【図説】遺留分とは?遺留分の仕組みと割合を分かりやすく解説!
この記事では、遺留分について解説します。遺留分とは何か、だれにどのように認められる権利か、割合はどの程度かなどを図表…[続きを読む]
遺言や生前贈与などによって、被相続人の財産が他の相続人や不倫相手などの他人に不平等に渡ってしまったとき、相続人が法律で認められた最低限の遺産相当額の金銭を取り戻す。そんな制度が「遺留分」です。
そして、実際にその遺留分を取り戻すための請求を「遺留分侵害額請求」と言います。
相続人の方には、遺留分侵害額請求によって実際にいくら取り戻せるのかは気になるところだと思います。
そこでこの記事では、遺留分をいくら請求できるのか計算方法についてご説明します。
目次
遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された遺産の割合のことです。
例えば、遺言で一部の相続人に全ての遺産が渡されてしまうと、残りの相続人は生活が立ち行かなくなってしまうこともあります。
そこで、相続人を保護するために、遺産の一定割合を「遺留分」と定め、この遺留分が侵害された場合は、その侵害された金額の返還を請求できるようにされています。
この返還の請求を「遺留分侵害額請求」と言います(民法1046条1項)。
全ての生前贈与が遺留分の請求対象になるわけではありません。
贈与の相手(受贈者)などの違いによって、遺留分の対象となる生前贈与の期間に違いがあります(民法1044条)。
※特別受益については「特別受益とは?受益が認められるケースと計算方法を解説!」をご一読ください。
偏った遺産分割内容が遺言書に記載されており、遺言書に沿った相続が行われて遺留分権利者の遺留分が侵害されている場合には、当然遺留分侵害額請求の対象となります。
死因贈与は、被相続人の死亡を原因として贈与がなされることを指します。生前贈与と同様に、被相続人と受贈者との契約により行われます。
この死因贈与も贈与の範疇に入るため、遺留分減殺請求の対象となります。
遺贈とは、被相続人の遺言書に則って、遺言書で指定された者に対して指定された遺産を譲ることを指します。遺産の一部でも全部でも遺贈することができます。
遺贈は、相続人に対しても第三者に対しても行うことができ、この遺贈も遺留分減殺請求の対象となります。
なお遺留分侵害額請求の順番は、次のように規定されています(民法1047条1項)。
遺贈(遺言書による相続含む)⇒ 死因贈与 ⇒ 生前贈与
遺留分の割合は、その人と被相続人との関係によって違い、侵害額の計算方法には様々なバリエーションがあります。
以下では、基本的な計算方法と、具体例2つでご説明します。
まず、遺留分の割合を確認しておきましょう。
基本的に遺留分は、遺産全体に対する割合に、その人の法定相続分をかけた割合で計算されます。
遺産全体に対する割合を「総体的遺留分」と言い、相続人が複数存在する場合には、その総体的遺留分に法定相続分を乗じて各相続人が貰える「個別的遺留分」を計算します。
総体的遺留分 × 法定相続分 = 個別的遺留分(各遺留分権者が貰える割合)
次の2つのケースでは、遺産全体に対する遺留分の割合(総体的遺留分)が異なります(民法1042条1項)。
相続人 | 総体的遺留分 |
---|---|
子供のみ | 1/2 |
配偶者と子供 | 1/2 |
配偶者と直系尊属 | 1/2 |
直系尊属のみ | 1/3 |
先ほども述べたとおり、実際に各相続人が貰える割合である個別的遺留分は、上の総体的遺留分に法定相続分をかけて計算します(民法1042条2項)。
相続人 | 総体的遺留分 | 個別的遺留分 | |||
---|---|---|---|---|---|
配偶者 | 子供 | 父母 | 兄弟 | ||
配偶者のみ | 1/2 | 1/2 | × | × | × |
配偶者と子供(※) | 1/2 | 1/4 | 1/4 | × | × |
配偶者と直系尊属(※) | 1/2 | 2/6 | × | 1/6 | × |
配偶者と兄弟 | 1/2 | 1/2 | × | × | × |
子供のみ(※) | 1/2 | × | 1/2 | × | × |
直系尊属のみ(※) | 1/3 | × | × | 1/3 | × |
兄弟のみ | × | × | × | × | × |
