任意後見契約の概要と契約の流れ、方法
判断能力が低下してきた場合には、後見制度を利用して後見人にサポートをしてもらうことができます。後見制度の中には、法定…[続きを読む]
現在、日本は超高齢化社会に突入し、認知症などで判断能力に不安のあるご高齢者なども増えてきています。
そんな中で、本人の判断をサポートしてくれる成年後見制度の利用を検討している方やご家族も多いのではないでしょうか。
成年後見人は、本人の親族が就任するケースもあれば、弁護士や司法書士などの専門家・専門職が就任するケースも数多くあります。
本記事では、成年後見人になるには資格は必要なのか、皆さんが成年後見人になるためにはどうしたらよいのか、後見人・保佐人・補助人で何が違うのか等について解説します。
目次
成年後見人になるには、資格は不要です。
成年後見人になるための勉強や訓練をする必要はありません。
ただし、「成年後見人になれない人」はいます。
下記のいずれかに当てはまる人は、成年後見人にはなれません。これを後見人の「欠格事由」といいます(民法847条)。
逆にいえば、これらに当てはまらない限り、誰でもなることができるのです。
成年後見人には、親族でも第三者でもなることができます。
実際に、親族が成年後見人に選任されたものが全体の19.8%、親族以外の第三者が選任されたものが全体の80.2%となっています(令和3年)。
【参考】厚生労働省「成年後見制度の現状」より
成年後見人になる第三者の例としては、以下のような人たちが挙げられます。一般に「専門職後見人」と呼ばれる人たちです。
また、近年では法人を含む市民後見人も1%程度います。
法律的な知識から成年後見人を守ってくれる弁護士のほか、介護分野に強い社会福祉士など、様々な業種の人がいます。
では、成年後見人になるには具体的にどんな手続きをとればよいのでしょうか。
実は、成年後見制度には2種類あります。
任意後見人になりたい方はこのまま、法定後見人になりたい方は3-2をお読みください。
任意後見人になるには、被後見人がご健在のうちから、あらかじめ公正証書による契約を結んでもらう必要があります。
したがって、任意後見人になるための条件としては、被後見人の信頼を獲得し、自分が将来の後見人になることを承諾してもらうこと、といえるでしょう。
任意後見制度については、詳しくは以下の記事で解説しています。
被後見人になる人の判断能力が確かなうちから、本人の意思を尊重して成年後見人を任命できる任意後見に対して、法定後見では、被後見人が実際に後見を必要とする事態になってから後見人を見つけます。
したがって、主に問題になりやすいのは法定後見のほうでしょう。
以下からは、法定後見について解説していきます。
法定後見人になるためには、前述の通り、家庭裁判所に申立てることで審判を受け、許可が下りたら後見人としての登記を行います。申立てから登記までは2ヶ月程度は見ておきましょう。
申立ての際には、書類に成年後見人の候補者を記入しますが、「候補者」なので複数列挙することができます。
通常、候補者の中から家庭裁判所が最も適任と思われる人を選んでくれますが、選任はあくまで家庭裁判所の裁量に委ねられています。
したがって、複数人による後見が妥当だと判断された場合には複数人選ばれることもあります(共同後見)。
また、親族間で意見の対立がある場合や、候補者と本人の財産分離が不明確な場合などは、候補者以外から、弁護士などの専門職後見人が選任される傾向にあります。
法定後見人になるための手続き方法について、詳しくは以下の記事をお読みください。
申立ての必要書類(医師の診断書など)の一覧や、費用についても解説しています。
次に、成年後見人になろうとしている方にご注意いただきたい点をご紹介します。
成年後見人は、家庭裁判所に申し立てれば報酬をもらうことができます。専門職後見人だけでなく、親族後見人でも報酬はもらえます。
ただ、現実的に成年後見人の報酬はあまり高くないのが現状です。
現在の成年後見人の報酬は、基本報酬(目安としては月2万円程度)に加え、通常するべき事務の範囲を超えて被後見人のために行った特別な行為がある場合には付加報酬がもらえる、といった具合です。
