親の連帯保証を相続放棄できる?相続放棄と連帯保証人との関係
たとえば親が死亡してしまった際、相続処理のために財産や債務を調査していると、思いがけず被相続人である親が他人の連帯保…[続きを読む]
相続が発生した場合、相続人は被相続人の財産と債務をすべて承継するのが原則です。
しかし、被相続人が何らかの債務の連帯保証人になっていた場合、相続人が思いがけず重い負担を背負ってしまうことになる可能性があります。
相続人としては、被相続人が何らかの債務の連帯保証人になっていないかどうかを正確に把握しておかなければ、安心して相続することはできないでしょう。
また、万が一思いがけず連帯保証債務を相続してしまい、支払いに困ってしまった場合には、弁護士に相談して債務整理を検討する必要があるかもしれません。
この記事では、
などについて詳しく解説します。
連帯保証と相続の問題には考えなければならないことがたくさんあるので、この記事を参考にしてぜひ正しい知識を身につけてください。
なお、既に相続放棄をお考えの方はこちらの記事がおすすめです。
目次
まず、連帯保証人とは何かについて簡単におさらいしておきましょう。
連帯保証人とは、債務者が債務を期限どおりに支払わない場合に、債務者の代わりに債権者に対して債務を弁済しなければならない人のことです。
例えば借金の返済や、住宅ローンの支払いなどを保証する例が代表的でしょう。
上記の点は通常の保証人も同様ですが、連帯保証人は通常の保証人とは大きな違いがあります。
少し難しいかもしれませんが、前提として知っておいていただきたいことなので、重要なものに絞ってご説明します。
通常の保証人は、債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができます(民法452条本文)。
これを「催告の抗弁権」といいます。
つまり、借金で通常の保証なら「まず借りた本人に請求して」と言えるのですが、連帯保証人になっていると、このような理由で拒むことはできません。
また、通常の保証人は、主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明すれば、まず主たる債務者に対して強制執行をするよう主張できます(民法453条)。
例えば借金の連帯保証人になっているとき、「借金している本人がお金持ってるし簡単に強制執行できるでしょ」とは言えません。
このように、連帯保証人は通常の保証人なら使えるいくつかの反論を封じられています。
保証人が複数いる場合、通常の保証人は自らの負担分に限り保証債務を履行すればそれで足ります。これを「分別の利益」といいます。
しかし、連帯保証人には分別の利益が認められていません。
したがって、連帯保証人が複数いる場合であっても、債権者に対してはそれぞれの連帯保証人が債務全額の履行義務を負います。
よく「連帯保証人にだけはなるな」と言われるのは、これらの点が大きな理由の一つです。
それでは、こうした重要な連帯保証人としての地位は相続の対象になるのでしょうか。
連帯保証人たる地位および債務が相続の対象となるかどうかは、保証の種類によって異なります。
考えるべきパターンは、大きく分けて以下の3つです。
それぞれのパターンについて詳しく見ていきましょう。
特定保証とは、主たる債務がすべて特定されている保証です。
例えば、銀行から一回限りの借金1000万円についての保証なら、それは特定保証です。
特定保証である連帯保証債務は、純然たる金銭債務であり、範囲も明確に限定されているので、相続人が連帯保証人を相続しても予想外の負担にはならないはずです。
そのため、「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」(民法896条)という相続の原則どおり、特定保証では連帯保証人の地位および債務は相続の対象となります。
根保証とは、継続的に発生する不特定の債務についての保証です。
イメージは難しいかもしれませんが、身近なものでは賃貸借契約の保証があります。
マンションを借りて住むと毎月毎月家賃が発生しますが、マンションを借りるときの保証人はまさに「根保証」をしているのです。
根保証の場合は、主たる債務の範囲が限定されていないので、相続の対象に含めると相続人が思いがけず過大な負担を背負う可能性があります。
そのため、根保証の場合、連帯保証人たる地位が相続されるかどうかは、保証債務の上限金額があるかどうかにより結論が変わります。
この保証債務の上限金額のことを「極度額」といいます。
2020年4月1日施行の改正民法によって、個人が保証人となる根保証契約については極度額の定めが必須となりました。
しかし、施行日より前に締結された個人根保証契約には改正民法の規定が適用されないため、世の中には極度額のない個人根保証契約も存在していることになります。
極度額の定めがない根保証契約の場合、相続開始時点で既に具体的に発生している保証債務は相続されます。
一方で、相続開始以降に発生した債務については相続の対象外とされています(最判昭和37年11月9日)。
極度額の定めがない根保証の場合には、保証債務の負担が無限定に拡大するおそれがあります。
相続人にこのような負担を負わせるのは過酷なため、相続の対象となる保証債務が限定されているのです。
極度額の定めがある場合には、保証債務の上限額が決まっているので、相続人としても自分がどのくらいの債務を負うことになるのか予測することができます。
そのため、極度額の定めがある根保証の場合は、連帯保証人たる地位および債務は相続の対象になるものと考えられています。
身元保証は根保証の一種ですが、その特殊性から相続に関しては特別な取扱いがなされています。
