内縁の妻必見!相続できない事実婚の対処法

婚姻の意思を持ち、夫婦同然の生活をしながらも、婚姻届を提出していない。一般的にこのような関係を「内縁関係」や「事実婚」と言い、事実婚をしている女性を「内縁の妻」や「未届けの妻」と言ったりします。ただし、婚姻届を提出した法律婚の妻と異なり、内縁の妻には配偶者の相続権がありません。

しかし、諦める必要はありません。財産を受け取る方法はあるからです。

今回は、内縁の妻の相続と財産の受け取り方法などについて解説します。

なお、この記事では「内縁の妻」で統一していますが、「内縁の夫」でも基本的に内容は同じです。

1.内縁と婚姻の違い

事実婚では、法律上結婚している夫婦(法律婚)と同様に扱われるものと、扱いが異なるものがあります。ここではその違いについて解説したいと思います。

1-1.法律婚と同様に扱われるもの

各種法律上の義務を負う

内縁関係であっても、法律婚と同様に、内縁の夫・妻は、以下の義務を負っています。

  • 婚姻費用負担義務
    生活費や医療費、子供の教育費などを男女で分担して負担する義務のことをいいます。
  • 同居協力扶助義務
    結婚した夫婦と同じように男女が同居して暮らし、互いに扶助する義務があります。
  • 貞操義務
    夫婦がお互いに性的純潔を保つ義務のことをいい、わかりやすく言えば、浮気や不倫をしてはいけないということを言っています。
    そのため、内縁の妻がいるのにも関わらずまだ結婚していないからという理由で浮気をすれば、内縁の妻は内縁の夫と浮気相手もしくは不倫相手の双方に対して慰謝料を請求できるのです。
  • 日常家事債務の連帯責任
    事実婚の一方が負った日常の家事についての債務は、他方も連帯して責任を負うことになります。

最高裁判所の判例でも、「内縁も保護せられるべき生活関係に外ならない」としています(最判昭和33年4月11日)。

各種制度や権利で法律婚と同等に扱われる主なもの

  • 健康保険の被扶養家族となることができる
  • 国民年金の第3号被保険者となることができる
  • 遺族基礎年金、寡婦年金、死亡一時金、加給年金などの給付を受けることができる
  • 労働災害の遺族補償年金の給付を受けることができる
    など

1-2.法律婚と異なる扱いをされるもの

一方で、次に挙げるように、内縁関係では、家族親族関係や相続について法律婚とは異なる扱いがなされています。

  • 配偶者の相続権がない
    内縁の妻には相続権がありません。どんなに長く連れ添っていても、これは変わりません。
  • 相続税の「配偶者の税額軽減」の適用を受けることができない
    「配偶者の税額軽減」の適用を受けることができるのは、法律婚をしている配偶者のみとなります。
  • 子供が非嫡出子となる
    結婚している男女間に生まれた子供であれば、父親が認知しなくてもそれは自分の子供です。内縁関係の男女間に生まれた子供は「非嫡出子」または「婚外子」などと言われ、母方の戸籍に入ります。
    そのため内縁の夫と子供との間に父子関係を成立させるためには、別途認知の手続きが必要となります。
  • 内縁配偶者の親族と親族関係は生じない
  • 子供について夫婦共同親権にはならない(母親の単独親権)

2.内縁の妻と、内縁の妻の子との違い

内縁の妻とは異なり、内縁の妻との子供は相続人になれることがあります

2-1.内縁の妻が相続人になれない理由

法定相続人は法律で定められており(民法887条、889条、890条)妻は、夫が亡くなると常に相続することができます。

しかし、法定相続人となる配偶者は、法律婚をしている夫婦に限られます。つまり、婚姻届を提出している妻または夫のことです。

たとえ結婚式を挙げていても、長年連れ添っていても、2人の間に子供がいても、婚姻届が受理されていない限り、相続の制度では配偶者ではありません。内縁の妻は法定相続人として認められていないのです。

2-2.内縁の妻の子が夫の相続人になるには「認知」が必要

法律婚をしていない夫婦間に生まれた子供は、そのままでは亡くなった父親の相続人にはなれません。

父親が子供を「認知」することが、内縁関係でできた子供が相続人になるための条件です。

認知とは、父親と子の間に親子関係を成立させる手続きのことで、これを経てようやく内縁の夫婦の子供は相続人となれるのです。

3.内縁の妻に財産を遺す方法

内縁の妻に財産を遺すには、次の3つの方法が考えられます。

3-1.内縁の妻に生前贈与しておく

内縁の妻に財産を遺す方法としてまず挙げられるのが生前贈与です。

ただし、生前贈与では、年間110万円を超えると贈与税が課税されるため、申告が必要となります。年間110万円以内の非課税枠を使うためには、長期にわたって贈与を続ける必要があります。

また、贈与をする際には、他の相続人とのトラブル回避や、税務署にいらぬ指摘をされないように、贈与についての契約書を作成しておくことをお勧めします。

3-2.生命保険の利用

次にご自分の生命保険の受取人として事実婚の配偶者を指定しておき、財産を遺すことが考えられます。

ただし、保険金を巡るトラブルを回避するために、保険会社は受取人となる人を限定しており、一般的に受取人となることができるのは、「配偶者および2親等以内の血族」です

しかし、保険会社によっては、事実婚の配偶者であっても、同居の期間や、生計を共にしているか、戸籍上の配偶者の有無などについての証明をすることで、受取人となることが可能です。

ただし、証明した内容によっては、契約自体ができなかったり、保険金の額に上限を設けられたりするので注意が必要です。

3-3.遺言書を欠いて内縁の妻に財産を遺贈

最後に挙げるのは、遺言で事実婚の配偶者に財産を遺贈する方法です

法的に有効な遺言を用意してもらえば、遺産相続で揉めることはかなり少なくなります。また、遺言により子供を認知することもできるので、自分の子供にも遺産を相続させたい場合には、有効な方法です。

