相続欠格とは?相続権が無くなる相続欠格制度の要件を解説
相続人の行為が一定の行為に該当すると、当然に相続権が失われます。この制度を「相続欠格」と言います。相続欠格の制度や相…[続きを読む]
普通方式の遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、一般に利用されるのは、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類です。
公正証書遺言は、遺言者に正本が交付され原本は公証役場で保管されるため、偽造や破棄、隠匿が問題になることはほぼありません。
一方で、自筆証書遺言は、特定な相続人に不利な内容があると、遺言書が偽造や変造、破棄、隠匿されるリスクがあります。
相続人が遺言書を偽造や破棄すると、どのような責任が生じ、他の相続人はどのような対応をすべきなのでしょうか?さらに、相続関係をどのように考えるべきなのでしょうか?
この記事では、相続人が自筆証書遺言を偽造や破棄した場合の責任や、取るべき対応、相続への影響をご説明します。なお、ここでは、自筆証書遺言を「遺言書」として記載しています。
目次
偽造とは、権限が無い者が他人名義の存在しない文書や証明書などを新たに作り出すことです。例えば、相続人が自筆証書遺言を作成してしまうのも、偽造に当たります。
一方、変造は、権限がある人が作成した既にある文書や書類を改ざんすることです。例えば、遺言書の条項を書き換えたり、財産目録を書き換えるなどの行為で、遺言書の内容の本質的な部分を遺言者の承諾なく書き換えてしまうことです。
遺言書の破棄や隠匿は、遺言書の効用を害する行為となります。例えば、遺言書を破り捨てる行為、遺言書を燃やす行為、遺言書を隠す行為です。
ただし、遺言者が遺言書を破棄破棄しても、破棄した部分については遺言を撤回したものとみなされるだけです(民法1024条)。
民法は、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿をすると、相続人になることができないと規定しています(民法891条1項5号)。遺言書の偽造や変造、破棄、隠匿は相続欠格事由の1つ
同号は受遺者についても準用されており、これらに該当する行為を行った受遺者も、受遺者となることができません。
相続人になることができないならば、当然遺産をもらうこともできません。
ただし、相続欠格が生じた場合でも代襲相続相続は生じます。
たとえば、被相続人の子が遺言書の偽造を行ったため、相続欠格者となっても、その者の子どもは、代襲相続相続人として被相続人の相続人となります。
しかし、以下の判例から、相続について不当な利益が目的になっていなければ、例外的に相続欠格にあたらないと考えられます。
遺言者たる被相続人の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨で偽造・変造をしたに過ぎないときは、相続欠格に該当しない(最高裁判所昭和56年4月3日)。
相続人が遺言書を破棄又は隠匿した場合に、相続人の行為が相続について不当な利益を目的とするものでなかったときは、その相続人は、相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である(最高裁判所平成9年1月28日)。
遺言を偽造や変造、破棄、隠匿することで、その他の相続人や受遺者などに損害を与えれば、行為者は不法行為に基づく賠償責任を負うことになります(民法709条)。
遺言書の偽造や変造、破棄、隠匿は、刑事責任を問われてしまう可能性もあります。
遺言書を偽造・変造すると、私文書偽造罪(刑法159条1項・2項)に問われます。
私文書偽造罪の法定刑は3月以上5年以下の懲役刑です。
遺言書のような他人の権利義務に関する文書を破棄すれば、私文書を破棄したものとされ、私用文書毀棄罪に問われます。
なお、同罪の法定刑は1月以上5年以下の懲役です。
遺言書の偽造・変造が疑われる場合にはどのような対応をすればいいのでしょうか。順番に見ていきます。
法務局での保管制度を利用したものを除き、自筆証書遺言は、まず家庭裁判所で検認を受けなければなりません。
相続人が遺言を発見したら、遅滞なく、家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならず(民法1004条1項)、遺言書を提出することを怠って遺言書を開封すると、五万円以下の過料に処すせられる可能性があります(民法1005条)。
遺言書の偽造や変造は、立証が必要です。それには、まず証拠を収集しなければなりません。
遺言書を偽造・変造された場合など、遺言書の有効性に疑義があれば、家庭裁判所に対して、遺言無効の調停を申し立てることができます。
調停で遺言を偽造・変造したと考えられる相続人と合意に至ることができなければ、遺言無効確認訴訟を提起します。
ただし、遺言無効確認訴訟では、遺言が有効か無効かを判断するのみで、仮に遺言書が無効だとする判決が確定したとしても、そこから当事者で遺産分割協議を開始しなければなりません。
遺言書の偽造・変造が疑われる場合には、証拠を収集する前から相続に強い弁護士に相談すると、適切なアドバイスをもらうことができるでしょう。
特定の相続人に遺言書を破棄・隠匿された場合には、他の相続人が当該相続人は相続欠格事由に該当し、相続人としての地位を有しないことを確認する訴訟を提起することができます。
しかし、この場合も当該相続人が遺言書を破棄・隠匿した事実について立証しなければなりません。
遺言書が破棄や隠匿されていると、証拠の収集が難しく、立証のハードルも偽造や変造より高くなってしまいます。
この場合にも、相続に詳しい弁護士に相談してみるといいでしょう。
自筆証書遺言は、偽造や、変造、隠匿、破棄されてしまうリスクがあります。これらのリスクを軽減するために、自筆証書遺言は法務局で保管することができます。
ただし、この制度を利用しても、法務局は自筆証書遺言の外形上の要件はチェックしてくれますが、遺言内容までチェックしてくれるわけではありません。また、申請手続きは、必ず遺言者本人が行わなければなりません。
一方、公正証書遺言を作成すると、遺言者には遺言書の正本が手渡され、原本は公証役場に残るため、遺言者が有する正本を破棄・隠匿しても遺言書の効力に変わりはありません。
さらに、公正証書遺言は、遺言書検索システムを利用すれば、最寄りの公証役場から、どこの公証役場で作成されたものでも検索できます。
また、遺言書を作成する公証人は法律のプロであり、方式の不備で遺言が無効になる心配はもちろんありません。
以上のとおり、自筆証書遺言の偽造や隠匿、破棄、隠匿は民事上の制裁を受けるにとどまらず、刑事上の制裁設けるおそれがある行為です。
また、遺言書の偽造や破棄は立証が難しく、法律の専門家のアドバイスをもらいながら進める必要があります。
もし、自筆証書遺言の偽造や破棄でお悩みの方がいらっしゃいましたら、ぜひ、相続に強い弁護士に相談してみましょう。