身元保証は、親族関係その他の個人的な繋がりに基づいて行われることがほとんどです。
そのため、身元保証は一身専属的な義務として、相続の対象外とされています(民法896条ただし書、大判昭和2年7月4日)。
ただし、相続開始時点で既に具体的に発生している債務については例外的に相続の対象となります(大判昭和10年11月29日)。
上記が連帯保証人たる地位および債務が相続の対象となるかどうかの3パターンですが、よくある住宅ローンの連帯保証について補足しておきます。
住宅ローンの連帯保証についても、基本的には上記で解説したルールに従って、相続の対象となるかどうかが判断されます。
なお、住宅ローンの債務者が団信(団体信用生命保険)に加入している場合があります。
債務者自身が死亡した場合には、団信から保険金が支払われることにより住宅ローンは完済されます。
ただし、連帯保証人が死亡した場合については、団信による保険金支払いの対象にはなりません。
したがって、債務者が死亡しない限り、上記で解説した連帯保証人たる地位および債務の相続についてのルールに従って、住宅ローンの連帯保証人たる地位および債務が相続されることになります。
複数の相続人がいる場合、連帯保証人たる地位および債務がどのように相続されるのかについて解説します。
ここでは、説明をシンプルにするため、主たる債務は借金などの金銭債務であることを前提とします(多くの連帯保証は金銭債務です)。
主たる債務が金銭債務の場合、連帯保証債務も金銭債務、つまり可分債務ということになります。
可分債務が相続の対象となる場合、当該債務は相続の開始により、法定相続分に従って自動的に分割され、遺産分割の対象外となります(最判昭和29年4月8日)。
つまり、各相続人は自らの法定相続分に従って、債権者に対する連帯保証債務を当然に承継します。
この各自の債務額を変更するためには、債権者の同意が必要となります。
なお、債権者とは無関係に、連帯保証人間で内部的な負担割合について合意することは可能です。
民法上、保証人になるためには以下の2つの要件を満たす必要があります(民法450条1項)。
もし、連帯保証人の相続人の中に、上記の要件を満たさず保証人になれない人が含まれている場合は、どのように相続が行われるのでしょうか。
このような場合であっても、相続人は連帯保証債務を相続することは可能です。
しかし、保証人が後発的に上記の2つの要件を欠くに至った場合に該当しますので、債権者から保証人の交代を請求される可能性はあります(同条2項)。
相続では、被相続人の債務の全体像を把握することは非常に重要です。
相続人としては、被相続人が何らかの債務の連帯保証人になっていたかを調べなければなりませんが、どのように調べればよいのでしょうか。
金融機関からの借り入れなどについて連帯保証人になっているかどうかは、信用情報機関に情報開示請求をすることで判明します。
代表的な信用情報機関は以下の3つです。
非金融機関に対する債務の連帯保証人になっているかどうかについては、信用情報機関には情報が登録されません。
したがって、契約書や請求書を手がかりに調べるしかありません。
このような債務としては、たとえば以下のようなものが考えられます。
連帯保証人たる地位や債務を相続するのは負担が重すぎるという場合には、①限定承認、または②相続放棄をすることにより、相続を回避することが可能です。
限定承認とは、相続によって得た財産の限度でのみ債務を承継するという意思表示のことです(民法922条)。
限定承認をすることにより、自分の元々の財産で借金などの債務を返済することは防げます。
相続放棄とは、被相続人の財産・債務のいずれも一切相続しないという意思表示のことです。
相続放棄をした場合、相続放棄をした人は、はじめから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。
そのため、もちろん被相続人がなっていた連帯保証人の地位も相続しません。
限定承認・相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内(熟慮期間)に行う必要があります(民法915条1項本文)。
そのため、熟慮期間を経過しないように速やかに準備・判断をしなければなりません。
ただし、財産調査に時間がかかる場合や、後から高額の債務が判明した場合などには、家庭裁判所により熟慮期間の伸長が認められる場合があります(同項ただし書)。
熟慮期間を過ぎてやむを得ず連帯保証債務を相続してしまい、債務の支払いができなくなってしまったという場合には、弁護士に相談して債務整理を行うことを検討しましょう。
債務整理には、大きく分けて①任意整理、②個人再生、③破産の3種類があります。
それぞれ簡単に解説します。
債権者との交渉により債務の減額や弁済スケジュールの変更を行います。
簡易・迅速・柔軟な手続が特徴ですが、債務の大幅な減額は認められにくい傾向にあります。
裁判所での個人再生手続により債務の減額や弁済スケジュールの変更を行います。
破産とは異なり自宅の土地・建物を手元に残せる制度があります。
債務の金額も相当程度減額されます。
裁判所での破産手続により債務の免除などを行います。
債務の全額が免除される代わりに財産の大部分が処分されてしまうので、債務整理の最後の手段といえるでしょう。
被相続人が連帯保証人になっている場合、相続人は思いがけず過大な債務を負ってしまうことになりかねなません。
相続の処理にあたっては、被相続人が連帯保証人になっていないかどうかを調査した上で、適切な意思表示をすることが重要になります。
特に限定承認や相続放棄には期限(熟慮期間)があるため、速やかな対応が必要になります。
早めに弁護士に相談してサポートを受けつつ、適切な相続処理を行いましょう。