遺産分割とは?必要な手続と遺産分割協議で揉めないための基礎知識

相続が開始すると、遺言書がない場合には、共同相続人全員で「遺産分割」手続きをします。この遺産分割で争いになるのは、資産家だけだと思ってらっしゃる方が多いかもしれません。

しかし、実際には遺産は少ないほうが揉めやすく、仲の良い家族でも険悪になってしまうことが多いのです。
「自分のほうが額が少ない」、「自分のほうが面倒を見ていたのに」といった相続での不満をきっかけに、長年蓄積されていた感情的鬱憤が噴出してしまうからです。

そこでこの記事では、遺産分割をスムーズに進めるために知っておくべき基礎知識を解説します。これから遺産分割をされる方・協議中の方は、ぜひ参考にしてください。

1.遺産分割の流れ

まずは、遺産分割の意味と遺産分割流れ全体についてご紹介します。

1-1.遺産分割とは

遺産分割とは、被相続人(亡くなった方)の財産を、遺言や相続人同士の話し合いに従って分配することです。

被相続人が残した財産は、相続が開始すると一旦は相続人全員の共有財産となります。
その後、遺言があれば遺言に従って、遺言がなければ「遺産分割協議」という話し合いによって、各相続人に具体的に分配されることとなります。

1-2.遺産分割の流れ

まずは遺産分割全体の簡単な流れからご紹介していきます。

遺産分割の手続き全体を大きく分けると、3つの事前準備と、遺産分割協議、遺産分割協議書の作成の、合計5段階があります。

遺産分割の流れ

1~3で事前準備をし、4では協議を行って、5では協議で合意した内容を記録する書面を作成します。相続財産と相続人の調査は、同時に進行し、時間を節約したほうがいいでしょう。相続手続きには、相続税申告などの期限が定められているものがあるからです。

協議はもちろんですが、事前準備も怠るべきではありません。事前準備をしっかり行うことでトラブルを回避できることも多いからです。

2.遺産分割の準備① |遺言書の確認

まずは3つの事前準備を1つずつ確認しておきましょう。

2-1.遺言書があっても遺産分割協議が必要なケース

被相続人の方が生前に遺言書を作成していた場合は、財産の相続はその遺言書に従うことが原則とされています。ただし、相続人全員が合意すれば遺言と異なる遺産分割もできるため、その場合には、遺産分割協議を行うことになります。

また、遺言書に相続分の指定のみがされていた場合には、現実に遺産を分割しなければならず、遺言書に遺産分割の方法が指定されていても、遺言書に記載されていない遺産が発見されれば、その遺産については遺産分割協議をおこなわなければなりません。

いずれにしても、遺産分割は、まず最初に遺言書を探すことから始めなければなりません。

2-2.遺言書の有無を確認する方法

自筆証書遺言は、被相続人が使用していた机の引き出しや、棚、箪笥の中などに保管されているケースが多いので探してみましょう。2022年7月10日からは、法務局での保管も可能になっているため、法務局へも忘れずに確認しましょう。

公正証書遺言を作成されていた場合には、公証役場に申請することで遺言書を検索することができます。

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3.遺産分割の準備②|相続財産の調査

どのような相続財産があるのか遺産全体が分からなくては、分配することができません。不動産の評価額の確認も必要です。

また、相続人は、被相続人の借金といった債務も相続することになります。相続人の知らない借金があることもあるため、しっかり確認する必要があります。借金などのマイナス財産が、プラスの財産よりおおければ、相続放棄も検討しなければなりません。

ここでは、主な相続財産の調べ方をご説明します。

3-1.相続財産の調査|資料を調べる

まずは財産関係の資料を探すことから始めます。
例えば、預貯金通帳や証書、不動産の権利証などがこれにあたります。借用証や連帯保証人となっている契約書が見つかることもあります。
通常、被相続人のご自宅や、銀行の貸金庫などに保管されています。

3-2.相続財産の調査|郵便物を調べる

通帳などの直接的な資料だけでは遺産を把握しきれない場合には、郵便物の調査も役に立ちます。

不動産を所有していれば、固定資産税の納付書が送付され、借金に滞納があれば督促状が届きます。
また、銀行や証券会社などからの郵便物からも、口座のある金融機関を知ることができます。

3-3.相続財産の調査|ネット取引を調べる

最近ではネットバンキングやネット証券を利用されている方も多いため、インターネット上での取引や口座がないかどうか調べることも大切です。これらは、口座開設時の確認書類や、取引のメールなどを調べると分かります。

相続人には、被相続人の口座がある金融機関に残高や利用履歴の問い合わせをする権利があります。被相続人がネットバンクキングやネット証券を利用していたら、その銀行・証券会社に連絡してみましょう。

4.遺産分割の準備③|相続人の調査

相続人が誰なのかを確定することも必要です。

遺産分割協議は、相続人全員が参加する必要があるため、1人でも相続人が欠けたまま協議をすると無効となり、最初からやり直しになってしまうからです。

したがって、遺産分割協議を有効に行うためには相続人を調査し、確認する必要があるのです。

相続人を調査するには、被相続人が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本と除籍謄本、改正原戸籍謄本を取得し、被相続人の親族関係をすべて洗い出します。

被相続人に離婚歴があり、相続人にあたる子供がいたことが後から判明したというケースも珍しくありません。漏れのないように、確認する必要があります。

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5.遺産分割協議

相続財産や相続人の調査が終われば、次には実際に遺産分割協議を行います。

5-1.遺産分割協議とは

遺産分割協議は、相続人全員が参加する遺産分割についての話し合いです。包括遺贈の受遺者(遺贈された人)や、相続分の譲受人は、相続人以外の第三者であっても遺産分割協議に参加します。

