土地相続登記が義務化!所有権放棄や罰則も?不動産相続の影響を解説
法務省から、相続登記を義務化する方針が発表されています。しかし、そう言われても難しくて何のことだか分からない方も多い…[続きを読む]
不動産の相続や取引で意外とよく出てくるのが、未登記建物や未登記の土地といった、いわゆる「未登記不動産」です。
例えば、建てた家の所有者の登記を全くしていなかったり、相続が発生した後に登記をしていなかったりと、登記のない不動産や、登記の不完全な不動産があります。
しかし、こうした未登記不動産について、「建物の登記をしないとどうなる?」「所有権保存登記をしないデメリットは?」と、多くの方が登記をしないことによるメリットやデメリットについて疑問をお持ちだと思います。
本記事では、不動産登記の必要性や、登記しないとどうなるか、未登記の場合のリスクを紹介します。ご自分のリスクやトラブルを避けるためにも、不動産登記の必要性を理解し、適切に登記を行う一助になっていただければと思います。
目次
不動産登記は、人間でいう戸籍のようなものです。
不動産登記の目的は、不動産の所有者や所在地、種類、面積、構造、設定された権利等を「登記簿」に記載し公開することで、不動産の売買や不動産を担保にする取引等における安全を確保することにあります。
もしも登記のシステムがなければ、誰がどの不動産を所有しているかわからなくなってしまいます。
悪意がある人が書類を偽造して、ある不動産を所有しているように見せかけ、他人に売却することも可能になります。
しかし、不動産登記があれば、公開されている登記簿を確認することで、誰がどの不動産を所有しているのかが簡単に判明します。
つまり不動産登記を行うことで、「その不動産が自分の所有物だと対外的に主張することが可能になる」、ということです。
ご自分の財産を守るためにも、不動産登記は必要な制度なのです。
さて、不動産の登記には、「表題部」の登記と「権利部」の登記の2種類があります。
表題部の登記と権利部の登記は、それぞれ登記の必要性の度合いが異なります。
新築の建物や未登記の土地・建物は、所有権を取得してから1ヶ月以内に行わなければなりません(不動産登記法36条、47条1項)。これを怠ると10万円以下の過料が発生します(不動産登記法164条)。
表題部登記は行政が固定資産税や都市計画税を徴収するために必要であり、そのためこれを怠った者には金銭罰が適用されるのです(なお、いずれにしても現地調査で課税されますので、登記を怠ることで脱税はできません)。
一方、現状では権利部の登記は義務ではなく、行わなくても罰則はありません(※)。
権利部の登記は個人の判断に委ねられています。これは法律的な抜け穴ではなく、法務省も「登記を行うかを権利者の意思に委ねる制度は民法制定以来定着している」と述べています。
しかし、だからといって不動産の権利部の登記が不要なのかというと、そうではありません。現時点であっても、権利部の登記をしないことで、次のように様々なデメリットが発生するのです。
※ ただし、権利部の登記であっても、相続登記は、2024年4月1日には義務化され、登記を怠った場合には10万円以下の過料も科される予定です。
では、不動産登記をしないと、どんなデメリットがあるのでしょうか。
権利部の登記をしなければ、第三者に対して不動産の所有権を主張できません。
具体例を挙げてみます。
Aさんが、自分の不動産を売り渡す契約をBさんとCさん2人に対して、二重に結んだとします。
この不動産は、どちらの所有物になるのでしょうか。
このような場合には、不動産の所有者は、どちらが先に登記をしたかで決定されます。
したがって、もし仮にBさんの売買契約がCさんより先だったとしても、Bさんが登記をしないうちに、Cさんが登記を済ませてしまったら、その不動産は確定的にCさんの所有物になってしまいます。
登記を素早く行う必要性がお分かりいただけるのではないでしょうか。
ただし、注意すべきは、権利を主張できないのは「第三者に対して」という点です。
契約上、売主・買主の当事者であるAさんとBさん、AさんとCさんの関係では、不動産の所有権がそれぞれ買主に移っています。Bさん・CさんはそれぞれAさんに対して、登記がなくても所有権を主張できます(※)。
