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目次
相続に関する法律の大幅な改正が検討されていることをご存じでしょうか?相続に関する法律は、民法の第五編「相続」という箇所に規定されています。
1980年(昭和55年)に配偶者の法定相続分を3分の1から2分の1に引き上げる改正がありましたが、それ以来大きな見直しはなく35年以上が経過しました。その間、社会の状況が大きく変化し、特に高齢化が著しく進行しています。平成27年9月15日現在の総務省統計では、65歳以上の人口が全体の26.7%、80歳以上の人口も1,000万人を突破しました。
被相続人が亡くなった場合、相続人となる人の年齢も高くなっており、特に高齢の配偶者の生活保障の必要性が高まってきています。医療技術の進歩で平均寿命は延びましたが、介護や治療を必要とする高齢者が多くなり、認知症による成年後見人の確保も課題になっています。さらには、熟年離婚や再婚が増えており、家族関係が複雑になってきています。
こういう状況を踏まえて、平成26年1月に学識者を中心に相続法制検討ワーキングチームが発足し、約1年間にわたって検討が重ねられました。平成27年4月からは、法制審議会にて具体的な改正案に向けて議論されており、平成28年6月21日には改正案がある程度まとめられた中間試案が発表されました。
分類 | 項目 | 改正案 |
---|---|---|
配偶者 | 配偶者の居住権の保護 | 短期、長期の居住権を認める |
配偶者の貢献に応じた遺産分割 | (案1)配偶者の貢献度合いを計算 (案2)婚姻期間一定以上、届出で法定相続分(※)を増やす (案3)婚姻期間一定以上、自動的に法定相続分(※)を増やす ※相続人が配偶者と子供の場合、配偶者が3分の2 | |
寄与分 | 寄与分制度の見直し | 療養看護に顕著な差があれば寄与分を認める |
相続人以外の者の貢献の考慮 | (案1)二親等内の親族に対して認める (案2)無償の労務の提供に対して認める | |
遺留分 | 遺留分制度の見直し | 遺留分の範囲・算定方法の見直し |
遺言 | 自筆証書遺言の方式の見直し | 財産目録のみパソコン作成可能 |
自筆証書遺言の保管制度 | 公的機関で保管 | |
その他 | 預貯金等の可分債権の取扱い | 預貯金も遺産分割の対象とする |
法務省は7~9月にパブリックコメント(意見公募)を実施したうえで改正案をとりまとめ、来年の国会に提出する予定となっています。まだまだ議論するべき点は多く、新しい法律の施行は数年先になると思われますが、相続に大きな影響を与える内容が多く含まれていますので、ポイントを絞ってわかりやすく紹介します。
追記:パブリックコメント結果については10月に発表されましたので、別のページでまとめました。
【参考】相続法改正案への意見:パソコン遺言に賛成、配偶者3分の2は否定的
配偶者の片方が死亡した場合に、もう片方の配偶者は、今まで住んでいた家に引き続き住み続けることを希望するのが通常です。高齢になると、住みなれた家を離れて新しい場所で生活するのは、精神的にも肉体的にも負担ですので、できれば同じ家に住み続けたいところです。
ところが、配偶者ではなく別の相続人が家を相続した場合、配偶者はその家の所有者ではありませんので、その家に住む権利を失うことになります。もちろん、その家を相続した人が配偶者が住むことを許可してくれれば良いのですが、相続トラブルなどで争っている人が家を相続すると「出ていけ」と言って、追い出すことも少なくありません。身内を追い出すなんてひどいと思われるかもしれませんが、家族関係が希薄になっている日本では、現実に起こっていることです。
所有者でなくても家に住み続けられるように法律で「居住権」を認めてあげようということです。この居住権には「短期居住権」と「長期居住権」の2つの内容があります。
被相続人が亡くなってから遺産分割が終了するまでの短期間、居住する権利です。もともと、相続開始から遺産分割終了までの間は、相続財産は誰か一人のものではなく相続人全員で共有していますので、住んでいても追い出されることはなかったのですが、法律的には明確な権利のない状態でした。
生前から被相続人と一緒に住んでいた配偶者には、被相続人が亡くなってから一定期間(例えば1年間)は無償で住み続けることができるようにします。この間に得た利益については、遺産分割において控除の対象にはしないこととします。
遺産分割終了後も長期にわたって住み続ける権利です。短期居住権とは異なり無条件に認められるわけではなく、遺言で書かれているか、または遺産分割協議で合意があったときに、長期居住権が認められます。この長期居住権を金銭的価値に換算し、その分は配偶者の相続分から控除します。長期居住権について争いがあるときは家庭裁判所が判断します。
