相続人が遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿したらどうなる?
自筆証書遺言は、特定な相続人に不利な内容があると、遺言書が偽造や変造、破棄、隠匿されるリスクがあります。相続人が自筆…[続きを読む]
自筆証書遺言は、全文を自書することを要件とする遺言の方式です。
では、自筆証書遺言を遺言者以外が代筆することは可能なのでしょうか?
目次
最初に代筆された遺言書の効力について考えてみましょう。
民法には、次の規定が存在します。
民法968条1項
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2019年の民法改正により、財産目録についてはパソコンによる作成が認められました。しかし、自筆証書遺言については、上記の通り、遺言書全文を遺言者が自書しなければなりません。
要件を満たさない遺言書は、効力を有しません(同法960条)。そのため、自筆証書遺言は遺言者以外が代筆すると、遺言書としての効力を有しません。
さらに、遺言書の代筆は偽造に該当する可能性もあり、相続人が遺言書を偽造したとなれば、その地位を失うことになります。
最高裁判所は、次の判例で、他者の添え手により遺言者が書いた遺言を原則無効としています。
同判例の中で、添え手により遺言者が書いた自筆証書遺言が例外的に有効になる要件として、次のように判事しています。
病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、
したがって、あくまで遺言者の補助として「添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合」にのみ要件を満たすことになります。
では、遺言者が自書できなければ遺言書を残すことはできないのでしょうか?
遺言者が何らかの理由で遺言書を自書できないとしても、公正証書遺言なら作成することができます。公正証書遺言は、公証役場で遺言者が遺言書の趣旨を口述し、公証人が筆記したものを、立ち会った証人2人と遺言者に読み聞かせ作成します(同法969条)。
公正証書遺言も、遺言者が遺言書を確認後、署名・押印しなければなりませんが、遺言者が署名できない場合には、公証人がその理由を書き添えることで署名に代えることができ、遺言書として成立します(969条4項但書)。
最後に、遺言書の方式を問わず、作成する際に必要な「遺言能力」について触れておきましょう。
民法には、次の2つの規定があります。
民法963条
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
民法961条
十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
963条の通り、遺言者には、遺言をする際に自分が遺言書をの内容を理解し、その結果、自分の死後にどのように相続人に遺産が分配されるのかを理解する「遺言能力」が備わっていなければなりません。
遺言能力は、遺言書の種類を問わず必要な能力で、作成時に遺言能力がなければ、その遺言書は無効になってしまいます。
961条にある通り、一般に15歳になれば、この遺言能力が備わっていると解されています。しかし、15歳になったからといって、遺言能力があるとは限りません。
例えば、認知症で判断能力を失えば遺言能力はなく、認知症で判断能力を失っている間に作成した遺言書は無効です。
遺言能力に不安がある方は、ご自分に遺言能力があることを医師の診断で確認し、相続に強い弁護士のアドバイスに従って遺言書を作成することをお勧めします。
前述の通り、未成年者であっても15歳以上になれば、遺言書を作成することができます。
一方で、民法は、親権者などの法定代理人が、同意なく行われた未成年者の法律行為を取り消すことができるとしています(同法5条2項)。
では、親権者は、15歳以上の未成年者が作成した遺言書を取り消すことができるのでしょうか?
遺言書の作成は身分行為であり、未成年者の意思が尊重されるため、遺言書の作成について民法は、この取消規定を適用外としており(同法962条)、たとえ親権者の同意なく未成年者が作成した遺言書であっても、取り消すことはできません。
ここまで、自筆証書遺言を代筆できるのかをテーマに解説しました。
自筆証書遺言には、これら以外にも細かい要件がたくさん存在します。遺言書作成について不安な方は、相続に強い弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。