死亡保険金は相続放棄しても受け取れる?受領後に相続放棄できる?
相続はプラスの財産だけでなく、マイナスの財産である負債も引き継いでしまいます。これを避けるためには、基本的には相続放…[続きを読む]
生命保険金が相続財産に含まれるかどうかについては、しばしば相続で争いになるところです。
だれか一人の相続人だけが多額の生命保険金を受け取り、しかも遺産まで分けるとなれば、不公平で不満を持つ人もいるでしょう。
まずほとんどの場合の回答としては「生命保険金は相続財産にはならない」と言えます。
しかし、場合によって判断は異なります。
この記事では、生命保険金が相続財産にいなる場合、その条件、生命保険金と遺留分の関係について、事例も使いながらご説明します。
生命保険金は、受取人が指定されて、その人が受け取ることが一般的です。
しかし、基本的には、これが相続財産になるかどうかで遺産分割協議で分割対象となるかが変わってきます。
実は、相続での生命保険金の扱い方は、受取人の指定方法によって異なります。
そこで、まずは受取人の指定方法と、それぞれ保険金がどう扱われるかを確認しておきましょう。
受取人の指定方法には次の3つのパターンがあります。
それぞれ順番にご説明します。
受取人に、「鈴木○○子」のように特定の人を指定している場合です。
一般的な生命保険金の受取人指定では最も多いパターンでしょう。
この場合、特定の人が相続人であっても(1a)、相続人以外の第三者であっても(1b)、どちらも生命保険金は相続財産とならないことが原則です(最高裁平成14年11月5日判決)。
つまり、受取人が保険会社から直接支払いを受けるため、その受取人自身の財産になります。
ただし、受取人が相続人の誰かの場合は、例外的に特別受益や遺留分との関係で問題になることがあります。
これについては2.以下でご説明します。
被相続人が抽象的に「相続人」としか指定されていなかった場合です。
例えば、保険契約の約款で「被保険者死亡の場合はその相続人」が受取人と定められている事例などでも、このパターンになります。
この場合も、相続財産とならないことが原則です(最高裁昭和40年2月2日判決)。
受取人は「死亡時点の相続人」という特定の者となるため、パターン1と同じく、保険会社から直接支払いを受けることになります。
なお、このパターン2で「相続人」が複数人いた場合は、法定相続分の割合で生命保険金を取得するものとされています(最高裁平成6年7月18日判決)。
この場合、生命保険金の取得は相続によるものではありませんが、受取人を「相続人」と指定した被相続人の意図には、権利の割合は法定相続分によるとの趣旨も含まれていると考えられるからです。
あまり多くはないケースですが、生命保険金の受取人を被相続人本人にしていた場合、生命保険金は相続財産となります。
このパターンでは、生命保険金を請求する権利(死亡保険金請求権)は受取人である被相続人の権利であり、相続人はその地位を引き継ぐと理解されているからです。
そのため、各相続人は、相続の手続きの中で保険金を取得することになります(このときも、原則としては法定相続割合に従います)。
生命保険金が相続財産となるのは、原則として上のパターン3だけですが、死亡保険金においてはその実例がほとんどないとされています。
したがって生命保険金はほとんどの場合は相続財産にはならないと言えます。
相続財産ではない以上、例えば相続人の中に受取人として指定された者がいた場合、その者が相続放棄をしたとしても生命保険金は受け取ることができます。
生命保険金が相続財産にならない以上、原則としては遺産分割の対象外です。
ただし、遺産分割の対象にすることが法的に全くできないかと言えば、そうでもありません
相続に関連する争いをスムーズに解決するためには、実務的には遺産分割の対象に含めて扱うことが妥当な場合もあるからです。
例えば、共同相続人全員の間で遺産分割の対象とする旨の合意があれば、裁判所の許可等を得たうえで、遺産分割の対象とするべきとする裁判官の意見もあります(司法研修所編『遺産分割事件の処理をめぐる諸問題』法曹会)。
生命保険金は、通常は相続財産にならないとご説明しましたが、例外的に生命保険金が「特別受益」に該当する場合は、相続財産に含めて取り扱われます。
特別受益とは、相続人の中に、相続人から財産の生前贈与や遺贈を受けた者がいる場合に、相続人間の公平を図るために、その財産も相続財産に含めて計算するという制度です(民法903条1項)。
遺産に生前贈与の財産も加算した金額を遺産総額としたうえで(これを「持ち戻し」と言います)、各人の具体的な相続分を算出します。
そして、特別受益を受けた者は、具体的な相続分から特別受益分を控除した金額しか相続が認められません。
先のパターンの1a、つまり特定の個人名で相続人の誰かを指定している場合のみ、生命保険金が特別受益となる可能性があります。
パターン1aの場合、相続人は「遺産しか受け取れない者」と「遺産と生命保険金を受け取れる者」に分かれてしまい、大きく不公平になる可能性があるからです。
