遺留分侵害額請求とは?手続き・期限・必要書類を解説!
最低限の遺産の取得割合である「遺留分」を取り戻すためには、遺留分侵害額請求をしなければなりません。遺留分侵害額請求の…[続きを読む]
長男が親の遺産を独り占めしてしまうケースや、父親の遺言書に母親に遺産すべてを相続させると記載されていたケースなど、遺産の独り占めには、いくつかのパターンがあります。
遺産の独り占めでは、相続人間で争いが生じていることが多く、話し合いで解決できなければ、法的な対抗措置を講ずることになります。
ここでは、遺産の独り占めの具体的なケースを挙げて、その対処法を解説していきます。
まず、遺産の独り占めが想定できるいくつかのケースをご紹介します。
被相続人が遺した遺言書に相続人の1人に遺産すべてを相続させるといった記載があることがあります。
特に家の家督相続の名残がある地域では、長男にすべての遺産を相続させたい被相続人が、こうした遺言書を作成する可能性があります。また、父親が亡くなると、母親に遺産をすべて相続させるといった遺言書が発見されることもあります。
被相続人の判断能力が正常なうちに作成された遺言書であれば有効であり、原則として相続人は遺言書通りの遺産分割を行います。
しかし、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分という最低限の遺産取得割合が法律上認められており、たとえ、遺言書であっても遺留分を侵害することはできません。遺留分を侵害された相続人は、侵害者に対して遺留分侵害額請求をすることができ、少なくとも遺留分を手にすることができます。
親と同居していた長男などの相続人が、生前親の面倒を見ていたから遺産はすべて独占させてもらうと、遺産分割に応じないケースもあるでしょう。
しかし、遺言書がなければ、相続開始と同時に遺産は相続人全員の共有財産となり、遺産分割協議によって相続人全員の合意を得なければ、独り占めすることはできません。また、親の面倒を見ていたという事実が寄与分に当たるのか、当たるとすればどれくらいの額になるのかについても遺産分割協議で話し合う必要があります。
被相続人が認知症などで判断能力を失っていると、同居する長男などの相続人が、自分が遺産をすべて相続できるような遺言書を被相続人に書かせる可能性があります。
しかし、たとえ被相続人本人が遺言書を作成していたとしても、作成当時遺言能力がなかったと判断されれば、遺言書は無効となってしまいます。
また、万一同居する相続人が被相続人の筆跡を真似て遺言書を偽造したことが証明されれば、相続欠格事由に該当し、相続権を喪失してしまいます。
特定の相続人が、親名義の預貯金などを引き出して使いこむ、長男名義の口座に移してしまう、といった遺産の使い込みも考えられます。
特に同居する子が親の世話をしている場合には、生計の費用が親子で一体となるため、その傾向は高くなります。
使い込まれた遺産を取り戻すためには、使い込みを証明するための十分な準備が必要になります。
遺産が独り占めされた場合には、ケースに応じて次の対処法が考えられます。
「全ての財産を相続させる」旨の遺言に対処するには、遺留分を利用します。
民法では、次の通り法定相続分よりも、遺言による相続分の指定が優先します。
民法902条 (遺言による相続分の指定)
被相続人は、前二条(法定相続分)の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
また、1人の相続人に全ての遺産を相続させる遺言についても、それを制限する定めはありません。
ただし、民法902条にもあるように、たとえ遺言でも遺留分を侵害することはできません。従って、遺言書によって遺産が独り占めされたケースでの遺産の独り占めへの対抗策は、遺留分侵害額請求の手続きとなります。
遺留分侵害額請求の手続きは、対象の相続人に意思表示するだけで有効です。しかし、意思表示の証拠が残すために、内容証明郵便で通知するのが一般的です。
遺留分侵害額請求における内容証明郵便の書き方については、以下の関連記事をご覧ください。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分の侵害を知ったときから1年で時効消滅してしまうため、時効にかからないよう、まずは意思表示をしておくことが重要です。
遺産を独占している相続人が遺産分割協議に応じない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てます。
遺産分割調停では、寄与分についても話し合うことができ、遺産を独り占めする相続人が主張していたとしても、解決可能です。
ちなみに、相続人が寄与分を主張している場合には、寄与分を定める処分調停を申し立てることも可能で、2つの調停を併せて申し立てると、併合して手続きが行われます。
認知症などで判断能力を失った被相続人が作成した遺言書に対処するには、遺言無効確認訴訟があります。
効力に争いのある遺言書について法的に無効であることを、裁判所に確認してもらうための裁判手続きです。
ある遺言が無効であることを確認する判決が得られれば、その遺言に基づく遺産分与がなされることを防ぐことができます。
この遺言無効確認訴訟は、詐術や脅迫で遺言書が作成された場合の対処法としても、利用することができます。
遺産の使い込みについては、使い込みをした相続人を含め相続人全員が合意すれば、遺産分割協議で解決することも可能です。
ここでは、疑義を持たれた相続人が、遺産分割協議に合意しない場合の対処法をご紹介します。
特定の相続人によって被相続人の預貯金が流出するなど遺産の使い込みが想定されるときは、被相続人の死亡後すぐに、その事実を口座のある銀行に伝えて口座の凍結をしてもらいます。
凍結された被相続人の口座からは、相続人ごとに各金融機関から最大150万円までしか直接引き出すことができません。
次に、被相続人が利用していた金融機関の取引履歴を取り寄せて、不審な引き出しを調べて証拠を集めて訴訟に備えます。
疑いを持たれた相続人が遺産の使い込みを認めない場合には、不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求といった民事訴訟に訴える必要があります。
この段階に至っては、弁護士に依頼するのが得策と言えるでしょう。
遺産の独り占めを防ぐためには、その原因や理由を取り除くことが必要です。
遺言書が独り占めの原因となりそうなケースでは、被相続人となる方と親族で相続についてしっかりと話し合います。特定の相続人に遺産を渡したい場合には、その旨を親族に伝えて理解してもらうと同時に、親族の意見も聞き、少しでもその意見を反映できるようにすれば、相続で争う必要もなくなります。遺言書を作成する際には、少なくとも、遺留分が問題にならないようにしておくべきです。
親の介護が原因で遺産の独り占めが発生しそうな場合には、親族が持ち回りで介護をするなど、相続開始後、介護の不均衡が問題にならないようにします。
弁護士などの専門家を後見人に選任すれば、遺産の使い込みを防止することもできます。
前述した通り、遺産分割協議を経なければ、相続財産である実家も相続人全員の共有財産であり、相続人の1人が独占することはできません。したがって、実家を独り占めしている長男が遺産分割協議を拒否している場合には、遺産分割調停の申し立てを行うことができます。
また、実家の登記はそのままに、代償分割をしたことにして、各相続人の相続分に応じた実家分の代償金を支払ってもらうこともできます。
詳しくは、相続に強い弁護士に相談することをお勧めします。
ここまでご説明してお分かりの通り、一人の相続人がすべての遺産を独り占めすることは、他の相続人の同意がなければほぼ不可能です。
相続についての争いは、他人には相談し難いものです。しかし、話し合いでは解決が望めない場合には、法的措置を取らなければなりません。
遺産の独り占めについては、相続問題に詳しい弁護士にご相談いただくことをおすすめします。以下のボタンをクリックすれば、全国の相続に強い弁護士を検索することができます。ぜひ、お試しください。