一方で、BさんがCさんに、またはCさんがBさんに権利を主張する際には、登記が必要になるということになります。
※ この場合には、不動産の所有権を取得できなかったBさんがAさんに対して損害賠償請求を行うことになるでしょう。
現実的に、名義人が存在しない登記や、現実の所有者に名義人を変更しないまま放置された登記では、不動産の売却をしたくても、通常は買い手がつきません。
法律上、売却自体は可能です。しかし、外観上は「登記簿上権利がない人が不動産を売ろうとしている」ことになり、登記簿上の所有者でなければ、不動産の売却はできないのが現状です。
買う側からすれば、登記簿で所有者を確認できないと、本当にその売主から買ってよいのか不安です。また、他に誰と交渉していいかも分かりません。
したがって、未登記や登記名義を変更しないままの不動産には誰も買い手がつかないのです。
例えば、所有者が死亡した後に相続登記が行われていないと、相続人の誰と話をしていいのかわかりません。相続人の一人が「遺産分割で自分が相続した」と言って売買しても、実は別の相続人が所有していたことが後から発覚することもあります。
これでは買う側はとても安心できません。
このように、不動産の売買や賃貸ができず、せっかく相続した不動産の用途がかなり制限されてしまうおそれがあるのです。
以上のような理由から、売買などにより不動産を取得する場合には、事前にその不動産の登記簿を確認し、自分の利益を守るために、不動産を取得したら登記を行うことが一般的です。
融資を受ける際に、不動産を担保にすることがあります。
例えば、「家のリフォームで銀行等からお金を借りる」際には、家に抵当権を設定することがあります。
しかし、通常、担保にできるのは登記済みの不動産だけです。
未登記の不動産では、それを担保に金融機関から融資を受けることはできません。
また、仮に登記されている土地を担保に融資を受けるとしても、土地上に未登記の家・建物があると、土地の担保価値は大きく減少してしまいます。
つまり、登記していない状態では住宅ローンも組めず、住宅ローン以外の借り入れでも、家や土地を担保にすることができません。
このように、登記を怠ると融資取引の際に大きな弊害となります。
不動産所有者には直接関係しませんが、所有者がわからないと、公共事業の用地取得にも悪影響が出てきます。
行政側が不動産の持ち主を知る手がかりは基本的には登記簿です。
登記簿上の所有者がいなかったり死亡したりしている場合は、土地収用や賃貸借などが難航します。結果として都市計画や地方の開発計画に遅延を生じ、社会的なロスに繋がります。
また、「登記をしていなければ固定資産税が発生しない」と考えている方が少なからずいらっしゃるようです。
しかし、当然ながら、固定資産税は、登記の有無にかかわらず課税されます。
たしかに、登記簿は課税の際に参照されるものですが、登記簿に記載されていなくても職員が現況を調査して課税するからです。
不動産登記を行うことで得られるメリットはデメリットの裏返しです。
登記簿上に所有者として名前を記しておくことで、誰に対してでも「この不動産の持ち主は自分だ」と主張できます。
自分の財産でもある不動産を誰かに脅かされることもなく、所有権を守ることができるのです。
登記をして所有者を明らかにしておけば、不動産の売買や貸借といった取引を円滑に行うことができます。現実的には、登記をしてはじめて取引が可能になります。
不動産を担保にして融資を受ける際もスムーズです。
登記があれば、経済活動が自由に行えるといえるでしょう。
相続の際に速やかに相続登記をすると、無用な相続トラブルがなくなります。
反対に、相続登記をしなければ、せっかく分割した遺産を他の相続人に横取りされ、売り払われたりする可能性もあるのです。
また、未登記不動産を相続した場合、その不動産を登記する必要があります。
この時の登記費用を誰が支払うかで相続人同士のトラブルが起こる可能性もあり、元の所有者が亡くなっている状態で必要書類を揃えるのも容易ではありません。
