遺産相続トラブル事例と解決方法 土地編

遺産相続・遺産分割に関わるトラブルといえば必ず土地が登場するというくらい、土地関連のトラブルは頻発しています。
相続財産のおよそ4割強が土地であるため、トラブルが多いといえるのですが、それだけでなく、土地は現預金や株式と異なり次のような特徴があるがゆえにトラブルになりやすいです。
- 動かせない
- 簡単に分割できない(分筆の登記が必要)
- 一つとして同じものがない
- 所有しているだけで税金がかかる(固定資産税・都市計画税)
- 明確な価格がない
遺産分割はその名の通り「分割」するのですが、土地は簡単に分割できないために、もめやすいのです。分割するにしても、どうやって分割するのか?分割した後のそれぞれの土地の価値はいくらになるのか?とにかく検討することがたくさんあります。
特に、土地の価格は見る人によって違いますので、明確な価格というものがありません。住んでいる人にとっては価値のある土地でも、遠方の人にとっては何の価値もありません。
さらに、問題を複雑にしているのは、土地には宅地、農地、山林など様々な種類の土地がありそれぞれ特殊な法令があること、また、土地の上には、借地権、小作権、地上権など様々な権利があり、それによって価格が変わることがあります。
1.借地権の評価についてトラブルになる事例
1-1.借地権の相続トラブルはなぜ起こるのか?
次に、遺産の中に借地権がある場合のトラブルを見てみましょう。
遺産の中に借地権がある場合、その評価方法をめぐってトラブルになるケースがあります。
借地権の評価は、所有権以上に難しく、実際に売れる価格の予想が立てにくいです。そこで、高めに見積もる相続人と低めに見積もる相続人の意見が対立してトラブルになってしまいます。借地権の取得を希望しない相続人は借地権の評価を高めに見積もりますし、借地権の取得を希望する相続人は、借地権の評価を低めに見積もることが多いです。
1-2.借地権が関わる遺産分割トラブルの具体的な事例
この種のトラブルについても、具体的な事例を確認しましょう。
父親が亡くなった場合で、遺産の中には実家の不動産がありました。この実家は、建物は父親の所有でしたが底地は他人所有で借地権つき建物でした。
長男が実家に居住していたので引き続き実家を相続して居住することを希望しましたがそのときに借地権の評価が問題になりました。長男は、借地権など売れるものでもないので二束三文だと主張しましたが、次男はバブル世代だったこともあり、それなりにきちんと不動産としての価値があるはずだと主張して高額な金額を主張したので、両者で折り合いがつかずトラブルになってしまいました。
1-3.借地権の相続トラブルが起こってしまったらどうすべきか?
借地権評価をめぐってトラブルになってしまった場合、実際にその不動産を売却したらどのくらいの金額で売れるものかを調べると合意ができることがあります。
底地の土地としての価値を調べて借地権割合をかけ算して計算してみたり、近くの不動産業者を訪ねて簡易査定をしてもらったりしましょう。これらの評価方法を参考にして、お互いが妥協できる評価額が見つかれば、その評価額にもとづいて遺産分割協議をすることができます。評価額を調査してもやはり当事者が納得しない場合には、やはり家庭裁判所の遺産分割調停や審判を利用することになります。
遺産分割審判では、客観的な借地権評価方法の調査結果を見たり、当事者にどうしても争いがある場合には鑑定を実施したりして借地権の評価を確定します。
ただし、不動産鑑定をすると数十万円などの高額な費用がかかってしまうのが普通なので、注意が必要です。結局、トラブルが続くと双方にとって不利益が及ぶ可能性があるということです。
1-4.事前の対策方法
借地権評価についてトラブルを避ける方法としても、事前に被相続人が遺言書を作成しておく方法が効果的です。
上記の事案でも、もともと父親が長男に実家を残す代わりに、適切な遺産を次男にも残す内容の遺言があれば、次男が文句を言うこともなく、トラブルになることがなかったはずです。
この場合にも、遺言書が発見された後で偽造や変造などと言われないように、公正証書遺言の形で遺言書を作成しておくことをおすすめします。作成方法などがわからない場合には、弁護士に相談するとよいでしょう。
2.農地の処分についてトラブルになる事例
2-1.農地の相続トラブルはなぜ起こるのか?
