【図説】遺留分とは?遺留分の仕組みと割合を分かりやすく解説!
この記事では、遺留分について解説します。遺留分とは何か、だれにどのように認められる権利か、割合はどの程度かなどを図表…[続きを読む]
遺言や生前贈与などで、被相続人の財産が他の相続人や不倫相手などの他人に渡ってしまったとき、自分がもらうはずだった遺産を取り戻す。そんな制度が「遺留分」です。
そして、実際にその遺留分を取り戻すための請求を「遺留分侵害額請求」と言います。
しかし、実際にいくら取り戻せるのかは気になるところだと思います。
そこでこの記事では、遺留分がいくらもらえるかの計算方法についてご説明します。
遺留分「侵害額」請求権は、民法の改正によって、令和元年(2019年)7月1日から施行される制度で、従前の遺留分「減殺」請求権の内容を改正しています。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された遺産の割合のことです。
例えば、遺言で一部の相続人に全ての遺産が渡されてしまうと、残りの相続人は生活が立ち行かなくなってしまうこともあります。
そこで、相続人を保護するために、遺産の一定割合を「遺留分」と定め、この遺留分が侵害された場合は、その侵害された金額の返還を請求できるようにされています。
この返還の請求を「遺留分侵害額請求」と言います(民法1046条1項)。
遺留分の割合は、その人と被相続人との関係によって違い、侵害額の計算方法には様々なバリエーションがあります。
以下では、基本的な計算方法と、具体例2つでご説明します。
まず、遺留分の割合を確認しておきましょう。
基本的に遺留分は、遺産全体に対する割合に、その人の法定相続分をかけた割合で計算されます。
遺産全体に対する割合を「総体的遺留分」、実際にそれぞれの相続人が貰える遺留分を「個別的遺留分」と言います。
遺産全体に対する遺留分の割合は、次の2つの場合に分けられます(民法1042条1項)。
先ほども述べたとおり、実際に貰える割合である個別的遺留分は、上の総体的遺留分に法定相続分をかけて計算します(民法1042条2項)。
例えば、妻(法定相続分1/2)と子1人(法定相続分1/2)が相続人のときの、妻の個別的遺留分は次のように計算され、1/4です。
この個別的遺留分は、後の計算で使う大切なものですので、覚えておいてください。
各人の遺留分を確認したら、次は基礎財産を計算します。
「基礎財産」とは、遺留分計算のベースとなる遺産の総額のことです。
基礎財産は、次のように計算します(民法1043条)。
遺贈される財産は「被相続人が死亡時の財産」に含まれるため、別途加算はしません。
また、差し引く債務には、罰金や税金の滞納分なども含まれます。
先ほどの計算式に「被相続人が贈与した財産」とありますが、全ての贈与が計算対象になるわけではありません。
簡略化すると、次のものが計算対象とされています(民法1044条)。
なお、相続人への贈与は、特別受益となる贈与のみ計算します(民法903条1項)。
特別受益についてはこちらの記事をお読みください。
基礎財産も計算したら、いよいよ遺留分の金額(遺留分額)を計算します。
次のように計算できます。
遺留分額が計算できたら、それがいくら侵害されたか(遺留分侵害額)を計算します。
遺留分権利者をAとした場合の、Aの遺留分侵害額の計算方法は次のとおりです(民法1046条)。
※具体的相続分とは、遺留分侵害を考えなかった場合に受け取ることができる遺産の価額です。
先ほどの計算式だけではイメージできないと思いますので、具体的なケースで計算してみましょう。登場人物と遺産は下記の通りです。
分かりやすくするためにやや資産家を例にしていますが、どなたでも計算方法は同じです。
被相続人:一郎(夫)
相続人:花子(妻)、太郎(長男)、次郎(次男)
遺産:土地5000万円、建物1000万円、マンション4000万円、預金6000万円
上の家族と遺産を例に、いくつかのケースで見ていきましょう。まずはケース1です。
具体的な計算のベースとなる基礎財産は、今回はこのようになります。
遺産総額(土地5000万円 + 建物1000万円)+ 愛子への贈与分(マンション4000万円 + 預金6000万円)= 1億6000万円
まず、マンションと預金は愛子に贈与されてしまっているので、残った土地と建物を分けて、具体的相続分はこのようになります。
遺産額:土地5000万円 + 建物1000万円 = 6000万円
花子:6000万円 × 法定相続分1/2 = 3000万円