相続前に未登記の状態を解決しておけば、こういった事態を防ぐことができます。
古い自宅を建て替えるために解体した場合や、倒壊や火災で焼失した場合にも、同じく権利部に「建物滅失登記」が必要になります。
建物滅失登記も、しないことによって次のようなデメリットが生じます。
- 滅失登記をしないと過料に処せられる
- 滅失した家屋に固定資産税を払い続けることになる
- 滅失した家屋があった土地を活用できない
- 建物を建てられない
建物滅失登記には、建物の滅失の日から1ヶ月以内に登記しなければならない登記義務があり、(不動産登記法57条)登記を怠ると、10万円以下の過料に処せられることになります(不動産登記法164条)。
建物滅失登記をしなければ、登記簿上、当然建物は存在しています。
登記簿上、建物が存在するということは、建物について固定資産税が発生することになります。現存しない建物に税金を支払うほど馬鹿らしいことはありません。
また、同様の理由により、実務上、土地を売却することも賃貸することもできません。また、登記簿上建物が存在する土地には、建築許可が下りず、建物を建てることができません。
ちなにみ、建物滅失登記の登録免許税は、無料です。後々のことを考えると建物滅失登記も、しておくべきものと言えるでしょう。
不動産登記の流れは以下のようになります。
申込者にとってもっともハードルが高いのは、1.で集める書類です。
その他のプロセスは法務局側が行います。書類に不備があると連絡があり、補正を求められます。
建築後全く登記していない建物・土地などの不動産は、多くの場合、以下のような書類が必要になります。
この他、場合によっては固定資産評価証明書や電気ガス水道等の公共料金の領収書が必要です。建物が借地上にある場合や、建物自体を賃貸している場合は賃貸契約書もいります。
契約書の名義人と登記を行う人が違う場合にはさらに書類が増えるため、さらに手間と時間がかかります。
法務局で相談しながら自分で進めてもいいのですが、書類を集めたり相談したりする時間と手間を考えれば、専門家に任せてしまうのが賢明でしょう。
未登記不動産の登記を行う場合には、「表題部」と「権利部」の両方を登記しなればならない場合があります。
「不動産登記」というと一般的には権利部の登記を指すことが多いですが、「未登記不動産」と呼ぶ場合は表題部登記すら行っていない不動産が多いのです。
それぞれ登記にどのくらい費用がかかるのかみていきましょう。
表題部登記は、自分で表題部登記を行えば、書類集めにかかる費用や交通費のみで済みます。
専門家に依頼した場合、表題部登記の報酬額は安くても約7万円からで、通常は15万円程度が相場となります。
必要な資料が揃っている/いない、土地測量のあり/なしに応じて報酬額が大きく変動することもあります。
表題部登記の際には、不動産の構造や種類、床面積などを詳細にしなければなならず、土地家屋調査士が現地調査するのが一般的です。
権利部の登記をする場合には、未登記不動産のケースでは基本的に「所有権保存登記」を行うことになります。
所有権保存登記を行うには、固定資産評価額×0.4%の登録免許税が必要です。
評価額1000万円の不動産を保存登記する場合には4万円が必要となります。ちなみに、この「0.4%」の割合は相続登記における登録免許税と同じ税率です。
また、専門家(司法書士)に所有権保存登記を依頼する場合の報酬額の相場は2万円ほどとされています。
なお、基本的に表題部登記は土地家屋調査士の、権利部登記は司法書士の職域です。
弁護士でも職務的には可能で、対応している事務所はありますが、一般的にはこれらの専門家と協力して進めていくことになります。
不動産登記には表題部の登記と権利部の登記があります。
表題部の登記は義務であり、登記しないと罰則があります。
権利部の登記は現在は義務ではないものの、義務化する動きが出ている上に、登記しないと様々な場面でデメリットを被ることになります。
不動産を相続したら、一刻も早く登記を行うべきです。
ここまでで、未登記不動産が対外的に起こしうるトラブルのリスクと、登記の必要性をご理解いただけたと思います。