特別受益とは?受益が認められるケースと計算方法を解説!
相続人間の公平を図るために「特別受益」というルールがあります。特別受益とは何か、特別受益のある相続人がいる場合の計算…[続きを読む]
遺産分割協議が不調に終わると、家庭裁判所に対して遺産分割調停を申し立てをすることになります。しかし、費用をかけてまで弁護士に依頼するべきかどうか迷われることはあると思います。しかし、結論から言うと、遺産分割調停は、弁護士に依頼するべきです。
遺産分割事件の約8割は弁護士に依頼されており、ご自分の主張を家庭裁判所に受け入れてもらうことは、弁護士抜きでは難しいことが多いからです。
ここでは、遺産分割調停を弁護士に依頼すべき理由はどこにあるのか、その理由を解説し、弁護士に依頼する場合の費用についても解説します。
遺産分割調停を弁護士に依頼すべき理由には、次の5つのポイントを挙げることができます。
1つずつ解説していきます。
次の裁判所の統計をご覧下さい。
遺産分割調停調停のうち認容・調停成立した件数のうち、弁護士を代理人として選任した件数です。
2021年では84.89%と遺産調停事件の8割以上を弁護士に依頼しています。弁護士を依頼しなかった遺産分割調停は、2割以下で推移していることが分かります。
認容・成立した遺産分割調停に代理人弁護士が関与した件数とその割合
全国総数 | 弁護士の関与あり | 割合 | |
---|---|---|---|
2021年 | 6,996件 | 5,939件 | 84.89% |
2020年 | 5,846件 | 4.907件 | 83.94% |
2019年 | 7,284件 | 6,009件 | 82.50% |
2018年 | 7,578件 | 6,294件 | 83.06% |
【出典】令和3年司法統計年俸「第53表 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数―審理期間別代理人弁護士の関与の有無及び遺産の価額別―全家庭裁判所」、令和2年年司法統計年報「第53表 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数―審理期間別代理人弁護士の関与の有無及び遺産の価額別―全家庭裁判所」、令和元年/平成31年司法統計「第53表 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数ー審理期間別代理人弁護士の関与の有無及び遺産の価額別 ー全家庭裁判所」平成30年司法統計「第53表 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数―審理期間別代理 人弁護士の関与の有無及び遺産の価額別―全家庭裁判所」
このように、遺産分割調停では、弁護士に依頼することが当たり前となってきています。
相手方が弁護士に依頼すると、一個人で対応することは難しいことが多いでのす。
では、なぜ、80%を超える遺産分割調停で、弁護士に依頼したのでしょう。
確かに、調停は話し合いの場です。しかし、遺産分割が法律問題であることに変わりありません。
話合いを仲介する裁判官と調停委員は、各相続人にどのような法的権利があるか、どの点が法的争点なのかを常に考えながら調停を進行させます。
そのため、法的に意味をなさない主張は受け入れてもらえません。
例えば、遺産分割で争点になりやすい「特別受益」の問題で、「兄弟の一部だけが大学に進学させてもらい被相続人から特に優遇されており、進学させてもらえなかった自分の取り分は5割増しだ」と主張したいとします。
しかし、ただ不公平だと主張するだけでは、裁判所に受け入れてもらうことはできません。
特別受益を主張するのであれば、その進学先の当時の入学金や学費など、具体的な数字を調査し、裏付ける証拠資料をそろえて裁判所に提出しなければいけません。
このように、調停で主張し、受け入れてもらうには、証拠を揃えて法的に納得してもらえるよう主張する必要があります。これは一個人には難しいことです。
他に遺産分割で争いとなりやすい点として、寄与分や不動産の評価額が挙げられます。
寄与分を主張する際には、特別な寄与行為によって被相続人の財産がどれだけ増加したのかを立証しなければなりません。
不動産の評価額が争点になっている場合には、路線価格や近隣取引事例を参考にして説得力のある評価額を主張する必要があります。
いずれも法律的な問題であり、裁判所に受け入れてもらうには、主張を整理し、証拠で裏付けることが重要です。
「話合いだから、そこまで厳密に考えなくても良いのでは」と思われるかもしれません。
しかし、調停が成立しなければ自動的に遺産分割審判となります。調停の段階で、しっかりと法的主張をしておかないと、審判で不利な判断となってしまう危険性もあるのです。
