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特別縁故者とは|相続人ではなくても財産分与される可能性

通常、被相続人の遺産は法定相続人が相続します。
しかし、被相続人が天涯孤独で相続人がいない場合や、もともとはいたけれどすでに亡くなっている場合、または相続人全員が相続放棄した場合など、なんらかの事情で「相続人が存在しない」という事態が発生することがあります。
そんなとき、本来は相続人ではなくても「特別縁故者」なら、被相続人の財産の一部が分与してもらえるかもしれません。
目次
1.特別縁故者とは
相続人がいないときに遺産を受け取れる可能性がある人
法定相続人にあたる人がいないとき、あるいは相続人全員が相続放棄したとき、被相続人の遺産はそのままだと国庫に帰属します。
国庫に帰属するというのは、国のものになってしまうということです。
しかし、相続人ではなくても「特別縁故者」として認められれば相続できるようになります。
ただし、遺産を全額もらえることは少なく、家庭裁判所が判断した分(一般的には遺産の10%~20%)をもらうことができます。
特別縁故者になれる人
そんな「特別縁故者」になれる人は、民法958条の3第1項で定められている、以下の3つのいずれかに該当する人です。
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- 上2つに準じて、被相続人と特別の縁故があった者
これだけでは分かりにくいですね。
以下で詳しく見ていきましょう。
2.被相続人と生計を同じくしていた者
まず、被相続人と生計を同じくしていた者についてです。
生計を同じくするとは
生計を同じくするというのは、同じお財布から日常生活の支出をしている、というイメージです。
生計同一の定義については、以下のような税法上の規定がひとつの目安になります(所得税基本通達2-47)。
- 同居している場合は、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、生計同一とみなせる
- 勤務や通学、療養などの事情で別居していても、余暇には同じ家で過ごすのが通例になっている場合や、生活費の仕送りが日常的にある場合は、生計同一とみなせる
かみ砕いていうと、同居していたり住民票上の住所が同じであったりすれば、原則、生計を同じくしていたということができます。
加えて、仮に別居していたとしても、経済的支援関係が認められるなどの事情があれば、生計同一とみなせることがあります。
該当する可能性のある人
「被相続人と生計を同じくしていた者」としては、たとえば、内縁の妻や養子縁組していない連れ子などがこれにあたる可能性があります。
内縁者はそのままでは相続権はありません。
また、連れ子も、正式な届出をして法律上有効な養子縁組を結べていれば相続権がありますが、単に連れ子というだけでは相続権はありません。
そんな内縁者や連れ子についても、生計を同じくしていれば、特別縁故者として相続権を主張できるかもしれないとうことです。
3.被相続人の療養看護に努めた者
続いて、被相続人の療養看護に努めた者についてです。
法定相続人ではないのにも関わらず、被相続人の療養看護に懸命に取り組んだ人などが該当します。
たとえば、看護を頑張った被相続人のいとこなどでしょうか。いとこは親族とはいえ少し遠く、法定相続人にはあてはまりませんから、そのままだと相続はできません。
そこで、特別縁故者の制度を利用することで、相続できるようになる可能性があります。
相続人がいる場合:特別寄与料の制度
「療養看護に励んだ分、財産を分与してほしい」というケースの中には、相続人がいることもあるでしょう。
相続人がいると特別縁故者の制度は使えませんから、特別寄与料の制度の活用をご検討してみてはいかがでしょうか。
特別寄与料の制度の詳細は、以下の記事をお読みください。
少し話がそれてしまいましたが、「被相続人の療養看護に努めた者」について、報酬の対価として看護にあたったような看護師・介護士などは、報酬をもらっている以上、原則として特別縁故者には含まれません。
