相続法改正案への意見:パソコン遺言に賛成、配偶者3分の2は否定的

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遺産相続が起こる場合の対応方法については、法律でいろいろな内容が決められています。たとえば遺言書の作成方法や、法定相続人と法定相続分、遺留分減殺請求の方法、相続財産の維持増加に貢献した相続人の寄与分などは、民法に定めがあります。
現在、相続法制の見直しがすすめられており、これらの相続にまつわる法制度が一部変更される可能性があります。

【参考】相続法改正案、配偶者割合3分の2やパソコン作成遺言など

そして、先日、「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」に対する意見募集(パブリックコメント)の結果が発表されました。
政府運営の情報サイトにパブリックコメント結果の詳細資料が掲示されていますが、難解な用語が多くわかりにくい箇所が多々ありますので、ここでは、現在すすめられている相続法制の見直しの内容と、今後の行く末について、わかりやすく解説します。

【出典】e-Gov:「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」に関する意見募集の結果について

1.相続法制の改正とは

現在、相続法制の改正がすすめられていますが、先日、相続法改正の中間試案に対してされた意見公募(パブリックコメント)の結果が発表されました。
相続が起こるときには、いろいろな法律問題が発生します。

遺言書を作成する場合には法律に従って要式通りに作成する必要がありますし、法定相続人が相続する場合には、基本的に法定相続人が法定相続分に従って遺産分割をします。
また、一定の法定相続人が最低限の相続分である遺留分を侵害されたら、遺留分減殺請求ができますし、相続財産の維持や増加に貢献した相続人には寄与分が認められて、その遺産取得分を増やしてもらうことができます。

これらの内容は民法という法律で定められています。相続法という独立した法律があるわけではなく、民法の第五編に相続に関する条文が記載されています
憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法の6つをまとめて六法と呼びますが、民法はそのうちの一つであり、非常に重要かつ国民生活に大きな影響を与える法律です。
ですから、「法制審議会-民法(相続関係)部会」が発足され、10回以上にもわたって議論されて中間試案がまとまり、今回、幅広く国民から意見を集約したのです。

ただ、これらの相続法制は、かなり昔に作られたものが多く、現代社会の情勢に合致していない部分が多くあります。そこで、現在、専門家などの意見を聞きながら、時代や社会に即した内容にするよう、相続法制の改正手続をすすめているのです。
以下では、今回発表された中間試案に対する意見の概要を元に、今具体的にどのような点を改正しようとしていて、どのような改正が行われる見込みであるのかなどを順番にご説明します。

分類 改正案 意見
配偶者 被相続人の死後、居住権を認めて、
配偶者の住居を確保する

(長期居住権は×)
遺産分割 配偶者の相続分を増やす
配偶者と子どもでは、配偶者割合3分の2
×
可分債権(預貯金など)を遺産分割の対象にする
遺言 遺産目録は自筆でなくてもパソコン作成でも認める
自筆証書遺言の保管制度を作る
遺留分 遺留分の返還方法を原則金銭とする
寄与分 相続人以外の貢献も寄与分として認める

○:賛成多数
△:賛否が拮抗
×:反対多数

2.配偶者居住権の創設について

2-1.配偶者居住権とは

現在すすめられている相続法制の改正ポイントとして、「配偶者居住権」の創設があります。現在の法制度では、配偶者には特に居住権が認められていません。遺産分割が行われた際に、配偶者が自宅の相続をしないなら、他の相続人から家を追い出されてしまうおそれがあります。しかし、このようなことによって配偶者が住む家を失うと大変な不利益を受けます。
そこで、新しい相続法制では、配偶者居住権を創設し、一定の要件のもとに配偶者に居住権を認めて、被相続人の死後に配偶者が住むところに困らないようにしようとしています。

2-2.短期居住権と長期居住権

配偶者居住権を認めるとしても、これを無制限に認めると、他の相続人などにとっても不利益があるので、要件を限定する予定です。
具体的には、配偶者居住権を短期居住権長期居住権に分けて、検討されています。

