成年後見人の終了手続きについて|登記や報告はどうすればいい?

後見開始の手続きについては、知っていても成年後見制度がどのように終了するのかをご存知の方は、あまりいらっしゃらないかもしれません。
そこで、今回は、後見の終了について解説します。
目次
1.成年後見人の任務の終了時
成年後見人はどのような場合に終了するのでしょうか?
1-1.成年後見の終了の理由
成年後見は、次のような理由により終了します。
- 被後見人本人の死亡
- 後見審判の取り消し
本人について後見開始の原因が解消したときには、家庭裁判所は、後見開始の審判を取り消し、後見が終了します。 - 後見人の死亡
- 成年後見人の辞任
成年後見人に正当な理由がある場合、家庭裁判所の許可を受けて辞任することができます。 - 成年後見人の解任
成年後見人に不正な行為や相応しくない行為などがあった場合、家庭裁判所から解任されることもあります。 - 成年後見人の欠格事由の発生
成年後見人が破産などして成年後見人としての要件を満たさなくなったときは任務を終了します。この場合、新たな成年後見人が家庭裁判所から選任されます。
このうち、「1.本人の死亡」、「2.後見審判の取り消し」により、後見自体が当然に終了し、管理財産の計算、終了登記、終了報告といった手続きが必要になります。
一方、「3.後見人の死亡」以降は、後見自体は終了せず、新たに選任された後任の後見人に引き継がれることになります。
1-1.被後見人の死亡
被後見人が死亡すると、もはや後見人は必要なくなります。当然に後見は終了します。
1-2.後見開始審判の取消し
被後見人が判断能力を回復し、後見人の保護を受ける必要がなくなった場合には、後見開始の審判の取り消しを申立てることになります。
申立権者は、後見人や被後見人本人、被後見人の配偶者や四親等内の親族になります。
※ 申立書は、次のサイトでダウンロードできます。「後見等関連手続(後見人等に選ばれた後のことをご説明しています。)」|裁判所
1-3.後見人の死亡
後見人が死亡した場合には、家庭裁判所が被後見人や被後見人の親族などの請求により、新たな後見人を選任します。
しかし、死亡した後見人から事務を引き継ぐことができません。この場合は、新たに選任された後任の後見人が、事務については後見事務の報告書類を調べ、財産は、後見人の相続人から引き継ぐことになります。
1-4.成年後見人の辞任
後見人は、正当な理由がある場合に限って、家庭裁判所の許可により辞任することができます。
後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
正当な理由とは、後見人の高齢化や病気、転居などの理由によって事務の履行に支障を来すことが考えられるでしょう。
1-5.成年後見人の解任による終了
民法846条には、成年後見人の解任についての規定があります。被後見人や被後見人の親族、後見監督人、検察官といった解任の申立権者は、成年後見人に「不正な行為」や「著しい不行跡」がある場合は、家庭裁判所に成年後見人の解任を申立てをすることができます。
民法846条
後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる。
家庭裁判所は、相当と認める場合は後見人を解任し、申立て又は職権で、新たな後見人を選任することになります。
解任された後見人は、後述するように、新たに選任された後見人に仕事内容を引き継ぐことになります。
1-6.成年後見人の欠格事由の発覚による終了
847条各号に該当する者は、成年後見人になることができません。あまり現実的ではありませんが、家庭裁判所に選任された後であっても、これらに該当することが発覚すると、成年後見人としての地位を当然に失います。
民法847条
次に掲げる者は、後見人となることができない。
2.後見人の終了手続き
以上のような理由で成年後見人の仕事が終了した場合、成年後見人には以下の最後の手続きが残っています。
- 財産目録の作成
- 成年後見登記の申請
- 財産の引き渡し
- 家庭裁判所への終了報告
(1) 財産目録の作成
後見終了後2ヶ月以内に財産目録を作成します。フォーマットは毎年作成するものと同じです。
(2) 成年後見終了登記
被後見人が死亡した場合のみ、成年後見人又は成年後見監督人が成年後見の終了の登記申請を行います。
それ以外の場合は、家庭裁判所から東京法務局に対して依頼されます。
(3) 財産の引き渡し
辞任または解任、欠格により成年後見が終了したら、なるべく早いうちに、後任の成年後見人に対して財産を引き渡します。
本人の死亡により成年後見が終了した場合は、相続人の有無や人数、遺言の内容により異なります。
①相続人が一人の場合
その相続人に財産を引き渡します。
②相続人が複数人いる場合
複数の相続人がいる場合は、どの相続人に引き渡すのか注意が必要です。
遺産分割前の相続財産は相続人全員の共有物です。したがって、特定の相続人に引き渡すことには問題があります。相続人全員が集まったところで引き渡す、全員に通知し、代表者に引き渡すことに同意していただくなどの工夫が必要です。成年後見人が相続人の一人である場合は、利益相反行為にならないように、慎重になるべきでしょう。
③遺言がある場合
本人の遺言がある場合には、その内容に従って相続人/受遺者または遺言執行者に引き渡します。ただし、その遺言が家庭裁判所から検認を受けたものであることを必ず確認してください。遺言が無効であった場合、トラブルになります。
④相続人がいない場合
法定相続人が存在せず遺言もない場合は、相続財産清算人に引き渡します。相続財産清算人は家庭裁判所が選任しますが、選任されるまでの間は、引き続き財産の管理を行います。
なお、すべての場合において、財産を引き渡したら、その証拠として受領書をもらいます。
(4) 家庭裁判所への終了報告
最後に、後見等事務報告書、財産目録、通帳のコピー等の証拠資料を家庭裁判所に提出します。この際、終了事項が記載された後見登記事項証明書や財産引き渡しの受領書なども添付します。
本人死亡時の葬式や死亡届けについて
身近に家族が住んでいない本人が死亡した場合、葬式の手配や死亡届けは誰が行うのかという問題があります。これらは成年後見人の業務ではなく、家族が行うものです。ただ、家族がすぐに対応できない、あるいはやりたくない、そもそも身内がいないという場合、義務ではありませんが、一人の人間としてやらざるを得ない場合もあるでしょう。
実際、何十年も親子間の交流がない子供が遠くに住んでいる場合、本人死亡の連絡をしたら、散骨までお願いしますと依頼されたという例があります。その成年後見人は、ただ一人の人間として、本人の火葬を行い散骨までしたとのことです。悲しい現実ではありますが、成年後見人が本人の最後を看取ることもこれから増えてくると思われます。
成年後見人の報酬は財産額にもよりますが、基本的には月額数万円程度です。その中で、時には人の死と向き合う仕事をするのですから、単純に業務としてできるものではなく、本人のために最後まで尽くすような姿勢が要求されてくるでしょう。
まとめ
後見開始は知っていても、成年後見制度の終了についてはあまり馴染みのないものかもしれません。
しかし、後見の終了についても、開始と同様に法定された手続きがあります。
もし、後見制度についてお悩みがありましたら、一度、弁護士に相談することをお勧めします。