相続放棄とは~手続と費用・デメリットなどを解説!
相続が起こったとき、資産がプラスになることだけではありません。被相続人が借金などの負債を残して亡くなった場合には、相…[続きを読む]
肉親が亡くなり慌ただしいときに、「期限があるから急いで手続きをしなくては」と思って焦ってやってしまうことがある「相続放棄」。
しかし、財産状況や他の相続人の意思などを確認しないまま手続きをしてしまうと、「相続放棄しなければよかった!」と思うことがあるかもしれません。
そんなとき、取り消しや撤回はできるのでしょうか?
どんな場合に相続放棄の取消や無効が認められるのか、わかりやすく解説します。
目次
相続放棄とは、読んで字のごとく、「相続」を「放棄」することです。
「被相続人が遺産を超える借金を抱えていて相続したくない」というときに選択されることが多いのが相続放棄です。
相続放棄をするときには、すべての財産についての相続権を放棄することになります。
一部の財産は放棄するが、他の財産は相続する、ということは認められません。
また、民法上「被相続人が死亡したことおよび自分に相続権があること」を知ってから3ヶ月以内に相続放棄しなくてはならない、という期限も設けられています(熟慮期間)。
しかし、後から「やっぱり相続放棄をやめたい!」と考えることもあるでしょう。
残念ながら、いったん行った相続放棄をやめることはほとんど不可能です。
しかし、稀に認められるケースもあります。それが以下に挙げた「取り下げ」、「取り消し」、「錯誤無効(錯誤取り消し)」です。
相続放棄では認められない「撤回」も含め、それぞれ順番にご説明します。
裁判所に相続放棄申述書を提出してから受理されるまでには、少し時間がかかります。
受理される前であれば「取り下げ」の手続きをとるだけで、相続放棄の申述自体をなかったことにできます。
ただし、「受理されるまでに少し時間がかかる」とはいえ、通常は1週間程度で受理されますので、大急ぎで手続きをする必要があります。
通常、裁判所に取り下げの希望を電話で連絡すると、取り下げ書を送ってくれます。
地域によっては、家庭裁判所のサイトからダウンロードできるところもあります。
その取り下げ書に署名押印し、裁判所に返送すると、相続放棄の申述を取り下げることができます。
それでは、裁判所が相続放棄申述書の受理を完了してしまった「後」に、相続放棄をやめたくなったらどうすればよいでしょうか。
結論からいって、撤回はできませんが、取り消しができることがあります。
一度受理されてしまった相続放棄は、撤回することができません。
これは民法で明確に定められています。
相続放棄によって、他の相続人の相続割合が変わり、場合によっては、相続権がなかった親族が、相続放棄をした人の代わりに新たな相続人となります。
もし、相続手続きが進む中で「やっぱり私は、相続放棄をキャンセルして、相続人に戻ります」と言われてしまったら、遺産分割協議をやり直さなくてはならなくなり、他の相続人や被相続人の債権者といった利害関係人などの混乱を招くことになります。
このような混乱を防ぐため、相続放棄の撤回は明確に禁止されているのです。
対して、どれか一つでも以下の事由に当てはまれば、相続放棄の取り消しができます(民法919条2項)。
いずれも、相続放棄の申述をした時点で既に問題があったにもかかわらず、申述を受理してしまったために、相続放棄を取り消すことができるケースです。
赤文字にした3つについては、このあと詳しく解説します。
取り消しの具体的な手続きについては、次の「3.相続放棄の取り消しの手続き」で説明します。
ご自身の状況が、上記のいずれかに該当するか確認してみましょう。いずれにも該当しない場合は、「4.もうひとつの可能性「錯誤無効(錯誤取り消し)」」をお読みください。
詐欺や強迫によって相続放棄をしたために、取り消せる可能性がある事例をそれぞれ挙げておきます。
「詐欺」にあたり、相続放棄を取り消しうる例
兄と同居していた父が亡くなり、兄に「父には財産はほとんどないが莫大な借金がある。相続放棄をしないとお前も返済の義務を負う」と言われたので相続放棄をした。しかしその後、借金があるというのは嘘で、逆に預貯金など多くの財産を遺していることが判明した。
このケースでは、兄の嘘に騙されたことで相続放棄をしたため、取り消しが認められる可能性があります。
「強迫」にあたり、相続放棄を取り消しうる例
本当は相続をしたかったが、親族に大声で恫喝され身の危険を感じたので、仕方なく相続放棄を行った。
この場合、親族から不当に恫喝されたことによって恐怖を感じ、やむなく相続放棄をしたといえるので、取り消しが認められる可能性があります。
未成年者は、契約などの法律行為を行うときに法定代理人(多くの場合、親権者)の同意を必要とします。
未成年者が、法定代理人の同意なく相続放棄をした場合、取り消すことができます。
ただし、申述人が未成年者の場合には、相続放棄申述書を提出する際に、法定相続人の同意について裁判所から確認されるはずですから、こういったケースは稀でしょう。