短期居住権は、比較的短期間の居住権のことで、長期居住権とは長期間にわたる居住権のことです。現在提出されている意見では、配偶者居住権の短期居住権についてはだいたい認めるべきという意見が多数になっていますが、反対に長期居住権については、認めるべきではない、認める必要がないという意見が多数になっています。そこで、今後は、配偶者居住権のうち、短期居住権が認められる目算が高まっています。
ただ、具体的に短期居住権の期間が何ヶ月、何年になるのかなどについては、はっきりとは決まっていません。それについては今後さらに検討を進めることになります。

3.遺産分割方法の変更について

3-1.配偶者の相続分を増やすかどうか(配偶者割合3分の2案)

次に、遺産分割方法についても変更が検討されているので、ご紹介します。
遺産分割方法としては、配偶者の法定相続分を増やすかどうかが焦点となっています。

現在、配偶者は常に法定相続人となる制度となっており、その法定相続分はかなり高くなっています。たとえば、配偶者と子どもが法定相続人となる場合の配偶者の法定相続分は2分の1、配偶者と親が法定相続人になる場合の配偶者の法定相続分は3分の2などです。

今回の相続法制改正では、この配偶者の法定相続分をさらに上げて、たとえば配偶者と子どもでは配偶者の割合を3分の2にするという話が持ち上がっていました。高齢化で婚姻期間が長くなり、配偶者の貢献割合が以前よりも大きくなっていると考えるためです。
ただ、配偶者割合3分の2の案については反対の意見が多数を占めています。その理由は、今以上に配偶者の法定相続分を増やすための合理的な理由や必要性がなく、相続分が認められない内縁の妻との不公平さを助長させることになるなどというものです。
そこで、配偶者の相続分を増やす方向での改正は行われる見込みがあまりないと考えられます。

3-2.可分債権(預貯金など)を遺産分割の対象にするかどうか

相続法制の改正事項として、可分債権を遺産分割の対象にするかどうかと言う問題があります。可分債権とは、主に金銭債権のことで、わかりやすく言うと預貯金などの遺産です。
預貯金は現在遺産分割の対象になっていません。そう言われると、何のことかわからないと思う方が多いでしょう。預貯金は当然遺産分割の対象になっているし、実際に相続人同士で預貯金を分け合っているではないかと思われることがほとんどです。

しかし、法律上、預貯金は遺産分割の対象になりません。預貯金は、相続開始と共に当然に各法定相続人に対して法定相続分とおりに分割されることになるので、遺産分割の対象にする余地がないと考えられています。
実際にも、現在の制度では、遺産分割審判を行う際、基本的に裁判所は預貯金についての分け方を決定してくれません。

ところがこのようなことは、世間一般の常識とかけ離れていますし、相続人らの期待にも反することです。現在の遺産分割調停や審判でも「相続人全員が同意した場合には」可分債権も遺産分割の対象にする、という運用をすることによってこの問題をカバーしています。
そこで、今回の相続法制の改正では、預貯金などの可分債権も遺産分割の対象にする方向で話がすすめられています。この点については反対意見も少ないので、その方向で改正が行われる予定です。

なお、可分債権を遺産分割の対象にするとしても、遺産分割までの間に各相続人が権利行使出来るかどうかは別の問題です。
現在の制度では、預貯金については相続開始と同時に各法定相続人が法定相続分に従って相続するので、各法定相続人は遺産分割前であっても、自分の法定相続分に相当する預貯金の払い戻しができます。ただ、預貯金を遺産分割の対象にするなら、このように遺産分割前に権利行使することを認めるべきではないという考え方が当然発生します。

可分債権(預貯金など)を遺産分割の対象とするかという点については、意見が拮抗しています。今まで通り遺産分割前でも権利行使出来るようにすべきという考え方もあれば、遺産分割までは預貯金の払い戻しを認めるべきではないという考え方もあります。さらに議論を重ねる必要がある部分なので、今後の展開に注目しましょう。

4.遺言制度の見直し

4-1.自筆証書遺言の自筆部分についての見直し(パソコン作成遺言)

