成年後見制度の報酬算定が見直しされる?|業務内容に即した報酬に

成年後見 報酬

2020年4月現在、成年後見人の報酬算定の仕組みを見直す検討がされています。

現行の制度では、後見人の報酬額は、主に被後見人の所有する財産額に応じて定められてきましたが、新しい算定方法では「後見人が実際に行う業務内容」をより報酬額に反映させる方針です。

本記事では、成年後見制度の報酬算定がどのように変わる予定なのかを分かりやすく解説します。

1.成年後見制度の報酬支払いのしくみ|概要

【前提知識】成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症等で判断能力が低下した方や知的障がいのある方など、ご自身で財産を管理することが困難な方に代わって、第三者がその人の財産を管理してあげる制度です。

他者に財産管理権を委ねる人を「被後見人」、代わりに管理する人を「後見人」といいます。

▽成年後見制度自体については、以下で詳しくご説明しています。

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報酬支払の仕組み

親族が後見人となる場合には無償で行うことも多いですが、弁護士などの専門家等に依頼するケースでは、報酬が必要です。報酬の支払いは下記のような流れです。

  • ①後見人が報酬付与の審判を家庭裁判所に申し立てる
  • ②家庭裁判所が審判を行い、報酬額を決定
  • ③後見人は決定された額の報酬を被後見人の財産から貰う

今回検討されている変更は、②の報酬額を算定する際の方法・基準が変わるというものです。
以下で詳しく解説していきます。

2.現在の成年後見制度の報酬算定

そもそも、これまで成年後見の報酬はどのように算定されてきたのでしょうか。
現在は、「基本報酬」に加えて「付加報酬」がなされるという形がとられています。

基本報酬

後見人の業務内容の如何を問わず、月額2万円を目安として報酬が支給されることとされています(※)。「基本報酬」と呼ばれるものです。

※ただし、管理される被後見人の所有財産が高額な場合には、基本報酬額は以下の通り増額されます。
管理財産額が1000万円を超え5000万円以下:基本報酬額が月額3万円~4万円/管理財産が5000万円を超える場合:基本報酬額が月額5万円~6万円

付加報酬

成年後見人の業務には、財産を管理する以外にも、被後見人の生活をサポートすることがあります。

そんなサポートの役割の中で、裁判所が「成年後見人の通常するべき事務の範囲を超えて特に苦労した」と認められるような特別な行為があったときには、追加の報酬として、基本報酬に加えて「付加報酬」が与えられるのです。

特別の行為の例として、成年後見人が被後見人の遺産分割調停を申立てて、被後見人に遺産を取得させるなどの行為が挙げられます。

▽現在の成年後見制度の報酬について詳しくは以下をお読みください。

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3.報酬算定方法を変更する背景|現在の問題点

全国的に成年後見制度の利用数はまだまだ少なく、保護が必要とされている人々に行き渡っていない現状があります。

しかし、現在の成年後見制度の報酬算定の態様には、様々な問題点も指摘されています。

最大の問題点は、成年被後見人の所有財産額に応じて基本報酬が定められているため、後見人の行うハードな業務内容が金額に見合っていなかったり、あるいは被後見人からすると、大した仕事もしてくれない後見人が多額の報酬を受け取ったりするケースがあることです。

こういった事態を改善するために、成年後見制度の報酬算定方法が見直されようとしているのです。

4.新しい成年後見制度の報酬はどう変わるか

では、いよいよどのように算定方法が変わるのかについてです。

4-1.「基本報酬」は撤廃される

まずは、これまで後見事務の内容に関わらず月額〇万円、等と定めていた「基本報酬」という考えが撤廃されます。
より後見人が実際に行っている業務の重さを金額に反映しようという新しい方針に即したものです。

また、被後見人の所有財産が多額であったとしても、必ずしもそれが後見人の事務内容の負担の大きさには比例しませんから、被後見人の財産を基準にするという考え方も基本的に採られない予定です。

4-2.2段階の算定|生活支援業務がより評価されるように

新しい成年後見制度の報酬算定は、後見人が行う業務の内容によって、2段階に分けて考えられます。
「通常の事務」と「付加的な事務」です。

通常の事務に関して

後見人が通常行うべき基本的な事務については、どの事案であってもひとまとまりとして評価されます。
すなわち、「財産管理」「被後見人の生活のサポート(身上監護)」「家庭裁判所への定期的な報告」など、後見人になった以上の義務といえるような通常の事務については、単独の作業で評価せず、業務のカテゴリーごとに評価するのです。

そのカテゴリー内で必要な事務を行わなかった場合には、報酬額が減らされます。

付加的な事務に関して

通常の事務とは反対に、「付加的な事務」についてはそれぞれ単独で評価されます。
付加的な事務とは、先述したような、成年後見人が被後見人のために通常の事務の範囲を超えて行ったといえるような、特別な行為です。

このような事務については、どんな事務を行ったかという内容や、後見人にかかった負担(時間的労力や金銭的労力など)を個別具体的に考慮していきます。

この変更によって、現在は財産管理ばかりに評価が向けられていますが、後見人が行う「被後見人の生活支援」がより高く、柔軟に評価されるようになります。

5.まだ新しい報酬算定方法には切り替わっていない

しかし、現段階ではまだ新しい成年後見制度の報酬算定方法にはなっていません。

各家庭裁判所に成年後見制度の報酬のめやすが載っていますが、その内容が修正されていないことからもお分かりいただけるかと思います。

▽一例として、東京都家庭裁判所がHPに掲載している報酬目安を載せておきます(平成25年に作成された内容のまま切り替わっていません)。
東京都家庭裁判所の報酬額のめやす【pdf】

現在は、利用者が報酬額を予め想定できるよう、どんな事務内容にいくらの金額をあてるのかというより具体的な基準を設けることや、その情報公開方法はどうするかなどの検討に時間を要しているようです。

とはいえ、高齢化社会にある日本では認知症の方の数も増加傾向にあり、成年後見制度の利用は促進する必要がありますから、遅かれ早かれ、新しい報酬算定方法が現場に取り入れられるのではないかと考えられます。

新しい方針を意識しつつ、今後の動向を見守っていきましょう。

6.まとめ

本記事では、成年後見制度の報酬の算定が、被後見人の財産額を基準に行われている現在の方法から、「実際に後見人が行った業務内容に応じて報酬額を決定する」という方法にシフトする予定であることをご説明しました。

たしかに新しい方法のほうが実情に即しており魅力的かもしれませんが、事務内容ごとの具体的な基準を設け、実際に新方法を適用するには、まだ少し時間がかかるようです。

新しい情報が入り次第、随時更新していきます。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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