遺産分割調停とは?|流れや有利に進めるポイントを分かりやすく解説

被相続人の遺言書がなければ、遺産を分割するために遺産分割協議を行うことになります。しかし、遺産の分割は、相続の中でも争いになりやすい手続きです。

遺産分割協議が合意に至らなければ、舞台を家庭裁判所に移し、遺産分割調停として遺産の分割方法について話し合うことになります。

この記事では、遺産分割調停の流れや、有利に進めるポイントなど遺産分割調停の基本的な事柄について解説します。

遺産分割調停とは

最初に、遺産分割調停について押さえておきたい基本事項を解説しておきましょう。

1-1.遺産分割調停とは

遺産分割調停とは、相続人間の話し合いでは遺産分割についての合意が整わない場合に、家庭裁判所の仲介で遺産分割の方法を話し合い、解決を図るための手続きです。

相続では、被相続人の遺言書があれば、遺言書に従い遺産が分割されますが、遺言書がない場合には、相続開始により遺産が共同相続人全員の共有状態となるため、相続人全員で遺産を分割しなければなりません。そのため、まずは相続人全員で遺産分割のための話し合いである協議を行いますが、この協議が不調に終わると、調停に付すことになります。

「調停」とは、紛争の当事者が裁判所の助けを借りて、話し合いによる合意によって紛争の解決を図る手続きを指します。

遺産分割調停では、1人の裁判官と民間から選ばれた2人以上の調停委員で構成する調停委員会が、当事者の間に介入して話し合いを行うことで当事者が直接話し合いをする必要がなくなり、感情的な対立を避けた話し合いが可能になります。

民事調停委員とは

調停手続き開始の申し立てにより、裁判所は裁判官とともに複数人の「調停委員」を選任します。

調停委員というのは裁判所に非常勤で所属しているスタッフのことで、トラブルになってい当事者間の話し合いがスムーズにいくように支援をしてくれる人たちのことです。

原則として年齢40年以上70年未満の以下の者の中から、最高裁判所が任命します。

  • 弁護士となる資格を有する者
  • 民事若しくは家事の紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する者
  • 社会生活の上で豊富な知識経験を有する者

多くの場合、遺産分割協議の調停委員は、相続財産の調査や、相続人となる法律上の要件などについて法律的な知識が必要になるので、実務経験のある弁護士が選任されます。

1-2.遺産分割調停に要する期間

以下は遺産分割調停のうち認容・成立した件数の審理期間を取りまとめたものです。

このうち、審理期間が2年以内のものが最も多く31.6%、1年以内が29.1%とそれに次いでいます。長いものになると、3年を超えるケースがあることもお分かりいただけると思います。

2021年の遺産分割調停の審理期間

1ヶ月以内 3ヶ月以内 6ヶ月以内 1年以内 2年以内 3年以内 3年超 総数
件数 41 478 1,136 2,036 2,211 751 343 6,996
割合 0.59% 6.83% 16.24% 29.10% 31.60% 10.74% 4.90% 100.00%

【出典】「第53表 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数―審理期間別代理人弁護士の関与の有無及び遺産の価額別―全家庭裁判所」令和3年司法統計年報3家事編より|裁判所

1-3.遺産分割調停と遺産分割審判との違い

では、遺産分割調停と遺産分割審判は、どこが違うのでしょうか。簡単にまとめておきましょう。

調停 審判
手続きの進め方 当事者の話し合い 審判官が当事者の主張・資料を基に決する
調停委員 関与する いない
当事者の合意 成立に必要 審判を下す際に当事者の合意は不要

最も大きな違いは、調停は、当事者の合意がない限り成立しないのに対し、審判では当事者の主張や意向にかかわらず、審判が下される点です。

そのため遺産分割審判では、相続人の均衡を考慮しなくてはならないことから法定相続分を尊重せざるを得ないため、当事者の主張や意向にかかわらず、法定相続分による遺産分割が結論となることが多くなります

