相続人がいない場合、賃貸借契約はどうなる?

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人が亡くなった場合、その人が賃貸借契約の当事者であることがあります。
死亡した人に相続人がいれば、相続人が賃貸借契約当事者の地位を承継しますが、死亡した人に身寄りがなくて相続人がいない場合にどうなるのかが問題です。

昨今では、独り身の高齢者が増えており、その人が亡くなると両親や兄弟もおらず相続人がいないという状況も増えています。
そこで、相続人がいない場合に賃貸借契約がどのように処理されるのかについて、解説します。

【参考】相続時の賃貸借契約はどうなる?貸主/借主の関係、敷金・家賃

1.亡くなった人が賃貸人であったケース

亡くなった人が賃貸人だった場合、賃貸借契約の効果はどうなるのでしょうか?以下で見てみましょう。

1-1. 相続財産管理人を選任する

賃貸人が死亡しても、当然に賃貸借契約が終了することにはなりません。しかしそうなると、賃借人は誰に賃料を支払って良いのかがわからなくなります。
身寄りのない人が死亡した場合に財産が残された場合、まずは相続財産管理人という職務の人を選任する必要があります。

相続財産管理人とは、遺産を管理して債権者や利害関係人への支払をすすめ、遺産内容を整理する人のことです。
相続財産管理人を選任できるのは、債権者や利害関係人であり、選任申立は、亡くなった人の住所地を管轄する家庭裁判所において行います。
ただ、特に債権者や利害関係人が見当たらず、誰も相続財産選任申立をしないケースもありますし、自分で相続財産選任の申立をすると、大変な費用と手間がかかるので現実的ではありません。
そこで、賃貸人が死亡した場合、賃借人は、自分さえ良ければ速やかに荷物を持って退去することも可能です。その場合でも後に相続財産管理人が選任されたら、その人との間できちんと法律的な処理をする必要があります。

1-2.相続財産管理人の職務

相続財産管理人が選任されると、相続財産管理人は、遺産内容の調査をして、債権者や債権の内容を確定していきます。そして、特別縁故者などを探します。
残された遺産から、債権者に対して必要な支払をして、特別縁故者がいたら相応の支払をします。これらの手続きが終わったら、残りの財産は国庫に帰属することになります。

1-3. 賃借人の対応

賃借人の対応としては、相続財産管理人が選任されるまでは、賃料を法務局に供託することが必要です。供託をしないと、賃料不払いになってしまうので注意が必要です。
相続財産管理人が選任されたら、その後はその人に対して賃料を支払います
相続財産管理人は賃貸借契約を解約するために話し合いをすすめてくるでしょうから、これについても話合いをして、解約に合意できたら物件を明け渡すことになるのが普通です。
賃借人は賃貸人に対して敷金返還請求権を持っているので、賃借物件明け渡しの際には、相続財産管理人から敷金の返還を受けることができます

2.亡くなった人が賃借人だったケース

亡くなった人が賃借人だった場合、どのように処理されるのかを見てみましょう。

2-1.賃貸借契約の効果は終了しない

賃借人が亡くなった場合でも、賃貸借契約の効力はなくなりません。また、物件内に残されている賃借人の私物に対しては賃貸人の権利が及ばないので、これらを勝手に処分することができず困ってしまいます
かといって、賃借人が亡くなったら、賃料を支払ってくれる人がいなくなるのでそのまま放っておくこともできません。

そこで、この場合もやはり相続財産管理人を選任する必要があります。
賃貸人は、賃料債権という債権を持っている債権者なので、賃借人の相続財産管理人選任の申立をすることができます。相続財産管理人選任の申立をするときには、収入印紙代800円と連絡用の郵便切手1000円程度、官報公告費3,775円、さらには財産管理費用及び相続財産管理人の報酬のための予納金が必要です。

予納金の金額は、東京家庭裁判所の場合、原則的に100万円程度となります。
事件終了時、相続財産から相続財産管理人の報酬や実費等の支払をできた場合には、予納金は申立人に返還されますが、そうでない場合には予納金の返還はありません。

2-2.相続財産管理人の職務

相続財産管理人が選任されたら、相続財産管理人が遺産の内容を調査して、特別縁故者を探し、債権者や特別縁故者に対する支払いをすすめていきます。
このとき、賃貸人は債権者なので、相続財産管理人から必要な賃料の支払いを受けることができます
そして、相続財産管理人との間で賃貸借契約解約の話し合いをすすめていくことになるでしょう。

賃貸借契約解約の合意ができたら、相続財産管理人が残置物の処理を行って物件の明け渡し手続きを行い、賃貸人は、相続財産管理人に対して敷金返還などの処理を行うことになります。
このようにして無事に賃貸借契約が終了したら、また次の賃借人を探したり物件を自分で活用したりすることができるようになります。

まとめ

以上のように、賃貸人や賃借人に相続人がいない場合、基本的に相続財産管理人の選任が必要になります。
相続財産管理人を選任するためには多額の費用と手間がかかりますし、ケースごとに対応策を検討した方が良いことが多いです。
そこで、賃貸借契約の相手方が亡くなってどうすればよいかわからなくなってしまった場合には、不動産問題や相続問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。

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執筆
服部 貞昭
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関することが大好きで、それらの記事を1000本以上、執筆・監修。
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