相続放棄を取り消すための条件

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肉親が亡くなったときに「期限があるから急いで手続きをしなくては」と思って慌ててやってしまうこともある「相続放棄」。しかし、財産状況や他の相続人の意思などを確認しないまま焦って手続きをしてしまうと、「相続放棄しなければよかった!」と思うことがあるかもしれません。

そんなとき、取り消しや撤回ができるのでしょうか?
どんな場合に相続放棄の取消や無効が認められるのか、わかりやすく解説します。

1.相続放棄とは

「相続」と聞くと、「肉親の財産を受け継ぐこと」というイメージが強いかもしれません。確かにそうなのですが、もし被相続人(亡くなった人)が預貯金や不動産等のプラスの財産だけではなく借金などのマイナスの財産があった場合、それも併せて相続することになります。「プラスの財産だけ相続したい」というわけにはいきません。

財産を差し引いても債務が残り、それを受け継いで支払うことを拒否したい場合、多くの人は「相続放棄」という手段を使います。

相続放棄とは読んで字のごとく「相続」を「放棄」することです。手続き自体は難しくなく、

  1. 裁判所に必要書類(裁判放棄の申述書や戸籍類など)を提出
  2. 申述書が申請人の意思に基づいたものかどうか、裁判所からの書類などで確認を行う
  3. 相続放棄が受理される

という流れです。必要書類も多くないため、弁護士に依頼しなくても自分自身で手続きをする人も多くいます。

2.相続放棄をやめたいときの方法

比較相続放棄の申述をしたものの、事情が変わったので相続放棄をやめたい、ということがあります。
そんなときに考えられる手段としては

  • 取り下げ
  • 撤回
  • 取り消し

が挙げられます。一見同じような意味に思うかもしれませんが、それぞれで意味合いが異なります。

2-1.取り下げ

裁判所に相続放棄申述書を提出してから受理されるまでには少し時間がかかります。受理されるまでの間であれば、「取り下げ」の手続きをとるだけで、相続放棄の申述自体をなかったことにできます。
ただし、「受理されるまでに少し時間がかかる」と言っても通常は1週間程度で受理されますので、大急ぎで手続きをする必要があります。

2-2.撤回

2-2-1.そもそも「撤回」はできない

民法第919条第1項
相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。

相続放棄の手続き自体は簡単です。しかし、一度受理された相続放棄は「撤回することができない」と民法第919条第1項で明記されています。

2-2-2.なぜ撤回ができないのか

相続放棄をした人は「最初から相続人ではなかった」という扱いになります。そのため、相続放棄が行われると、他の相続人の相続割合が変更になったり、場合によってはそれまで相続権がなかった別の親族が相続人となったりもします。

相続手続が進んでいく中で「ごめん、やっぱり相続放棄はなかったことにして、私は相続人に戻ります!」と言われてしまったらどうでしょうか。

遺産の分け方について話がついていたとしても、また一から話し合いのやり直しが必要になりますし、それまで相続人だった人の相続権がなくなってしまう、ということにもなります。

各方面で混乱を招いてしまいますよね。

そういった混乱を防ぐため、相続放棄の撤回は明確に禁止されているのです。

2-3.取消

では、一度受理されてしまった相続放棄は絶対に取り消せないのかというと、そうではありません。

民法第919条第2項
前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。

ここでの「第一編(総則)及び前編(親族)の規定」とは具体的に言うと

  • 詐欺や強迫によって相続放棄をさせられた場合(民法第96条)
  • 未成年者が法定代理人の同意なく相続放棄をした場合(民法第5条)
  • 成年被後見人自身が相続放棄をした場合(民法第9条)

などです。
これらにあたる場合、相続放棄の取り消しの手続をとることができます。

2-3-1.詐欺や強迫

民法第96条第1項
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

たとえば、
「離れて住んでいた父が亡くなった。父と同居していた兄が『父には財産はほとんどないが莫大な借金がある。相続放棄をしないとお前が払う義務を負う』と言われたので相続放棄をした。しかしその後、借金があるというのは嘘で、逆に預貯金などを多く遺していることが判明した」
などという場合は「詐欺によって相続放棄をさせられた」と言えます。

また、「本当は相続をしたかったが、親族に大声で恫喝され身の危険を感じるほどだったので、仕方なく相続放棄を行った」
などという場合、「強迫によって相続放棄をさせられた」というケースに当てはまりますね。

2-3-2.未成年者の相続放棄

民法第5条第1項
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
同第2項
前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

未成年者が法律行為を行うとき、法定代理人(多くの場合は親権者)の同意が必要です。未成年者が法定代理人の同意なく相続放棄をした場合、その相続放棄は取り消すことができます

ただし、相続放棄申述書と一緒に提出する戸籍類などにより申述人が未成年者であると確認ができるので、大抵の場合は申述の時点で「この申述人は未成年者だけど、法定代理人の同意は?」というように裁判所のチェックが入ります。そのため、このような状況になることは非常にまれであると言えます。

