「利益相反行為」とは、一方にとって利益となり、同時に他方にとっては不利益となる行為を指します。相続においては、親権者…[続きを読む]
遺産分割協議に特別代理人の選任が必要な場合について解説

相続人となるべき親がすでに亡くなっており、代襲相続によってその子供が相続人となるケースがあります。また、高齢化が進んだことで認知症などで判断能力を失った方が相続人となることもあります。
このように未成年者や、判断能力を失った方が法定相続人に含まれている場合に問題となるのが、単独では法律行為ができないことです。
ここでは、なぜ特別代理人が必要なのか、特別代理人の職務、選任の申立てなどについてご説明いたします。
目次
1.遺産分割協議で親が子どもを代理できない場合
通常、未成年者の法定代理人は親権を持つ親になります。しかし、相続では親権を持つ親であっても、子供を代理できないケースが出てきます。
それは、子と親の利益相反が問題となるケースです。
1-1.親と未成年の子の利益が相反するケース
一方、相続で、親と子供の利益相反が問題になるのは、子供と親の両方が相続人である場合、もしくは、複数の子供が相続人である場合です。
未成年の子供1人と母親が相続人となるケース
夫婦に子どもがいれば、夫が亡くなると妻と子どもの両者が相続人となります。したがって、この妻と子は利益相反関係にあり、妻は子供の代理人となることができません。
複数の未成年の子供と母親が相続人となるケース
また、この夫婦に未成年の子供2人がいて、母親と子供2人が相続人となった場合、母親は、いずれの子供の代理人となることもできません。それぞれの子供と母親はお互いに相続人となるため利益相反関係にあるからです。
1-2.複数の未成年の子供の利益が相反するケース
親権者と未成年の子の利益が相反するケースではなく、相続人となる未成年の子供たちの間で利益が対立するケースもあります。
父方の祖父母が亡くなったケースで、母親に複数の未成年の子がいたとします。
母親は、夫の父親の相続人とはならず、代襲相続人となる子供1人の代理人となることはできます。しかし、複数の子がすべて相続人となり未成年の子供間で利益相反の問題が発生するため、複数の子の代理人となることはできません。
2.遺産分割協議で成年後見人が認知症の相続人を代理できない場合
親権者と子どものケースと同様に、利益相反関係は、成年後見人と成年被後見人間でも起こり得ます。例えば、成年被後見人が親で成年後見人がその子どものケースで、同じ相続人となる場合です。
そこで、成年被後見人を保護するために、民法860条は、後述する同法826条を準用して、成年後見人と成年被後見人間の利益相反行為を規制しています。
原則として、成年後見人と成年被後見人との利益相反については、親権者と子どもの利益相反と同じ考え方を採用しているということになります。
ただし、成年後見監督人が就任している場合には、成年後見人と成年被後見人間の利益相反行為は規制されません。それは、成年後見監督人が、当該利益相反行為が成立する場合に、成年被後見人を代表する立場にあるからです。
なお、相続における利益相反について詳しくは、次の関連記事を是非ご一読ください。
3.遺産分割で利益相反になる場合は特別代理人を選任
では、相続で親と未成年の子の利益が相反する場合には、どうすればいいのでしょうか?
