解説します。役場でかかる手数料や必要書類、準備すべきものは勿論、専門家に作成を依頼した場合の費用相場もご紹介します。これから遺言作成を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
最初に、公正証書遺言を作成するまでの流れを簡単に示しておきましょう。
上記の流れに沿って、公正証書遺言作成の手続きを詳しくご紹介します。
遺言書を作成するためには、「誰に」「何を」相続させるかを決めなければなりません。こればかりは、遺言者自身が決める必要があります。
まず、ご自分の法定相続人を確認し、「法定相続人が誰になるか」「誰に相続させたいか」を明確にしておきましょう。
その上で、法定相続人以外に財産を相続させたい人(お世話になった人など)がいる場合には、その方の情報もメモしておくとスムーズです。
次に、ご自分にどのような財産があるのかを、正確にリスト化します。
例えば不動産を所有している場合は、登記簿謄本を確認して、住所、地番、家屋番号などまで把握します。この情報が正しくないと、遺産分割対策ができません。漏れのないよう、しっかりと調べましょう。
預貯金については、口座の特定ができるように、預金先・口座番号・預金の種類・概算の金額なども記録しておくとスムーズです。
最終的に、遺言の末尾に「財産目録」として記載する内容になるので、遺言書や遺産分割協議書のサンプル(ひな形)などを参考にしながら、必要な情報をメモに残しておくとよいでしょう。
また、後述する通り、相続財産の額から公証人の基本手数料を算出するため、財産総額を把握する必要があります。現金・預貯金については、概算でかまいません。
相続人などと財産のリストが出来上がったところで、「誰に」「何を」相続させるのかを決めていきます。遺言書の原案といっても、公証人との打ち合わせの際に使うためのものなので、メモ書き程度でかまいません。
現金や預金は、支出や振り込み・引き出しなどにより増減するので、次のように額ではなく割合で決めておくといいでしょう。
原案の事例
- ○○銀行普通預金口座番号□□□□の貯金を妻に2/3、長男、長女に1/6ずつ
- △△銀行普通預金口座番号の貯金を長男、長女に1/2ずつ
- □□銀行普通預金口座番号の貯金を妻、長男、長女で1/3づつ
公正証書遺言を作成する際には、一般的には、以下のような書類が必要です。
公証役場の方とやりとりする中でも教えてもらえますが、よくある必要書類は事前に用意しておいたほうが良いでしょう。
「遺言者」に関する情報 | |
---|---|
実印の印鑑証明書 | |
「相続人/受遺者」に関する情報 | |
戸籍謄本(相続人) | |
住民票(受遺者) | |
「相続財産」に関する情報 | |
登記簿謄本(不動産) | |
口座情報(預貯金) | |
各種権利証(生命保険等) | |
「証人」に関する情報 | |
住所・氏名・生年月日・職業などを記載したメモ | |
「遺言執行者」に関する情報 | |
住所・氏名・生年月日・職業などを記載したメモ |
公正証書遺言の作成には、証人2人を揃える必要があります。証人に資格は必要ありませんが、次の方は証人になることができません(民法974条)。
もし、ご自分で探すのが難しいようであれば、公証役場に依頼することも可能です(別途費用が発生します)。
公正証書遺言の作成にあたっては、担当する公証人と、事前に打ち合わせをする必要があります。作成する遺言の内容や、証人や必要書類の準備状況などが分からないと、スムーズに作成できないためです。
公証役場には、特に管轄が定められていません。下記に全国の公証役場の一覧リンクを掲載しますので、お近くの公証役場に連絡しましょう。電話などで連絡しても良いですし、役場を直接訪問しても構いません。
公証人との打ち合わせが済んだら、書類の準備と並行して、作成日の日程調整をします。
同時に証人2名のスケジュールも確認・調整する必要があります。
公正証書遺言作成当日の流れは、次の通りです。
作成日当日は、本人確認や正本への押印のために、実印を忘れずに持参しましょう(証人2人の印鑑は、認印でもかまいません)。
遺言書は、すでに事前打ち合わせによって遺言書の原案ができているため、公証人が読み上げて、内容を確認します(もし、間違いがあれば、当日修正することもあります)。
読み上げの後、公正証書遺言の原本に、遺言者・証人2人・公証人が原本に署名・押印を行い公正証書遺言は完成し、原本は、公証役場で保管されます。
正本・謄本には、署名の代わりに記名がされており、押印の箇所には、㊞が印刷されています。とはいえ、正本・謄本も、原本と同じ効力を有し、相続手続きに利用することができます。
相続する財産の価額 | 手数料 |
---|---|
~100万円 | 5,000円 |
100万円超~200万円 | 7,000円 |
200万円超~500万円 | 11,000円 |
500万円超~1,000万円 | 17,000円 |
1,000万円~3,000万円 | 23,000円 |
3,000万円超~5,000万円 | 29,000円 |
5,000万円超~1億円 | 43,000円 |
また、遺言書に記載する財産額が1億円以下の場合には、別途11,000円を加算します。
