義理の母の面倒を見ても相続権はない!|特別の寄与のトラブル回避法

義理の母の面倒を見ても相続の権利はない?1

民法改正によって「特別の寄与」が認められ3年が経過しました。義理の母親や父親を最後まで嫁が介護していたとしても、相続人が納得してくれれば、法律上、報われる道は開かれました。

そこで、介護の実態をご紹介しながら、特別の寄与とはどのような制度なのか、特別の寄与が認められる要件などを説明します。

1.2022年介護の現状

厚生労働省の統計によると2022年の介護状況は、次の通りです。

1-1.介護者の現状

要介護者と別居しているケースが全体の54.1%を占め、別居は2019年から8.5%増加し、同居と別居の割合が逆転しています。

要介護者と別居しているケースでは、介護者不詳が最も多く、26.0%、次いで事業者に任せているケースが15.7%、別居の家族などが介護しているケースが11.8%となっています。

一方、要介護者と同居のケースは、全体の45.9%。そのうち、配偶者が22.9%。要介護者の子供が16.2%、子供の配偶者が5.4%介護している状況となっています。義理の母親を嫁が介護しているのは、この子供の配偶者が介護しているケースに該当します。

1-2.介護者の男女比

男性 女性 不詳
同居の主な介護者 31.1% 68.9% 0%
別居の家族等 26.0% 71.1% 3.0%

要介護者の性別は同居では、68.9%、別居では71.1%と、圧倒的に女性の比率が高くなっています。

1-3.介護者の年齢構成

介護者の年齢構成については、次の通りです。

ご覧の通り、要介護者と別居しているほうが、同居して介護しているよりも、男女とも若年層であることがわかります。

40歳未満 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70~79歳 80歳以上 不詳
同居の主な介護者 1.3% 6.0% 17.6% 26.9% 22.8% 25.3% 0%
1.6% 5.0% 17.0% 30.1% 31.1% 15.3% 0%
別居の家族等 1.8% 5.0% 41.1% 43.7% 6.6% 0.8% 0.7%
0.7% 7.0% 38.2% 41.0% 10.2% 1.2% 1.7%

1-4.同居の主な介護者の性・続柄別構成比

最後に、「ほとんど終日介護している同居介護者」の、性・続柄別の構成比は次の通りです。

夫が要介護者となり、妻が介護しているケースが45.7%と最も多く、次いで要介護者の娘が介護しているケースが18.5%、妻を介護する夫が15.7%となっており、嫁が義理の母親や父親を介護するケースは、8.1%となっています。

ただし、嫁が義理の父親や母親を介護する割合は、2019年の7.3%から若干増加しています。

配偶者 子の配偶者 その他の親族
15.7% 8.1% 0.2% 1.5%
45.7% 18.5% 8.1% 2.3%

【ここまでの出典】「介護の状況」|厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」より
※ なお、合計が100%を超えるものがありますが、出典のままの数値を使用しています。

2.義理の父母を介護していた嫁に認められる「特別寄与料」とは

次に、特別の寄与と、特別の寄与といった行為によって請求できる特別寄与料について説明します。

2-1.特別寄与料とは

「特別の寄与」の制度では、相続人以外の親族が、無償で被相続人の介護・看護などを長年していると、その貢献に応じて「特別寄与料」が認められます。親族には、3親等内の姻族と、6親等内の血族、配偶者が該当します。

婚姻した嫁から見ると、義理の父や母は、1親等の姻族となるため親族です。嫁が義理の父や母を介護して亡くなれば、特別寄与者となり、相続人に対して、特別寄与料を請求することができます(民法1050条1項)

例えば、長男、次男と長女が相続人となったとき、長年義母を介護してきた長男の妻は、その貢献度に応じて、相続した次男と長女に対して特別寄与料を請求できます。

2-2.特別寄与料を受け取るためには

しかし、どの程度の特別の寄与があったのかは、特別者と相続人間で争いになりやすいポイントとなります。相続人は特別の寄与を否定すればお金を払わずに済み、一方で貢献した相続人以外の親族は貢献分に応じた特別寄与料を受け取りたいと考えるからです。

そのため、介護をした相続人以外の親族は、日々の介護状況や、かけた費用、介護事業者との連絡などをしっかり記録しておくといいでしょう。

ただし、特別寄与料の請求には、「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月」と「相続開始から1年」の2つの時間制限が設けられているため、急いで準備する必要があり(民法1050条2項但書)、当事者間で協議が整わない場合には、この期間内に申し立てを行わなければなりません(民法1050条本文)。