念のため他のパターンも考えてみると、パターン3、被相続人自身が受取人の場合は生命保険金は相続財産ですが、法定相続分にしたがって共同相続されるので特別受益の問題は生じません。
そしてパターン2のように、受取人が「相続人」と指定されている場合は、生命保険金は相続財産ではありません。
また、相続ではないものの、受取人は法定相続分の割合で生命保険金請求権を取得することになるため、受取人間も公平で、特別受益の問題は生じません。
例えば、次のようなケースです。
被相続人:父
相続人:長男、次男
遺産:預金100万円
生命保険金:長男を受取人として1億円
このケースでは、遺産である預金100万円は、法定相続分にしたがって長男と次男がそれぞれ50万円づつ相続することになります。
しかし、生命保険金1億円は遺産ではないので、長男がそのまま1億円を受け取ります。
生命保険の保険料は、被相続人Aの収入の中から支払われていたことを考えると、この結果はあまりにも不公平ではないでしょうか。
そこで、このパターン1aの場合、生命保険金を特別受益として取り扱い、不公平を是正すべきではないかが問題となります。
とはいえ、パターン1a(特定の相続人が指定されている場合)のすべてが特別受益になるわけではありません。
判例でも、生命保険金が特別受益になるのは例外的で、特段の事情がある場合と限定されています(最高裁平成16年10月29日決定)。
なお、この場合でも民法903条の特別受益そのものではなく、民法903条を類推適用して持ち戻すことになるとしています。
類推適用とは、本来ある法律が規定する状況ではないものの、類似した状況のため例外的に法律を適用することです。
この保険金受取人と他の相続人との不公平は、次の諸事情を総合考慮して決めるとされます。
これらの考慮ポイントを具体例で考えてみましょう。
裁判例を少し簡略化したケースでご説明します。
元となった裁判例では、生命保険金を特別受益と認めました。
被相続人:夫
相続人:後妻、先妻との長男・次男
遺産額:8000万円
生命保険金:後妻を受取人として5000万円
遺産8000万円を法定相続分で相続すると、後妻:4000万円、長男:2000万円、次男:2000万円ですので、後妻は遺産4000万円+生命保険金5000万円=9000万円を取得することになります。
このケースで、後妻との婚姻期間が2~3年程度に過ぎず、被相続人が寝たきりとなって以後は別居してしまい介護もせず、介護をしたのは長男と次男であったなどの事情があれば、生命保険金の金額が遺産総額の62%にものぼることを考えると、特別受益とされる余地があるでしょう。
なお、生命保険金が例外的に特別受益となった場合、持ち戻しされる金額がいくらになるかという問題があります。
この点には、次の4つの考え方がありますが、現在でも実務上の扱いが決まっているわけではありません。
ⅳ説が一般的な考え方とされており、これを採用した審判例(宇都宮家裁栃木支部平成2年12月25日)もありますが、統一はされていません。
現実的には、それぞれのケースでの妥当性が重視されますので、事案に応じて各裁判所が柔軟に対応していくことになるでしょう。
まずそもそも特別受益が遺留分の対象になるか、という問題があります。
これについては、原則として遺留分の対象となり、遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)ができるとされています(最高裁平成10年3月24日判決)。
では、生命保険金も例外的に特別受益と認められれば、遺留分侵害額の請求の対象となるのでしょうか?
そもそも遺留分侵害額の請求の対象は生前贈与と遺贈ですが、生命保険金は贈与でも遺贈でもありませんから、原則からすれば対象外のはずです。
しかし、相続人に最低限の遺産相続を保障する遺留分制度の趣旨からは、これを認めるべきとも言えそうです。
実は、この点を直接判断した裁判例はまだなく、議論も十分なされていない段階です。
ただ、関連する判例から、おそらく生命保険金に対しても遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)ができる場合もあるでしょう。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
この記事では、生命保険金と特別受益の関係を中心に、遺留分にも触れてきました。
ただ、生命保険金が特別受益となるのは例外的な場合であることを忘れないようにしてください。
相続に関する基礎知識としては、次のとおりに覚えておくべきでしょう。
他の相続人だけが生命保険金を受け取っている場合、例外にあたるかどうかの判断は、様々な事情を考慮する必要があり、弁護士でなくては的確な判断は困難です。
生命保険金と相続の問題で、不公平ではないか?と、お悩みの方は、弁護士に相談されることをおすすめします。