成年後見人の報酬額の相場:一般の人と専門家の違い
認知症などで、自分で法律行為を正しく判断できない人を守るために、日本では「成年後見制度」が整えられています。そしてこ…[続きを読む]
広く利用されるようになった成年後見制度ですが、どうしても問題点は残ります。
ご家族やご自分の状況に成年後見制度が適切なのか、制度を利用する際はどういう点に注意すればいいのかをよく検討することで、後悔や相続争いを防ぎやすくなります。
この記事では、成年後見制度(法定後見制度)の問題点と現在行われている対策、改善点についてご紹介します。
目次
成年後見制度は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(民法7条)、つまり判断する能力に欠ける方を保護するための制度です。
取引などによって自分が権利を取得し義務を負担することを、理解・判断することができる能力を意思能力と言います。
この能力がないと、不当な契約を押しつけられるなどして、損害を被り、財産を奪われてしまう危険があります。
意思能力が欠ける方による契約などの取引は、法的には無効ですが、被害者が自分でこれを主張して財産を取り戻すことは実際上困難です。
他方、取引の相手方としても、後に無効を主張される危険があるのでは、安心して取引することができません。このため、意思能力が不十分な方と契約する者はいなくなり、社会生活を送ることができなくなってしまいます。
成年後見制度は、このような不都合を避けるために、成年後見人を選任して、意思能力が不十分な方をサポートする役割を担わせるものです。
成年後見人には以下の権限が与えられています。
本人に不利な行為を取り消せる一方で、本人を代理して有効な契約を締結できるようにして、相手も安心して取引ができるようにしているのです。
しかし、成年後見制度も良いことずくめではありません。
以下では、この制度のデメリット、問題点、制度としての課題などをご説明します。
成年後見制度は平成11年の民法改正によって導入されました。
制度導入以降の利用者数は、2000年度では家庭裁判所による成年後見人の選任審判数が7,451人だったのに対し、2017年には27,798人になっており、増加し続けていることが分かります。
毎年選任されますので、2018年の保佐等も含めた合計の制度利用者数は22万人弱になります。
しかし、認知症高齢者等の人数は2020年で約600万人と言われており、成年後見制度を利用すべき人に行き渡っていない現状があります。
成年後見人として親族が選任されることがあります。
近年は安易に親族が選任されることは減少してきましたが、それでも2018年は全体の約23%で親族が後見人に就任しています。
親族は、一方では被後見人となる本人のことをよく理解していたり、常日頃から手厚いサポートを行うことができる側面があります。
しかし他方で、本人の財産を自由に使えると誤解する人がいたり、一般的な相続争いを前倒しするかのように本人の財産を支配しようとする人がいることも指摘されています(これについては後述します)。
そのため、現在では弁護士等の専門職後見人が専任されることが増加しています(2018年は全体の68%)。
弁護士等が専任されることが増加しているとは言っても、誰もが弁護士に依頼できるわけではありませんし、1人の弁護士が持てる案件の数も限られています。
このことも、利用者数増加を阻む成年後見制度の問題点と言えるでしょう。
現在では、市民後見人の育成や支援が重要視され、2016年には成年後見制度利用促進法が制定されました。
また、およそ1/4の自治体で、市民後見人の養成に関する事業を実施しています。
直ちに改善されるものではありませんが、徐々に利用者に則した制度設計になりつつあります。
成年後見制度は、本人の保護を目的としているため、本人の利益を図るための財産利用しかできません。
例えば、子や孫の事業資金や教育資金を支出しようとしても、それは「本人の利益」ではありません。
このように、成年後見制度を利用して家族を資金面で支援するといったことはできません。
成年後見制度を利用すれば贈与等の相続税対策ができると思われている方もいらっしゃいますが、成年後見制度を利用しても、贈与や養子縁組等の一般的な相続税対策ができるようになるわけではありません。
後見を利用する状況では、通常、法律上の「意思能力」というものがなく、贈与等の行為が無効だからです。
「成年後見では財産管理がされるのになぜ?」と思われるかもしれません。
しかし、一般的に贈与は本人の利益になるものではありませんので、成年後見制度を利用しても行えません。
また、養子縁組もよくある相続税対策ですが、財産管理ではなく、人の身分についての行為ですので、同様に行えません。
(もっとも、意思能力があり、保佐や補助で成年後見制度を利用されている方は、原則として保佐人等の同意で贈与をなし得ます)
成年後見制度を利用するためには、利用開始時の申し立ての経費と、成年後見人に対する報酬が必要になります。
ただ、現在は支援制度も充実してきており、必ずしも報酬がネックではなくなりつつあります。
成年後見人には本人の財産から相当な報酬を支払うのが一般的です。
報酬は成年後見人が家庭裁判所に申立てをして、裁判所の許可を得たうえで、本人の財産から取得することができます(民法862条)。
したがって、成年後見人が裁判所に報酬を請求しなければ、無報酬でも構わないのです。
ただ、一般的には無報酬というわけにもいきません。特に、親族以外に頼む場合は一定の報酬が必要です。
