あれほど介護したのに報われないの?相続と寄与分、特別寄与料

kaigo souzoku

平均寿命の延伸で近い将来訪れる人生100年時代に伴い、介護を必要とする高齢者の数は年々増加しています。

被相続人の介護をしていたのに、その貢献が全く考慮されず、法定相続分に従って遺産分割が進んでしまうのを不満に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、介護による被相続人への寄与と相続の関係について解説します。
懸命に介護をした方が報われるように遺産分割するには、どのような手段があるのか、ぜひご参考にしてください。

被相続人の死後に行う遺産分割で、相続人か相続人以外かによって、介護の貢献を協議で主張する手段が変わってきます。

1.相続人が介護をした場合は寄与分を主張

1-1.法定相続人にはもともと扶養義務がある

被相続人の配偶者や直系血族、兄弟姉妹といった法定相続人には、もともと扶養義務があります(752条、877条)。非常に近しい関係である以上、ある程度被相続人の生活の手助けを行うのは、当然ということです。

したがって、身の回りの世話などの介護であれば、義務の範囲内となり、寄与とは言えません。実際に、介護が寄与として認められることはそれほど多くはありません。

寄与分は、あくまで通常期待される範囲を超えて被相続人のために尽力し、財産の維持形成に貢献したといえる場合にのみ、認められます。どんなときに通常期待される範囲を超えているといえるかは明確ではなく、ケースバイケースです。

1-2.財産の維持・増加への貢献は「寄与分」として主張できる

したがって、相続人が寄与分を主張するためには、相続人が行った行為によって、相続財産の維持・増加に特別な貢献をしていなければなりません(904条の2第1項)。

例えば、相続人が無償の介護をしたことで、本来かかるはずだった莫大な看護費用が浮いた等の場合には、遺産分割協議でご自身の寄与分を主張しましょう。
もしも協議で折り合いがつかない場合には、家庭裁判所に対して調停または審判を申し立てることもできます(同条2項)。

寄与分については、以下の記事で詳しくご説明しています。

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1-3.介護をしなかった相続人に相続させないことはできる?

被相続人の介護を全くていないのに、法定相続人であるというだけで相続できるのはおかしいと考える方もいらっしゃると思います。

しかし、被相続人の兄弟相続人を除く法定相続人には「遺留分」があります。
遺留分は、最低限保障される相続財産の取得割合です。たとえ遺言書であっても、遺留分までは侵害できません。

そのため、介護をまったくしなかった相続人であっても、相続欠格などに該当していない限り、全く相続させないことは困難です。

考えられるのは、相続人本人に対して介護をしなかった責任を追及し、相続放棄や遺留分の放棄を求めるといった方法です。
しかし、相続放棄や遺留分の放棄は、放棄する本人にメリットがなく、承諾してもらうことは難しいでしょう。

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2.相続人でない親族が介護した場合は特別寄与料を主張

2-1.相続人以外の親族による介護は「特別の寄与」を主張

一方、相続人とはならない被相続人の親族が、介護を相続に反映させたいときには、介護により「特別の寄与」をしたとして、相続人に対して「特別寄与料」を請求する方法があります(1050条1項)。

「特別の寄与」とは、相続人以外の親族が、被相続人の介護などの労務を無償で提供し、相続財産の維持や増加に特別の寄与をすると、相続人に対して特別寄与料として金銭支払いを請求できるようにした制度です。
約40年ぶりの相続法改正により、新しく設立された制度です。

この制度が新設されるまでは、生前、被相続人に貢献したとしても、それが相続人による行為でなければ遺産分割では考慮されませんでした。
たとえばある家庭で、妻が義理の母親の介護を献身的に行っていたとしても、あくまで相続人は夫(息子)なので、妻は相続財産をまったく取得することができませんでした。しかし、これでは妻が報われず不平等だということで、特別の寄与の規定が追加されたのです。

特別の寄与であると認められるためには、介護が無償で行われていなくてはなりません。
また多くの場合、短期間の介護では足りず、長期(数年)に渡って継続的に努力していることが必要とされます。

特別の寄与、特別寄与料について、詳しくは以下の記事をお読みください。

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2-2.家庭裁判所への調停・審判申立てには期間制限がある

相続人との協議では決着がつかない(相続人が特別の寄与を認めて金銭の支払いに応じてくれない)場合には、家庭裁判所に調停または審判を申し立てることができます。
家庭裁判所は、寄与の時期・方法・程度・相続財産の額などを考慮して特別寄与料を決めます(同条2項・3項)。

ただし、調停や審判を求めることができる期間には、制限があり、以下2つのいずれかの期間を経過すると、調停や審判を申し立てることができなくなってしまいます。

  • 特定寄与者が相続の開始と相続人が誰であるかを知ってから6ヶ月を経過
  • これらの事実を知らない場合でも、相続開始から1年経過

3.寄与分と特別の寄与との違い

寄与分と特別の寄与の違いを簡単にまとめると、下表の通りとなります。

寄与分 特別の寄与
請求権者 相続人のみ 相続人以外の被相続人の親族
請求対象となる行為
  • 被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付
  • 被相続人の療養看護その他の方法
  • 無償での療養看護その他の労務の提供
請求方法 遺産分割協議で主張 相続人に対して主張
請求できる期間
  • 定めなし
  • 相続の開始と相続人を知った時から6ヶ月
  • 相続開始から1年

4.被相続人の生前に遺言の内容に反映してもらう

最後に、被相続人が存命であれば、直接交渉して、介護者が取得する財産を考慮した遺言書を遺してもらいましょう。

遺言書によって遺贈をしてもらうことができれば、法定相続人以外でも相続財産を取得することができます。

ただし、遺言書で事前に対策する場合は、下記の2つに注意しなくてはなりません。

4-1.他の相続人の遺留分を侵害しない

いくら遺言書に書かれている被相続人の意思が尊重されるとはいえ、他の相続人の遺留分までは侵害できません。

相続人の遺留分を考慮せずに遺言書を書いてしまうと、遺留分を侵害された相続人が遺留分侵害額請求をする可能性があり、相続トラブルの原因となってしまいます。

介護者自身の相続分を増やすことだけではなく、相続人の遺留分についても配慮した遺言書を遺してもらうべきです。

4-2.遺言書の方式等は法律で定められている

普通方式の遺言書には、自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類がありますが、方式や書き方がそれぞれ民法で定められています。

万が一、形式・内容に不備があると無効になってしまうおそれがあるため、遺言書作成は弁護士にサポートしてもらいながら進めていくのが安心です。

まとめ

寄与分や特別寄与料を請求するには、介護者が行った相続財産に対する貢献を、論理的に証明しなければなりません。

寄与分や特別の寄与の問題を、素人の力だけで解決しようとすると、話し合いがこじれたり、金額で折り合いが付かない可能性があります。

ご自分の寄与行為を遺産に反映させたい方は、弁護士に依頼することをお勧めします。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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