したがって、柔軟な対応を求めたければ、相手方の相続人に多少の譲歩をしても、遺産分割協議で合意するほうが得策と言えるでしょう。

2.遺産分割調停の流れ

遺産分割調停の流れを簡単に示すと次の通りとなります。

遺産分割調停の流れ

2-1.遺産分割では調停前置主義が採用されないが・・・

調停前置主義とは、家事事件(離婚などの家庭に関する事件)や民事事件において裁判の前に最初に調停での解決を図らなければならないという決まりです。しかし、遺産分割で設けられているのは裁判ではなく「審判」であるため、この調停前置主義が採用されていません。

しがたって、遺産分割協議が整わない場合には、直接遺産分割審判の申し立てを直接行うことができるとする建前になっています。

しかし現実には、遺産分割調停を経ずに遺産分割審判を直接申し立てても、家庭裁判所に理由を確認され、調停に付されてしまうのが一般的です

2-2.遺産分割調停の申し立て

遺産分割調停の申し立ては、以下の管轄家庭裁判所に申立書と必要書類を提出して行います。

  • 申立人以外の共同相続人の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 当事者間で合意した管轄の家庭裁判所

申立書の書き方や必要書類については、次の記事を参考にしてくだいさい。

遺産分割調停を申立てるには、申立書その他の必要書類を家庭裁判所に提出しなければなりません。遺産分割調停申立書など書類…[続きを読む]

遺産分割協議をしても上手くいかなければ、遺産分割調停に移行することになります。しかし、遺産分割調停の申立てをするには…[続きを読む]

2-3.調停期日

調停の申立をすると1ヶ月~2ヶ月後に、第一回期日の呼出状がすべての相続人に届きます。

調停期日では、調停委員が当事者から個別に意見や主張を聞きながら、対立点等を整理し、合意に至れるポイントを探します。

調停期日は、数時間で終了し、その期日で合意が整わなければ、次回の期日に持ち越され、調停がまとまるか、調停で解決するのが無理だと判断されるまで月1回程度の期日を重ねます。

東京家庭裁判所では、次の順番で論点を議論・整理する段階的進行モデルを提唱しています。

  1. 相続人の範囲の確定
  2. 遺産の範囲の確定
  3. 遺産の評価
  4. 特別受益・寄与分の確定
  5. 遺産の分割方法の確定

2-4.遺産分割調停の取り下げ

遺産分割調停は、調停が終了するまでいつでも取下げが可能です。取り下げには、相手方の同意も必要ありません。

取り下げは、取下書を家庭裁判所に提出して行います。取下書に理由を記載する必要はないため、どのような理由であっても調停を取り下げることは可能です。

遺産分割調停が取り下げられると、調停は最初からなかったものとなります。

2-5.調停の成立と調停調書の効力

期日を経ることで、相続人全員の合意がなされると、調停は成立します。調停が成立すると、審判官により、相続人全員に対して調停による合意内容が読み上げられ、その合意内容に従い調停調書が作成されて後日自宅に送られてきます。

調停調書には、判決書と同一の効力が認められます。具体的には、調停調書があれば、判決書と同様に債務名義として強制執行が可能になるのです。そのため調停調書の内容に従って、単独での相続手続きが可能になります。

2-6.遺産分割調停の不成立

調停が合意に至る見込みがないと判断されると、調停は不成立となり、自動的に遺産分割審判へと移行します。そのため、審判への移行には、特に手続きは必要ありません。

ただし、裁判所が相当と認める場合には、当事者からの申立てによらず「調停に代わる審判」を行うことがあります。調停に代わる審判では、迅速かつ終局的な解決が図られるため、通常の遺産分割審判より時間的、精神的、経済的なメリットが大きい手続きとなっています。

遺産分割調停は平日に行われ、1年以上続くこともあります。仕事で欠席することや、もう参加したくなくなることもあるでしょ…[続きを読む]

当事者の話し合いでは決着がつかなければ、遺産分割審判により解決を図ります。遺産分割審判とは、どのようなものでどのよう…[続きを読む]