短期あるいは長期にわたって配偶者が住み続ける場合、税金や家の修繕費用を、住んでいる配偶者かそれとも相続した所有者のどちらが負担するのかという問題があります。また、配偶者がその家を勝手に他人に貸してはいけない(転貸)、あるいは、勝手にその権利を他人に売ってはいけないということも考慮が必要です。
また、その家を相続した人から見れば、所有しているのにその家を自由に処分(売却・賃貸など)することができませんので、利益を得られないことになります。
もともと「居住権」とは、正式な用語ではなく、賃借権がなくなった後も、事実上継続して居住できる権利をいいます。たとえば、借り家に住んでいた人が亡くなった場合、一緒に住んでいた内縁の妻は相続権がありませんので、賃借権を相続できず、その家に住む権利を失うことになりますが、すぐに住む家を失ったら生活に支障が出ますので、ある程度の期間は住むことも認めてあげましょうというものです。
通常、「居住権」は短期間の臨時的な想定ですが、「長期居住権」は配偶者が亡くなるまでという設定もできますので、権利関係が長期にわたって複雑になる可能性があります。
一番良いのは居住権を考慮しなくていいように、住み続ける配偶者が家を相続することであり、被相続人が生前に気を配って遺言でそのように書いておくことが望ましいでしょう。
結婚してから得られた夫婦の財産は共有財産であるという考え方があります。ある人が財を成したとすれば、それは夫婦が協力して成し遂げたとされます。実際、離婚における財産分与では、配偶者に夫婦共有財産の2分の1の取得を認めることが一般的になっています。
相続での配偶者の法定相続分は2分の1ですが、夫婦の婚姻期間が長い場合には、夫婦共有財産のうち自分の分(半分)を取り戻したにすぎないという指摘があります。貢献した配偶者にとっては実質不公平だろうということです。
案はいくつかあります。
夫婦共有財産(婚姻後、夫婦が共同で形成したもの)と固有財産(被相続人が婚姻前から持っていた財産と、相続・贈与で手に入れた財産)に区別し、夫婦共有財産の取り分は現在よりも多くし、固有財産の取り分は現在よりも少なくします。
たとえば、相続人が配偶者と子供の場合、夫婦共有財産については、配偶者が3分の2、子供が3分の1としますが、固有財産については、配偶者が3分の1、子供が3分の2とします。
つまり、夫婦共有財産が多ければ、現在の法定相続分2分の1よりも増えますが、夫婦共有財産が少なければ、逆に2分の1よりも減ります。
たとえば婚姻期間が20年以上で、相続開始時まで夫婦であったときは、被相続人が配偶者の相続分を引き上げることを届け出ることによって、次のように配偶者の相続分を増やします。
・配偶者:子供 =2:1(配偶者が3分の2) [1:1(配偶者が2分の1)]
・配偶者:直系尊属=3:1(配偶者が4分の3) [2:1(配偶者が3分の2)]
・配偶者:兄弟 =4:1(配偶者が5分の4) [3:1(配偶者が4分の3)]
[]内は現在の割合
案2と似ていますが、届け出なくても婚姻期間の条件を満たせば当然に配偶者の相続分を増やします。
まず、個別の案に対する課題点をあげますと、
案1の場合、配偶者の貢献度合いを測るために、夫婦共有財産と固有財産に分ける必要がありますが、どれが夫婦共有財産でどれが固有財産なのか分けることは非常に難しいものがあります。銀行に預金があったとして、それが結婚前から自分で持っていたものか、結婚後にためたものか判定するには、何十年も前まで遡らなければならず、財産調査にかかる期間が大幅に長くなる可能性があります。また、現在の法定相続分2分の1よりも減ることもありますので、トラブルが予想されます。
案2の場合、届け出が必要ですが、届け出をした/していないだけで割合が大きく変わることになり、届け出に関するトラブルが予想されます。被相続人が認知症になった場合、誰が届け出の判断をするのかという問題もあります。
案3の場合、婚姻期間の条件だけですので他の案と比べると簡単に思われますが、貢献していない配偶者でも一律に割合が増えてしまい、そもそも貢献に応じた遺産分割にはならないという問題もあります。
また、全体的な課題点としては、配偶者の貢献度合いを考慮するというのは現在の寄与分の考え方と似ていますが、寄与分の判定はトラブルになりやすいポイントです。配偶者が実際にどれだけ貢献したのかを、配偶者と他の相続人の間で議論することは難しく、遺産分割がさらに長期化・複雑化するおそれもあります。
被相続人に対して特別な寄与をした相続人がいる場合、その働きに対して「寄与分」が認められ取得する財産がプラスになります。しかし、その寄与分がよほどのことでないと認められないことが問題になっています。
