相続欠格とは?相続権が無くなる相続欠格制度の要件を解説
ある行動をとると、故人の子供や配偶者であっても相続権がなくなります。 この制度を「相続欠格(そうぞく-けっかく)」と…[続きを読む]
遺言書が書かれていたとしても、遺言作成者が亡くなってから、遺言書の偽造や破棄などが問題になることがあります。
では、遺言書を偽造したり破棄したり、隠したりしたときには、どのような責任が生じるのでしょうか。また、他の相続人がこのような行為をしたと思われるとき、どのような対応をして、相続関係はどのようになるのでしょうか。
この記事では、遺言書の偽造や破棄について、行為者の責任と、取るべき対応や相続への影響をご説明します。
偽造とは簡単に言うと、権限が無いのに他人名義の文書を作成することです。
具体的には、遺言書の内容の本質的な部分を遺言者の承諾なく書き換えてしまうことなどをいいます。例えば遺言書の条項を書き換えるとか、財産目録を書き換えるなどの行為をいいます。なお、本質的ではない軽微な変更は偽造ではなく変造と言われます。
また遺言書の破棄とは、遺言書の効用を害する行為をいいます。
例えば、遺言書を破り捨てる行為、遺言書の燃やす行為、遺言書を隠す行為のことです。
偽造・破棄の可能性が最も高いのは「自筆証書遺言」といわれています。自筆証書遺言は、遺言作成時に公証人及び証人が関与せずとも作成でき、自宅などに保管されることが多いからです。
遺言が偽造された場合、その遺言内容は遺言者の意思により作成されたものとは言えませんので、その遺言は無効です。つまり遺言書の偽造は遺言の無効原因となります。
民法891条5号は
相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は相続人となることができない
と規定しています。相続欠格事由に該当する人は相続人となることができません。
また同号は受遺者についても準用されており、同号に該当する行為を行った受遺者は受遺欠格として受遺者となることができません。
ただし、相続欠格が生じた場合でも代襲相続相続は生じますので、ご留意ください。
たとえば、被相続人の子が遺言書の偽造・隠匿を行ったため、相続欠格者となって相続人でなくなった場合であったとしても、その子の子ども(被相続人の孫)は、代襲相続相続人として被相続人の相続人となるのです。
遺言を偽造し、また隠匿することによって、その他の相続人や受遺者に損害を与えたような場合には、その行為者は不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。
遺言書を偽造した場合には有印私文書偽造罪(刑法159条1項)に問われます。
私文書とは文書名義人が私人である文書のことをいい、偽造とは、権限が無いのに他人名義の文書を作成することをいいます。また有印とは、印章または署名があることをいいます。
遺言書は様式として署名押印が必要ですから、遺言書の偽造は有印私文書偽造罪に問われます。有印私文書偽造罪の法定刑は3月以上5年以下の懲役刑です。なお、変造罪でも同様です(刑法159条2項)。
遺言書のような他人の権利義務に関する文書を破棄した場合には、私文書を破棄したものとされ、私用文書毀棄罪に問われます。
なお、同罪の法定刑は1月以上5年以下の懲役です。
遺言書の偽造が疑われる場合にはどのような対応をすればいいのでしょうか。順番に見ていきます。
よくある対応として、筆跡鑑定を依頼することがあります。裁判では、当事者が行った筆跡鑑定書を証拠として提出可能ですが、当事者の申出により、裁判所が筆跡鑑定を行うこともあります。
ただし筆跡鑑定というものはかなり鑑定人の経験則に委ねるところがあり、単独で高度の信用性を維持できるものではありません。むしろ他の証拠とあわせて証拠としての信用性を維持していると考えるべきです。したがって、筆跡鑑定に過度に期待することはできません。
これは認知症等を患っている遺言者に遺言書を作成させた場合に考えられる対応です。
つまり偽造行為と遺言能力の両方を争う場合の対応策で、遺言者に「遺言能力」があったのかどうかを確認する手段です。
遺言の偽造の疑いがある場合には、調停の申立て、遺言無効確認の訴え提起ができます。
訴えを提起する前に、原則として調停を申し立てなければならないこととされているため(家事事件手続法257条1項)、まずは家庭裁判所に家事調停を申し立てます。
そして、調停で解決しない場合や、調停前から解決の余地がない場合には、遺言無効確認訴訟をすることになります。
これまで述べてきた方法とは異なり、訴訟になりますので、相続人同士の関係が著しく悪化するかもしれません。また時間・費用がかかる点もご注意ください。
以上の対応策はいずれも事後的に対応する策であり、遺言の偽造を予防することはできません。遺言の偽造を予防する策としては、公証人及び証人が関与する公正証書遺言の作成をお勧めします。
破棄・隠匿の場合には、事後的にできる対応があまりありません。
ただし、そもそもの原因として保管がしっかりしていないという点が挙げられます。
そこで、遺言書の原本が公証役場に保管される公正証書遺言を作成する(作成してもらう)ことが事前の対応として考えられます。
公正証書遺言であれば、破棄や隠匿はもちろん、偽造・変造の可能性も限りなくゼロに近いです。
以上のとおり、遺言の偽造・隠匿は民事上の制裁を受けるにとどまらず、刑事上の制裁設ける恐れがある行為ですので、絶対にやめましょう。
また遺言の偽造・隠匿に対する対応策としては、公正証書遺言であれば、隠されたり、捨てられたりする心配がなく、偽造される可能性も自筆証書遺言、秘密証書遺言及び公正証書遺言の3つの方式のうち最も低いので、お勧めします。なお、個々の事例の判断は専門的な法律判断を要しますので、法律の専門家である弁護士等の助言を受けることをお勧めします。