認知症になると相続対策ができない!早めの対策を

認知症を患うと、本人の生活が困難になり、家族と共に様々な問題・課題を抱えることになります。

それ以上に、資産をお持ちの家庭で一番困るのが「相続対策ができなくなる」ことです。なぜ認知症患者は相続対策ができないのでしょうか?また、どのような対策を講じれば良いのでしょうか?

1.認知症になると相続対策ができなくなる!

認知症を患うと、相続対策を進める上で様々な弊害が生じます。まず、その理由からご説明します。

1-1.意思能力がない認知症患者の法律行為は無効になる

医師から認知症を患っていると診断された方は、「意思能力のない者」として扱われる可能性が高くなります。
民法上、意思能力がない者が行った契約などの法律行為は「無効」になってしまうのです(民法3条の2)。

軽度の認知症であれば、意思能力が認められることもありますが、素人には、判断が困難です。認知症が原因で、利害関係人などから生前贈与や売買契約、遺言書などの有効性に疑義が生じた場合には、裁判所が最終的な判断を下します。

1-2.意思能力がない認知症患者が行った相続対策も無効になる

法律行為には、次に挙げるような相続対策も含まれます。認知症を患った方が行う相続対策も、無効として扱われる可能性が高くなります。

認知症になり判断能力を失うと、事実上、相続対策ができなくなってしまうのです。

  • 不動産の建設・売却・賃貸契約
  • 預金口座の解約、引出し
  • 生命保険加入
  • 子供、孫などへの生前贈与
  • 遺言書の作成
  • 養子縁組
  • 遺産分割協議への参加
  • 株主の場合、議決権の行使
    など

もちろん、認知症になる前に相続対策を終えてしまえば問題はありません。しかし、実際は、被相続人となる多くの方が「自分は認知症と無縁である」と考えがちです。その結果、いざ相続対策をしようというときには、手遅れになっていることも多いのです。

1-3.遺言能力のない認知症患者が遺した遺言書

遺言者には、遺言を作成する時に、「遺言能力」が必要となります(同法963条)。「遺言能力」とは、遺言者が自分の作成した遺言書の内容を理解し、自分の死後、その遺言書に従ってどのような相続が起こるかを弁識できる能力です。

したがって、認知症により遺言能力を失った被相続人が遺した遺言書も、無効になってしまいます。

遺言無効が争われたときに、公正証書遺言であれば、自筆証書遺言よりは有効になりやすいとは言えますが、作成時に遺言能力がなければ無効となります

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2.法定後見制度では生前対策ができない

本人の意思能力の欠如により資産管理や契約ができないときには、裁判所によって選出された成年後見人が、本人に代わって資産管理や契約を行います。これが「法定後見制度」です。

ただし、成年後見人は、主に資産管理と保全を本人の利益のため行います。資産の売却や、預金の引き出しも、すべては本人のために行わなければなりません。例えば、本人が存命中に子供や孫に財産を生前贈与することは、本人の資産額を減らし不利益を与えることですから許可されません

一方で、生前贈与は、本人の資産の総額を減らすことで相続税の節税効果があるため、相続人の利益となる相続税対策となります。相続対策というのは本人(被相続人)の利益ではなく、相続人の利益のために行うものなのです。

つまり、法定後見制度を使っても、被相続人の生前に相続対策はできないということになります。

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3.認知症になる前にすべき生前対策

そこで、認知症になる前に法的手続きを取っておくことで、万が一の際にも相続対策ができるようになる2つの方法をご紹介します。

3-1.任意後見制度による対策

後見制度には、先に紹介した「法定後見制度」のほかに、「任意後見制度」があります。任意後見制度は法定後見制度と異なり、被後見人の意思で後見人を選出し、その後見人に財産の処分を託すことができます。したがって、任意後見制度であれば、相続対策ができるのです。

任意後見制度を利用するには、被後見人と後見人候補との間で「任意後見契約」を締結する必要があります。そして、被後見人に認知症の症状が見られた際に、後見人が資産管理・運用・処分をすることになります。

ただし、任意後見制度を活用できるのは、後見人の意思能力があるうちに限られます。意思能力が欠如してからでは、法定後見制度しか使えません。したがって、早い段階から任意後見制度を利用して、相続対策を進める必要があります。

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3-2.家族信託(民事信託)による対策

信託とは、委託者と受託者、受益者の三者で成り立つ契約で、財産管理・運用の一手法です。「家族信託」は、家族に自分の財産を託すことです。

  • 委託者が受託者に財産を委託する
  • 受託者が信託契約の内容に従い財産を運用・処分する
  • 運用・処分によって得た財産や利益を受益者が受け取る

例えば、資産を持つ高齢の親を委託者兼受益者、子を受託者として信託契約を締結しておけば、委託者が認知症担った後も受託者が財産を管理・運用することで相続対策ができます。信託契約で定めておくことで、財産の売買も可能になります。

しかし、家族信託も「認知症」と診断される前に契約をしなければ無効になってしまいます。そのため、早いうちから対策を取っておくことが望まれます。

土地など不動産の相続にも有効な家族信託

家族信託は、相続と比べて柔軟な設定ができます。

委託者が不動産所有者の場合は、不動産を信託財産とすることで、次のようなメリットが生じます。

例えば、土地の所有者である父親を委託者兼受益者、長男を受託者として設定し、土地に収益物件を建てることで、長男が収益物件を管理・運用し、父が認知症になった際には病院費用や介護費用に充てることができます。

また、父親の死後は受益者を配偶者に、配偶者の死後は長女に設定しておけば、実質的には二次相続以降の指定も可能になり、相続でトラブルになりやすい不動産の共有状態を回避することも可能になります。

さらに、不動産の売買を信託契約で設定しておくことで、父親の老人ホームへの入居費用などまとまった金額が必要な場合には、受託者が委託者の承諾なく、不動産を処分することができます。

このように、柔軟な運用が可能な家族信託ですが、デメリットもあります。詳しくは、是非、次の関連記事をご一読ください。

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4.認知症になる前に早めの相続対策を

残念ながら、認知症によって判断能力を失ってしまった後にできる相続対策はありません。
なぜなら、相続財産はすべて被相続人の所有財産であり、たとえ家族であっても本人の承諾なしに勝手に処分することは許されないのです。財産の所有者本人が意思を表現できないのですから、どうしようもありません。

唯一できることは、現在のすべての財産を把握して、発生する相続税の金額を算出し、相続人となる親族が現金をコツコツとためて用意しておくことです(現金で払えない場合は、延納・物納という方法もあります)。

あらかじめ、「任意後見制度」や「家族信託」によって対策を講じておくことが望まれます。これらの手続きでご不明な点があれば相続弁護士などの専門家に相談をして、一緒に対策を進めると良いでしょう。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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