非嫡出子の相続分|違憲判例で何が変わって、いつから適用?
現在、非嫡出子(婚姻関係にない男女間に生まれた子)と嫡出子の法定相続分は同じです。しかし、少し前までは、非嫡出子は嫡…[続きを読む]
親が亡くなって相続が発生したとき、相続人は自分たち兄弟だけだと思っていたのに、調べてみると父親に他の子どもがいることが明らかになった、という場合があります。このように外にできた子供、いわゆる隠し子は「婚外子」と呼ばれます。
突然現れた見ず知らずの婚外子に父親の遺産を相続して欲しくないという気持ちが湧き上がるのは当然だと思いますが、そのような他の子供にも相続権が認められてしまうのでしょうか?
本記事では、婚外子が相続権を得るのはどんなときか、また、婚外子に相続させたくないときにとりうる対策方法を解説していきます。
目次
婚外子とは、婚姻関係にない(内縁関係の)男女間に生まれた子どもを指します。非嫡出子ともいいます。
それに対して、婚内子は婚姻関係にある男女の子どものことです。嫡出子と同義です。
婚外子(非嫡出子)は、出生と同時に母方の戸籍に入ります。
実際に赤ちゃんを産む母親とは異なり、生まれただけでは父親との血縁関係は法律上証明することはできません。
つまり、婚外子は生まれただけの状態では、父親の相続権を持たないということです。
婚外子が父親の相続権を得るためには、認知届を出すことで父親が子供を自分の子であると公に認める「認知」という行為が必要になります。繰り返しますが、逆にいえば、父親が認知をしていなければ、婚外子は父親を相続することができません。
もし既に婚外子が認知されている場合は「3-1.嫡出子と非嫡出子の相続分は同じ」からお読みください。
また、現在は婚外子が認知されていないという場合でも、安心するのはまだ早いのです。
父親が自分から積極的に認知しなくても、婚外子あるいは婚外子の母(内縁の妻)側から認知請求することが可能です(民法787条本文、認知の訴え)。
任意認知を拒んでも、強制認知という、家庭裁判所での調停や裁判で争う手段があります。
強制認知で父子関係が立証されたら、父親は認知を拒むことができません。
さらに、生前に認知していなくても、次のように父親の死後行うこともできるのです。
婚外子が亡き父親に対して認知を請求し、父子関係を証明することができれば、認知ができます(死後認知請求)。
死後認知請求は、父親の死亡後3年以内に、父親もしくは婚外子の最後の住所を管轄する裁判所で行います(民法787条ただし書)。父親は既に亡くなっているため、公益の代表者として検察が被告になります(人事訴訟法12条3項)。
DNA鑑定や関係者の証言などをもとに父子関係の存否が判断されます。
このように、死後に婚外子が認知を迫ってくる可能性もある点にご注意ください。
また、中には、遺言書によって自分の死後、隠し子を認知するように手配している人もいます。遺言でも認知は可能です(民法781条2項)。
もしかしたら、お父さんあるいは旦那さんがすでに遺言書を用意しているかもしれません。
これらの方法などで認知された結果、法律上の正式な父子関係が成立するため、婚外子でも父親の相続権を得ることになります。
それでは、上記のような方法で認知され、相続権を得た婚外子の相続分はどうなるのでしょうか。
以前、民法には「婚外子(非嫡出子)の相続分は嫡出子の2分の1」という規定がありましたが(旧民法900条4号ただし書)、最高裁判所が平成25年9月4日大法廷決定でこの規定について法の下の平等に反するため違憲判断を下し、その後民法改正が行われました。
法改正後の現在は、嫡出子であっても、非嫡出子であっても、法定相続分は同等です。
ただし、具体的な事案で新民法が適用されるか旧民法が適用されるかは、相続発生の時期によって異なります。
非嫡出子の相続分について詳しくは以下の記事をお読みください。
婚外子(非嫡出子)は、婚内子側からみれば「異母兄弟」にあたります。
異母兄弟は、「異父兄弟」や「半血兄弟」ともいいます。
いろいろ呼び方はあって複雑に思うかもしれませんが、異母兄弟・異父兄弟は相続での扱いが異なる場合がある、という点を覚えておきましょう。
亡くなった親を、子として全血兄弟と半血兄弟が相続する場合は、3-1でご説明したとおり法定相続分は同等です。
しかし、兄弟の誰かが亡くなり、異母兄弟と全血兄弟が兄弟として相続する場合は、異母兄弟の法定相続分は全血兄弟の2分の1となります。
異母兄弟の相続については以下の記事で図で分かりやすく解説しています。
それでは、婚外子に相続させたくないとき、どんな事前対策ができるでしょうか。