遺産分割調停の段階から、法律の専門家である弁護士を代理人として法的権利を明確に主張することが必要であり、だからこそ8割を超える遺産分割調停で弁護士が選任されているのです。
他に遺産分割調停を弁護士に依頼する理由の1つに、遺産分割調停裁判官や調停委員と話をする際に、隣に弁護士が同席してくれるという大きなメリットが挙げられます。
調停に持ち込まれた時点で当事者間の人間関係は悪化しており、調停の席で感情的になってしまうケースは珍しくありません。
裁判官や調停委員は、当事者が興奮することには慣れていますから、ほとんどの場合、冷静に受け止めてくれます。
ただし、本人が感情的になってしまい、言うべきことを言い忘れたり、伝えなければならないことがうまく伝わらなかったりする危険があります。
しかも、裁判官も調停委員も人間ですから、万一、感情を害することになれば、決して良い結果にはつながりません。
弁護士が同席することで本人も冷静に落ち着いて話ができ、感情的になりそうな話や、込み入った事情は弁護士から整理して説明してもらったり、書面にして提出してもらったりすることもできます。
次の統計は、遺産分割調停が成立するまでの期間を示しています。
遺産分割調停は、想像以上に時間がかかることがおわかりいただけるでしょう。
2021年遺産分割調停における成立までの審理期間
調停成立総数 | 6,996件 | 割合 |
---|---|---|
1月以内 | 41件 | 0.06% |
3月以内 | 478件 | 6.83% |
6月以内 | 1,136件 | 16.24% |
1年以内 | 2,036件 | 29.10% |
2年以内 | 2,211件 | 31.60% |
3年以内 | 751件 | 10.73% |
3年超 | 343件 | 4.90% |
【出典】令和3年司法統計年俸「第53表 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数―審理期間別代理人弁護士の関与の有無及び遺産の価額別―全家庭裁判所」|裁判所
6ヶ月以内に成立した調停は25%にも届かず、7割以上の調停は半年を超えており、1年超かかった調停が5割近くもあることがわかります。
通常、相続人がこのような長期間に渡って裁判所に通うのは、精神的にも肉体的にも辛いことになるでしょう。
一方で、体調が悪いときや、どうしても仕事を休めないときなど、調停に欠席せざるを得ない場合でも、弁護士に依頼していれば代理人として出席することができ、調停期日を無駄にすることもありません。
このように、弁護士は、法的アドバイスができるだけでなく、相続人に代わって裁判官、調停委員とやりとりをし、あなたに有利な主張をして調停を進めてくれるのです。
一方で、司法書士や行政書士では、家庭裁判所において相続人の代理となることはできません。
遺産分割調停を弁護士に依頼すると、申立書を作成し提出するところから解決に至るまで任せることができます。
遺産分割調停では、調停が進み、新たな法律問題が出現するたびに、様々な資料、追加書類の提出を求められます。弁護士に依頼すれば、これらの作業を全て任せることが可能です。
調停が成立した後も、出来上がった調停調書に基づく不動産の登記名義変更や、預金の名義変更など、最終的に遺産を手にするまでの各種手続までを弁護士に担当してもらうことができます。
一方で、万一調停が不成立となり審判になったとしても、調停を担当した弁護士に引き続き依頼することができ、事情を知る専門家が付いていれば審判も安心です。
ここからは、遺産分割調停を弁護士に依頼した場合の弁護士費用相場についてご説明しましょう。
弁護士の費用は、2004年3月まで、日本弁護士連合会と各地域の弁護士会による報酬規程が定められていましたが、規程が廃止された今ではオープン価格となっており、各弁護士が自由に価格を設定することが許されています。
しかし、現在でも旧規程をそのまま事務所の報酬基準とする弁護士も多いのが実情です。そこで、ここでは、旧規程(東京弁護士会「弁護士報酬会規」1996年4月施行)にしたがって説明します。
弁護士費用のうち、大きな割合を占めるのが着手金と報酬金です。
着手金は、事件処理を受任するときに支払います。一種の支度金と言えばわかりやすいでしょう。事件処理の結果にかかわらず、返金されることがありません。
報酬金は、事件処理が一定の成果を挙げ、事件が終了した時点で、その成果に応じて支払います。
着手金も報酬金も、その事件の「経済的利益の額」を基準として計算します。
事件の経済的利益とは、その事件の事件処理によって依頼者が得られる利益です。
遺産分割の場合、経済的利益は、対象となる相続分の時価相当額です。
ただし、分割の対象となる財産の範囲又は相続分について争いのない部分については、その相続分の時価相当額の3分の1の額です。
