遺留分侵害額請求とは?手続き・期限・必要書類を解説!
この記事では、遺留分侵害額請求について解説します。遺留分侵害額請求の意義や手続き、効果や費用、専門家に相談するメリッ…[続きを読む]
兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分という遺産の最低限の取得割合が法律で保障されています。
しかし、遺留分侵害額請求権には期間制限があり、権利を行使しないままこの期間を経過すると、請求できるはずの遺留分が請求できなくなってしまいます。
そこで、遺留分という権利が期間制限で消滅しないためにすべきことを中心に、遺留分の消滅時効と除斥期間についてご説明します。
目次
遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された権利です(民法1042条)。
しかし、長い年月遺放置していた権利を主張すると、証拠が散逸して互いに証明のしようがありません。また、法律には、長期間放置した権利は、失ってもやむを得ないという考え方があり、遺留分侵害額請求権も例外ではありません。
さらに、もはや請求はないものと、現状を信用して遺産の取引をした場合には、新たな法律関係に入った当事者の法的安定性を遺留分侵害額請求によって害してしまいます。
そうした理由から、遺留分侵害額請求権(旧:遺留分減殺請求権※)にも消滅時効という期間制限があります。
以下で、遺留分侵害額請求権の時効期間と、時効を完成させない対処法について解説します。
※ 民法改正により、遺留分減殺請求は2019年7月1日から「遺留分侵害額請求」となりました。時効については基本的に変わりません。
遺留分には1年と10年の2種類の期間制限があります(民法1048条)。
以下、それぞれについて詳しくご説明します。
遺留分は、以下2つの事実を「知った時」からカウントされ、1年経過すると消滅時効によって請求できなくなります(民法1048条)。
この時効のカウントが始まる時点を「起算点」といいます。
被相続人が亡くなったことを知ったうえで、贈与・遺贈があったことだけでなく、それによって自分の遺留分が侵害されていることに気がついて初めて、時効のカウントが始まります。
遺留分の消滅時効の起算点を整理すると、次のとおりです。
遺留分侵害額請求で1年の消滅時効の起算点 |
---|
被相続人が死亡したことを知った |
贈与又は遺贈があったこと知った |
その贈与又は遺贈が、自分の遺留分を侵害していることを知った |
ただし、実際に遺留分が請求できなくなるのは、相手方が「もう時効が成立しているから支払わない」と主張(時効の援用)した場合のみです。
時効が成立していたとしても、相手方が時効を主張しなければ請求することができるのです。
遺留分の請求権は、相続開始から10年経過したときも消滅します。
したがって、自分の遺留分が侵害されていることを知らなかったとしても、相続開始から10年経過すると消滅します。
この10年という期間制限は、相手方が時効の援用をせずして遺留分を請求できなくなる、除斥期間とされています。
そのため、相続開始から10年を経過すると、残念ながら遺留分を請求することはできなくなってしまいます。
相手方の主張が必要な消滅時効としている裁判例もあります(大阪高判平成13年2月27日)。
遺留分侵害額請求権を時効で消滅させない方法は、遺留分が侵害されたことを知った時から1年以内に、遺留分侵害額請求をすることです。
請求により、遺留分侵害額請求権の時効は、更新(旧称:中断)され、時効のカウントは再度ゼロからスタートします。
遺留分の請求は、口頭でも法律上は有効ですが、内容証明郵便(配達証明付き)を利用するのが一般的です。遺留分の請求は元々争いになりやすく、その際に「確実に時効完成前に請求した」という証拠が必要になるからです。
上述したように、内容証明郵便などで請求することで、時効は更新されます。請求しても相手方が応じてくれなければ、裁判所での調停や裁判に進むことになります。
そして、遺留分侵害額請求権の行使をしたことで、相手方に対する金銭債権(金銭を支払ってもらう権利)が発生します。
気を付けたいのが、この債権にも消滅時効がある点です。
2020年の民法改正前まで債権の消滅時効は、10年とされていました(改正前民法167条1項)。
しかし、民法改正により、債権の消滅時効は、権利行使できることを「知った時」から5年とされています(改正民法166条1項1号)。
また、権利を行使できることを知らなかったとしても、「権利行使できる時」から10年で消滅します(改正民法166条1項2号)。
遺留分侵害額請求による金銭債権は、権利行使できることを知っているのが通常であり、民法改正後は5年で消滅することになります。(※)。
※ 2020年3月31日までに遺留分侵害額請求を行っている場合の消滅時効は10年となります。
遺留分侵害額請求は、交渉がなかなかまとまらず、長期化することがあります。こうした場合にも、債権の消滅時効には気を付けなければなりません。
債権の消滅時効完成を更新によって防ぐためには、遺留分の侵害者に遺留分の侵害を認めさせる方法や、遺留分相当の金銭の支払いを請求する裁判を起こす方法があります。
ただし、さらにこの時点から5年が経過すると、再び債権は時効によって消滅してしまいます。詳しくは、相続に強い弁護士に相談してみましょう。
相続人にとって納得できない遺言書が見つかると、遺言の無効を主張して争う遺言無効確認訴訟を提起することが一般的です。裁判で遺言が無効と認められれば、そもそも遺留分も発生していないことになり、遺言無効確認訴訟と遺留分侵害額請求を同時に行うことに違和感を抱く相続人も多いのではないでしょうか。
しかし、訴訟で争っている間も、遺留分侵害額請求権の時効は進行します。最高裁判所の判例では、「実上及び法律上の根拠があって、遺留分権利者が遺言の無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともと首肯しうる特段の事情が認められない限り」、時効は進行するからです(最判昭和57年11月12日参照)。
遺言の無効を認めない判決が下りた時点で、遺留分侵害額請求権も時効によって消滅していると得るものは何もないといった事態になりかねません。
そのため、遺言無効確認訴訟を提起する際には、同時に遺留分侵害額請求をすることが一般的です。
民法には、次のように「時効取得」という概念があります。
民法162条 1項
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
民法162条 2項
10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
そこで、生前贈与で財産を取得した者が取得から善意・無過失の場合、遺留分侵害額請求を受けた際に、「時効取得」を主張できるのかが問題となります。
これについて最高裁判所は、次のように判示し、遺留分侵害額請求に対する「時効取得」の主張を退けています。
相続人がした贈与が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には、遺留分権利者の減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るものであり、受贈者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法162条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって、遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないと解するのが相当である。
遺留分と消滅時効について簡単にご説明してきました。
実際には、争いの状況などによって消滅時効の成立は大きく変動します。
特に「いつから時効を起算するか」は難しい問題で、まだ間があると思っていても実は時効が迫っていることもあり得ます。
また、1年間の消滅時効は、考えるよりも短いことには注意しなければなりません。
遺留分が侵害されているのではないか、時効が間近のはずだけど請求したいとお考えの方は、まずは一度弁護士に相談し、ご自分の状況を専門家の視点から確認してもらうことをお勧めします。
初回相談無料の事務所もありますので、お気軽にお問い合わせください。