考えられる方法は、主に3つです。
ただし、認知された以上は婚外子にも正当な相続権がありますから、「全く相続させない」というのは難しいといえます。
ひとつめは、婚外子に相続放棄をしてもらう方法です。
相続放棄をすると、はじめからその人は相続人ではなかったという扱いになり、すべての遺産について相続する権利を失います。
ただし多くの場合、相続放棄することにはメリットがないので、婚外子が相続放棄してくれる可能性は低いといえます。
被相続人の相続財産に資産だけでなく借金が含まれていた場合などは承諾してもらえるかもしれません。婚外子をうまく説得できるかどうかにかかっているでしょう。
相続放棄の手続きについてはこちらをお読みください。
ふたつめは、婚外子に相続分の譲渡をしてもらう方法です。
相続分の譲渡とは、ある相続人が自分の相続分を他の人に譲渡することです。
婚外子に相続分を譲渡してもらうことで、婚外子自身は相続権を失うとともに、自分たちが相続分を得ることができます。
相続分の譲渡を受けるときは、特に家庭裁判所での手続きをする必要はありません。
ただし、最近の判例では、相続人同士で無償で相続分を譲渡することは原則として「贈与」にあたると判断されました(最高裁平成30年10月19日判決)。
場合によっては遺留分侵害となり、トラブルに発展する可能性があります。
最後は、被相続人の生前に、遺言書で相続分を指定してもらったり、婚外子以外の相続財産を具体的に指定してもらう、という方法があります。
認知した婚外子の存在が、父親の存命中にすでにわかっている場合にのみ使えるでしょう。
【関連記事】遺言書による「相続分の指定」とは?注意点も解説
【関連記事】特定財産承継遺言と相続させる旨の遺言|遺贈との違いや登記を解説
前述の通り、認知によって婚外子が相続権を得た以上は、相続分を完全に剥奪することは困難です。
それでも、せめて相続分を減らしたいというときには、父親に、配偶者や婚内子の相続分が多くなるよう、遺言書に予め記してもらいましょう。
ただし、婚外子の遺留分には注意が必要です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に最低限保障されている遺産の取り分のことで、割合が決められています。
遺留分を侵害するほど婚外子にとって不平等な内容で遺言書をのこすと、後から婚外子が他の相続人に対して遺留分侵害額請求をするなど、トラブルに発展する可能性があります。
トラブルを未然に防ぐためには、遺言書作成の段階から婚外子の遺留分を考慮すること、あるいは婚外子に遺留分放棄をしてもらうことが必要です。
遺留分放棄とは、読んで字のごとく、相続人に自分の遺留分を放棄してもらうことです。
詳しくは以下の記事をお読みください。
3つの方法について解説してきましたが、いずれにせよ、婚外子あるいは家族間できちんとした話し合いが必要です。
遺産分割についてはただでさえ揉めるケースが多い中、相手が自分の夫や父親の隠し子となると、より抵抗感を覚える方も多く、解決が困難になります。
困ったときはまず、交渉のプロである弁護士に相談するのが一番です。
相続が発生すると、遺産分割協議に入る前に、戸籍謄本などを取得して相続人調査を行います。この時点で、被相続人の前妻との婚姻歴や前妻との子供の有無、認知している子供の有無などが判明します。
トラブルをおそれて生前はその存在を家族に黙っていた隠し子が、相続発生によって判明するケースは少なくありません。
しかし、被相続人の死後、突然、見ず知らずの人が相続人が現れたことに納得がいかない方もいるでしょう。
こんなとき、婚外子が判明したときに、内緒で遺産分割を行ってはいけないのでしょうか。
遺産分割協議は相続人全員の参加が必要なため、相続人が一人でも欠けて行った遺産分割協議は無効です。
認知されて正式に相続権を得た婚外子にも参加の義務が当然ありますから、いくら不都合でも、省くことはできません。
婚外子に相続させたくないときには、生前に遺言書で対策しておくか、死後であれば直接交渉するほかないでしょう。
本記事では、婚外子に相続させたくないときにはどうするべきかを解説してきました。
婚外子は認知されなければ父親の相続権を持ちませんが、父親の死後であっても認知できる可能性があります。
婚外子に相続させたくないときには、予め遺言書で対策しておくか、婚外子自身とうまく交渉していくしかありません。
婚外子が絡むと、遺産分割はとても複雑になりますから、少しでも不安な方はまずは弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか。