遺留分侵害額請求の手続き徹底解説!!調停から裁判まで

遺留分侵害額請求を行使すると、侵害された遺留分に応じた金銭を、贈与や遺贈を受けた者に請求することができます。
しかし、遺留分侵害額を請求しても相手方が応じない場合は、調停と訴訟で支払いを求めることになります。

この記事では、「遺留分侵害額の請求調停」、「遺留分侵害額請求訴訟」についてご説明します。

※この記事でご説明する「遺留分侵害額の請求調停」、「遺留分侵害額請求訴訟」は、被相続人の死亡日が令和元年(2019年)7月1日以降の相続に適用されます。
被相続人の死亡日が令和元年(2019年)6月30日以前の相続については、改正前の民法による「遺留分減殺請求調停」、「遺留分減殺請求訴訟」となりますが、基本的な事項は同じです。

1.遺留分侵害額の請求調停とは

遺留分侵害額の請求調停とは、遺留分を侵害された相続人が、遺留分を侵害する遺贈、贈与を受けた者に対し、侵害された遺留分相当の金銭の支払いを求める調停です。

調停とは、遺留分権利者と侵害者とが、裁判官・調停委員を介した話合いにより紛争を解決する手続です。
遺留分の問題は、多くの場合、家族間・親族間の紛争なので、できるだけ話合いによる解決が望ましいと考えられています。

そこで、いきなり訴訟をするのではなく、必ず家庭裁判所の調停での話合いを行わなくてはならないとされてる「調停前置主義」をとっています(家事事件手続法257条1項、244条)。
したがって、調停をせずに、いきなり遺留分侵害額請求訴訟を起こした場合には、家庭裁判所によって調停手続に回されます(家事事件手続法257条2項)。

ただし、例外として当事者が話し合いを拒否する態度が固く、調停での解決が明らかに困難な場合など、裁判所が調停に回すことが相当でないと判断すれば、直接訴訟手続が開始されます(家事事件手続法257条2項但書)。

2.遺留分侵害額の請求調停の申立方法

2-1.調停の申立方法

遺留分侵害額の請求調停は、以下いずれかの家庭裁判所が管轄となるため、管轄の家庭裁判所に申立書などの必要書類を提出して申立てます。

  • 相手方住所地の家庭裁判所
  • 相手方と合意した家庭裁判所

申立書の書式は、各裁判所に備え付けてあるほか、裁判所のサイトからダウンロードすることもできます。

【裁判所HP】遺留分侵害額の請求調停の申立書

書類の提出先となる裁判所の管轄は住所で分かれており、裁判所HPから調べることができます。

【裁判所HP】裁判所の管轄区域

2-2.申立書記載のポイント

申立書のサンプルは後述しますが、まずはポイントを押さえておきましょう。
申立書は、「申立ての趣旨」欄と「申立ての理由」欄から構成されています。それぞれについてご説明します。

「申立ての趣旨」のポイント

「申立ての趣旨」は調停で申立人が相手方に求める結論部分を記述します。

遺留分侵害額請求は金銭の支払いを求めるものであり、可能であれば請求する金額を記載するべきです。
とは言え、調停はあくまで話し合いですから、厳密に考え過ぎる必要はありません。

遺産総額、ひいては遺留分侵害額がいくらかについては、この調停で話し合うべき内容であるため、申立の段階では「侵害額に相当する金額の支払いを求める」との記載で十分です。

「申立ての理由」のポイント

「申立ての理由」は、事件の内容とあなたの主張を、裁判官と調停委員に事前に理解してもらうためのものです。
詳しく書けば良いというものではなく(詳しい事情は調停期日に口頭で説明することができます)、ポイントを押さえた記述が必要です。

記載すべきポイントは、次の5つです。

  1. 被相続人
  2. 相続人
  3. 遺産の内容
  4. 遺留分の内容
  5. 遺留分を侵害している贈与または遺贈の内容

上記の5つのポイント以外は記載しなくても構いませんが、記載したほうが分かりやすいこともあります。その場合は、冗長にならないように記載しましょう。

なお、申立書のコピーは、裁判所から相手方に送付されます。感情的に相手を攻撃する、非難するといった記載は、話合いでの解決を困難にしてしまうので控えたほうが賢明です。

2-3.申立書の記載例

申立ての趣旨

相手方は、申立人に対し、遺留分侵害額に相当する金銭を支払う、との調停を求めます。

申立ての理由

被相続人〇〇〇〇は、令和〇年〇月〇日に死亡しました。
相続人は、被相続人の長男である申立人と被相続人の妻である相手方です。
被相続人は、平成〇年に申立外△△と婚姻し、申立人をもうけましたが、平成〇〇年に離婚しました。
申立人は、申立外△△に育てられ、被相続人とは年に1~2度会う程度でした。

被相続人は、平成□年〇月〇日、相手方と婚姻しました。
被相続人の死亡後、相手方から被相続人の遺言書があると言われ、内容を見てみますと、全遺産を相手方に相続させると書かれていました。

遺産は、別紙遺産目録記載のとおり、マンションと預金1000万円だけで、負債はないとのことです。マンションを、近隣の不動産屋に査定してもらったところ、駅前なので少なくとも3000万円で売れるだろうと言われました。

私の遺留分は、2分の1なので、遺産総額4000万円の2分の1である2000万円が遺留分の金額のはずです。

そこで私は、令和〇年〇月〇日、相手方に対する内容証明郵便で、遺留分侵害額2000万円の支払いを請求しましたが、相手方は支払いません。そこで相手方と話し合いをするために本申立てをしました。

なお、被相続人の遺言書は、御庁にて令和〇年〇月〇日検認を終えてます(〇〇家庭裁判所令和〇年(家)第〇〇号遺言書検認申立事件)。

 

2-4.必要書類、費用

必要書類

申立書とそのコピー(コピーは相手方の人数分必要です)

遺産目録(裁判所のサイトからダウンロードできます)

戸籍関係
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)
・相続人全員の戸籍謄本

※ 必要な戸籍書類は、相続人と被相続人の親族関係によって異なります。詳しくは家庭裁判所へお問い合わせください。

遺産の内容を証明する書類
・登記簿謄本(不動産登記事項証明書)
・固定資産評価証明書
・預貯金通帳のコピーまたは残高証明書
・有価証券コピーなど
・負債がある場合は借用書、請求書など

遺言書コピーまたは遺言書の検認調書謄本のコピー

申立ての費用

  • 収入印紙:1,200円分
  • 予納郵券(切手代):各裁判所によって異なります。家庭裁判所へ直接にお問い合わせください。

3.遺留分侵害額の請求調停の流れ

3-1.調停申立後の流れ

日程の決定まで

管轄となる家庭裁判所に申立書及び戸籍等の必要書類を郵送または持参して提出します。

申立が受理されると書記官から連絡があり、第1回期日の日程について調整が行われます。通常、1ヶ月半から2ヶ月程度先に設定されます。調停が行われるのは、月曜から金曜までの午前10時から12時、午後1時頃から3時頃の間です。

期日が決定すると、裁判所から相手方らに対して、申立書のコピー・呼出状などの書類が送付されます。

初回の調停期日

調停は、原則1名の裁判官と2名の調停委員(うち1名は弁護士であることが通常)が、調停委員会として担当してくれます。
最初に、裁判官から申立人と相手方双方に対して手続の概要について説明があります。

通常、この説明は、関係者全員が同席して説明が行われます。しかし、感情的な対立が激しいなど同席したくない場合には、事前に申し出ることで、個別に説明を受けることも可能です。

その後、申立人と相手方は、交互に調停室に入り、調停委員にそれぞれの話を聞いてもらい、片方ずつ言い分の聴取を行います。
多くの場合、調停委員が話を聞き、それを裁判官に伝えて協議しながら調停を進めますが、特に法的問題が複雑な事案では、裁判官も同席して直接話を聞くこともあります。

第1回期日の終わりには、次回期日の日程調整を行い、次回期日前に追加提出してほしい書類等の指示があります。ただし、調停では期日と期日の間にも、必要に応じて書記官から追加書類の提出を求められることがあります。

調停終了まで

このような期日を何度か繰り返し、合意に達するとその内容を記載した調停調書を作成し、調停成立となります。
合意に至らなければ、調停不成立となり、訴訟による解決を図ることになります。

3-2.調停を進める際のポイント

多くの場合、遺留分侵害額の請求調停では、遺留分侵害額がいくらなのかが主な争点となるでしょう。

遺留分侵害額がいくらかは、個々の遺産、とりわけ不動産の価額に影響されます。
路線価格、公示価格、近隣取引事例などの資料を提出して、自分の主張する侵害額が合理的であることを示すことがポイントです。

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3-3.取り下げを勧告される場合

遺留分侵害額を算定するには、誰が相続人なのか、何が遺産なのか、有効な遺言なのか等が明確になっている必要があります。これを前提問題と呼びます。

前提問題に争いがあっても、遺留分侵害額の請求調停の当事者双方以外に相続人がなく、前提問題についても当事者で話し合って合意できる可能性があるならば、調停を続けることができます。

しかし、前提問題についての対立が激しい場合や、調停の当事者以外にも相続人がいる場合は、調停を進めることができないため、裁判所から、訴訟による前提問題の解決を先に求められて、調停の申立て取下げを勧告されます。

3-4.調停成立の場合

調停が成立すると、合意の内容を記載した調停調書が作成されます。
調停調書は確定判決と同じ効力があり、調書の記載内容通りに金銭が支払われない場合には、強制執行を行うことが可能となります。

前出の申立書記載例の事案で調停が成立した場合にどうなるか、調停調書のサンプルをご紹介します。

【調停調書サンプル】

調書(成立)

事件の表示 令和〇年(家イ)第〇〇〇号事件 遺留分侵害額請求調停事件

期日   令和〇年〇月〇日 午前10時30分
場所   〇〇家庭裁判所
裁判官  徳川家弘
調停委員 本田忠一
調停委員 大久保彦三
書記官  木下藤吉

当事者(出頭) 別紙当事者目録記載のとおり

次の調停条項のとおり調停が成立した。

家庭裁判所裁判所書記官 木下藤吉 印

調停条項

1.相手方は、申立人に対し、申立人の遺留分侵害額請求権に基づく金2000万円の支払い義務があることを認める。
2.相手方は、申立人に対し、前項の金員を次のとおり分割して、申立人名義の銀行口座(○○銀行・○○支店・口座番号1234567・名義人○○)に振り込む方法で支払う。振込手数料は、相手方の負担とする。
(1)令和〇年〇月〇日限り、金1000万円を支払う。
(2)令和△年△月△日限り、金1000万円を支払う。
3.相手方が前項の支払を怠ったときは、当然に期限の利益を失い、申立人に対して、前項からの金員から既払金を控除した残額及びこれに対する期限の利益を失った日の翌日から支払済みまで年4パーセントの割合による遅延損害金を付加して支払う。
4.申立人はその余の請求を放棄する。
5.申立人と相手方の間には、本調停条項に記載した事項以外、何らの債権債務もないことを相互に確認する。
6.調停費用は、各自の負担とする。

以上

3-5.調停不成立の場合

調停委員会が、当事者間に合意の成立する見込みがないと判断すれば、調停は不成立となり終了します。その後は訴訟で決着をつけることになります。

調停が不成立になると、家庭裁判所から当事者に対してその旨の通知が届きます。
この通知を受けた日から2週間以内に遺留分侵害額請求訴訟を提起すると、訴訟提起に必要な収入印紙の金額から、調停申立ての際に納めた収入印紙の金額を差し引いてもらえます。

その際には、調停不成立証明書を提出しなければならないため、家庭裁判所へ調停不成立証明申請書の交付を申請して取得する必要があります。

4.遺留分侵害額請求訴訟

次に、調停が不成立となり、訴訟になった際の流れを解説します。

4-1.遺留分侵害額請求訴訟の流れ

遺留分侵害額請求訴訟は、管轄となる次の裁判所のいずれかに訴状を提出して行います。

  • 相手方の住所地を管轄する裁判所
  • 請求者の住所地を管轄する裁判所
  • 被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所
  • 当事者が合意した裁判所

