この記事では、遺産分割をスムーズに進めるために知っておくべき遺産分割の基礎知識を解説します。これから遺産分割をされる…[続きを読む]
遺産分割審判にも不服|即時抗告の手続きと抗告状・理由書の書き方
遺産分割協議がまとまらないときは、家庭裁判所の調停手続内で協議を継続し、調停手続きでも協議がまとまらなければ、家庭裁判所が審判を行います。
では、遺産分割審判が下されたものの、どうしても納得できない場合にはどのようにすればよいでしょうか。
本稿では、遺産分割審判の即時抗告について、抗告状や理由書の書き方も含め解説します。
目次
1.遺産分割審判に不服がある際の即時抗告
一般的に、遺産分割は審判までと思われがちですが、「即時抗告」という手続きによって、高等裁判所での裁判を申し立てることができます。
そこで、まずは即時抗告とその流れについてご説明します。
1-1.即時抗告とは
遺産分割審判は、当事者から提出された書類と家庭裁判所調査官が行った調査に基づき家庭裁判所の裁判官が下します。この審判に不利益を被るなど不服がある相続人は、高等裁判所に審判について審理してもらうことができます。
遺産分割審判について高等裁判所に審理してもらうためには、即時抗告の申立てをしなければなりません。
即時抗告を申し立てると、審判の効力は差し止められるため、抗告の審理が終了するまで審判に基づく強制執行ができません。
さらに、高等裁判所の抗告審によって家庭裁判所の審判結果が覆ると、抗告審に従って遺産を分割することができるようになります。
2-2.即時抗告全体の流れ
家庭裁判所の即時抗告は、概ね次のような流れで進みます。
期間としては事案による差はありますが、申立てから即時抗告の決定までには3ヶ月~4ヶ月程度かかります。
2.即時抗告の申立て|抗告状の書き方・費用・提出先
即時抗告をするためには、抗告状を作成しなければなりません。
ここでは、抗告状の書き方や抗告する際にかかる費用、提出先についてご説明します。
2-1.抗告状の作成
抗告状には、以下の4つの記載が求められる他は、細かい書式が決まっていません(家事手続法87条2項)。裁判所によっては、審判申立書の書式を訂正して使うこともあるほどです。
- 当事者
- 法定代理人
- 原審判の表示
- 審判に対して即時抗告をする旨
抗告状の記載例
即 時 抗 告 申 立 書 ○○高等裁判所 御中 令和○年○月○日 抗告人 〒○○○-○○○○ 相手方 〒○○○-○○○○ 被相続人 ○○○○ 原審判の表示 東京家庭裁判所 令和〇年(家ロ)第〇〇〇〇号 遺産分割審判事件 抗告人 相続一郎 印 第1 抗告の趣旨 第2 抗告の理由 |
抗告状の書き方
「抗告状」や「即時抗告申立書」といったタイトルの下に(前述した通り、タイトルにも細かい決まりはありません)、宛先となる高等裁判所名と抗告状の作成日を記します。
次に、即時抗告の当事者となる抗告をする本人の住所などの情報と相手方となる相続人の情報を書きます。
原審となる遺産分割審判の事件番号は、審判書の記載を見ながら正確に記します。
その後に、「抗告の趣旨」と「抗告の理由」を記載します。「抗告の趣旨」には、「原審判を取り消す」べき旨と、審判の具体的内容に対して、「審判に代わる裁判を求める」と書きます。
抗告状に「抗告の理由」を書かずに提出することもできますが、その場合は後述する「抗告理由書」の提出が必要になります。
最後に申立人の氏名を書き、押印をします。押印は認印でもよく、氏名も自署しても記名どちらでも構いません。
「抗告の趣旨」や「抗告の理由」に説得力を持たせ、正確に書くことは難しいため、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
2-2.即時抗告の申立てができる期間
即時抗告の申立期間は審判の告知から2週間とされています。
遺産分割審判は審判書の形式で告知されますから、審判書が当事者に送達された日の翌日から2週間以内に、抗告状を家庭裁判所に提出する必要があります。
審判から抗告状の提出まで2週間という短期間になっており、「審判書を受け取ったらすぐに行動する」という意識でいたほうがいいでしょう。
2-3.抗告状の提出先|管轄
抗告状に記載する宛先は高等裁判所ですが、提出先は家庭裁判所となります。
裁判所の具体的な管轄については、以下の裁判所のサイトをご確認ください。
【参考外部サイト】「裁判所の管轄区域」|裁判所