次に、遺産の中に農地などの不動産がある場合、その処分方法を巡ってトラブルになる事例を見てみましょう。
遺産の中に広大な農地がある場合など、それをそのまま残しておくか売却してしまうかなどの処分方法についてトラブルになることが多いです。
相続人のうちひとりは農地などいらないので売却してしまいたいと考えますが、農地を分割して自分の家や賃貸アパートを建てるなどの活用をしたいと考える相続人や、先祖代々の土地を残したいと考える相続人などがいると、考えが合わずにトラブルになってしまいます。
2-2.農地の遺産分割トラブルの具体的な実例
それでは、具体的な実例を見て確認してみましょう。
父親が亡くなって、広大な農地が残された事案で、兄弟3人(長男、次男、三男)が相続しました。
このとき長男は、先祖代々の土地を残したいのでそのまま農地としての形を継続して農業を続けると主張しました。
これに対し、次男は農地を分割して一部宅地にして、自分の自宅を建てたり賃貸アパートを建てたりして活用したいと主張しました。
さらに、三男は、農地など価値がないのでさっさとすべて売ってしまって現金で3分の1ずつに分けたいと主張しました。
このように、三者三様でまったく主張が食い違い、話し合いができるトラブルになってしまいました。
2-3.農地の相続トラブルが起こってしまったらどうすべきか
農地などの不動産がある場合に、その処分方法について相続人に対立があって解消できない場合には、それ以上当人同士で話し合っても解決は難しいです。この場合には、弁護士に代理人になってもらって話し合いを継続するか、家庭裁判所で遺産分割調停をする必要があります。
弁護士や調停委員会が間に入ることによって、お互いが主張するそれぞれの土地処分方法のメリットやデメリットを冷静に把握することができて、それまで頑なだった相続人らの態度も緩くなり、お互いに妥協できて解決できるケースがあります。
ただ、それでもどうしても合意ができない場合には、遺産分割審判になってしまいます。遺産分割審判になると、必ずしも自分の希望する分割方法になるとは限りません。相続人同士の意見の対立が深い場合には、農地の全部売却による強制換価になってしまうこともあります。そうなると不動産は安くしか売れませんし、長男や次男の意図とは全く異なる結果になってしまうこともあるので、注意が必要です。
遺産分割は、なるべく審判にせず、調停までの段階でお互いが合意をして自分達で解決する方がメリットが大きいです。
2-4.事前の対策方法
農地などの不動産の処分方法についてのトラブルを事前に防ぎたい場合にも、やはり有効なのは遺言書の作成です。上記の事案でも、父親がきっちり農地の処分方法を定めて遺言書に記載しておけば、兄弟間で意見が合わずにトラブルになることもなかったのです。
たとえば、父親としても先祖代々の土地を残すべきだと考えていたなら、全部を長男に取得させることとして、他の遺産を次男や三男に残すことにより争いを避けることができました。
遺言書を作成する際に、農地の処分方法について家族会議を開いて子ども達全員の意見を聞き、兄弟全員が納得しやすい内容の遺言をするよう心がけることも、トラブル防止に効果的です。
3.先祖代々の土地の処分方法をめぐってトラブルになる事例
3-1.先祖代々の土地トラブルはなぜ起こるのか?
先祖代々伝わる土地については、思い入れのある相続人もおり処分方法を巡ってトラブルになることがあります。
これは、相続した土地の処分方法を巡るトラブルです。先祖代々伝わる土地などを長男が相続することが多いですが、その場合、長男が土地を大事にするとは限りません。売却するおそれなどがある場合、他の兄弟が土地の取得を希望したり共有持分を入れることを希望したりすることがありますが、そのような遺産分割方法について意見が合わず、トラブルが起こってしまいます。
3-2.先祖代々の土地の処分方法を巡る具体的な事例
具体的な事例をご紹介します。
先祖代々の土地を兄弟2人が相続することになりましたが、話し合いによって長男が単独で相続し、妹には代償金を支払うことになりました。ところが、長男は何かと頼りないところがあったので、妹は将来兄が土地を売却してしまうのではないかと心配になり、やっぱり自分の名義も入れて共有状態にしてほしい、その分代償金を少なくしても良い、と申し出ました。
これに対し、長男は共有状態を嫌って断ったので、2人の意見が合わずにトラブルになってしまいました。
この件では、結局二人で解決することができなかったので家庭裁判所で遺産分割協議をすることとなり、最終的には妹が折れて長男に代償金を支払ってもらうことになりました。問題がすべて解決するまでに、1年以上がかかってしまいました。
3-3.土地トラブルが起こってしまったらどうすべきか?
このようなトラブルが起こった場合、当事者同士が協議をしても合意することは難しいです。そこで、家庭裁判所で遺産分割調停をするか、弁護士に間に入ってもらって遺産分割交渉を進める必要があります。
弁護士に遺産分割交渉を依頼したら、当事者が合意しやすいようにいろいろな方法を考えてくれるので助かります。たとえば、上記の具体例のケースでは、土地を長男が相続するとしても長男は妹に対し「土地を売らない」という誓約書を差し入れるなどの対処も可能ですし、長男が土地を売却する際には必ず妹に相談・報告をしないといけないという約束をすることなども可能です。
弁護士を入れると、当事者が2人で話し合うよりも、より有益な解決を目指すことができます。
3-4.トラブル予防のための事前対処方法
先祖代々の土地があって、その相続方法でトラブルになる事を避けるためには、被相続人が生前遺言を書き残しておくことが効果的です。
この場合も、被相続人がはっきりと長男に全部相続させる、または共有にすることなどを遺言書に書き入れておけば、兄弟が遺産分割協議をする必要がなくなるので、トラブルを防ぐことができました。
被相続人が土地の売却を望まないのであれば、そのことも遺言書に書き入れることができたのです。
このように、土地の相続方法を巡ってトラブルになることが予想されるケースでは、事前に土地相続方法について遺言書ではっきり定めておくと効果的にトラブルを予防出来ます。
まとめ
土地は簡単に分けることができないため、遺産分割では真っ先にトラブルになる代表的な財産です。
土地の価格には明確な基準はなく、見る人によって異なりますので、高く評価する人と低く評価する人の間で争いになります。
さらには、借地権などの権利や、農地などの特殊な土地が絡むと、もっと複雑になります。
また、先祖代々の土地については守りたい人とそうでない人の間で意見が対立することもあります。
素人だけで適正な土地の評価を行うことは難しいですので、不動産業者や不動産鑑定士などにご相談ください。