遺留分侵害額請求の消滅時効は1年と10年の2つ!時効を防ぐ方法は?
遺留分侵害額請求権には時効という期間制限があり、権利を行使しないままこの期間を経過すると、請求できなくなってしまいま…[続きを読む]
しばしば遺言と衝突するのが、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障される「遺留分」です。
では、遺言書が遺留分を侵害している場合に、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求をすることはできるのでしょうか?
本記事では、遺言と遺留分の関係や、有効な対策方法について解説していきます。
目次
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に法律上認められた最低限の遺産の取得割合です(民法1042条)。
そこで、遺言書が遺留分を侵害している場合には、遺言書と遺留分どちらが優先されるのかが問題となります。
例えば、親が兄弟のうち、兄にだけ全財産を相続させるといった遺言書を残して亡くなると、弟も被相続人の子として相続人である以上、弟の遺留分が侵害されることになります。
しかし、あくまで「全財産」を兄に譲ると書かれているのに、遺言書を無視してもよいのでしょうか。
結論から言えば、遺留分は遺言書の内容よりも優先します。
そもそも遺留分は、相続人が受け取れる「最低限」の取り分ですから、遺言であっても奪うことはできません。
遺言者が自分で記す自筆証書遺言より信頼性の高い公正証書遺言であっても、遺留分を侵害することはできません。
ただし、遺留分を侵害する内容でも、遺言書自体が無効になるわけではありません。
遺留分を侵害する遺言書であっても、効力に変わりなく有効です。
その代わり、遺留分を侵害された人は「遺留分侵害額請求権」という権利を取得します。
遺留分侵害額請求権とは、遺留分を侵害された側が、相続で財産を受け取った人に対して、自身の侵害された遺留分額に相当する金銭の返還を求める権利のことです。
あくまで権利であり、必ずしも請求しななければならないわけではありません。
遺留分権利者(遺留分を侵害された人)が請求をしなければ、遺留分を考慮せず、遺言書通りに遺産分割ができます。
逆に、正当な遺留分侵害額請求を受けたると、請求された側は拒否できません。
ただし、遺留分には、「相続開始と遺留分の侵害を知った時から1年」または「相続開始から10年」という消滅時効があるため(民法1048条)、遺留分侵害額請求は、早急に行う必要があります。
民法改正前の「遺留分減殺請求」と「遺留分侵害額請求」との違い
遺留分侵害額請求権は、もともとはただの「遺留分減殺請求権」でした。遺留分減殺請求を受けると、原則として侵害した遺留分相当分の遺産を返還していました。
しかし、平成30年度の民法改正で、「遺留分侵害額」請求権となり、金銭での返還に統一されました。
遺留分は遺言書でも侵害できないことがわかりましたが、後々遺留分をめぐって争いごとを招かないために、生前に講じうる対策があります。
推定相続人自身が、遺留分を放棄してしまえば、相続開始後にトラブルになることはありません。
相続開始前の遺留分放棄は、家庭裁判所で以下の3点を審査し、認められた場合にのみ、有効になります。
ただし、相続する側の人からすれば、タダで遺留分を放棄するなんて、通常なんのメリットもありません。いきなり頼んでも承諾してもらうハードルは高いといえます。
しかし、一部財産を生前に贈与することなどで同意してくれる可能性もあり、交渉の余地はあります。
遺留分自体をなくすことまではできませんが、遺留分にあたる額を減らすために、生命保険を活用することもできます。
たとえば500万円の生命保険に加入し、自分の預貯金から保険料を支払っておけば、預貯金を減らすことで相続財産自体が減るので、遺留分の額も減らすことができます。
さらに、生命保険金は遺留分侵害額請求の対象外になっています。
そのため遺留分を検討することなく、生命保険の受取人の手に直接500万円が渡すことができるのです。
預貯金を生命保険金という形で譲り渡す裏ワザですが、判例では、生命保険金の受取人と他の相続人との間に著しい不公平が生じた事案では、例外的に生命保険金を相続財産と取り扱ったものがあります。
遺留分対策を目的にあまりに高額な生命保険金を設定するなど、やりすぎは禁物です。
養子縁組を行い、相続人数を増やすことで、一人あたりの相続額や遺留分を減らしてしまうという手もあります。
ただし、そもそも適切な動機がなければ養子縁組は認められません。
適切な動機が見当たらなければ、税務署に偽装縁組の疑いをかけられてしまうかもしれませんし、形式的とはいえ身分関係を変えることになりますから、おすすめはしません。
基本的に遺言書は、生前に相続人の了解を得る必要はなく、遺言者自身が内容を把握していれば、相続人は原則としてそれに従って遺産分割を行います。
一方、不均衡な相続を望む場合には、あえて推定相続人全員に遺言書の内容について了承を得ておくのも一つの方法です。
争いになる可能性は否定できません。しかし、相続時に争いになるよりは、不満を述べた推定相続人に対して前もって一定の資産を生前贈与するなど対策を立てやすいと言えるでしょう。
推定相続人全員の納得が得られれば、相続開始前に前述した「遺留分放棄」の手続きをすることが可能になります。
遺言書には「付言事項」を付すことができます。付言事項とは、家族への感謝や希望など、遺言者から相続人へのメッセージを伝えるためものです。この付言事項に遺留分を請求しないでほしい旨をご自分の想いと共に書き記すのです。
もっとも、この付言事項には、法的な効力はなく、相続人は、この付言事項に拘束されることはありません。
しかし、遺言者の真摯な想いが相続人に伝われば、円満な相続に繋がる可能性があります。
もちろん、代襲相続人にも、代襲した相続人と同じ割合の遺留分侵害額請求権が認められています。もし、相続人を複数人で代襲した場合には、相続人の遺留分を頭割りすることになります。
ただし、兄弟姉妹が相続人となった場合には、遺留分侵害額請求権が認められていないため、被相続人の甥や姪が代襲相続しても、遺留分侵害額請求権は認められていません。
相続人が未成年者であっても、遺留分を請求できることに変わりありません。ただし、遺留分侵害額請求は、法律行為であるため、未成年者が行使することはできません。
この場合には、その親権者が遺留分侵害額請求権を法定代理人として行使することができます。
ただし、親権者と未成年者の子供が、同じ被相続人の共同相続人となることもあるでしょう。残念ながらこのケースでは、親権者と未成年者の利益が相反することになるため、親権者は、子供を代理することができません。
家庭裁判所に、特別代理人を選任するよう申し立てを行い、特別代理人が遺留分侵害額請求を行うことになります。
前述した代襲相続人が未成年者の場合も、基本的に同じ考え方となります。
本記事では、遺留分は遺言書にも優先する、相続人にとってはきわめて強力に保障されている取り分であることを解説しました。
遺言書を書こうと思っている方は、後々遺留分をめぐるトラブルを招かないためにも、生前からの対策が必要です。
実は、この「遺留分」をめぐるお悩みを抱えている方は、多くいらっしゃいます。ぜひ一度、専門家にご相談してみることをおすすめします。