死亡後、銀行口座が凍結されたら?故人の貯金・預金引き出しの手続き
被相続人の死亡で銀行口座が凍結されると、葬儀費用などで資金が必要なとき困ってしまいます。この記事では、法改正で可能に…[続きを読む]
ネット上に限らず、遺産が独り占めされそうなケースの相談って見かけませんか?
独り占めといっても、特定の相続人が被相続人の全財産を独り占めしてしまうことは実際的には難しいですが、法定相続分より多めに取得してしまうことは可能です。その場合に、他の共同相続人には、どのような対抗策がとれるのでしょうか?
遺産の独り占めのようなケースでは、相続人間で争いが生じていると思われるので、法的な対抗措置を講ずることになります。
ここでは、具体的な事例を挙げながら、その対抗策を解説していきましょう。
目次
改めて、遺産の独り占めとは、どのような状況かを具体的に想定してみましょう。
最もありそうな例としては、親と複数の子がいる家族で、実家に残った長男が親の遺産を全て自分のものにしてしまうケースです。
結婚や就職などで実家を出た他の兄弟からすれば、実家に残った長男が、親とどのようなやりとりをしているかは、普段はわかりません。そして親が亡くなり、その後遺産分けの話になったときに、実家の土地建物や預貯金が、ほとんど長男のものになっていたというのが典型的な例でしょう。
それでは、遺産を独り占めするには、どんな方法が考えられるのでしょうか?
遺産分割においては、遺言書がある場合とない場合では、手続きが大きく異なります。
遺言書がない場合には、全相続人による遺産分割協議を経ないと分割を行うことができません。従って、遺言書がない場合には、実家に残った長男が遺産をすべて独り占めすることは困難です。
ただし、次に解説するように生前に親の財産をなし崩し的に使いこんでいる可能性もあります。
親の生前に行えることとして、親名義の預貯金などを引き出して使いこむ、長男名義の口座に移してしまう、という方法が考えられます。
子が実家で親と同居しているような場合には、親の高齢化とともに親の預貯金等の管理を子が行うというのは、よくあることです。
特に子供夫婦が親の世話をするようになると、生計費も一体となるため、その傾向はすすんでいきます。そうすると親名義の預貯金を引き出して、使いこんだり子供名義の口座に移し替えたりすることは容易にできてしまいます。
正攻法で遺産を独り占めしようとするならば、長男は親に「長男に全ての遺産を相続させる」旨の遺言書を書いてもらおうとするでしょう。
親の判断力が正常なうちに、公正証書遺言にしておけば万全です。
親がそのような遺言の作成に反対したときは、「遺言書の偽造」という手段が考えられます。親の筆跡をまねて「自筆証書遺言」を作成し、親の実印を押印すれば形式上は可能です。
それでは、これらの遺産独り占めにどのような対抗手段が考えられるのでしょうか?
長男によって親の預貯金が流出しているような事態が想定されるときには、直ぐに被相続人の死亡を口座のある銀行に伝えましょう。
被相続人の死亡を知った銀行は、口座を凍結します。長男とは言え、被相続人の口座から預貯金を引き出すことはできなくなり、それ以上の遺産流出を防ぐことができます。
では、相続人である子供達が集まって遺産分割の相談をした際に、始めて親の預金の使いこみが判明したときには、どう対応すればよいでしょうか?
兄弟どうしで争うのも精神的にはきついですが、事実関係をはっきりさせたいと考えるならば、家庭裁判所に対して遺産分割に関する家事調停の申立てを行います。
調停で決着できないときはさらに審判に移行します。審判の中で長男が取得した現金や不動産が特別受益と認められるかが焦点になります。特別受益と認められると長男の相続分はその分だけ減額され、結果として独り占めに対する対抗策となります。
また、不当利得返還請求や不法行為による損害賠償請求といった訴訟の提起も可能です。いずれにしても、この段階に至っては、弁護士に依頼するのが得策と言えるでしょう。
次に、「全ての財産を相続させる」旨の遺言への対策です。
民法では、法定相続分よりも、遺言による相続分の指定が優先することになっています。
民法902条 (遺言による相続分の指定)
被相続人は、前二条(法定相続分)の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
また、1人の相続人に全ての遺産を相続させる遺言についてもそれを制限する定めはありません。
ただし、民法902条にもあるように、たとえ遺言でも遺留分を侵害することはできません。従って、このケースでの遺産の独り占めへの対抗策は、遺留分減殺請求の手続きとなります。
遺留分減殺請求の手続きは、対象の相続人に意思表示するだけで有効ですが、通常は後々の争いに備えて、証拠能力の高い内容証明郵便で通知する方法がとられます。
遺留分減殺請求における内容証明郵便の書き方については、以下の関連記事をご覧ください。
遺留分減殺請求権は相続の開始を知ったときから1年で時効消滅してしまうため、時効にかからないよう、まずは意思表示をしておくことが大事です。
最後に、強迫等による遺言や遺言書の偽造についての対抗手段です。
民法に以下の定めがあります。
民法891条 (相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
(中略)
民法にこのような条文があるとはいえ、もし実家に残った長男が「この遺言書は親が書いたものに間違いはない。」と主張したときに、すぐに反論するのは難しいでしょう。
こうなると、共同相続人間の話し合いで解決することは難しくなります。遺言の内容が、生前の被相続人の言動などからみて不自然であるとか、遺言の筆跡に疑いがあるなどの事情があっても、当事者どうしでは事実解明はできません。
そこで「遺言無効確認請求訴訟」という裁判手続きが用意されています。これは、効力に争いがある遺言について法律的に無効であることを、裁判所に確認してもらうための裁判手続きです。ある遺言が無効であることを確認する判決が得られれば、その遺言に基づく遺産分与がなされることを防ぐことができます。
遺産の独り占めに係る画策とその対抗策について、説明しました。遺産の独り占めといっても、1人の相続人が被相続人の全財産を取得することは、実際問題として難しいですが、いろいろと画策することで、本来の相続分よりも多く取得する手段はあります。
しかし、ここでご紹介した独り占めの手法については、法的あるいは道義的な問題があります。
相続が原因で、親族間の信頼関係が壊れてしまったなどの悲しい話を聞くことがありますが、そのようなことにならないよう、話合いで解決していくことが望まれます。それでもなお、法的な対応をとらなければいけない場合には、相続問題に詳しい弁護士など専門家にご相談いただくことをおすすめします。