太郎:6000万円 × 法定相続分1/4 = 1500万円
次郎:6000万円 × 法定相続分1/4 = 1500万円
今回は妻と子が相続人なので、総体的遺留分は2分の1です。
そのため、妻と子2人の遺留分はそれぞれ次のようになります。
花子:総体的遺留分1/2 × 法定相続分1/2 = 個別的遺留分1/4
太郎:総体的遺留分1/2 × 法定相続分1/4 = 個別的遺留分1/8
次郎:総体的遺留分1/2 × 法定相続分1/4 = 個別的遺留分1/8
基礎財産が1億6000万円ですから、それにそれぞれの遺留分をかけて、遺留分額の計算は次のとおりになります。
花子 1億6000万円 × 個別的遺留分1/4 = 個別的遺留分額4000万円
太郎 1億6000万円 × 個別的遺留分1/8 = 個別的遺留分額2000万円
次郎 1億6000万円 × 個別的遺留分1/8 = 個別的遺留分額2000万円
そして、上で計算したそれぞれの遺留分額から具体的相続分を引くと、次のようになります。
この計算結果が、実際に侵害された遺留分(遺留分侵害額)ということになります。
花子 個別的遺留分額4000万円 - 具体的相続分3000万円 = 侵害額1000万円
太郎 個別的遺留分額2000万円 - 具体的相続分1500万円 = 侵害額500万円
次郎 個別的遺留分額2000万円 - 具体的相続分1500万円 = 侵害額500万円
こうして、花子は愛子に対して1000万円を請求でき、太郎と次郎は愛子に対してそれぞれ500万円を請求できることになります。
ケース1とは違い、今回は債務(借金)があるため、これを計算しないといけません。
被相続人の債務は、相続分に応じて相続し、相続人が返済義務を負担します(899条)。
今回の場合は、花子(妻)が1000万円、太郎(長男)と次郎(次男)が500万円ずつ負担することになります。
そこで、まず基礎財産の算定にあたって被相続人の債務全額を基礎財産から差し引きます。
遺産総額(土地5000万円 + 建物1000万円)+ 愛子への贈与分(マンション4000万円 + 預金6000万円)- 債務2000万円 = 1億4000万円
そして、この基礎財産をもとに個別的遺留分額を計算します。
花子 1億4000万円 × 個別的遺留分1/4 = 3500万円
太郎 1億4000万円 × 個別的遺留分1/8 = 1750万円
次郎 1億4000万円 × 個別的遺留分1/8 = 1750万円
次に、実際に侵害されている遺留分侵害額を計算するため、それぞれの債務承継額を加算します(民法1046条2項3号)。
遺留分侵害額
花子 3500万円 - 具体的相続分3000万円 + 債務承継額1000万円 = 1500万円
太郎 1750万円 - 具体的相続分1500万円 + 債務承継額500万円 = 750万円
次郎 1750万円 - 具体的相続分1500万円 + 債務承継額500万円 = 750万円
花子さんの例でいうと、遺留分3500万円が保障されているのに対し、具体的相続分3000万円を相続するので、差し引き500万円だけ遺留分が侵害されているようにみえます。
しかし、花子さんは1000万円の債務を返済しなくてはならないので、具体的相続分3000万円というのは、実際は債務を差し引いて2000万円になってしまいます。
このため、債務承継額である1000万円を侵害額に加算するのです。
遺留分については、いくつか注意点もあります。
特定の人が多額の生命保険金を受け取っていて、遺産より多い場合など、遺留分侵害額請求で取り戻したいと思われることもあるかもしれません。
しかし、残念ながら生命保険金については遺留分侵害額請求はできません。
一般的に、生命保険金は遺産として計算されないからです。
そのため、仮に相続人の一人が生命保険金を受け取ったとしても、遺留分侵害額請求の計算には含まれません。
遺留分侵害額請求権には次の2つの期間制限があります。これを「消滅時効」と言います。
このどちらかで、遺留分は請求できなくなってしまいます。
また10年の制限については、相続の開始の事実や遺留分侵害の事実を知らなくとも進行しますので要注意です(民法1048条)。
遺留分侵害額請求権の計算方法について、できるだけ事案を単純化した例でご説明しましたが、それでも複雑で、ここまでお読みいただけた方でも、すぐにご理解いただくことは難しかったと思います。
まして実際の相続問題となると、上にあげた例のように単純なケースのほうが珍しいと言えます。
遺留分侵害額請求権の問題は、弁護士にご相談されることをお勧めします。