3-1.利益相反には特別代理人の選任申し立て
上述したように親権者である父母とその未成年の子との利益が対立する場合は、父母は子供の代理人になることができず、その子の代理人となる特別代理人を選ぶよう、子供の住所地のある家庭裁判所に申し立てる必要があります。
民法第826条
1 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
1 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
3-2.相続における特別代理人の職務
特別代理人は、家庭裁判所の審判で決められた行為(書面に記載された行為)についてのみ代理権を行使することができます。
未成年者に代わって自由に遺産分割協議において交渉できるわけではなく、原則としては特別代理人選任の申立の際に提出された「遺産分割協議書案」に拘束されます。
ただし、その遺産分割協議書案が未成年者や被後見人にとって不利益となるものだった場合は、これに対応する善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)を負っていると解されています。すなわち、被代理者の権利を守るために、整然と主張する義務があります。
親族などを特別代理人に選任した後に、未成年者がその分割内容に納得できないとして、その親族に損害賠償請求をしたような事例もあります。
特別代理人は未成年者の権利を守るために重要な役割を果たす人ですから、相続に関する専門知識を有する弁護士を候補者として立てることをおすすめします。
法定相続人に未成年者がいて争いが起きそうな場合は、一度民法や相続に強い弁護士に相談してみると良いでしょう。
4.利益相反には特別代理人の選任申し立て
次に、どのように特別代理人の選任申立てをするのかを説明します。
特別代理人の選任は、管轄裁判所に申立書と添付書類を提出して行います。
4-1.特別代理人の要件
特別代理人とは、未成年者に代わって遺産分割協議に参加する代理人です。
特別代理人となるのに特別に資格はありませんが、選任の際には子や成年被後見人との利害関係や適格性が考慮されます。叔父や叔母など血縁関係者でも特別代理人となることができます。従って、子や成年被後見人と立場を同じくする共同相続人以外の成人であれば特に制限はありません。
ただし、親族が特別代理人となる場合は、代理される側と親密な関係にあることから他の相続人と争いになることがあり、弁護士などの専門家に依頼したほうがいいこともあります。
申立人は特別代理人にしたい候補者を予め擁立することができますが、あくまでも最終的に選任するのは家庭裁判所となります。
4-2.申立人
親権者以外にも利害関係人が申立てを行うことができます。
4-3.申立先
特別代理人の選任申立ての管轄は、子の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
申立てをすべき具体的な管轄裁判所は、以下のサイトから検索してください。
【参考外部サイト】「裁判所の管轄区域」|裁判所
4-4.費用
- 子1人につき収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手数枚
が必要となります。
4-5.提出書類
特別代理人選任審判申立書
以下の裁判所のHPからダウンロードすることができます。記入例も同ページにあるので、参考にしてください。
【参考外部サイト】:裁判所「特別代理人選任の申立書(遺産分割協議)」
4-6.添付書類
親権者または成年後見人関係書類 |
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子の関係書類 |
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特別代理人候補者の関係書類 |
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遺産分割協議について特別代理人の選任の申立てを行う場合は、遺産分割協議書案を提出しなければなりません。
このとき、特別代理人に代理される側に不利な遺産分割で、合理的な理由が明確でない場合は、特別代理人の選任が認められないことがあります。もし、遺産分割協議書案が代理される側に不利なものなら、遺産分割協議書案などにその理由も明確に記載しておくといいでしょう。
また、原則として、遺産分割協議書は、遺産分割協議書案に従って作成しなければなりません。実質的な遺産分割を遺産分割協議書案提出までに済ませておかなければならないことになります。
4-7.特別代理人の選任
特別代理人が選任されると特別代理人選任審判書が交付されます。
その審判書は、遺産分割協議後に相続不動産の登記をする際に、添付する書類となります。
4-8.遺産分割協議における特別代理人の役割
申立の後、裁判所での審査を経て、特別代理人の選任の審判がなされます。
特別代理人の選任が無事終了したら、特別代理人が遺産分割協議に参加し、遺産分割協議書に未成年者の代わりに署名押印をし、遺産分割は終了します。
5.遺産分割協議と特別代理人についてのよくある質問(FAQ)
遺産分割協議で未成年者が不動産を相続した場合相続登記の申請は誰がする?
遺産分割協議後に未成年者が不動産を相続した場合の相続登記の申請は、親権者・特別代理人いずれからしてもかまいません。
実務上は、特別代理人に就任した司法書士など専門家に依頼することが多いようです。
特別代理人に報酬は発生するの?
特別代理人に報酬が発生するのは次の場合です。
- 特別代理人の選任申立てを専門家に依頼した場合
- 弁護士や司法書士などの専門家を特別代理人の候補とし、選任された場合
- 特に候補を立てずに選任申立てをし、弁護士や司法書士などの専門家が選任された場合には、裁判所に予納金を納める
弁護士や司法書士に選任の申し立てを依頼した場合の報酬や、が特別代理人に就任した場合の報酬は事務所によって異なります。
裁判所に納める予納金予定されている業務量に応じて、裁判所が決定します。
まとめ
今回は、相続における特別代理人について解説しました。
相続における遺産分割などで、未成年の子供と共に相続人となる場合は、特別代理人の選任が必要となります。特別代理人の選任を行わずした利益相反行為の効果は、子に帰属しないということになってしまいます。
もし、相続について不安のある方は、是非一度、相続に強い弁護士などの専門家にご相談ください。