しかし、明らかに業務としての範囲を超えて愛情をもって、懸命に面倒をみていたような場合は、状況に応じて認められる可能性もあります。
4.被相続人と特別の縁故があった者
最後に、「特別の縁故があった」人です。
他の2つより、さらに抽象的な文言の規定ですから、個々の事案によるとしかいえません。
特別の縁故があったというためには、上でみた「被相続人と生計を同じくしていた者」「被相続人の療養看護に努めた者」と並ぶくらいの密接な関係が必要です。
たとえば、以下のようなケースが考えられます。
- 日頃から被相続人の面倒を見ていて、被相続人から財産を譲りたいと言われていた場合
- 無報酬で、成年後見人という職務を超える程度に親しく、献身的に尽くしていた場合(大阪高裁平成20年10月24日決定)※
※通常は成年後見人は報酬をもらっているため、特別縁故者にはあたりません。
なお、被相続人の葬儀を行ったり遺産を管理したりした人などで、被相続人の死後にはじめて縁故が生じた人は原則として特別縁故者になりません。
例外的に稀なケースとして、かつて認められた例もありました(岡山家裁備前出張所昭和55年1月29日審判)。
特別縁故者は法人でもよい
ちなみに、必ずしも個人である必要はありません。
たとえば、35年の長期間にわたり、通常の施設に期待される以上の献身的なサポートを被相続人に施した障がい者支援施設を特別縁故者として、財産分与を認めた例があります(名古屋高裁金沢支部平成28年11月28日決定)。
5.特別縁故者の申立て
特別縁故者として認められるためは、自分から申立てをしなければなりません。
待っていても裁判所のほうから声をかけてくれるわけではないので、ご注意ください。
特別縁故者の申立ての大まかな手順は、以下の通りです。
- ①相続財産管理人を選任し、相続人がいないことを確定させる
- ②被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に特別縁故者申立ての必要書類を提出し、審理を受ける
申し立て手順① 相続財産管理人の選任
繰り返し述べてきたように、法定相続人がいない、または全員が相続放棄したときにはじめて特別縁故者が相続する可能性が出てきます。
したがって、まずは、相続人がいないという状態を確定させなくてはなりません。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続財産管理人選任の申立てをします。
その後、選ばれた相続財産管理人等の請求によって家庭裁判所が相続人捜索の公告等を出し、一定期間が経過しても相続人等が現れなかったら、相続人が不存在と認められます。
ざっくりいうとこんな流れになりますが、「6.【注意点3】財産分与の審判が確定するまでには長い道のり」でより詳しく解説します。
なお、相続財産管理人の選任については、以下の記事で詳しく解説しています。
申し立て手順② 必要書類の提出、審理を受ける
相続人がいないことが確定したら、特別縁故者の申立てをするため、同じく被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に必要書類を提出し、審理を受けます。
必要書類は以下の通りです。
必要書類 | 備考 |
---|---|
申立書 | 収入印紙800円分を貼る 【申立書PDF(裁判所HP)】 【記入例(裁判所HP)】 |
申立人の住民票または戸籍の附票 |
その他、追加書類が必要なこともあります。
また、申立人⇔裁判所間の連絡用の郵便切手は、申立人の負担です。
切手の費用は裁判所ごとにも異なりますので、直接確認してみてください。
必要書類の提出後、審理を受けます。
家庭裁判所に「特別縁故者」として認められ、財産分与の審判が確定したら、無事遺産を相続できることになります。
申立ては3ヶ月以内に行わなくてはならない
特別縁故者に対する財産分与の申し立ては、相続人を捜索するための公告で定められた期間の満了後(=相続人の不存在が確定してから)3ヶ月以内に行わなくてはなりません。
民法上の時効とは異なりますが、大事な手続き期限としてご確認ください。
6.注意点|相続税は?相続人がいる場合は?
