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突然ですが、皆さんはご自身のご家族やご親族の居場所をすべて把握されていますか?
最近は「親と縁を切る方法はないのか?」「親子の縁を切るにはどうすればよいか?」と法律の専門家への相談が増えていると聞きます。親子間での絶縁状の書き方のアドバイス等が欲しいのでしょう。
中にはもうすでに「あんな息子、数年前に絶縁したわ」なんていう人もいるかもしれません。
しかし遺産相続の世界では、いわゆる「勘当状態」にあったとしても、法的には自分の子供は法定相続人です。
万が一、遺産相続が発生したら、たとえ音信不通になっていても、その息子を残された家族が探さなければならないのです。
こういったケースはかなり特殊かもしれませんが、例えば昨今の東日本大震災のような大地震が発生した場合、いつまで経ってもご遺体が見つからず、本人の生死が分からない場合だってあります
では、万が一法定相続人の中にこのような行方不明者や生存不明の人がいた場合、遺産相続の手続きや遺産分割協議はどうなってしまうのでしょうか。
心情的には、まだ生きているかもしれない家族を死亡したと認めることはそう簡単ではありませんが、現実問題として本人の死亡が法的に認められなければ、残された財産や遺族年金の受け取りなどにも支障が出てきます
そこで、人の生死の扱いについては、法律上は次のようになっています。
日本では年間、全国で行方不明者が10万人という噂がネット上であふれていますが、実際は所在がすぐに確認される方が多くたいていの場合は家出人です。しかしそれでも毎年自殺等で死体が見つかる場合は別として見つからない人が1000人単位で存在しているようです。
そういう風に、何らかの理由で誰も生存確認が出来ていない行方不明者がいる場合は、家族などの利害関係人が家庭裁判所に請求することで「失踪宣告」の手続きがなされます。失踪宣告がされると、法律上、その人は死亡したことになります。
仮に本当はその人がどこかで生きていたとしても法的には「死んだ人」という扱いになるのです。
これを「普通失踪」と言い、7年間生死が確認できない場合に失踪宣告がされることとなっています。
大震災や戦争、船の沈没などの理由で本人の生存が確認できていない場合については、上記の普通失踪とは別に「特別失踪」という制度が設けられています。このような事情の場合は、行方不明となったときから1年間で失踪宣告がされることとなっています。
なお、特別失踪の場合は災害などの「危難が去った時点」で死亡したものとみなされます。
通常はこの失踪宣告が確定すると家庭裁判所から謄本がもらえるため、これをもって10日以内に役所で死亡届を提出する必要があります。
なお、東日本大震災の際には大勢の方が被害を受けたこともあり、遺族年金の支給時期を調整する意味合いもあり、この失踪宣告を待たずして死亡届を受理していたようです。(その際には、別途被災状況を確認した者の申述書などの書類が別途必要でした)
まとめると次のようになります。
普通失踪 | 行方不明者は7年間生死が判明しなければ7年経った後に死亡したものとして扱われます。 |
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特別失踪 | 災害などで生存不明な場合は、1年経過後に失踪宣告がなされ、「危難が去った時」に死亡したものとして扱われます。 |
また捜索を行うことをやめたあと本人が発見された場合、失踪宣告の取消が可能になり、家庭裁判所で手続きを踏めば取り消すこともできます
このように、相続人が生死不明の場合は失踪宣告の手続きをとる必要がありますが、生死不明とまではいかなくても「所在不明」程度、つまり「どっかで生きているけど連絡がとれない」なんていう場合はどうしたらよいのでしょうか。
従来の自宅から去り、容易に戻ってくる見込みのなくなった者のことを、法律上「不在者」と言います。不在者はあくまで生きているため失踪宣告で対応することができません。
このような場合は、家族や他の相続人などの利害関係人や検察官からの請求によって権限を持つ「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に対して申立てるという制度があります。
不在者財産管理人を選任する理由ですが、遺産分割協議をしても「相続人全員そろわない限り、その話し合いが無効にされる」からです。
遺産分割協議の原則は、全員参加の元に話し合いをすることです。したがって、行方不明・音信不通だからと言って、その相続人を除いて話し合いを進めることはできません。そのため、代理人となる不在者財産管理人を立てて、遺産分割協議を始められるようにします。
不在者財産管理人とは、相続時における不在者の代理人を言います。ここで言う不在者とは相続権を有する人で、1年以上に渡り行方不明が続いている人を指しています。
また、代理人は利害関係のない被相続人の親族が候補者に選ばれます。もし適当な親族が見当たらない場合には、家庭裁判所により弁護士や司法書士などの専門家が代理人として選任されます。
したがって不在者財産管理人とは、1年以上に渡り行方が分からない相続人に代わって、相続手続きを代理で行う人のことです。
不在者財産管理人に選任された人は、その名の通り、主として財産を管理することが役割です。具体的には次の2つの行為です。
不在者財産管理人に認められた権限は上記の2つです。したがって、例えば遺産分割協議に参加し、発言するなどの行為をするには、家庭裁判所の許可が必要になります。
「権限外行為許可」と言う手続きにより、家庭裁判所から遺産分割手続きの許可が下りれば、不在者財産管理人も遺産分割協議に参加できます。また、遺産分割協議書への押印も認められており、不在者の代理人として手続きすることが可能です。