3.特別の寄与が認められなかった裁判例

特別の寄与が新たに民法で認められてから短い期間であり、残念ながらまだあまり裁判例が示されていません。次に、特別寄与料が認められなかった裁判例を1つご紹介します。

3-1.静岡家庭裁判所令和3年7月26日審判

夫と離婚したため疎遠になった長男・次男を持つ被相続人が亡くなりました。

被相続人の弟は、生前入退院時手続きや、月数回病院を訪れ、書類の作成や提出、医師の説明の立会い、身元の引き受けなどをしていました。

令和2年3月に被相続人が亡くなると、被相続人の弟は、遺産である預貯金の解約手続きを進め、被相続人の弟は、被相続人の長男・次男を以前から知っており、解約手続きに必要な書類として、委任状や印鑑証明書、戸籍謄本を交付するように依頼しました。

被相続人の弟は、相続開始前から被相続人の次男の住居を訪れたこともありました。一方で、長男については、相続開始時点で住居も住所も知りませんでした。

そして、被相続人の弟は、令和3年1月20日に特別の寄与に関する処分調停の申立てを行いました。

これに対して、静岡家庭裁判所は、次のように判示しました。

  • 専従的な療養看護等を行ったものではなく、貢献に報いて特別寄与料を認めるのが相当なほどに顕著な貢献をしたとまではいえず、「特別の寄与」の存在を認めることは困難
  • 民法1050条2項ただし書にいう「相続人を知った時」とは、当該相続人に対する特別寄与料の処分の請求が可能な程度に相続人を知った時を意味するものと解するのが相当

つまり、被相続人の弟は、特別の寄与と言える療養介護等を行ってはおらず、また、「相続の開始と相続人を知った時から6ヶ月」を超えて申し立てをしたとして、被相続人の弟の主張を退けたわけです。

4.特別寄与料の請求でトラブルにならないために満たすべき要件

実は、同居の親族にも相互扶助の義務があります(民法730条)。

したがって、嫁が長年義理の父や母と同居して介護をしていても、身の回りの世話程度であれば、裁判所に相互扶助の範囲内とされてしまい、特別寄与料の請求は認められないことになります。

特別の寄与と認められるためには、「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」があったと認められる行為が必要です。

したがって、介護の負担が大きくなったため、嫁がパートを辞めて、自分の時間のほとんどを介護に費やしたといったケースでは、介護施設の費用や、事業者に依頼する費用などを節約できるため、特別の寄与として認められやすくなります。

また、介護については、「無償」で「長期間に及ぶ」ことが必要となります。

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5.特別寄与料を貰えない場合に備えて要介護者の生前にすべき対策

このように、裁判に訴えても、特別寄与料が認められない可能性もあります。

そこで、最後に介護者が要介護者の生前にお願いできるいくつかの対処法をご紹介します。

5-1.遺言を書いてもらう

要介護者の生前に、介護者に対して一定の遺産を遺贈してもらう遺言書を残しておいてもらう方法があります。

遺言は法定相続より優先されるため、遺産を遺贈する遺言を書いてもらえば、相続人以外であっても財産を受け取ることができます。

ただし、要介護者が認知症などを患っていると、遺言書を作成しても、相続人にその有効性を争われてしまう可能性があります。

5-2.生前贈与してもらう

被相続人の生前に贈与を受ける方法もあります。ただし、贈与には契約が必要になります。そのため、被相続人の意思能力に不安があると、遺言と同様に相続人から贈与契約が無効だと主張される可能性があります。

また、贈与を受けられたとしても、年間110万を超えると、贈与を受けた者に対して贈与税が課されます。

5-3.養子縁組をしてもらう

要介護者と養子縁組をしておけば、実子と同じ法定相続分を受け取れる相続人となることができます。

例えば、長男の妻が義理の母親と養子縁組をすれば、母親の他の子供と同じ相続人の立場となることができます。

ただし、その分他の相続人の相続分が減減ってしまい、余計な争いを生んでしまう可能性もあります。

まとめ

ここまで特別の寄与についてご説明してきました。
報われることがなかった被相続人の介護について、相続人にお金を請求できるようになり、相続人以外の親族であっても、その貢献が報われる制度になりました。

しかし、相続人に請求する際には、どの程度の貢献があったかが争いになりやポイントとなります。

ご自分の療養・看護・介護などの貢献を相続人に請求したいと考えている方や、現在介護を行っており、特別の寄与を認めてもらうためにはどうすればいいのか悩んでいる方などは、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

特別寄与料には、請求の期限が定められているため、早めの相談をお勧めします。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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