協議といっても、法律上形式が決められているわけではありません。対面の他、メールや電話、FAX、手紙で行うことも可能です。また、最終的に相続人全員が参加していればよく、相続人を小分けにして何回か行っても構いません。

もっとも、特別な理由がある場合を除き、相続人全員が集まって行ったほうが話し合いを進めやすいでしょう。

5-2.遺産分割協議でやるべきこと

遺産分割協議では、どの遺産を誰が相続するか、預金をどう分けるか、不動産をどうするかなど、具体的な遺産の分け方を決めて、相続人全員が合意する必要があります。

遺産分割協議は、遺産分割の過程の中でも一番デリケートで、揉めやすいプロセスです。各相続人には、どうしても譲れない部分があるからです。

もし、相続人では分割するのが難しいといった場合には、この協議の段階から弁護士に依頼することをおすすめします。

正社員にも、時間的にも負担が軽くなります。

5-3.相続税を節税するためには二次相続まで考える

遺産分割協議では、相続人全員が合意できることを優先すべきですが、二次相続も考慮に入れる必要があります。

その理由は、一次相続での遺産分割のやり方によっては、一次相続と二次相続との合計の相続税が割高になってしまう可能性があるからです。

詳しくは、姉妹サイトである相続税理士相談Cafeの以下の記事をご一読ください。

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6.遺産分割協議についてのよくある質問(FAQ)

認知症の相続人がいる場合はどうすればいい?

認知症により判断能力を失った人の行った法律行為は、無効になってしまいます。遺産分割協議への参加も法律行為です。だとすると、認知症で判断能力を失った相続人は、遺産分割協議に参加できないことになってしまいます。

こうしたケースでは、成年後見制度を利用するといいでしょう。

詳しくは、「認知症の相続人がいるときの遺産分割方法と注意点」記事をご一読ください。

相続人に未成年者がいる場合はどうすればいい?

相続人が未成年者で遺産分割協議に参加できない場合には、親権者が法定代理人として、遺産分割協議に参加することができます。

ただし、未成年者の子の父親が亡くなった場合には、母親が親権者となる一方で、母親も未成年者と同じ相続人としての地位を取得するため、母親の取得する遺産が増えると、未成年者の取得する遺産が減るといった利益相反の関係となってしまいます。

こうしたケースでは、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。

死亡保険金は遺産分割の対象になるの?

死亡保険金は、民法上受取人の固有財産となるため、遺産分割の対象とはなりません。ただし、場合によっては、特別受益となる可能性があります。

死亡保険金が特別受益となる可能性については、「生命保険金は相続財産?特別受益になる条件と事例、遺留分との関係」をぜひご一読ください。

また、相続税法上は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となるため、注意が必要です。

7.遺産分割の3つの方法

遺産分割には、現物分割・換価分割・代償分割という3つの方法(※)があります。

これら3つの方法には、それぞれ長所と短所があるため、遺産の種類や相続人の状況などによって、どの方法が適しているのかが異なります。
適切な遺産分割の方法を選択することができるよう、3つの方法の特徴をよく把握しておく必要があります。

※実際には、この他に「共有物分割」がありますが、実質的に遺産を分轄しないに等しく、デメリットも多いためここではご紹介しません。

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8.遺産分割協議書の作成

遺産分割協議が相続人全員が合意できる内容で成立した後は、「遺産分割協議書」を作成します。

遺産分割協議書は、不動産の相続登記や、被相続人名義の銀行口座の名義変更や解約、相続税申告などの様々な手続きで必要になります。遺産分割協議書は、相続手続の手続きに必要な書類である他に、後々紛争になるのを予防する効果もあります。

遺産分割協議に電話や手紙・メールなどによって参加した相続人がいた場合も、遺産分割協議書には必ず相続人全員が署名・押印しなければいけません。押印は、実印でします。

遺産分割協議書はご自分でも作成可能です。

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9.遺産分割協議に失敗したら?

遺産分割協議書を作成すれば、遺産分割は終了です。しかし、手を尽くしても、当事者だけでは協議がまとまらないことがあります。

その場合には、「遺産分割調停」と「遺産分割審判」の2つの裁判所手続きにより遺産分割する方法があります。

これらの手続きについては、自分で行うこともできますが、弁護士に相談することをおすすめします。

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まとめ

遺産分割のトラブルは、弁護士に依頼することにより、次のようなメリットを得ることができます。

  • 相続財産や相続人の調査と確認をしてもらえる
  • 遺産をどのように分けるのが適切なのか判断してもらえる
  • 相続人同士の話し合いを委任できるため直接話す必要がなく、精神的な負担が減る

遺産分割で悩まれている方は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

相続に強い弁護士が問題を解決します

相続に関し、下記のようなお悩みを抱えている方は、相続に強い弁護士にご相談ください。

  1. 遺産の分割方法で揉めている
  2. 遺言の内容や、遺産分割協議の結果に納得がいかない
  3. 不動産をどう分けるか、折り合いがつかない
  4. 遺留分を侵害されている
  5. 相続関連の色々な手続きが上手くいかず、困っている

相続発生前後を問わず、相続に関連する問題に対して、弁護士があなたの味方になります。 まずは気軽に相談されることをオススメいたします。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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