この経済的利益を基準として次のように計算されます。
経済的利益 | 着手金(税込) | 報酬金(税込) |
---|---|---|
300万円以下の場合 | 経済的利益の8.8% | 経済的利益の17.6% |
3000万円以下の場合 | 経済的利益の5.5%+9万9,000円 | 経済的利益の11%+19万8,000円 |
3億円以下の場合 | 経済的利益の3.3%+75万9,000円 | 経済的利益の6.6%+151万8,000円 |
3億円を超える場合 | 経済的利益の2.2%+435万6,000円 | 経済的利益の4.4%+811万8,000円 |
簡単に、次のような相続のときの費用を考えてみましょう。
被相続人 | 相続人 | 遺産 |
---|---|---|
父 |
|
|
長男Aが、株式3,000万円は、税務対策として父親の名義を借りていただけで、実際に資金を出して株式取引をしていたのは自分だから、遺産ではないと主張しています。
そこで、次男Bが弁護士に調停申立を依頼しました。
このケースでは、土地については争いがないため、経済的利益の基準は2,000万円です(時価の3分の1)。株式は、遺産に含まれるか争いがあるので、時価のまま3,000万円です。
合計額は5,000万円となり、Bの法定相続分は2分の1ですから、この事件におけるBの経済的利益は2,500万円となります。
先ほどの表から計算すると、着手金と報酬金はそれぞれ次のようになります。
着手金
2,500万円×5.5%+9万9,000円=147万4,000円(税込み)報酬金(Bが2,500万円の相続に成功した場合)
2,500万円×11%+19万8,000円=294万8,000円(税込み)
この場合の不動産の「時価相当額」は実勢価格ということになります。
ただし、遺産分割調停で不動産評価額が争いの種となるように、不動産の実勢価格をいくらと評価するかは難しい問題です。
着手金を決める段階では、まだ実勢価格を正確に明らかにすることができません。
そこで、この段階では、公示地価や路線価を参考にして、弁護士と依頼者が協議して一応の価格で計算して着手金を定めるしかありません。
遺産分割調停で正確な金額が判明し、報酬金を支払う段階で過不足を調整する場合もあれば、特に調整をしない場合もあり、どのように扱うかは弁護士次第です。
相続問題の弁護士費用については、基準も算定方法も各弁護士によって幅があり、法律相談の段階でよく説明を受けておくことが大切です。
遺産分割調停の弁護士費用は、着手金と報酬金以外に、実費と日当がかかります。
実費は必要経費であり、収入印紙代、予納郵券代、コピー代などが含まれます。通常、受任時に数万円程度を預かり、事件終了時に精算します。
日当は、出張などの場合に、着手金とは別に発生する手数料です。日当を設定するかどうか、その条件と金額も弁護士によって異なります(前出の旧規程では、半日3万円以上5万円以下、1日5万円以上10万円以下とされていました)。
遺産分割調停を依頼する弁護士選びのポイントは次の通りです。
まず挙げなければならないポイントは、相続に強く、調停の経験・実績が豊富かどうかです。
次に、料金体系が明確で、相談する際に料金について質問したときに的確な答えが返ってくるかどうかも重要なポイントです。
さらに、遺産相続では、一定以上の相続財産があれば相続税申告や、遺産に不動産が含まれていると相続登記といった手続きが必要になるため、相続税申告や相続登記が必要な方には、他の士業との連携があるかどうかも弁護士選びのポイントとなります。
これらのポイントは、弁護士事務所のホームページをご覧になれば、ある程度の情報を収集することができるでしょう。また、当サイトでも、全国の相続に強い弁護士を数多くご紹介しています。
初回の無料相談を実施する弁護士事務所も多数あるので複数の事務所にあたり、ご自分が納得できる弁護士を探してください。
調停の弁護士費用が支払えない場合には、次の2つの方法が考えられます。
事務所によっては、分割払いや後払いを受け付けていることがあります。
一括での支払いが難しい場合には、弁護士に相談してみましょう。
また、法テラス(日本司法支援センター)では、経済的に困窮している方でも気軽に弁護士に相談できるよう、一時的な費用の立て替え業務を行っています。
利用には一定の要件を満たす必要がありますが、検討する価値はあるでしょう。
遺産分割調停では、8割以上が弁護士に依頼しています。弁護士に依頼すると、1年以上の長期の調停でも安心して任せることができ、ご自分の負担も軽減できます。
また、弁護士は、依頼者の主張を法的に整理して主張し、証拠や書類の提出も任せることができます。
遺産分割調停をスムーズに進め、ご自分に有利な相続を望むなら、弁護士を代理人とすることをおすすめします。