寄与分とは?対象となる人の範囲や計算方法、遺留分侵害との関連など
寄与分とは、相続財産の維持形成のために特に貢献した法定相続人がいる場合、その貢献度に応じて多めの遺産取得分を認める制…[続きを読む]
相続トラブルは、「お金持ちの家庭の問題」というイメージがあり、ご自分とは無関係と思う方も多いかもしれません。
しかし、実際には相続トラブルの多くが、遺産総額数千万円の家庭で起こっています。遺産の額が少ないからといって、相続トラブルと無縁ではありません。遺産相続でもめてしまう原因とその対処方法を知っておかないと、最悪、絶縁状態ということもあり得ます。
今回は、相続がトラブルとなる原因と解決策を、よくあるトラブルの事例ごとに解説します。
目次
下は、裁判所の調査結果で、令和2年の全家庭裁判所で扱った遺産分割事件のうち、遺産の価額別に認容・調停成立(※)件数割合を示した円グラフです。
令和2年遺産分割事件のうち認容・調停成立件数遺産の内容別遺産の価額別
遺産の金額 | 件数 | 割合 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 2,017 | 34.7% |
5,000万円以下 | 2,492 | 42.9% |
1億円以下 | 655 | 11.3% |
5億円以下 | 369 | 6.4% |
5億円を超える | 37 | 0.6% |
算定不能・不詳 | 237 | 4.1% |
合計 | 5,807 | 100.0% |
※「分割をしない」を除く
※出典 「52 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く) 遺産の内容別遺産の価額別 全家庭裁判所」|裁判所
この統計によると、遺産分割事件の35%近くが相続財産1,000万円以下、約43%が5,000万円以下の事案です。合計すると、相続財産が5000万円以下の案件が全体の80%近くを占めています。したがって、遺産によるトラブルは、ドラマにあるような富裕層だけの問題ではなく、一般家庭でも頻繁に生じていることがわかります。
「自分たちにはもめるほどの遺産はないから」と対策を怠ると、後に大変な相続争いが起こるおそれがあります。
そこで、相続争いになりやすい事例とその解決策を、親の遺産を争う兄弟を例に挙げてご説明しましょう。
遺産相続がもめる大きな原因の一つに、相続財産の内容が不透明なことが挙げられます。
親にはどのような相続財産がいくらあるのかが不明瞭なため、相続人である兄弟同士が「もっと遺産があるのではないか」と「遺産隠し」を疑って疑心暗鬼になり、互いに不信感を持ち、相続争いに発展してしまいます。
このようなトラブルを避けるためには、被相続人となる親が生前に、「遺産目録」を作成し、相続人となる子供たちに資産内容を明らかにしておく必要があります。
さらに「遺言書」も作成して、遺産の分け方を指定し、相続人同士が争わないで済むように準備しておくと理想的です。
例えば、兄弟の1人と同居していた親が亡くなり、親の通帳に使途不明な預金の引き出しがあると、「貯金を使い込んでいたのでは?」などと、他の兄弟から疑われてしまうことがあります。
使い込みを疑われないためには、親の財産と相続人となる同居人の財産をしっかりと分けて管理することです。支出についても、誰がどの支払をするのか明確にしておくと、後になって「使い込んだ」と言われることを回避できるでしょう。
例えば、水道光熱費は誰が支払うのか、食費は誰が支払うのかなどの基本的なルールを決めた上で、自分のものは自分のお金で買うことを徹底し、領収証なども管理しておくと良いでしょう。
相続財産の多くを不動産が占める場合も、トラブルになりやすいでしょう。
その理由は、現金や預貯金は、相続人の数に応じて遺産分けがしやすいのに比べ、不動産は分割が難しいからです。共有にすると後々不都合が生じ、かといって誰か1人が相続するとなると、通常、不動産は高額で、他の相続人との間で不平等が生じます。
不動産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う代償分割よって不動産を分割する方法もありますが、資力がないと、代償金が払えません。
例えば、相続財産が実家の不動産のみというケースでは、亡くなった親と実家に同居していた長男が、実家を相続してそのまま住み続けたいと希望しても、代償金が支払われない限り、他の兄弟は納得しないでしょう。かといって家を売って売却代金を分けるとなると、長男は住む家を失うことになってしまいます。
また、土地の評価額など、不動産の評価方法でトラブルになることもあります。
不動産の評価方法は、現金預貯金のように一律ではないので、「評価額をいくらとするか」で意見が合わずもめるのです。「評価額をいくらとするか」で意見が合わなければ、代償分割をしようにも、代償金の額で争いになってしまいます。
このようなトラブルを避けるためには、被相続人の生前から話し合い、遺産の分け方を考えておくべきです。
兄弟の1人に不動産を与える際は、他の財産を他の兄弟に残すなどして、なるべく不公平が起こらないようにしましょう。
あまりに不均衡が起こるときには、いっそのこと不動産を売却して、売却代金を分配するのも1つの解決方法でしょう。
相続が争いになる原因として、親が子供に対して不公平な生前贈与を行っているケースがあります。
生前贈与があると、遺産分割の際に、その贈与財産額を「特別受益」として遺産に含めて計算することで、兄弟間で不公平が起こらないようにします。しかし、そもそも何が「特別受益」に該当して、どのように評価するかが問題になることが多くなります。
例えば、長男を優遇し、事業を始めるための不動産を生前贈与したとしても、その不動産の評価が問題になり、さらに、長男が「代金を支払ったから贈与ではない」と主張して特別受益を否定することなどもあり得るでしょう。
