寄与分とは?対象となる人の範囲や計算方法、遺留分侵害との関連など
寄与分とは、相続財産の維持形成のために特に貢献した法定相続人がいる場合、その貢献度に応じて多めの遺産取得分を認める制…[続きを読む]
平均寿命の延伸で近い将来訪れる人生100年時代に伴い、介護を必要とする高齢者の数は、年々増加しています。
被相続人の生前の介護を一番頑張っていたのは自分なのに、その貢献が全く考慮されず、法定相続分にしたがって遺産分割が進んでしまうのを不満に思う方もいるのではないでしょうか。
本記事では、介護による被相続人への寄与と相続の関係について解説します。
懸命に介護をした方が報われる遺産分割にするためには、どのような手段があるか、ぜひご参考にしてください。
目次
まず、被相続人がご存命のうちであれば、被相続人に直接掛け合って、介護した自分に多く相続させる旨を書いた遺言書をのこしてもらうのが一番です。
ただし、遺言書で事前に対策する場合は、下記の2つに注意しなくてはなりません。
いくら遺言書に書かれている被相続人の意思が尊重されるとはいえ、他の相続人の遺留分までは侵害できません。遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹を除く法定相続人に保障されている、最低限の相続分の分け前のことです。
関連記事:【図説】遺留分とは?遺留分の仕組みと割合を分かりやすく解説!
もし他の相続人の遺留分を考慮せず、好き勝手な内容で遺言書を書いてしまうと、後々相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
ご自身の相続分を増やすことだけではなく、他の相続人の遺留分についても注意して遺言書をのこしましょう。
また、遺言書には主に自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類がありますが、それぞれ方式や書き方が民法で定められています。
万が一、形式・内容に不備があると無効になってしまうおそれがあるため、遺言書作成は弁護士にサポートしてもらいながら進めていくのが安心です。
一方、被相続人が介護を必要とする時点で遺言書を作成できるほど判断能力を持っていなかったり、あるいはすでに他界していたりする可能性もあります。
それでは、被相続人が亡くなった後に、介護でした自分の貢献を遺産分割に反映させるにはどうしたらよいのでしょうか。
被相続人の死後に行う遺産分割の場合、相続人かそうでないかによって、介護の寄与分を反映させる手段が変わってきます。
ご自身が【相続人である方】は3.を、【相続人ではない方】は4.相続人ではない人による介護と相続をお読みください。
相続人による介護を遺産相続に反映させるためには、「寄与分」を主張する方法が考えられます。
「寄与分」の制度の概要は、一部の相続人が特別な行為によって、被相続人の相続財産の維持・増加に貢献したときに、その貢献分を考慮して、その者により多くの相続権を認めようとするものです(904条の2)。
ご自身が無償の介護をしたことで、本来かかるはずだった莫大な看護費用が浮いた等の場合には、遺産分割協議でご自身の寄与分を主張しましょう。
もしも協議で折り合いがつかない場合には、家庭裁判所に対して調停または審判を申し立てることもできます(同条2項)。
しかしながら、被相続人の配偶者や直系血族、兄弟姉妹といった法定相続人には、もともと扶養義務があります(752条、877条)。非常に近しい関係である以上、ある程度被相続人の生活の手助けを行うのは、当然ということです。
したがって、身の回りの世話など通常の介護であれば、義務の範囲内となり、特別の寄与とは言えません。そして実際に、介護が寄与分として認められる例は多くありません。
寄与分は、あくまで通常期待される範囲を超えて被相続人のために尽力し、財産の維持形成に貢献したといえる場合にのみ、認められます。どんなときに通常期待される範囲を超えているといえるかは明確ではなく、ケースバイケースです。
寄与分については、以下の記事で詳しくご説明しています。
いっぽう、相続人ではない人による介護を相続に反映させたいときには、介護により「特別の寄与」をしたとして、相続人に対して「特別寄与料」を請求する方法があります(1050条)。
「特別の寄与」の制度の概要は、【相続人以外の親族】が、被相続人の介護などを無償で行っていた場合に、相続人に対して特別寄与料として金銭支払いを請求できるようにしたものです。
約40年ぶりの相続法改正により、新しく設立されました。
従来は、生前、被相続人に貢献していても、それが相続人による行為でなければ遺産分割で考慮されませんでした。
たとえばある家庭で、妻が義理の母親の介護を献身的に行っていたとしても、あくまで相続人は夫(息子)なので、妻は相続することができませんでした。しかし、これでは妻が報われず不平等だということで、特別の寄与の規定が追加されたのです。
特別の寄与であると認められるためには、介護が無償で行われていなくてはなりません。
また多くの場合、短期間の介護では足りず、長期(数年)に渡って継続的に努力していることが必要とされます。
特別の寄与、特別寄与料について、詳しくは以下の記事をお読みください。
遺産分割協議あるいは個人的な交渉では決着がつかない(相続人が特別の寄与を認めて金銭の支払いに応じてくれない)場合には、家庭裁判所に調停または審判を申し立てることができます。
家庭裁判所は、寄与の時期・方法・程度・相続財産の額などを考慮して特別寄与料を決めます(同条2項・3項)。
ただし、調停や審判を求めることができる期間には、制限があります。
特別寄与者が相続の開始および相続人が誰であるかを知ってから6ヶ月経過するか、もしくは、知らなくても相続開始から1年を経過すると、調停や審判を申し立てることができなくなってしまいます。
また、介護を全然していないのに法定相続人であるというだけで相続できるのはおかしいと思う方もいらっしゃると思います。
しかし、被相続人の兄弟相続人を除く法定相続人には「遺留分」があります。
遺留分は、最低限保障される相続財産の取り分のことです。前述の通り、たとえ被相続人の遺言書に記されている意思であっても、遺留分までは侵害できません。
したがって、介護をさぼった相続人であっても、相続欠格などに該当していない限り、全く相続させないことは困難です。
考えられる方法としては、相続人本人に対して介護をしなかった責任を追及し、相続放棄や遺留分の放棄を求めることがあります(※)。
しかし、相続放棄・遺留分の放棄は、どちらも放棄する側にメリットがありませんから、なかなか本人に承諾はしてもらえないでしょう。
相続全体がもめる原因にもなりますので、どうしても相続させたくないという場合は弁護士に相談されることをおすすめします。
※相続放棄についてはこちら、遺留分の放棄についてはこちらで詳しく解説しています。
どんな行為が特別な寄与だといえるかは明確に決められておらず、ケースに応じて判断する必要があり、寄与分と相続の関係はとても揉めやすい問題です。
その人が多く相続するに値するだけの貢献度合いを、論理的に証明しなければなりません。
寄与分の問題を素人の力だけで解決しようとすると、遺言書に不備があって無効になってしまったり、協議で話し合いがこじれたり、結局他の相続人に言い負かされて意に反した結果になってしまったりする可能性があります。
ご自身の寄与分をどうしても遺産分割に反映させたいという方は、弁護士などの専門家を頼りましょう。