2-4.即時抗告の申立にかかる費用
遺産分割審判の即時抗告にかかる費用は、次の通りです。
- 手数料:1,800円分の収入印紙
- 連絡用の郵便切手(申立てを行う裁判所に確認してください)
2-5.即時抗告申立ての必要書類
抗告状は、原審である遺産分割審判の当事者と利害関係参加人に送付されることになるため、抗告審に参加する人数分の抗告状の写しを添付する必要があります。
また、即時抗告の理由を証明するために証拠書類を添付することができます。
3.即時抗告理由書の書き方・提出期限
3-1.即時抗告理由書の提出と書き方
抗告の期限まで時間がないことから、抗告状に抗告の理由を書かずに提出する場合があります。
その場合には、後から抗告の理由書を作成・提出することができます。
理由書には、審判のどの部分がどのように不満だったのか、納得できないのかを記載することになります。
とは言え、感情的に記載しても裁判官の心証はよくなりません。
審判結果について、法的にどこがおかしいのか、それによってどのような不利益を被ることになったのか等、冷静に論理的に記載するように気をつけましょう。
3-2.抗告理由書の提出期限
抗告理由書にも提出期限があり、抗告状の提出から2週間以内とされています(家事事件手続規則55条1項)。
抗告理由書については、抗告状ほど期限厳守とはなっていません。2週間を過ぎても受け取ってもらえることもあります。
また、提出が遅れてしまっても、そのこと自体で抗告が却下されることはないとされています。
4.高等裁判所での即時抗告審について
抗告状と抗告理由書が受理されると抗告審が開催されることになります。
高等裁判所での抗告審は、審尋が開催されるかは抗告裁判所の裁量によるため、基本的に書面審理となり、審尋は開催されないケースがほとんどです。
ただし、抗告裁判所が審判を取り消す場合には、当事者の意見を聞く必要があり、審尋がなされます(家事手続法89条1項)。
当事者は抗告審においても新たな事実主張や証拠を提出することができます。また、抗告裁判所の裁量で抗告審も審問や陳述の聴取が行われることもあります。
抗告裁判所は、即時抗告を認容する場合には審判を取り消す内容の決定を行い、棄却する場合には棄却決定を行うことになります。
即時抗告の決定は、原則として2週間で確定し、決定に基づいた遺産分割をすることになります。
5.遺産分割審判の即時抗告についてのよくある質問(FAQ)
即時抗告の審判に不服がある場合はどうする?
即時抗告の決定に不服がある場合にはどうすればいいのでしょうか。
高等裁判所が判例に相反する判断がある場合や、その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合には、最高裁判所に対し許可抗告をすることができます。
ただし、認められることは稀ですし、法律知識のない人が1人で行うのはほぼ不可能と言えるでしょう。
即時抗告を申立てるべきケースってどんなものがある?
即時抗告を申立てるべきケースには、以下のものが考えられるでしょう。
遺産分割審判に事実誤認がある
遺産分割審判で裁判官が他の相続人の誤った主張に基づいて審判を下したとすれば、その審判には事実誤認があると言わざるを得ないでしょう。
こうしたケースでは、即時抗告で他の相続人の主張を覆す資料を基に、家庭裁判所では認められなかった主張を展開すれば審判が覆る可能性があります。
主張を正しく評価してもらえていない
ご自分がした主張を認めてはいるが、不当に評価して下された審判は即時抗告の対象となり得ます。
例えば、遺産分割審判では寄与分が争点になることがありますが、被相続人への貢献自体は認められても、貢献の評価が低く遺産の増額に繋がらない場合などには、即時抗告により、高等裁判所から正当な評価を得られる可能性があります。
まとめ
以上のとおり、遺産分割審判に不服がある場合の不服申立の方法について解説してきました。
まず、遺産分割協議・調停がうまくいかないと思った場合は、弁護士など専門家に相談してみましょう。
遺産分割審判から先、特に抗告手続きになると、弁護士が代理人になることを想定された制度になっており、ご自分で行うのは難しいのが現実です。
仮に手続きができたとしても、高度な法律知識が必要になる抗告審を有利に展開することは非常に困難です。
ぜひ弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。