訴訟で請求する額によって、簡易裁判所に提起するのか、地方裁判所裁判所に提起するのかが異なります。

  • 請求金額が140万円以下の場合:簡易裁判所
  • 請求金額が140万円超の場合:被相続人の最後の住所地

第1回期日まで

原告(請求する側)が請求したい内容とその理由を記載した訴状と証拠書類を裁判所に提出して訴えを提起します。
裁判所が受理すると、書類のコピーと呼出状が被告(請求される側)に送付されます。
被告は、訴状に記載された内容に対する認否と反論を記載した答弁書を第1回期日前に提出します。

第1回期日では、裁判官から今後の進行や、双方に追加してほしい書類などの指示があり、次回期日の日程を決めます。

判決、和解まで

こうして、原告・被告双方が順番に相手方が提出する主張に対する認否と反論を書面で繰り返していきます。

ただし、途中で裁判官を仲裁役とする話し合いの場がもたれることが通常です。合意がまとまれば、調停の場合と同様に、調停調書が作成されます。これを裁判上の和解と言います。

裁判官の仲裁でも話し合いがまとまらなければ、判決で決着をつけることになります。
双方の主張を出し尽くし、証拠や証人も調べ終わったら、裁判官が判決期日を決め、そこで判決が出されます。

4-2.遺留分侵害額請求訴訟は弁護士に依頼しないと困難

遺留分侵害額請求訴訟は、当事者だけで行うことが許されていますが、本格的な裁判手続を請求者本人だけで行うことは無理があり、現実的ではありません。

本人が弁護士をつけない場合には、裁判所にも、手続を説明してくれる、必要な主張や証拠が欠けていないか注意してくれるといったある程度の配慮もありますが、裁判官は中立を保つことが原則のため、配慮にも限界があります。

ご自分の遺留分を守るためには、本人のみで争うことは回避するのが賢明です。

5.遺留分侵害額請求についてのよくある質問(FAQ)

遺留分侵害額請求訴訟でも控訴できる?

簡易裁判所や地方裁判所で、ご自分の主張が認められない場合でも、不服申し立てとして控訴することができます。

判決は、判決書の送達を受けてから2週間を経過すると判決が確定してしまうため、それまでに控訴状を控訴を裁判所に提出する必要があります。

第一審が簡易裁判所の場合は、地方裁判所が、第一審が地方裁判所の場合は、高等裁判所が控訴審となります。

控訴審の判決にも不服がある場合には、上告も可能です。遺留分侵害額請求では、調停も含めると、最大4回の裁判手続きが可能ということになります。

遺留分が認められるとその分相続税も払わなければならないの?

相続税の申告期限までに、遺留分相当の金銭の支払いが終了すれば、最終的に取得した遺産額に応じてそれぞれの相続人が申告することになります。

遺留分の金額が、申告期限までに確定しない場合には、遺留分侵害額請求がなかったものとして相続税申告を行います。

その後、遺留分の金額が確定した際には、請求者が、修正申告(遺留分を加算しなければ相続税申告が不要だった場合には相続税申告)を行って相続税の過少額を支払い、支払った側は、更正の請求を行って、払い過ぎた相続税を減額することになります。

ただし、実務上、これらの手続きをとることはあまりなく、遺留分の計算で相続税相当額分を考慮する、別途清算するなどの方法をとることが一般的です。

詳しくは、相続税に詳しい税理士など専門家にご相談ください。

6.遺留分の問題で困ったら弁護士へ

遺留分侵害額請求はお金を請求するものですが、とても難しい法律問題です。
多くの場合、遺留分の侵害額を計算する前提となっている問題(相続人の範囲、遺産の範囲、遺産の評価額など)に争いがあるからです。

そして、遺留分侵害額請求には1年の消滅時効があり、のんびりはしていられません。
遺留分侵害額請求の問題は、できるだけ早く弁護士にに相談されることをおすすめします。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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