民法904条の2では、「寄与」について次の内容が規定されています。
民法904条の2(一部改変)
・労務の提供、財産の提供、療養看護、または他の方法により、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をする
ポイントは、被相続人との関係で通常期待される範囲を超えて「特別な寄与」をしたかどうかです。子供が親の看護をすることは社会常識ですので寄与分が認められません。しかし、実際、認知症や寝たきりの親の療養看護をすることは、金銭的・精神的・時間的に相当な負担がかかります。子供が複数人いても誰か一人が療養看護しているケースがほとんどですが、その人に寄与分が認められないと、事実上不公平です。
被相続人の療養看護について、相続人の間で顕著な差があれば、遺産分割協議または家庭裁判所の審判で寄与分を認めることができるようにします。
寄与分の判定はトラブルになりやすいポイントですが、相続人の間で療養看護にどれだけ差があるかを判定しなければなりませんので、さらにトラブルになる可能性もあります。
むしろ、寄与分が認められるための敷居を下げ、実際的に金銭的負担が発生しているのであれば寄与分を認めるほうが良いように思われます。親を療養看護すれば医療費、交通費など発生しますので、それらの領収書をもって寄与分を判定することも可能です。
現在の寄与分はあくまでも相続人に認められるものですので、相続人以外の者が貢献しても相続財産の分配を受けることはできません。たとえば、妻が夫の親を療養看護しても、妻は夫の親の相続人ではありませんので、寄与分は一切認められません。もし、相続財産を取得したければ、被相続人の養子になる必要があります。
二親等内の親族で相続人でない者は、特別の寄与をしたときは、相続開始後、他の相続人に対して金銭の支払いを請求できます。「特別の寄与」については、相続人の寄与分の場合と同じです。
範囲は限定しないが、無償の労務の提供をして被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をしたときのみ、相続開始後、他の相続人に対して金銭の支払いを請求できます。
相続人以外でも寄与分が認められますが、ポイントは、相続財産の一部を取得できるのではなく、相続人に対価を請求できるということです。つまり、相続財産はいったん相続人が取得し、寄与分を主張する人の請求に応じて相続人が支払うことになります。
もし、相続人が負債を負っていれば、他の債権者が相続人の財産を差し押さえなどして先に持っていってしまい、結果的に、寄与分を主張した人は金銭の支払いを受けられない可能性もあります。また、請求されても支払わない悪意のある相続人がいる場合、裁判になれば長引くことになります。
ただ、今まで妻が夫の親の療養看護をしても一切寄与分は認められませんでしたので、今回の改正案は大きな進展といえるでしょう。
問題点は複数ありますが、主なものをあげます。
遺留分に関して、民法の条文では明確でない内容に対して判例で対応する状態となっています。
内容が複雑なため細かい説明は省略しますが、大まかに言いますと、相続人と相続人以外の場合で、民法では区別されていないのに実務上は区別して扱うことになっています。
遺産分割協議では寄与分が認められすが、遺留分減殺請求では寄与分が認められておらず、実質的に公平ではありません。
被相続人が特定の相続人に事業を継がせたい場合には、株式や事業用財産を特定の相続人に相続させるということをよくします。しかし、遺留分を請求されると、株式や事業用財産を他の相続人に分けなければならず分散してしまい、経営に影響を及ぼすことがあります。
対策内容も多岐にわたり複雑ですが、ポイントのみ記します。
現在の法律では、遺留分減殺請求だけで、その分の財産が受遺者または受贈者から遺留分権利者に移るとされていますが、事業承継などではトラブルの元になりますので、遺留分の対価を請求できるだけで、実際にどう支払うかは協議のうえ決めることになります。
相続人と第三者では事情が異なることを考慮し、算定方法を分けます。
基本的には現在の法律をベースに、遺留分の算定方法の特別規則を設けます。
遺留分は内容も計算も複雑なため、まずは、わかりやすい制度になることが望まれます。
費用をかけずに手っとり早く作成できるのが、自筆証書遺言です。ただ、全文、日付及び氏名を自筆で書かなければいけなく、高齢者にとって大きな負担となっています。また、読みにくい字で書かれると判定に手間取り相続トラブルの元になります。
加筆、修正する際には、変更箇所を明記し、変更したことを付記して署名し、かつ、変更した箇所に印鑑を押さなければなりません。他の書類と比べても方式が厳格すぎるため、遺言があっても方式が間違っていて無効になるケースが多々ありました。