生前贈与にまつわるトラブルを避けるためには、親が子供達に不公平な生前贈与や不透明な生前贈与をしないことです。
贈与をするなら、なるべく全ての子供に公平になるように配慮し、明細などを作成して「いくら出したのか」を明らかにしておきましょう。
相続トラブルの原因の1つに、被相続人と実家に同居して、介護をしていた相続人がいるケースが考えられます。療養看護によって献身的に被相続人を介護した相続人には、「寄与分」が認められ、貢献行為を金銭的に評価し相続財産から相当額を取得できるからです。
しかし、この寄与分がトラブルの原因となり得ます。例えば、介護した相続人は、寄与分を含めた相続分を主張し、他の相続人は、同居していて金銭的な負担を減らしてもらっていたのだから介護は当然と寄与分を認めずに争いになることが多いのです。
寄与分の問題を解決するには、相続人となった兄弟同士が互いの立場を理解し、相互に納得できる落としどころを見つけることが重要です。遺産分けでは、自分の立場や主張だけを押し通すのではなく、相手の立場に立って考えることが重要です。
また、相続人同士で解決できなければ、弁護士に相談するのも方法の1つです。
もともと兄弟の仲が悪く疎遠な場合には、遺産分割協議で意見がまとまるわけがありません。相続人が互いに感情的になってしまうと、遺産分割協議どころではなくなってしまうでしょう。
残念ながら兄弟の不仲は一朝一夕には改善しないでしょう。したがって、被相続人となる親は、兄弟で遺産分割協議をしなくてもいいように、遺言書を遺しておくことをお勧めします。
兄弟姉妹の相続争いに、兄弟姉妹の配偶者や親類など第三者が遺産分割に口を挟むことで問題がより大きくなることがあります。
この場合も、親が生前に遺言書を作成することで、兄弟が自分たちで話し合う必要がないようにしておくことが解決策となります。
また、遺言書がない場合には、弁護士など法律の専門家に相談すると、余計な雑音に惑わされることなく、判断できることがあります。
相続人の中に前妻の子や認知された子がいると、相続がもめると断言しても過言ではないでしょう。前妻の子や認知された子の相続分が大きければその分、争いも大きくなるでしょう。
また、相続人が前妻の子や認知された子に連絡しても、なかなか話し合いに応じてもらえないといったケースも考えられます。
前妻との間にできた子であっても、認知した子であっても、子供に変わりはなく、再婚相手の子供と変わらない法定相相続分が認められています。そうしたことから、再婚相手の子と、前妻の子や認知した子との間にトラブルが発生することがあり得るのです。
そこで、こうしたケースに備え、離婚した前妻の子がいる方や、認知した子・認知しようとしている子がいる方は、遺言書を遺すことが重要になります。そのうえで、ご自分の相続についての意思について、相続人となる子供たちに納得してもらえるよう話し合うことをお勧めします。
一般には、遺言がないと相続人同士で遺産分割をしなければならず、争いが起こりやすいと言われており、ここまでご説明した相続トラブルの解決策の中にも遺言書の作成を挙げている事例があります。ただし、この遺言の内容に偏りがあると、却って相続トラブルの原因になります。
被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には、「遺留分」という、最低限の相続財産を受け取る権利があります。被相続人が、内縁の妻や愛人、認知した子どもなどにあまりに大きな財産を取得させる遺言を遺していると、他の相続人の遺留分を侵害してしまい、トラブルになります。
遺言書を作成するなら、法定相続人の遺留分を侵害しないように配慮することが大切です。
上記の事例から、遺産トラブルの解決策をまとめておきましょう。
遺産相続でトラブルが起こると、相続人同士が互いを全く信頼できなくなり、不信感が高まってしまいます。
このような問題を避けるためには、被相続人となる親と相続人となる者全員がお互いを信頼し、相手の立場を尊重する相続についての話し合いの場を持つことが大切です。兄弟が譲り合う姿勢を持って話し合うことで、遺産相続をスムーズに行うことができるケースは多いはずです。
前述した通り、相続トラブルを防止するためには、遺言書を作成しておくことが効果的です。
しかし、遺言書を作成する際には、次のことに注意しなければなりません。
被相続人となる方は、生前にきちんと遺産目録を作成して、それをもとに遺言書を作成し、誰に何を相続させるのかを明確にしておくことが、有効な相続対策になります。
遺言書の内容に偏りがあり相続人の遺留分を侵害していると、相続の際に、遺留分の請求が発生し、かえって相続トラブルが悪化してしまいます。
したがって、遺言書を作成する場合には、法定相続人の遺留分に配慮すべきです。
また、偏った生前贈与をすると、相続開始後、トラブルの原因になってしまいます。生前贈与をするなら、なるべく相続人ら(子ども達など)に公平に贈与を行い、贈与時の明細などは残しておくようにしましょう。
ここまでご説明した通り、相続で様々なトラブルが起こるのを防ぐためには、遺言書を作成することが有効な解決策となります。
ただし、遺言書の内容に配慮しなければ、遺留分侵害額請求といった、新たな相続トラブルの原因になってしまいます。そこで、相続対策に有効な遺言書を作成するためにも、法律のプロに相談することが必要になります。
また、いったん相続人同士で遺産分割協議がもめてしまった場合にも、弁護士に依頼することで、早期に問題を解決することができます。万一、話し合いで決着が付かず、調停や裁判になった場合にも、弁護士に依頼しておけば、対応してもらうことができます。
相続問題は誰にでも起こりうる問題です。無縁な方など一人もいないのです。相続争いを拗らせて「絶縁状態」などという結果にならないように、まずは弁護士に遺産相続や遺言書について相談してみてはいかがでしょうか。