今回の相続法制の改正では、遺言の方法についても見なおしが検討されています。具体的には、自筆証書遺言をする場合の自筆部分が問題となっています。現在の法制度では、自筆証書遺言を作成する場合、遺産目録を含めたすべての記載を全文自筆でしなければなりません。ところが、遺産の内容が膨大なケースなどでは、遺産目録を作成するだけで一苦労ですし、遺産目録まで全文自筆でなくても、他の部分が全文自筆であれば、遺言書の真正は保つことができるという考え方もあります。

現段階での多数意見は、遺産目録についての自筆は不要とするものです。そこで、今回の法改正により、自筆証書遺言の場合でも、遺産目録はパソコンなどで作成することができるようになる可能性が高いです。
なお、自筆証書遺言については、加除訂正の方法もかなり複雑になっているのでこれを緩和すべきではないかという議論もありますが、この点については意見が拮抗しており、どちらの結果になるかが不透明な状況です。

4-2.自筆証書遺言の保管制度の創設について(遺言保管システム)

遺言制度の見直し事項として、自筆証書遺言の保管制度を創設すべきではないかという問題が議題に上がっています。
現在、公正証書遺言は公証役場で適切に保管されますが、自筆証書遺言については特に保管制度がなく、遺言者が自宅などで自主的に管理している状態です。よって、自筆証書遺言があっても必ずしも発見されるとは限りませんし、発見した相続人や第三者が勝手に破棄・変造などしてしまうおそれもあります。
そこで、今回の法改正により、自筆証書遺言の保管制度を創設して、適切に保管し、確実にその内容を実現出来るようにしようという動きがあります。

これについては、遺言書の紛失や隠匿を防止出来ることや、遺言書の検索が容易になることなどを理由として賛成する意見が多かった反面、システム構築のために多額のコストがかかることや、制度の必要性が感じられないなどの理由で反対する意見もあって、賛否が分かれています
自筆証書遺言の保管制度を創設する場合、保管機関としては法務局が適切であるという意見が多いです。
そこで、今後法改正によって、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度が作られる可能性があります。

5.遺留分制度の見直し

5-1.遺留分の返還方法を原則金銭とすること

今回の相続法制の改正では、遺留分制度の見直しも検討されています。遺留分とは、一定の法定相続人(兄弟姉妹以外の相続人)に認められる、最低限の遺産取得分のことです。たとえば、遺言などによって遺産を全部特定の相続人に相続させた場合などには、その他の法定相続人はまったく遺産を受け取れなくなってしまいますが、兄弟姉妹以外の相続人の場合には、遺留分を請求してその分は遺産を取得することができます。

遺留分については、遺留分請求者が受遺者や受贈者に対して遺留分減殺請求をすることによって返還を受けますが、現在では、特にどのような方法で遺留分を返還すべきかと言うことは法律で決まっていません。
遺産の内容の財産は、金銭や不動産、投資信託や積立金、ゴルフ会員件などさまざまなので、遺留分の返還方法を決める場合、計算が大変複雑になってしまいがちです。不動産を対象にする場合には、遺留分権利者と受遺者が共有状態になってしまうケースなどもあります。
しかし、遺留分権利者と受遺者の関係は非常に険悪になることが通常なので、共有のような分け方をすると、後の不動産処分が困難になりますし、当事者の期待にも反します。

そこで、新制度では、遺留分減殺請求が行われた場合の遺留分の返還方法については、原則的に金銭債権によることとすべく、話が進められています。
つまり、遺留分減殺請求をしたら、お金で支払をしてもらえる制度にするということです。お金で支払ってもらったら、計算も簡単ですし、不動産などが共有になることもなく、後々にまで問題が残ってしまうおそれもありません。

遺留分の返還方法を原則金銭債権とすることについては、多数が賛成したので、今後の法改正時には、遺留分減殺請求をした場合には原則的にお金で返還してもらえる制度になる可能性が高いです。