財産の特定に関する事項(不動産の表示、預貯金の表示など財産目録のこと)については、自筆でなくてもワープロやパソコンで作成しても良いとします。ただし、自筆以外で作成したときは、全ての頁に署名し印鑑を押さなければなりません。
加筆、修正についても、変更箇所に署名または押印するだけで良いとします。
現在、ビジネス文書のほとんどはパソコンで作成して印刷しますので、自筆以外の遺言も検討されていることは大きな進展といえます。ただ、自筆で良いのは財産目録だけで、どの財産を誰に相続させるかという部分については自筆であり、中途半端な改正案となっています。日本では、履歴書や手紙など一部の文書で自筆にこだわる文化があるようですが、世界的に見ると、公式文書はワープロ打ちが原則です。
自筆、押印の目的は本人が書いたことを証明することにありますが、現在では、マイナンバーカードを利用した電子署名も可能ですので、パソコンで作成したデジタル文書に電子署名をするという方式があっても良いと思われます。電子署名の制度を整えるのが難しければ、署名だけ自筆という方法も考えられます。欧米での契約書によく見られる方式です。
自筆証書遺言は費用もかからず簡単に作成できますが、紛失のおそれがあることや、遺言の存在を誰も知らない状態がありうることが問題です。遺産分割協議が無事に完了したと思ったら、たんすの奥から遺言が見つかって振り出しに戻ったという事例もあります。
自筆証書遺言を公的機関で保管できるようにします。相続人や遺言執行者は相続開始後に、遺言書の保管の有無を確認できます。遺言書の検認は必要ありません。
利便性を確保するために、保管をする公的機関は具体的にどこにするか(例えば、法務局、公証役場、市区町村など)決める必要があります。
遺言書の紛失を防ぐという意味では、すでに、公正証書遺言の制度があり、公正役場で遺言書を保存します。自筆証書遺言を別途、保管となれば、公的機関の負担が増すうえに、仮に完璧な状態で保管したとしても、形式が間違っていたら無効になってしまいます。
遺言でトラブルにならないようにするためには、公正証書遺言の作成が望ましいですが、費用や手順の面などから利用者がまだ少ないですので、もっと利用しやすい制度にするというアプローチも考えられます。
あまり実感がわかないかもしれませんが、法律解釈的には、「預貯金は可分債権で遺産分割の対象でない」とされています。「可分債権」とは文字通り分けることが可能な債権で典型的なものは預貯金です。通常の相続財産は、遺産分割までの間は相続人共有の財産とされていますが、預貯金の場合は、相続開始によって当然に分割されて、各相続人はそれぞれの相続分に応じた債権を取得するとされています。たとえば、1000万円の預貯金で、相続人は子供2人の場合、遺産分割しなくても、それぞれ500万円ずつの預貯金払い戻し請求権が認められます。
ただ、実際の遺産分割では、預貯金も相続財産とみなして遺産分割協議の対象に入れることがほとんどですし、銀行も遺産分割協議が終わっていないと基本的には払い戻しに応じていません。もし遺産分割前に相続人のAさんが預金を払い戻し、その後、遺産分割協議の結果、相続人のBさんが預金を相続することになった場合、Bさんにも支払うと二重払いになってしまうからです。
実体に合わせて、法律的にも、預貯金も遺産分割の対象とします。
遺産分割が終了する前に、預貯金の払い戻しを認めるか認めないかが争点となっています。払い戻しを認めてしまうと、遺産分割がまったく異なる結果になった場合、話がややこしくなります。逆に、払い戻しを認めないと、お金が必要な相続人が困ることになります。現在でも、特別な理由がある場合は、銀行は遺産分割前でも支払いに応じてくれることもありますので、仮払制度などの法制化が望まれます。
相続法改正案は多岐にわたっていますが、1980年(昭和55年)以来の大規模な改正案であり、大きな進展といえます。詳細は法務省のホームページにて公開されています。
【出典】法制審議会-民法(相続関係)部会
なお、7月~9月には国民からのパブリックコメント(意見募集)も受け付ける予定になっています。誰でも自由に意見を応募することができますので、相続法に関して提案やコメントがある方は、ぜひパブリックコメントをされてみてはいかがでしょうか。
【参照】法務省:パブリックコメント
「相続最新ニュース」連載一覧
第1回 相続法改正案、配偶者割合3分の2やパソコン作成遺言など
第3回 相続法改正案への意見:パソコン遺言に賛成、配偶者3分の2は否定的
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