しかし、最近では成年後見制度の報酬算定の見直しが図られており、報酬については今後改善される可能性もあります。
成年後見人としての仕事は多岐にわたります。
主な仕事としては、財産管理事務(預貯金や不動産の管理や必要費用の支払いなど)と身上監護事務(医療や監護に関する契約の締結など)があります。
成年後見人ご自身の生活に加えて、もう一人分の生活・財産を管理するのは大変なことです。
それに加えて、成年後見人には、年に1回、家庭裁判所に事務内容の報告をすることが義務づけられています。
年に1回というと少ないと思われるかもしれませんが、被後見人の財産状況や環境、あるいは成年後見人の住所が変わった場合なども、その都度報告が必要です。
さらに、成年後見人を監督する目的で、家庭裁判所から臨時で報告を求められることがあります。
こういった報告義務も重い負担になる可能性があります。
成年後見人の仕事については、以下の記事で詳しくご説明しています。
また、いったん開始された成年後見は、被後見人の判断能力が回復しない限り、原則としてやめることができません。
もしも成年後見人を途中で辞めたいときには、辞めるための正当な理由があると家庭裁判所に認めてもらう必要があります(民法844条)。
また、仮に辞任を許可してもらえたとしても、次の成年後見人が正式に選任され、その人に仕事を引き継ぐまで、職務を放り出すことはできません。
成年後見人になるには、最後まで責任を持って職務を全うする覚悟が必要になるでしょう。
後見人/保佐人/補助人の違いは、それぞれ保護される人がどのような人であるかによります。
したがって、保佐人や補助人になるための方法や条件については、本記事で解説してきた後見人に関する説明と同じです。
申立て時に記入する申立書の書式はすべて一緒で、後見・保佐・補助のいずれかにチェックを入れることになります。
いずれについても本人もしくは本人以外の家族による申立てが可能ですが、補助人についてだけは申立てにあたって「本人の同意」が必要です。
また、後見と保佐については、医師による精神鑑定などが必要となるため、その結果によっては申立てで希望しているものとは違うカテゴリが認定される可能性はあります。
後見人/保佐人/補助人が持っている権限の違いについて表にまとめておきます。
権限は大きく分けると次の3種類があります。
この3つの権利と、後見人・保佐人・補助人を表にまとめると、このようになります。
後見人 | 保佐人 | 補助人 | |
---|---|---|---|
代理権 | ◯ | △ 審判で定められた場合のみ |
△ 審判で定められた場合のみ |
同意権 | × 包括的な代理権があるため |
◯ 民法規定と審判で定められた範囲 |
△ 審判で定められた範囲のみ |
取消権・追認権 | ◯ 日常生活に関して以外全て |
◯ 同意権の範囲のみ |
△ 同意権の範囲のみ |
後見人には同意権がありませんが、包括的な広い代理権があります。
そもそも後見人を必要とする方は、自分で法律的な意思表示をすることが想定されていないためです。
これに対し、保佐人と補助人は通常は代理権がなく、別途家庭裁判所での審判で定められた場合のみ、その範囲で代理権を有することとなります。
冒頭でご説明した通り、「成年後見人になるための資格」は不要です。
一般に資格証明書と呼ばれているものは、家庭裁判所から選任されて「成年後見人になったこと」の証明になるものです。
それには以下のような書類が挙げられます。
本記事でみたように、成年後見人になるために資格は不要です。
欠格事由にあたらない限り、誰でもなれる可能性があります。
弁護士などの専門家が後見人になるのも心強いですし、信頼できる人なら勝手を知っていてサポートしやすい親族後見人がいいこともあり、誰が適任かはケースバイケースです。
現在、単純な割合としてみれば親族以外の第三者が選任されていることが多いですが、平成31年3月18日に厚生労働省で開催された専門家会議で、最高裁判所から「成年後見人は親族から選ぶ」という意向が発表されたため、今後、この割合も変わっていく可能性があります。
成年後見に関して何かお悩みがある場合は、弁護士へのご相談をおすすめします。