成年後見制度の報酬算定が見直しされる?|業務内容に即した報酬に
成年後見人の報酬の算定方法が変わる見通しです。後見人の行った業務内容や負担の大きさに合わせて報酬金額を決定し、被後見…[続きを読む]
認知症などで、自分で法律行為を正しく判断できない人を守るために、日本では「成年後見制度」が整えられています。そしてこの制度によって選出された後見人は、被後見人に代わって財産の管理・保護に務めます。
後見人は単なるボランティアではなく業務であり、報酬を受け取ることが可能です。この報酬は、成年被後見人の財産から支払われます。
報酬額は一般人か専門家によって多少変わります。
目次
成年後見制度は「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つにわけることができます。これら2つは報酬額の決まり方が異なるため、簡単に概要を解説しておきます。
任意後見制度とは、被後見人が後見人を選出して、その後見人に財産の管理や処分を託す制度です。任意後見制度の場合は、被後見人がまだ物事を判断する能力があるうちに、被後見人と後見人との間で任意後見契約が交わされます。したがって、その契約内で報酬額も決めることになります。
なお、基本的に被後見人は自由に後見人を選出できます。ただし、未成年者や解任を受けた法定代理人、保佐人などは後見人になれません。
任意後見には次の3パターンがあります。
●速効型
任意後見契約と同時に任意後見人監督人専任申立てを裁判所に直ちに、後見を開始させます。
●移行型
本人の判断能力が低下して実際に後見が開始するまでは、財産管理などの事務のサポートを受けるための通常の委任契約を結んでおきます。
その後、判断能力が低下したときにはあらかじめ契約していた後見が開始されます。
●将来型
将来、判断能力が低下したときに後見を開始させます。
法定後見制度とは、家庭裁判所が後見人を要する被後見人に対し、後見人を選出する制度です。後見人となる人は被後見人の親族や、弁護士などの専門家から選出されます。そして家庭裁判所が報酬額を決定し、被後見人の財産から支払われます。
なお任意後見制度と同様で、未成年者や解任を受けた法定代理人は後見人になれません。
任意後見制度では当事者間の契約で報酬金額が決まります。
また任意後見手続きをするためにも費用がかかるので、これらの相場について確認します。
[報酬相場:0円~3万円]
親族等の一般の人に任意後見人になってもらう場合であっても、報酬金額は当事者間の契約によって決まります。
親族に依頼する場合は「無償」であることが多いです。
もっとも、「親族だから無償で良い」といった発想ではなく、「払えるお金があまりないから、無償でも受けてくれる人を探す」という発想がほとんどです。
これまでの人的関係などから来る好意によるところも大きいので、「親族なら無償でも良い」と誤解しないようにしましょう。
報酬を定める場合、一般的には「2万円~3万円」程度です。
[報酬相場:3万円~5万円]
弁護士や司法書士などの専門家に任意後見人を依頼する場合には、「月額3万円~5万円程度」が相場です。これが基本となる費用であり、「弁護士だから」「司法書士だから」という理由で大きくは増減しません。
金額の定め方は事務所によって違い、もっと高いところ、もっと安いところもあります。
そのほか、任意後見人の契約書作成費用や、後見開始までの見守り料などが合計で「10万円~20万円」程度請求されることもあります。また、不動産などの売却があれば1回あたり10万円程度の費用がかかります。
法定後見制度では、成年後見人が家庭裁判所に報酬付与審判を申し立てることで、報酬を受け取ることができます。
家庭裁判所が諸々の事情を審判し、報酬額を決定するのです(※)。
報酬額は「基本報酬」と「付加報酬」によって決められます。「基本報酬」は、通常の後見業務に対する報酬、「付加報酬」は、特別の後見業務に対する報酬です。
※なお、前述の通り、成年後見人が親族である場合は、もっぱら報酬を求めてはいませんから、この申立てを行わずに無報酬となる場合が多いです。
ただし、これはあくまで現行の報酬算定方法です。
実は昨今、法定後見人の報酬の算定内容を見直そうという動きが出ています。
しかし、「後見人が実際に行った業務内容をより報酬額に反映する」という方針で大枠は決定しているものの、具体的な基準の検討等に時間を要しており、未だに適用には至っていません。
とはいえ、2019年に最高裁から各家庭裁判所へ変更の通知が行われ、厚労省の会議でも検討されていますから、いずれ変更することが考えられます。ご興味のある方は以下の記事をお読みください。
さて、「将来のことはさておき、今現在、法定後見の報酬額はいくらになるのか?」と気になる方も多いかと思います。
以下では、現在の算定方法による法定後見制度の費用相場を確認します。
[報酬相場:0円~6万円]
法定後見の報酬は、家庭裁判所が対象となる後見事務や被後見人の経済状態、地域の物価特性などを総合的に判断して決めます。もっとも、必ず定めるわけではありません。法定後見人の報酬を請求するには家庭裁判所に、「報酬付与申立て」をしなければなりません。
親族が法定後見人になる場合には、この申立てをしない、つまり「無償」で後見人になるケースも多いです。
報酬付与の申立てをして、実際に報酬額を定める場合には、地域にもよりますが、だいたい「2万円~6万円」程度が相場となっています。
[報酬相場:2万円~6万円+α]
専門家に法定後見になってもらう場合も、報酬額の相場は一般の方と同等です。つまり「2万円~6万円」程度です。
任意後見制度と比較すると、法定後見制度は家庭裁判所が報酬額を決めるため安心できるでしょう。
今まで見てきた基本的な報酬額に加え、特別な事情等が存在する場合には、さらに報酬が付加される場合もあります。
成年後見人の業務は、大きく分けて「財産管理」と「身上監護」です。
身上監護(しんじょうかんご)とは、成年被後見人の生活をサポートすることです。
身上監護にあたって特別な困難があった場合、
基本報酬の半額の範囲内で相当の報酬が付加されることがあります。
「特別な困難」を一概に定義することはできませんが、親権者同士の意見の対立を調整するために成年後見人が尽力した場合などがこれにあたるといわれています。
裁判所が「成年後見人の通常するべき事務の範囲を超えて特に苦労した」と認める場合にのみ報酬が付加されるので、事案ごとに検討しなくてはなりません。
報酬付与事情申立説明書に書かれているような「特別の行為」をした場合にも、相当額の報酬が付加されることがあります。
「特別の行為」とは、たとえば次のような行為です。
「特別の行為」の例 | 付加される報酬 |
---|---|
成人被後見人の配偶者が亡くなったため遺産分割調停を申立て、2千万円を成人被後見人に取得させた場合 | 約55~100万円 |
成人被後見人が受けた不法行為について訴訟を提起し、それに勝訴したことで成人被後見人の財産を1千万円増加させた場合 | 約80~150万円 |
成人被後見人の身上監護にあてる目的で不動産を売却し、3千万円を取得した場合 | 約40~70万円 |
ただし、繰り返しますが、上記の報酬算定方法は現行のものです。
遠くないうちに、「基本報酬」という一律的な考えがなくなり、実際に後見人が行った具体的な業務内容やその負担の大きさに応じて報酬額を検討するようになる予定です。
成年後見制度を用いた際の後見人への報酬額については、任意後見/法定後見の場合、また、一般人/専門家によって多少差がありますが、どの場合でも比較的安く抑えられることがわかります。
もっとも、「月2万円でも大きい」と感じる家庭も多いでしょう。とはいえ、後見人の職務内容は意外と重たく、やるべきことも多岐にわたります。
財産管理や施設入所の契約、身守り、家庭裁判所への報告など、その人の人生と関わる時間的・精神的負担の重い内容を含みますし、不適切な人選の結果「横領」などの犯罪行為が発生してしまうこともあります。
後見人に求められる職責と適正を考えれば、意外と低い金額と考えるべきでしょう。
また、将来的に成年後見人の報酬の算定方法が変わる見通しであることもご説明しました。現段階ではまだ適用には至っていませんが、今後の動向を注意深く見守っていく必要があります。
さらに、万が一費用が払えないのであれば「成年後見制度利用支援事業」を活用して見るのもいいでしょう。成年後見制度利用に当たって必要な費用や報酬を各自治体が助成してくれます。
その内容は自治体によって異なりますので、それぞれの自治体にご確認ください。
いずれにしても、報酬面だけでなく、なによりも「適切に職務を遂行してくれるか」という観点が重要です。
本サイトでも、成年後見を専門的に取り扱っている弁護士を複数紹介しているので、後見人に関してお悩みであれば、ぜひ気になる方に相談してみてください。