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遺贈にも相続税が課税され事実婚の配偶者は2割加算の対象になる

ただし、遺言書で事実婚の配偶者に遺贈をしたとしても、相続税の課税対象になります。

さらに、法律婚の配偶者及び被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった直系卑属を含む)以外が遺贈を受けると、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます。

事実婚の配偶者は、この相続税の2割加算の対象となるため、通常より多い納税資金が必要になります。

遺贈も遺留分の対象になる

遺言によって内縁の妻に財産を遺贈する場合に注意が必要なのが「遺留分」です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた最低限度の遺産の取得割合です。

例えば、事実婚の夫に離婚した前妻との子供がいる場合に、事実婚の夫が「全財産を内縁の妻に遺贈する」という遺言を残して亡くなったとしても、前妻との間にできた子供は法定相続人であり、遺留分を主張することができます。

遺留分を侵害する遺言は争いの原因になりやすく、遺言書を作成するときから十分に注意しなければなりません。

遺言書を作成する際には、弁護士のアドバイスやチェックを受けることをおすすめします。

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4.特別縁故者として遺産を取得できるケースも

事実婚の配偶者が一定の条件を満たせば、「特別縁故者」として遺産を受け取ることができます(民法958条の3)。

特別縁故者とは、被相続人に相続人がおらず、遺言書もない場合に、家庭裁判所に請求すると財産を受け取れる人のことです。

4-1.特別縁故者の条件

特別縁故者となるためには、以下いずれかの条件に該当していなければなりません。

  • 被相続人と生計を同じくしていた者
    婚姻届を提出はしていないものの、夫婦としてともに生活していた内縁の妻はこれに該当し得ます。
  • 被相続人の療養看護に務めた者
    被相続人(故人)の看護や介護にあたった者も特別縁故者として認められる場合があり、被相続人の看護にあたった内縁関係の妻は、ここでも特別縁故者として認められる可能性があります。
    ただし、業務として報酬を得ていた看護士、介護士、家政婦などは除きます。
  • その他被相続人と特別の縁故があった者
    被相続人との間に、上の2つに準ずる程度に具体的な関わりがあり、遺産をその人に渡すことが被相続人の意思だと考えられるほど特別な関係にあった人のことをいいます(大阪高決昭和46年5月18日)。

4-2.特別縁故者として認められたら?

家庭裁判所から特別縁故者として認められれば、遺産を相続することができます。

ただし、内縁の妻は法律上の配偶者ではないので、相続税の配偶者控除が受けられません。ただし、相続税には3,000万円の基礎控除があるので、受け取る遺産がこの額以下であれば、相続税は発生しません。

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5.賃借人が死亡した場合の内縁の妻の賃借権

賃貸物件に同居している内縁関係の男女がいるとします。
物件の借主の名義の男性が死亡すると、財産は内縁の妻ではなく法定相続人に相続されることになります。

このとき、賃貸物件の賃借権も法定相続人が相続するため、そのままでは内縁の妻は住む権利がなくなってしまいます。この状態で内縁の妻が立ち退きを迫られたら、内縁の妻はどうすることもできないのでしょうか。

また、相続人がいない場合はどうなるのでしょうか。

5-1.相続人がいる場合の賃借権と内縁の妻|判例

相続人が賃借権を相続するとしても、それによって内縁の妻が生活できなくなるのは望ましくありません。

判例では、貸主の立ち退きの主張に対して、相続人が賃借権を相続し、内縁配偶者は相続人が相続した賃借権を援用することで居住する権利を主張できるとしています(最判昭和42年2月21日)。

また、相続人から内縁配偶者への建物の明渡請求も、差し迫った事情がなければ、権利の濫用として否定した判例もあります(最判昭和39年10月13日)。

このように、判例では内縁の妻の居住権が保護される傾向があります。

5-2.相続人がいない場合の賃借権と内縁の妻

相続人がいない場合には、次の条件を満たすことで内縁の妻は居住を続けることが法律上認められています(借地借家法36条)。

  1. 居住用の建物であること
  2. 賃借人(内縁配偶者)が亡くなったとき同居していたこと

6.内縁の妻と民法改正により新設された権利

6-1.特別寄与料について

2019年7月に施行された民法改正の中に、「特別寄与料」があります。

簡単に言えば、被相続人を無償で介護したり、事業を手伝うなどして財産形成に貢献した相続人以外の親族について、一定の金銭請求を認める制度です。
相続人ではない親族が介護等で貢献してきたのに、全く報われないのは不公平ということで導入されました。

しかし、残念ながらこの民法改正による特別寄与料の制度では内縁の妻は対象外です。この制度では対象者を親族と定めており、内縁配偶者は親族ではないからです。

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6-2.配偶者居住権について

夫婦の一方が亡くなり、遺された配偶者が被相続人が所有していた建物に、一定期間または、亡くなるまで無償で居住できる権利「配偶者居住権」が民法改正で新設されました。

ただし、残念ながらこの配偶者居住権が認められるのは、法律婚の配偶者であり、内縁の妻には、認められていません。遺言書の作成などにより、しっかりと内縁の妻の権利を守ることが重要になります。

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まとめ

ご説明してきたように、法律上、内縁配偶者の相続は認められていませんが、生前贈与や遺言書の内容などによっては、財産を遺すことも可能になります。

ただし、内縁配偶者に財産を遺すための手続きはかなり細かい検討が必要になります。「難しいな…」と思ったら遠慮なく弁護士にご相談ください。

遺言書の作成から亡くなった後に取れる手段など、ご自分の状況にあわせてアドバイスをもらえます。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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