3.遺産分割調停を有利に進める3つのポイント

では、遺産分割調停を有利に進めるためには、どのような点に気を付ければいいのでしょうか。

ここでは、3つのポイントをご紹介します。

遺産分割調停を有利に進めるポイント

3-1.証拠を集め法的な根拠を持って主張する

遺産分割調停では、法的な根拠を持つ主張が優先されます。そのため、できれば証拠を収集し、法律的な根拠を伴った主張をする必要があります。

ご自分では難しい場合には、弁護士に依頼することも検討する必要があります。

3-2.譲歩できるところは譲歩する

遺産分割調停では、100%自分の主張のみが通るわけではありません。自分の主張のみに拘っていると、合意する見込みがないと判断されて審判に移行されてしまいます。

譲歩できるポイントを明確にし、優先順位を付けて主張することで、合意に至れる道筋も見えてくるはずです。

3-3.隠し事や嘘、誇張はせず調停委員の心象を害さない

隠し事や嘘、誇張が調停委員にばれてしまうと、調停委員の心象が悪くなってしまいます。調停委員に、主張が信頼に足らないと信用されなくなってしまうと、まとまる話もまとまらなくなってしまいます。

4.遺産分割調停のメリット・デメリット

4-1.遺産分割調停のメリット

遺産分割調停のメリット

相手方と直接対面する必要がない

遺産分割調停では、相続人がそれぞれ別室に待機し、別々に調停委員に話を聞いてもらうことができます。

そのため、相手方と対面する必要がありません。

第三者が介入することで冷静に話し合うことができる

遺産分割調停でご自分が主張をするのは相手方ではなく、あくまで調停委員です。まったくの第三者に主張することで、感情的になる要素がなく、話し合いを冷静に進めることができるでしょう。

非公開で行われるためプライバシーが保たれる

遺産分割調停は、非公開で行われるため、当事者のプライバシーが保たれるのもメリットの1つでしょう。

4-2.遺産分割調停のデメリット

遺産分割調停のデメリット

調停が成立するとは限らない

調停はあくまで話し合いの場であり、決着が付かなければ審判へと持ち越されます。

調停で決着が付くとは限りません。

調停が長期化する可能性がある

先述した通り、調停は月1回程度の期日が開かれ、長期化すると3年以上の歳月を要することもあります。

ある程度の長期化は、覚悟する必要があります。

5.遺産分割調停についてのよくある質問(FAQ)

遺言書と遺産分割調停の関係について詳しく教えて?

遺言書があっても相続人全員が遺言書と異なる遺産分割をすることに合意した場合や、遺言書に記載されているのが相続分の指定の場合には、遺産分割協議をすることになります。また、遺言書に記載のない遺産がある場合には、記載のない遺産について遺産分割協議を行うことになります。

こうしたケースで、遺産分割協議が整わなければ、遺産分割調停に持ち込まれることになります。

もし、遺言書の有効性に疑義を挟む相続人がおり、相続人間で決着を付けることができなければ、遺言無効確認訴訟により遺言書の有効・無効を確認してから遺産分割協議や遺産分割調停を行います。

遺産分割調停はあくまで遺産を分割するための手続きであり、その前提となる遺言書が有効だった場合には、調停によって遺産を分割しても無駄になってしまうからです。

遺産分割調停も弁護士に依頼したほうがいいの?

以下は、遺産分割調停に弁護士が関与した割合です。80%以上で推移していることがお分かりいただけると思います。

全国総数 弁護士の関与あり 割合
2021年 6,996件 5,939件 84.89%
2020年 5,846件 4.907件 83.94%
2019年 7,284件 6,009件 82.50%
2018年 7,578件 6,294件 83.06%

確かに遺産分割調停は、弁護士に依頼しなくても相続人自身が出頭すれば足ります。しかし、相手方は、80%以上の割合で弁護士に依頼しているでしょう。もし、あなたが弁護士に依頼せずに遺産分割調停に挑めば、形勢が不利になることは明らかです。

遺産分割調停をなぜ弁護士に依頼すべきか、メリットや費用については、「遺産分割調停を弁護士に依頼すべき理由と費用を詳しく解説」を参考にしてください。

まとめ

ここまで、遺産分割調停について解説してきました。

調停では、法的な主張が優先されるため、弁護士が関与する割合が高くなっています。

もし、遺産分割調停をお考えの方がいらっしゃいましたら、一度弁護士に相談することをお勧めします。

相続に強い弁護士が問題を解決します

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相続発生前後を問わず、相続に関連する問題に対して、弁護士があなたの味方になります。 まずは気軽に相談されることをオススメいたします。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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