遺産分割協議のやり直しはできる?やり直しに時効はあるの?
遺産分割協議は、原則としてやり直すことはできません。ただし、やり直すことができるケースも存在します。遺産分割をやり直…[続きを読む]
「周りに言われるまま遺産分割協議書に印鑑を押してしまったが、遺留分だけでも取り戻したい。」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
遺産分割協議は、相続人全員が集まって行われることも多く、自分の兄や姉などに気後れして言いたいことが言えない状況もあるでしょう。
また、配偶者の父親や母親、兄弟や姉妹に対しては、反対の意を表すのは難しいかもしれません。代襲相続をした場合などは、気圧されて合意してしまうかもしれません。
このようにいったん合意に至った後に不満が残る遺産分割協議に対して、遺留分侵害額請求権を行使することはできるのでしょうか?
目次
結論から言えば、遺産分割協議後に遺留分侵害額請求をすることはできません。
しかし、遺産分割協議を再度行うことは、条件がそろえば可能です。ただし、その場合にも注意が必要です。
遺産分割協議の後に遺留分侵害額請求ができないのはなぜか、その理由を説明した後に、遺産分割協議のやり直しについて解説することにしましょう。
遺産分割協議後に遺留分侵害額請求ができない理由には、遺産分割協議と遺留分侵害額請求とがまったく異なる役割を持つ制度だということが大きく関係しています。
遺留分は、一定の範囲の相続人に法律上保障された最低限の遺産の取得分であり、被相続人の遺言や贈与などによって、その相続人の最低限の遺産取得分が侵された場合に問題となります。
遺留分の侵害は、被相続人による財産処分が原因となって生じ、法定相続分に従って遺産を承継する場合や遺産分割協議による場合には、発生しません。
遺留分侵害額請求は、被相続人の財産処分の自由と相続人の保護という相対立する状況の調整を図るための制度です。
一方、遺産分割協議では、協議に参加している相続人間の話し合いと合意により、遺産分割の方法が確定します。分割方法に対して異論や要望がある相続人は、遺産分割協議の中で自らそれを主張し、実現する機会が与えられているわけです。
従って、遺産分割協議が合意に達したということは、全相続人の要望等が反映されており、誰一人として遺産に対する権利を侵されておらず、遺留分侵害額請求の必要性が認められないことになります。
民法の条文上でも、遺留分の請求対象となるのは遺贈や生前贈与、死因贈与であり(民法1043条)、遺産分割協議による遺産の分配は遺留分の請求対象には含まれていません。
このように遺産分割協議に対しての遺留分侵害額請求はできません。しかし、前述した通り、いったん合意に至った遺産分割協議のやり直しが認められるケースがあります。
それは、「相続人全員による合意解除」と遺産分割協議に対して「錯誤」を主張する場合です。
相続人全員がいったんまとまった遺産分割協議を反故にして、再度遺産分割協議をしてもいいとの合意に至った場合には、遺産分割協議をやり直すことができます。
相続人全員がやり直してもいいと考える遺産分割協議は、維持する必要性がないからです。
しかし、当初の遺産分割協議が終わった後に第三者が関係していると、話は違ってきます。
例えば、遺産分割協議で取得した不動産を自分名義に変更した相続人が、その不動産を第三者に売却し、その後遺産分割協議を合意解除した場合、その第三者は、民法545条1項により保護されることになります。
民法545条1項 解除の効果
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
このような事態に陥いる前に、弁護士に相談する必要があります。
もう一つは「遺産分割協議に錯誤がある場合、協議分割は無効となる」という例です。
ある相続人において錯誤があった場合に、そこに重大な過失がない限り、その意思表示は無効となり、そうすると相続人全員の合意がないことになるため、遺産分割は無効になると解されています。
例えば、相手方の虚偽の説明により、遺産である預金額について誤信し、遺産の範囲について重大な錯誤があったとして無効であるとした判例があります。
なお遺産分割の再協議については、次の記事で詳しくご紹介しています。
相続人全員の合意により遺産分割の再協議を行う場合は、税金や登記について注意が必要です。
最初の遺産分割協議について相続税が課税されます。最初の遺産分割協議で所有権の移転が認められるからです。
最初の遺産分割協議で所有権の移転が認められるということは、遺産分割の再協議は、譲渡や交換、贈与として所得税や贈与税の課税対象となるということです。
詳しくは、当サイトの姉妹サイトである相続税理士相談Cafeの「遺産分割のやり直しで贈与税・不動産取得税が発生!」をご一読ください。
では、遺産分割の再協議を行った場合の登記申請はどうなるのでしょうか?
次の3つのケースが考えられます。
不動産の登記名義がまだ被相続人にある場合は、被相続人から二度目の遺産分割協議により不動産を取得した相続人に対して、「相続」による所有権移転登記をすることが可能です。
この場合も、「遺産分割」を登記原因として、被相続人から不動産を取得した相続人に対して所有権移転登記をすることができます。
最初の遺産分割協議通りに、被相続人から不動産を取得した相続人に所有権移転登記を既に行っている場合は、その所有権移転登記をいったん抹消し、改めて「遺産分割」協議を原因として二度目の遺産分割協議で不動産を取得した相続人に所有権移転登記をしなければなりません。
この時、抹消登記(※1)と2回目の所有権移転登記(※2)に登録免許税が課されることになります。
※1 不動産の個数×1,000円、ただし同一の申請書で20個以上の不動産について登記の抹消をする場合は20,000円。
※2 固定資産税評価額×0.4
遺産分割協議が錯誤により無効と判断され、再度分割をやり直した場合は、相続税については、更正請求をすることになります。
登記については、錯誤による更正登記を申請するか、更正登記ができない場合は、抹消登記と所有権移転登記を申請することになります。
遺留分侵害額請求権は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年」行使しなければ、消滅時効により主張できなくなります(民法1048条)。
遺言書の無効を争っている相続人がおり、その相続人が遺産分割協議を申し入れた場合に、その遺産分割協議の申入れが、遺留分侵害額請求の意思表示となるかどうかが問題となります。遺言無効の争いは、長期化することが多いからです。
これについて、最高裁判所は判決で、次の通り原則として遺産分割協議の申し入れに遺留分を請求する意思表示は含まれないとしています。
産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。
しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには法律上、遺留分殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。
ただし例外として、遺言書により相続人の一部にすべての遺産が承継され、遺産を受け取ることができなかった相続人が、遺産分割協議の申し入れをした場合には、遺産分割協議の申し入れに遺留分減殺請求(侵害額請求)の意思表示が含まれるとしています。
こうした例外に該当しなければ、遺言無効を主張して、遺産分割協議の申し入れをしても遺留分侵害額請求の意思表示は含まれないと考えられます。
遺産分割協議は、このほかにも、遺産分割協議に相続人全員が参加していない場合や、相続人に意思能力がない者がいる場合、協議内容が公序良俗違反の場合などには無効事由となります。
また、詐欺や脅迫、があった場合や、未成年者の相続人に法定代理人がいなかった場合には、取り消すことができます。
しかし、いったん分割協議が整ってしまったら、それを覆すことは難しい考えておいたほうがいいでしょう。
そこで必要なのは、遺産分割協議においては、まず自分の意見をはっきりと示し、不利な遺産分割協議には同意しないことです。
もし、遺産分割協議についてお悩みであれば、弁護士に相談しましょう。