2-3-3.成年被後見人自身による相続放棄

民法第9条
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

「母が認知症なので息子である自分が後見人になっているが、母が勝手に相続放棄の手続きをしてしまった」などという場合がこれです。

成年被後見人は判断能力を欠いているため、自分にとって適切な法律行為ができないと考えられます。そのため、成年被後見人が行った相続放棄などの法律行為は取り消すことが可能、という規定があるのです。
なお、「成年被後見人に相続放棄をさせたい」という場合は、成年後見人が法定代理人となって行う必要があります。

2-3-4.相続放棄の取り消しの手続

裁判所に「相続放棄取消申述書」および付属書類(戸籍類など)を提出します。相続放棄の申述同様、800円分の印紙および裁判所が定める金額の郵便切手(通常数百円分程度)が必要です。
また、「どういう理由で取り消しの申述をするに至ったのか」ということがわかる証拠書類の提出を求められたり、裁判所に呼び出されて事情を聞かれたりすることもありますので、可能な範囲で準備しておきましょう。

なお、取り消しができる期間は
「追認できるとき(例:詐欺であることに気がついたときなど)から6カ月以内」かつ「放棄のときから10年以内」です。(民法第919条第3項)

3.もうひとつの可能性「錯誤無効」

ここまで、相続放棄の「取り下げ」「撤回」「取り消し」について解説しましたが、受理されてしまった相続放棄について、「錯誤無効」を主張する、という選択肢もあります。

3-1.「錯誤無効」とは何か

錯誤とは、簡単に言うと「勘違い(錯誤)がもとでやってしまった法律行為をなかったことにする(無効)」ことで、民法第95条に規定されています。

民法第95条
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

ただし、ただ単に「勘違いでした」というだけで何でも無効にできるわけではありません。相続放棄に限らず、さまざまな法律行為について「錯誤無効」を主張する場合にはいくつかの要件があります。

  • 「法律行為の要素の錯誤」であること
  • 重過失がないこと

などです。
「法律行為の要素」が何にあたるかというのはその案件によって判断が異なるところで、相続放棄に限らず、一概に「このような場合は要素の錯誤なので無効の主張が出来ます」などと言い切れるものではありません。

3-2.相続放棄における「錯誤無効」

では、相続放棄の錯誤無効について考えてみましょう。

「『兄も相続放棄をするだろうし、兄以外の私たち兄弟も相続放棄をしよう』という気持ちで相続放棄をしたのに、兄が相続放棄をしなかった。こんなことなら私たちは相続放棄をしなかったのに」という事案があったとします。

判例をもとに結論を述べますと、昭和40年5月27日最高裁判決は上記事案について、「相続放棄は法律行為であるため、民法第95条の適用があると考えられるが、今回の件については『動機の錯誤』にあたるため、錯誤無効にはあたらない」と述べています。

相続放棄の場合、「相続放棄をしようという意思を持って、相続放棄の手続を問題なく行った」ということになるため、法律行為自体に錯誤はない、と考えられ、相続放棄をしよう」と思うに至った動機に錯誤(「兄も相続放棄をするだろう」という期待が間違っていた)がある、ということになります。が、一般的に「動機の錯誤」は錯誤無効とならないとされているため、このような結論になったのだと考えられます。

3-3.錯誤無効になる可能性は高くない

相続放棄の錯誤無効について、いくつかの判例はあるものの、まだまだ議論がなされている段階であるというのが現状です。認められる可能性はゼロではありませんが、もし錯誤無効を主張したいと考えるのであれば、状況や証拠書類などを弁護士とじっくり付き合わせ、よくよく検討する必要があるでしょう。

4.相続放棄は慎重に

親族が亡くなり、「相続放棄をしなくちゃ!」と焦って手続きをする人は多くいますが、一旦受理された相続放棄を覆すのは非常に手間がかかるうえに、案件によっては認められない場合も多くあります。

肉親が亡くなるというのは非常につらいものです。しかし、財産のことで親族間に余計な争いが発生すると、そのつらさにさらに追い討ちをかけてしまいます。それを事前に防ぐため、状況に合わせて適切な相続手続を行う必要があるのです。

相続放棄を行えるのは、被相続人が亡くなってから(もしくは亡くなったことを知ったときから)3ヶ月間と決まっています。葬儀などが一通り終わったら、3ヶ月の間で可能な限り

  • 財産の調査
  • 相続人の間での調整

などを行い、期間内に相続放棄の有無などについて具体的に行動に移すようにしましょう。焦る必要はありませんが、可能な限り急いで行動した方がいいですね。

不明な点があったり、調査調整がうまく進まなかったりしてお困りなのであれば、なるべく弁護士などの専門家へ相談しましょう。
トラブルが起こってからではなく、トラブルが起こる前に相談する。これが弁護士の正しい利用方法です。

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