不在者財産管理人とは?選任が必要なケースと選任方法のまとめ
この記事では、不在者財産管理人について解説します。選任が必要な場面と条件、選任の手続き、報酬や費用なども解説するので…[続きを読む]
被相続人に身寄りになる家族・相続人が誰もいなかったり、相続人全員が相続放棄をすると、その相続財産はどのように処分されるのでしょうか。
こうした事態には、「相続財産清算人」を選出して遺産を処分します。
ここでは「相続財産清算人」の基本と、相続財産清算人が必要なケース、選任方法について解説します。
相続財産清算人とは、ある被相続人の相続人があることが明らかでない際に、その被相続人の相続財産を管理・処分する人のことです。
ここで言う「相続人があることが明らかでない」とは、戸籍上に相続人がいないように見える状態などを指しています。決して、相続人の生死不明・行方不明を指している訳ではありません(相続人が行方不明の場合は、「不在者財産管理人」が選任されます)。
相続財産清算人は、利害関係人や検察官の請求により、家庭裁判所によって選任されます(民法952条1項)。一般的には、その地域に在住する弁護士や司法書士などが選ばれることが多くなります。
2003年4月1日からの民法改正により、それまで「相続財産管理人」と呼ばれていたものが、「相続財産清算人」に名称変更されました。
それに伴って、それまで10ヶ月を要した権利関係者の確定のための公告期間が、最短で6ヶ月に短縮されることになりました。
ただし「相続財産清算人」の職務内容は、旧「相続財産管理人」と基本的に変わりありません。事実、経過措置として、施行日前の規定により選任された相続財産の管理人は、施行日以後は相続財産の清算人とみなすとされています(附則(令和3年4月28日法律第二四号)抄4条1項)。
一方で、相続人が不明なまま放置された遺産に対応する新たな制度が設けられたことで、「相続財産管理人」は、これらの遺産の保存行為をする新たな職務を担うことになりました(民法897条の2第1項)。
相続財産清算人に選出されると、相続財産を管理・処分するために、相続財産の調査行って内容を把握し、財産目録を作成しなければなりません(民法953条、27条1項)。
この管理・処分とは具体的にいうと、債権者に対して債務の支払いし、精算をして、残った相続財産を国庫に帰属させることです。
そのため、相続財産清算人は管理・処分に必要となる登記などの手続きをする権限もあります。
相続財産清算人が必要になるケースは「相続人が不存在」である場合です。具体的に例を挙げると次のような状況です。
このように相続人がいない事態に陥った際に、相続財産清算人が必要になります。
相続財産清算人が必要になる理由は、相続人がいないことで相続財産が管理・処分されずに不利益を被る人がいるからです。
例えば、生前被相続人にお金を貸しており、財産から返済をしてもらえるはずだった債権者がいたとします。しかし、相続人がいなければ財産は処分されず、債権者はお金を返してもらうことができません。
こうした不利益を解消するためには、相続財産清算人を選出し、正しく財産を管理・処分する必要があります。
最初に、利害関係人や検察官が、家庭裁判所に対して「相続財産清算人選任申立」をします(民法952条1項)。申立先となる家庭裁判所(管轄裁判所)は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所です。
相続財産清算人の選任を申立てできる利害関係人に該当するのは、下記のような方です。
これらに該当する方は、被相続人への財産請求権を持っていますが、勝手に被相続人の財産に手をつけてはいけません。
相続財産清算人選任の申立人となり、正しい手順を経て相続財産清算人を選出することで、自己の利益を守ることができるのです。
次に、相続財産清算人選任申立のための必要書類を見てみましょう。
以下は、申立の一般的な必要書類であり、審理の際には、追加書類の提出を求められることもあります。
戸籍謄本類を集めるのはかなり大変な作業ですが、手続きを進めるためには確実に集めきる必要があります。
なお、相続財産清算人の申立書の書式は、以下の裁判所ホームページからダウンロードすることができます。
【参考外部サイト】「相続財産清算人の選任の申立書」|裁判所
相続財産清算人の選任に際しては、家庭裁判所に対して以下の費用を支払う必要があります。
さらに、相続財産清算人を選任する際には、相続財産清算人の報酬が必要になることがあります。弁護士などの専門家が相続財産清算人に就任する場合の、月額の報酬相場は数万円程度となります。
報酬は、基本的には相続財産の中から支払われることになりますが、報酬を支払うには不十分なケースでは、報酬に充てるための予納金が当初に必要になります。
予納金の額は、事案によっても異なりますが、100万円程度になることも多いので、かなりの負担がかかります。
手続きが終わったときに、残余がない限り予納金は返ってきません。
相続財産清算人の選任申立てには、予納金の負担や、予納金が返ってこないリスクがあることはしっかり認識しておく必要があります。
次に、相続財産清算人を選任した後の清算手続きの流れを確認します。
家庭裁判所は相続財産清算人を選任すると、選任した旨の公告と、相続人を捜索するための公告を行います(民法952条2項)。
相続人の捜索には、6ヶ月以上の期間を定めなければなりません(同法同条同項後段)。
期間内に相続人が現れたら、相続財産はその相続人に対して引き渡されるので相続財産管理の手続きは終了します。
選任された、相続財産清算人人は、債権者や受遺者に対し、債権届けを行うように公告します。このとき、届出のために2ヶ月以上の期間が定められます(民法第957条1項)。
公告によって相続債権者や受遺者が現れると、相続財産清算人は、公告期間の終了後に届け出た債権者や受遺者に対し、必要な支払をします。支払いの順序は、債権者からその後に受遺者となります。
相続財産清算人が相続財産を競売にかけ、支払に充てることもあります。
この時点で相続財産がなくなったら手続きは終了します。
相続人捜索の公告を出しても相続人が現れないときには、特別縁故者が、家庭裁判所に対し、「特別縁故者に対する財産分与の審判申立」ができるようになります。
申立てができるのは、相続人が不存在であることが確定したときから3ヶ月以内の間です(民法第958条の2第2項)。
特別縁故者として認められるのは、以下のような方です。
申立があると、家庭裁判所はその内容を調査して、特別縁故者として認めるかどうかを判断します。特別縁故者として認める場合には、その具体的な事情に応じて相続財産からの分与の額を決定します。
特別縁故者への財産分与の審判が確定したら、相続財産清算人はその内容に従って、特別縁故者に対して相続財産の引き渡しをします。
そして、これらのすべての手続きが終了した後、残っている相続財産については、最終的に国庫に帰属します(民法第959条)。
相続財産清算人の業務がすべて終了したら、相続財産清算人は、報告書を作成して選任された家庭裁判所に提出して、手続きが終了します。
家庭裁判所から請求された予納金の額を払えないと、相続財産清算人は選任されまず、相続財産がそのまま保留されてしまいます。
ただし、予納金が支払えないときには、日本司法支援センター(法テラス)の費用立替え制度の利用が可能な場合があります。
申立の前に、ご検討ください。
不動産の共有持分が、相続人のいない被相続人の所有であった場合には、「相続人不存在確定」か「特別縁故者の請求の審判」が確定後、相続財産清算人が登記義務者となって「相続人不存在確定」を登記原因として持分移転登記をするのが通常です。
この際にかかる登録免許税を含めた費用については、他の共有者が負担します。
相続財産管理人の名称が相続財産清算人に変更されたことで、権利関係者の確定までの期間も短縮されました。
しかし、選任には多量の必要書類を提出しなければならないことに変わりはなく、手続きにも手間がかかります。
相続財産清算人の選任申立をお考えの方は、一度弁護士にご相談してはいかがでしょうか。