最後に、特別縁故者として財産を分与してもらおうと考えている方に、要注意ポイントを3つご紹介します。
【注意点1】相続税がかかる
1つ目が、相続税についてです。
特別縁故者が財産分与を受けた場合、遺贈により取得したとみなされて、相続税もかかります。
また、特別縁故者は法定相続人ではないため、一般的な相続税の控除が受けられません。
一般的な相続税の控除とは、配偶者の税額軽減や、障害者控除、小規模宅地等の特例など、法定相続人の相続税節税のために民法で用意されている様々な手当てを指します。
これらが特別縁故者には適用されないだけではなく、特別縁故者の相続税には相続税の2割が加算されます。
さらに、通常の法定相続では、法定相続人が多ければ多いほど基礎控除額(相続税の中で非課税になる部分)が大きくなるのですが、特別縁故者の場合は相続人不存在として、一律で3,000万円の基礎控除になります。
なお、相続税申告は、「財産分与があったことを知った日の翌日」から10ヶ月以内に行います。期限に遅れると、延滞税などのペナルティが課されるため、要注意です。
【注意点2】相続人がいる場合は特別縁故者になれない
2つ目が、相続人がいる場合についてです。
「自分は特別縁故者に当てはまりそうだが、相続人が1人いる…。たったそれだけで一円ももらえくなるの?」と考える方は多いかもしれません。
しつこいようですが、特別縁故者はあくまで相続人がいないときの制度なので、相続人が存在している場合は財産は分与されません。
このような場合は、先にも解説したとおり、特別寄与料の請求を考えましょう。
ただし、相続人いたとしても、全員が相続放棄をして事実上相続人がいなくなったような場合には特別縁故者の制度が使えます。
【注意点3】財産分与の審判が確定するまでには長い道のり
3つ目は、財産分与の審判が確定するまでは長期戦になることです。
特別縁故者が実際に財産分与を受けるまでには、相当な時間を要します。
被相続人の相続が開始してから相続財産分与の審判が確定するまでは、13ヶ月程度かかると考えておきましょう。
「5.特別縁故者の申立て」で、手続きの流れは相続財産管理人の選任→特別縁故者の審理だとお伝えしましたが、より詳しく説明すると、以下の通りです。
- 相続発生
↓ - 相続財産管理人の選任の申立て
↓ - 相続財産管理人選任の公告
↓ 2ヶ月以内 - 相続債権者等(債権者・受遺者)に対する公告(※)
↓ 2ヶ月 - 相続人捜索の公告
↓ 6ヶ月以上 - 相続人不存在の確定
↓ 3ヶ月以内 - 特別縁故者に対する財産分与の申立て
↓ - 相続財産分与の審判の確定
※相続債権者等(債権者・受遺者)に対する公告…生前被相続人にお金を貸していてまだ返してもらっていない債権者や、被相続人から遺言により財産を受け取るはずの受遺者等がいたときに、申し出てもらうための公告です。
なかなか道のりは長いですね。
自分が特別縁故者にあたりそうだからといって、すぐに遺産が手に入るわけではないということを念頭に置いておきましょう。
また、相続人捜索の公告が出てから相続人不存在が確定するまで6ヶ月以上経過することが必要なのに対し、いざ確定すると、財産分与の申立てを3ヶ月以内に行わなければいけない点には、改めて注意してみてください。
7.まとめ
本記事では、特別縁故者について解説してきました。
法定相続人がいない、もしくは全員が相続放棄をしたことで相続人が事実上いなくなっているとき、①被相続人と同一生計だったか、②被相続人の療養看護に努めていたか、③その他①②に準じる程度の特別な縁故があったか、のいずれかを満たす人物は「特別縁故者」として認められ、財産の一部を分与される可能性があります。
特別縁故者として相続する際には、相続税がかかり、かつ通常の相続では受けられる節税の特例等が受けられなくなってしまうことや、相続開始から財産分与の審判確定まではそれなりに長い期間を要することに注意してください。
「特別な縁故」といっても、きわめて抽象的で、一律に決められた定義はありません。
結局はケースバイケースです。
もしかしたら、皆さんにも特別縁故者として相続する資格があるかもしれません。
もらえる財産をもらわずに、遺産が国庫に帰属してしまうことのないよう、「もしかして」と思ったら、まずは弁護士にご相談されることをおすすめします。