相続する財産の価額 | 手数料の加算額 |
---|---|
1億円超~3億円 | 43,000円+13,000円/5000万円超えるごと |
3億円超~10億円 | 95,000円+11,000円/5000万円超えるごと |
10億円超~ | 249,000円+8,000円/5000万円超えるごと |
【出典】公正証書手数料令別表
公正証書作成にかかる手数料は、遺言の法律行為ごとに考えます。そのため相続人や受遺者が複数いる場合、それぞれの相続人・受遺者との間で別個の法律行為が発生するので、それぞれ別に計上します。
例えば、「妻に4,000万、長男に2,000万相続させる」場合には、次の通り計算します。この場合には、財産の総額が1億円以下なので、別途11,000円が加算されます。
29,000万円(妻分)+23,000万円(長男分)+11,000円(加算分)=63,000円
また、価額が1億円を超える場合には、5000万円増えるごとに、表中の価額が加算されます。
たとえば妻に2億円相続させる場合には、妻分の手数料が次の通りとなります。
[43,000円+{(2億円ー1億円)÷5000万円}×13,000円]=69,000円
遺言書の作成を弁護士に依頼した場合の基本報酬は、法律では決められておらず、事務所ごとに独自に金額を設定しています。
かつては日本弁護士連合会が報酬等基準規定を設けていましたが、平成16年4月に廃止されました。しかし、実務上、その基準と同程度を報酬額とした事務所が多いようです。
旧報酬規程では、遺言書作成の弁護士報酬は次の通りです。
分類 | 財産額 | 弁護士報酬額 | |
---|---|---|---|
定型 | 10~20万円 | ||
非定形 | 基本 | 300万円以下 | 20万円 |
300万円を超え3,000万円以下 | 1%+17万円 | ||
3,000万円を超え3億円以下 | 0.3%+38万円 | ||
3億円を超える | 0.1%+98万円 | ||
特に複雑または特別な事情がある場合 | 弁護士と依頼者との協議により定める額 | ||
公正証書にする場合 | 上の手数料に3万円を加算 |
遺言の内容が典型的な内容しかない「定型遺言」であれば、基本報酬額10~20万円だけのことが多くなります。
他方、遺言の内容に特殊な内容が含まれている非定形遺言であれば、相続財産の価額に応じて一定の率で計算されます。
上記規定に沿って計算すると、遺言書が非定型の場合の弁護士報酬は、次の通りとなります。公正証書遺言にする場合には、定型・非定型を問わず、3万円が加算されます。
財産額 | 計算 | 弁護士報酬額 |
---|---|---|
250万円の場合 | 20万円+3万円 | 23万円 |
2,500万円の場合 | 2,500万円×0.3%+38万円+3万円 | 485,000円 |
3億5000万円の場合 | 3億5000万円×0.1%+98万円+3万円 | 1,360,000円 |
また、財産調査や相続人調査などの業務が別途必要になる場合は、更に加算されます。公正証書遺言では、公証役場での立会日当も必要です。
その他、必要書類の取り寄せを弁護士に依頼した場合は、郵送費・手数料等の実費も支払います。
弁護士を遺言執行人に指定すると、実際に遺言執行をする際に、遺言執行費用が別途発生します。
最後に、公正証書遺言を作成するにあたっての注意点をご説明します。
公証役場までの付き添いなどは可能ですが、作成の瞬間に立ち会う事ができるのは、本人と証人2人、そして公証人だけです。
ご高齢の方が公正証書遺言を作成する場合などは、ご家族の方が「看護目的」で同行されるケースもありますが、遺言書の読み合わせの席には同席できません。
通常は公証役場での手続きとなりますが、遺言する方の体調や年齢などによっては、そもそも公証役場に行くこと自体が難しいこともあります。
その場合には、公証人に出張してもらい、手続きすることも可能です。
ただし、「その他発生する費用」で触れた通り、公証人に出張してもらった場合は、日当が1日2万円(4時間まで1万円)と交通費(実費)が発生します。
さらに通常の1.5倍の公証人手数料が必要となります。
もう一度同じ手順を踏んで作成し直すことも可能であり、これが最も問題の少ない方法です。
もっとも、上記で見た通り、公正証書遺言の作成には、遺言という法律行為の重大性に即した相応の金額が掛かります。決して安くはありません。
そのため、既にある公正証書遺言を参考にして、自筆証書遺言を作成するという方法も選択肢として考えられます。
公正証書遺言であれ、自筆証書遺言であれ、優先されるのは「日付が最新のもの」です。
公正証書遺言の再作成にかかる手間や費用が気になる方は、自筆証書遺言の作成を試みても良いでしょう。
ただし、自筆証書遺言では、「無効な遺言書」になってしまうおそれがあるため、法律の要件を正しく満たすよう、ひな形や作成方法を確認しながら、注意深く作成しましょう。
公正証書遺言作成の流れと費用を解説しました。
公正証書遺言は、非常に確実な遺言方法です。遺言書に確実性を担保したいのであれば、できる限り公正証書遺言によって作成しましょう。
費用はかかりますが、弁護士に依頼すれば、作成のための段取りもすべて代行してくれます。