成年被後見人自身の相続放棄として挙げられる例に、「母が認知症なので弁護士に後見人になってもらっているが、母が、弁護士の知らぬ間に自分で相続放棄の手続きをしてしまった」といったケースがあります。
成年被後見人は判断能力を欠いているため、相続放棄などの法律行為は取り消すことが可能だとされています。
なお、実際に成年被後見人が相続放棄をする場合は、成年後見人が法定代理人となって行う必要があります。
次に、相続放棄の取り消しの具体的な手続きについて説明します。
相続放棄を取り消すためには、裁判所に「相続放棄取消申述書」および付属書類(戸籍類など)を提出しなくてはなりません。
その際、相続放棄の申述同様、800円分の印紙および裁判所が定める金額の郵便切手(通常数百円分程度)が必要となります。
また、相続放棄の取り消しは、他の相続人や利害関係人の法的地位の安定性を害するおそれがあるため、裁判所も慎重になる傾向があり、「どういう理由で取り消しの申述をするに至ったのか」がわかる証拠書類の提出や、裁判所での事情聴取を求められることもありますので、可能な範囲で準備しておきましょう。
なお、取り消しが可能な期間は「追認できるとき(例:詐欺であることに気がついたときなど)から6カ月以内」かつ「相続放棄のときから10年以内」です(民法919条3項)。
ここまで、相続放棄の「取り下げ」、「撤回」、「取り消し」について解説しましたが、受理されてしまった相続放棄について「錯誤無効」を主張する、という選択肢もあります。
(現在では民法が改正され、「錯誤無効」は「錯誤取り消し」になっていますが、便宜上、他の取り消しとは分けてご説明します。)
ただし、相続放棄の錯誤無効については、認められることが少ないため、あくまで最後の可能性として考えておきましょう。
錯誤とは、簡単に言うと「勘違い(錯誤)がもとでやってしまった法律行為をなかったことにする(無効・取り消し)」ことで、民法95条に規定されています。
しかし、ただ単に「勘違いでした」で無効(取り消し)にできるわけではありません。
相続放棄でいえば、以下のいずれかに該当する場合に、無効(取り消し)取り消しが認められる可能性があります。
ただし、一般的には1.のように自分で相続放棄の申述をしているのに、実は、放棄の意思がなかったということは考えにくいため、2.の動機の錯誤が問題となります。
ちなみに、錯誤無効を主張するには、この他の要件として、重過失がない(当然払うべき注意は十分に払った上で勘違いしてしまった)ことが必要です(同条3項)。
例外的に、交通事故で被相続人が亡くなった事案で1.の錯誤が認められたものもあります。損害賠償請求権は相続されないと誤解し、被相続人には大した財産がないから相続人が借金まみれにならないよう心配して、相続人の法定代理人が相続放棄した事案です(高松高判平成2年3月29日)。
相続放棄の錯誤無効には判例があります(最判昭和40年5月27日)。
この判例は、簡単にいえば「長男に遺産を集中させるため他の兄弟は全員相続放棄すると思っていたら、実際には兄弟のうち一人が相続放棄しなかった。」というケースです。
民法95条が定める「錯誤無効」の規定により相続放棄が無効になる場合があることは認められました。しかし、「他の相続人が相続放棄すると思っていた」ことや「相続放棄しない人がいると知っていれば他の兄弟も相続放棄しなかったはず」ということは「動機の錯誤」だとして、無効にはならないとされました。
先ほども述べたとおり、こうした事情(動機)は本人がこれを「表示」している必要があります(民法95条2項)。
つまり、少なくとも、相続放棄申述書の「放棄の理由」欄に書くなど、相続放棄の基礎事情となっていることが表示されている必要があるということです。
ただし、表示した場合でも、錯誤無効(取り消し)が必ず認められるとは限りません。
しかし、相続放棄の錯誤無効についてはいくつかの判例はあるものの、基本的にはあまり認められない傾向にあります。
認められる可能性はゼロではありませんが、もし錯誤無効(取り消し)を主張したいと考えるのであれば、状況や証拠書類などを揃えて弁護士とじっくり相談し、よくよく検討する必要があるでしょう。
相続放棄を行うことができるのは、被相続人が亡くなったことを知ったときから3ヶ月間と決まっています。
葬儀などが一通り終わったら、3ヶ月の間で可能な限り
などを行い、期間内に相続放棄などについて具体的に行動に移すようにしましょう。
いったん受理された相続放棄を覆すのは非常に手間がかかるうえに、認められるのは限定的です。
時間はあまりありませんが、焦らず的確に行動する必要があります。
不明な点があったり、調査調整がうまく進まなかったりしてお困りであれば、弁護士などの専門家に相談しましょう。
トラブルが起こってからではなく、トラブルが起こる前に相談するのも、弁護士を利用する一つの方法です。