遺産分割調停の申立方法は?申立書の書き方とポイントを解説
遺産分割調停を申立てるには、申立書その他の必要書類を家庭裁判所に提出しなければなりません。遺産分割調停申立書など書類…[続きを読む]
遺産分割協議や遺産分割調停といった当事者の話し合いでは決着がつかない場合には、遺産分割審判により解決を図ることになります。
本記事では、そもそも遺産分割審判とは何なのか、何をする手続きなのか、どのような効力があるのか、流れや有利に進めるポイントなどをご紹介します。
目次
遺産分割審判は裁判と似てはいますが、異なるものです。そこで、遺産分割審判と裁判との違いに触れておきましょう。
裁判では対審と判決に、原則として公開が求められます(憲法82条1項)。
これに対して審判では、非公開が認められています。
判決には、確定すると後からこれを覆すことができなくなる後訴や訴訟当事者を拘束する「既判力」があります。
一方で審判にはこの「既判力」がありません。例えば、遺産分割審判で共同相続人間の遺産分割方法が定められたとしても、民事訴訟でその遺産を相続人の1人が自分の資産であると主張し判決で認められ確定すれば、遺産分割審判を覆すことができるのです(最高裁大法廷昭和41年3月2日決定、最高裁昭和61年3月13日判決)。
例えば民事訴訟では「当事者主義」が採用されるため、当事者の主張や提出する資料・証拠を基に裁判が進み、裁判所は中立的な立場から双方の主張に判断を下します。
これに対して審判では、「職権探知主義」が採用されています(家事事件手続法56条1項)。そのため、遺産分割審判では、当事者からの申し出がなくても、裁判所が職権により自らの判断で証拠調べを行うことができます。
しかし裁判所が自ら証拠調べを行うといっても限界があります。そのため、主張・立証が足りないと判断した部分について、裁判所が当事者に主張・立証を促し、それでも足りない部分は、裁判所が補充的な調査を行います。
次に、遺産分割審判と遺産分割調停との違いについて考えてみます。
遺産分割協議や調停とは異なり、話し合いではなく家庭裁判所の裁判官の判断により、遺産分割の方法が決定されます。したがって、審判には、当事者の合意が必要ありません。
そのため、各相続人の望まない結果になることもあり、協議や調停でまとまらない場合の最終手段と考えたほうがいいでしょう。
ただし、審判中は、いつでも当事者同士が話し合いによって合意することで、和解をすることができます。
調停は、当事者が調停委員を介して話し合う場です。
一方で、審判は話し合いの場ではないため、調停委員は存在しません。その代わり、審判官により審判期日が開かれることになります。
遺産分割調停は、当事者が調停委員を介して話し合うため、基本的に互いに直接対面することはありません。
他方、遺産分割審判は、当事者が一同に会して行われます。話し合いは行われませんが、弁護士に依頼しない限り、直接対面することになります。
審判が下されると、家庭裁判所は審判書を作成し、送達します。当事者が誰も抗告せずに送達の翌日から2週間を経過すると審判が確定し、家庭裁判所で確定証明書を発行してもらうことができます。
これら審判書と確定証明書によって家庭裁判所は、当事者に対して金銭の支払や遺産の引渡し、相続登記などの給付を命ずることができます(家事事件手続法196条)。この給付命令には、執行力のある債務名義と同一の効力があるため(家事事件手続法75条)、強制執行も可能になるのです。
したがって、審判により取得した不動産に他の相続人が居住しており退去しない場合には、審判で当該不動産を取得した相続人は、強制的に退去させることができます。さらに、相続登記に他の相続人が協力しなくても、これらの書面を添付することで、審判で不動産の所有を認められた相続人が1人で相続登記をすることができます。
ちなみ、遺産分割の効力は相続開始時に遡って発生するため、相続登記における被相続人から相続人への所有権移転の日付は、審判の確定時ではなく、相続開始時となります。
次に、遺産分割審判の流れを確認しましょう。
遺産分割審判では、「調停前置主義」が取られていないため、調停を経ずに最初から審判を申し立てることができます。申し立て先は、被相続人の最後の住所地または当事者が合意によって定めた家庭裁判所になります。
ただし、申し立てを行っても、裁判官の判断で調停に回されることが殆どで、いきなり審判を実施してくれることはほぼありません。
そのため、他の相続人と争いがある場合、まずは遺産分割調停の申し立てを検討したほうがいいでしょう。
調停が不成立の場合には、自動的に遺産分割審判に移行するため、特に手続きは必要ありません(家事事件手続法272条4項)。
審判では、期日の日時が決められ、当事者双方が参加します。
期日には、争点を裁判所が整理しながら、追加で必要な調査があれば家裁調査官が調査を行い、裁判官から当事者への審問等を行います。
当事者は、それぞれ陳述や書面で主張を提出し、その主張を裏付ける証拠や資料の提出をすることになります。
審判は、それぞれの期日の終了時に次回の期日を決め、繰り返し行われます。
通常、期日は裁判と同様に1・2ヶ月に1回の頻度で開かれ、早くて半年程度、長ければ2年以上かかることもあります。
審判の途中で和解することもできます。
当事者同士が話し合い、和解が成立すれば、調停が成立したものとして扱われます。
この場合には、通常の調停と同様に調停調書が作成され、審判は終了します。
期日を何度か繰り返し、裁判所が十分な調査と審理をしたと判断すれば、最後に審判期日を決めます。
最後の審判期日では、裁判所により遺産分割の条項が決定されます。
遺産分割協議や遺産分割審判などにより既に遺産分割が終了している場合や、遺産分割禁止の遺言書や調停などがある場合には、却下の審判が下されます。
前述した通り、遺産分割審判には既判力がありません。
そのため、場合によっては審判を申し立てても以下の点に争いがあると、審判申立の取り下げを求められてしまうことがあります。
もしこれらに争いがあると、遺産分割審判を申し立てても審判の効力が失われてしまう可能性があるため、別途訴訟で解決しなければならいからです(最高裁大法廷昭和41年3月2日決定、最高裁昭和61年3月13日判決)。
遺産分割審判はかなりの労力が必要です。無駄にならないよう、事前の確認は忘れずに行いましょう。
遺産分割審判は、話し合いではありません。自分の主張をするだけでは有利に進めることはできません。
具体的には、次のことが必要になります。
また、裁判官の心象に配慮した裁判上の技術なども影響します。
遺産分割審判は、審判が確定するまでいつでも取り下げが可能です。
ただし、相手方が書面の提出や期日に陳述をした後に取り下げをする際には、相手方の同意が必要になります(家事事件手続法153条、199条)。
また審判を取り下げる際には、裁判所に取下書を提出します。
遺産分割審判の結果に不満があるときは、通常「即時抗告」ができます。
即時抗告をすると、高等裁判所で審理されることになります。即時抗告ができるのは審判の翌日から数えて2週間以内です。
詳しくは、「遺産分割審判にも不服|即時抗告の手続きと抗告状・理由書の書き方」をぜひご一読ください。
調停まではご自分で行っていた方も、審判は弁護士に依頼することをおすすめします。
一般的に審判では相手方も弁護士に依頼をするため、弁護士がついてなければ、一方的に不利になってしまいます。遺産分割審判を有利に進めるためにも、弁護士への依頼は欠かせないのです。
また、弁護士に依頼すれば、代理人として当事者の代わりに審判に出頭することができるため、相手と対面することなく、仕事等への影響も最小限にできます。
遺産分割審判には、ご自分にあった弁護士にぜひご相談ください。