不在者財産管理人の職務が終了するタイミングは、次の3つがあります。
以上の3つの場合に、不在者財産管理人は職務を終了することができます。なお、不在者が現れた場合には、相続財産は不在者に帰属されます。また、死亡の判明もしくは疾走宣言がされた場合には、その不在者の相続人に財産が相続されることになっています。
ちなみに、不在者財産管理人は本人が生きて帰ってくるか、失踪宣告がされるか死亡が判明するまでその職務を継続することになります。そのため、遺産分割協議が終わればそれで職務期間は終了!さっさと辞任だ!とはいきませんのでご注意を。
不在者財産管理人の制度を利用すれば、相続人の中に所在不明の人がいたとしても、その帰りをいつまでも待つことなく遺産分割協議を進めることが可能になります。
不在者財産管理人になれる人は、次の人たちです。
一般的には「被相続人の親族」から、不在者財産管理人は選出されます。ただし、相続に利害関係を生まないことが条件です。なぜなら、利害関係を生む人が代理人となると、不在者や他の相続人の利益を害する恐れがあるからです。
また、もし適当な親族がいない場合には、家庭裁判所が弁護士や司法書士などの専門家を選任します。この適当な親族がいない場合とは、そもそも親族がいない場合や、親族はいるけれども利害関係を生む場合などが考えられます。
不在者財産管理人の選任請求をするには、次の要件を満たす必要があります。
基本的に「不在者が1年以上、行方不明である」場合で、相続が進まない場合に選任請求をすればいいでしょう。逆に言うと不在者がいても、その期間が1年未満の時には選任することができないので注意が必要です。
不在者財産管理人を選任するには、次のステップを踏む必要があります。
まず申立人となる利害関係者、または検察は不在者財産管理人の申立書を作成します。また不在者自身の戸籍謄本、戸籍の附票、候補者の住民票、利害関係を証明する書類などを用意します。
そして、これらの必要書類が準備できたら、不在者の居住地を管轄する家庭裁判所に申立てします。もし、居住地がない場合は最後の住所地を管轄する家庭裁判所、最期の住所地もない場合には財産所在地の家庭裁判所に申立てましょう。
申立を受けた家庭裁判所は、その資料に基づき不在者財産管理人の審理をします。その結果、必要と判断されれば、不在者財産管理人の審判が下されます。また、不要と判断されれば、棄却されます。これが選任までの流れです。
不在者財産管理人を選任した後には、その代理人に対して家庭裁判所から権限外行為の許可を受ける必要があります。この申立の手順は、不在者財産管理人の選任手順と変わりません。
ただし、権限外行為許可の申立書を作成する必要があります。この申立も無事に許可されてはじめて、不在者財産管理人は不在者の代理人として、遺産分割協議に参加することができるようになります。
不在者財産管理人の申立て自体を自分で行えば、かかる費用としては収入印紙代の800円と郵送切手代数千円程度だけです。
ただし、これらの手続きをまとめて弁護士に依頼した場合は数万円程度の弁護士報酬が発生します。
また、不在者財産管理人候補者として弁護士などを記載した場合は、家庭裁判所の判断により不在者の財産からその報酬が支払われることになります。
ここで一つの疑問が浮上します。
これら失踪宣告や不在者財産管理人の制度は、あくまで法的に本人を死亡または不在者として、いわば本人の承諾なく勝手に扱っているだけです。
では万が一これらの手続きを経て遺産分割協議が終わった後に本人が生還した場合、すでに終わっている遺産分割協議はどうなってしまうのでしょうか。
この場合は当然ですが失踪宣告は取り消されます。なにしろ生きているわけですから。そして気になる遺産分割ですが、全部やり直すということは現実的に不可能ですから、この場合は遺産分割によって相続した財産のうち、まだ手元に残っている財産の範囲内において生還した相続人の受け継ぐべき財産を返すという事になります。
この場合は、戻ってきた不在者にそのときにある財産を引き継ぐことになります。
ここまでが法定相続人の中に不在者や行方不明者がいる場合の対処法なのですが、実はこれで問題は終わりではありません。実は、失踪宣告がされた場合は、もう一つ別の問題が生じます。
それは、失踪宣告を受けた人の相続です。
失踪宣告がからむと、相続の手続きが複雑になります。失踪宣告がされると言うことは、法律上の死亡となりますから、すなわちその人も被相続人となるのです。つまり、失踪宣告によっても相続が発生するのです。
問題なのは、どっちが先に死亡したことになるかということです。
例えば、行方不明者が失踪宣告により死亡とみなされた時点が、今現在発生している相続における被相続人の死亡日よりも前になる場合は、そもそも法定相続人の資格はないことになり、孫などがいる場合は「代襲相続」が発生することになります。
反対に、死亡宣告により死亡とみなされた時点が被相続人の死亡よりも後だった場合は、一旦は被相続人から行方不明者が財産を相続して、その後に死亡した事になります。そして、今度は行方不明者が被相続人となって次の相続が開始することになります。
このように、失踪宣告が絡むと複数の相続が発生するため、死亡のタイミングによってその手続きは非常に複雑になります。
そのため、万が一このような状況が発生したら、手続きのミスを防ぐためにも必ず相続に強い弁護士に相談するようにしましょう。
相続人の行方不明と不在者財産管理人について解説しました。相続人が音信不通や、行方不明などになると、遺産分割協議が進められません。この場合には不在者財産管理人が代理人となり、話し合いに参加することができます。ただし、権限には限りがあるため、別途「権限外行為許可」の申立をしましょう。また、もし分からないことがあれば相続弁護士に相談しても良いでしょう。
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