報酬額は、本人の財産額、成年後見人が担う行為の内容など、成年後見人の負担の程度によって異なります。一例として、東京家庭裁判所では基本報酬は月額1万円~3万円を目安としています。
また、基本報酬とは別に、成年後見人が何か通常と異なる事務を行ったときは、別途その報酬額が上乗せされることがあります。
例えば、本人名義の賃貸物件を新たな賃借人に貸す契約を締結した場合などです。
費用や報酬が必要なことで制度利用のハードルが上がってしまっては意味がありません。
そのため、自治体の約85%は費用及び報酬の助成制度を設けています。
費用、報酬、どちらに対しても助成のない自治体はわずか5~6%です。
どの程度の助成を受けられるかは自治体によって異なりますが、これらの助成を利用することで、成年後見制度の利用にかかる出費を抑えることもできます。
ただし、利用については自治体ごとに条件がありますので、それぞれの自治体に確認するようにしてください。
成年後見制度は、成年後見人に財産の管理権を委ねてしまいます。
預貯金の引き出し、振込は成年後見人が行うことになりますから、財産を横領されてしまう危険性も否定できません。
実際、2013年~2018年の6年間で、成年後見人等による横領等の不正件数は3,060件、被害額は約183億円にもなります。
そして、これらのうち殆どが専門職以外の親族等によるものでした。
親族の後見人がこうした不正を行った場合、それ自体でも大変なことですし、その後の相続もスムーズには実現できないでしょう。
もちろん、成年後見人は、定期的に家庭裁判所へ収支を報告する義務があります。
家庭裁判所は、成年後見人が不正を働かないよう監督します。成年後見人を監督する者(後見監督人)を選任して監督させることもできます(民法849条)。
不正行為などがあれば、親族などが家庭裁判所に成年後見人の解任を請求することも可能です(民法846条)。
さらに、成年後見人が、本人の財産を自分のために消費すれば、業務上横領罪(刑法253条)として10年以下の懲役刑となります。
また、成年後見人等の不正件数や被害額は、2014年をピークに急激に減少しています。
現在でも不正の危険性が無いとは言い切れませんが、専門職の後見人が増加したことや制度整備が進んでいることから、この問題点は解消されつつあります。
成年後見は、本人のための制度です。
一度、家庭裁判所の審判で成年後見開始の審判を受けてしまえば、本人の判断能力が回復しない限り、もはや成年後見制度の利用をやめることはできません(民法7条、10条)。
成年後見人が辞任したり、別の者に交代することはできますが(民法844条、846条)、制度の利用自体は原則として自由に中止することはできません。
成年後見人は、選任された際に本人の財産を調査し、目録を作成して家庭裁判所へ報告するほか(民法853条)、その後も、財産の収支などを家庭裁判所の求めに応じて報告しなくてはなりません(民法863条1項)。
通常、家庭裁判所は定期的な報告を要求しますので、専門職の成年後見人はともかく、親族の成年後見人にとっては非常に負担となる作業です。
成年後見制度を利用すると本人が不利益を受ける扱いが数多くありましたが、これらのほとんどは現在、是正されています。
かつては、成年後見制度を利用すると本人の実印を印鑑登録することができず、印鑑証明書を発行してもらうことも不可能でした。
しかし、これは成年被後見人に対する不当な取扱いを是正するための法律(※)の成立、施行によって改められました。現在では、成年被後見人でも印鑑登録が可能です。
※「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和元年12月14日施行)
かつては、成年被後見人には、選挙権も被選挙権もありませんでした。
しかし、このような取扱いは、国民に選挙権を保障した憲法(15条1項、93条2項)に違反するものです。
そこで、2013(平成25)年の公職選挙法の改正によって、現在では選挙権も被選挙権も認められています。
かつては、多くの職業において、成年被後見人であることが欠格事由とされていました。
例えば、国家公務員、地方公務員、医師、弁護士、警備員、NPO法人の役員などです(内閣府によれば、これらに限らず、成年被後見人の資格を制限する法律は200以上あったと報告されています)。
しかし、成年被後見人であるというだけで、一律に資格を制限することは不当な差別です。
そこで、この点も「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」の施行に伴い、各法令が改正されました。
今後は、その職業、資格等に応じて、これにふさわしい能力があるか否かを個別・実質的に審査し、判断する制度に改められてゆきます。
なお、会社法における会社の取締役も、成年被後見人であることは欠格事由となっており、これは現時点(2020年2月)で改正されていません。
しかし、この部分も今後の改正にむけて検討が進んでいます。
近年、政府等の広報活動により、ご家族について成年後見制度を利用しようかお悩みの方も多いと思います。
成年後見は、本人の財産管理や身上配慮に有効な制度ですが、ご紹介してきたとおり完璧な制度というわけではありません。
また、制度を使ってみて「あまり合わないから止めよう」と気楽に止めることも難しいです。
そのため、成年後見制度の利用にあたっては、ご自分とご家族の状況を整理し、弁護士や自治体等にしっかり相談することが大切です。
特に成年後見に強い弁護士であれば、制度利用の実態にも詳しいですし、状況に適切な方針をアドバイスしてくれます。
お一人で悩まずに、ぜひお気軽にご相談ください。