5-2.現物による遺留分の返還方法を裁判所がその都度決めること

遺留分減殺請求をした場合、相手にお金があればお金で支払ってもらうことができますが、そうでない場合には現物で分割するしかなくなります。この場合、複数の遺産があることが多いので、具体的にどの遺産をもって、どのように返還すべきかが問題になります。
このような、現物による遺留分の返還方法の決定方法についても、今回の相続法制の改正において議題に上がっています。
この点について、裁判所が個別のケースに応じて裁量で返還方法を決定すべきと言う考え方と、予め法律で遺留分返還方法を定めるべきという考え方が対立していました。

今回のパブリックコメント結果によると、前者の裁判所が裁量で返還方法を決定すべきという考え方が多数になっています。そこで、今後の法改正では、遺留分を現物で返還する場合でも、その方式までは法律で指定されず、その都度裁判所が定める方式になる可能性が高いです。

6.相続人以外の者による寄与分についての見直し

今回の相続法制の改正では、相続人以外の者による貢献の評価制度についても見直しが行われています。
現在の法制度では、相続人が相続財産の維持や形成に貢献した場合、その相続人に寄与分が認められて、その相続人の遺産取得分が多くなります。
ただし、現行法では寄与分が認められるのは、相続人の行為のみであって、相続人以外の第三者による寄与があってもその貢献に対する評価はありません。たとえば、長男の嫁が義父の介護をしたり、内縁の妻が夫の両親を献身的に介護したりしても、原則的にはその介護による寄与度は遺産分割の際に考慮されないことになります。(ただし、現在の家庭裁判所の運用では、長男の嫁が介護をした場合などには、長男の行為と同一とみなして長男の寄与分を認めることが多いです)。

ところが、近年高齢化などによって介護を受ける老人が増えており、その場合、法定相続人以外のものに面倒を見てもらっていることも多くなっていることから、このように相続人以外の者の寄与を認めない現行法が現状にそぐわないものと考えられて、改正がすすめられているのです。

この点、相続人以外のものによる貢献についても寄与の評価対象とすべきと言う点は多数が賛成していますが、その要件について、対立があります。
1つには、このような相続人以外の人による貢献があった場合、寄与を請求できる者(請求権者)及び請求できる対象となる行為の両方を限定すべきと言う考え方があり、もう1つには、請求出来る対象となる行為だけを限定すべきという考え方があります。

この点については、寄与の対象となる行為だけを限定すべきという後者の考え方が比較的多数意見を占めています。ただ、請求権者まで限定すべきだという意見もかなりあります。
そして、寄与の対象となる行為については、療養看護をした場合に限るという意見が多いです。

よって、今後は、相続人以外の者が被相続人の療養看護をしていた場合何らかの方法でその貢献に見合った遺産の取得を請求出来る制度が創設される可能性が高いです。
この場合、現行法の寄与分とは異なり、療養看護の行為に限って貢献が評価される可能性が高く、請求権者の限定については、今後さらに検討が予定されているところです。
今回集約された意見は、今後の法制審議会民法(相続関係)部会において、さらに詳しく審議される予定です。

まとめ

今回は、現在すすめられている相続法制の改正についての中間試案に対する意見の概要と今後の改正の見通しについてご説明しました。
現在の相続法制(民法の相続関係)は、かなり昔に作られたものであり、現代日本の社会常識や制度、時代に合っていない点がたくさんあります。そこで、今回の法改正によって、これらの点を改正しようとしています。

具体的には、配偶者居住権(短期)を創設したり、自筆証書遺言制度を利用しやすくしたり、遺産分割方法の対象に預貯金を含めたり、遺留分減殺請求の方法を簡単にしたり、相続人以外の者が被相続人に貢献した場合の評価方法を導入したりする方向で、改正がすすめられています。

今回、意見が集約されたことにより、今後の方向性も定まりつつあります。たとえば自筆証書遺言の保管制度ができたり、相続人以外の人が被相続人の療養看護をしたりした場合の貢献も報われやすくなります。
相続法制の改正については、引き続き法制審議会において検討される予定なので、今後も注視していきたいところです。

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