※相続人となる子供、直系尊属が複数存在する場合は、子、直系尊属の遺留分をその人数で割ったものが個別的遺留分となります。
例えば、妻(法定相続分1/2)と子2人(法定相続分1/4)が相続人のときの、各相続人の個別的遺留分は次のように計算されます。
妻の遺留分:総体的遺留分1/2 × 法定相続分1/2 = 個別的遺留分1/4
子の遺留分:総体的遺留分1/2 × 法定相続分1/4 =個別的遺留分1/8
各人の遺留分を確認したら、次は基礎財産を計算します。
「基礎財産」とは、遺留分計算のベースとなる遺産の総額のことです。
基礎財産は、次のように計算します(民法1043条)。
基礎財産の額
(相続開始時の被相続人の財産 + 第三者へ生前贈与した財産 +相続人への特別受益 +当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与) - 被相続人の債務
遺贈される財産は「相続開始時の被相続人の財産」に含まれます。
また、差し引く債務には、罰金や税金の滞納分なども含まれます。
基礎財産も計算したら、いよいよ遺留分の金額(遺留分額)を計算します。
遺留分は、次のように計算できます。
基礎財産 × 個別的遺留分 = 遺留分額
基礎財産の額:5,000万円
個別的遺留分:妻1/45,000万円 × 1/4 = 1,250万円
遺留分額が計算できたら、それがいくら侵害されたか(遺留分侵害額)を計算します。
遺留分権利者をAとした場合の、Aの遺留分侵害額の計算方法は次のとおりです(民法1046条)。
遺留分侵害額 =Aの遺留分額- Aが受けた遺贈または特別受益となる贈与の価額 - Aが相続により取得すべき遺産の価額+ Aが承継した相続債務
先ほどの計算式だけでは、分かりにくいかと思います。そこで、具体的な事例を基に計算してみましょう。登場人物と遺産は下記の通りです。
分かりやすくするためにやや資産家を例にしていますが、どなたでも計算方法は同じです。
被相続人:一郎(夫)
相続人:花子(妻)、太郎(長男)、次郎(次男)
遺産:土地5000万円、建物1000万円、マンション4000万円、預金6000万円
上の家族と遺産を例に、いくつかのケースで見ていきましょう。まずはケース1です。
ケース1
一郎(夫)が、亡くなる半年前に、愛子(不倫相手)に、マンションと預金全額を贈与した。
具体的な計算のベースとなる基礎財産は、今回はこのようになります。
遺産総額(土地5000万円 + 建物1000万円)+ 愛子への贈与分(マンション4000万円 + 預金6000万円)= 1億6000万円
マンションと預金は愛子に贈与されてしまっているので、残った土地と建物を分けて、次のように法定相続分により遺産分割したとします。
遺産額:土地5000万円 + 建物1000万円 = 6,000万円
花子:6000万円 × 法定相続分1/2 = 3,000万円
太郎:6000万円 × 法定相続分1/4 = 1,500万円
次郎:6000万円 × 法定相続分1/4 = 1,500万円
今回は妻と子が相続人なので、総体的遺留分は2分の1です。
そのため、妻と子2人の遺留分はそれぞれ次のようになります。
花子:総体的遺留分1/2 × 法定相続分1/2 = 個別的遺留分1/4
太郎:総体的遺留分1/2 × 法定相続分1/4 = 個別的遺留分1/8
次郎:総体的遺留分1/2 × 法定相続分1/4 = 個別的遺留分1/8
基礎財産が1億6000万円ですから、それにそれぞれの遺留分をかけて、遺留分額の計算は次のとおりとなります。
花子 1億6000万円 × 個別的遺留分1/4 = 個別的遺留分額4,000万円
太郎 1億6000万円 × 個別的遺留分1/8 = 個別的遺留分額2,000万円
次郎 1億6000万円 × 個別的遺留分1/8 = 個別的遺留分額2,000万円
そして、上で計算したそれぞれの遺留分額から具体的相続分を引くと、次のようになります。
この計算結果が、実際に侵害された遺留分(遺留分侵害額)ということになります。
各相続人の侵害された遺留分額
花子:個別的遺留分額4000万円 - 相続により取得すべき遺産の価額3,000万円 = 侵害額1,000万円
太郎:個別的遺留分額2000万円 - 相続により取得すべき遺産の価額1,500万円 = 侵害額500万円
次郎:個別的遺留分額2000万円 - 相続により取得すべき遺産の価額1,500万円 = 侵害額500万円
したがって、花子は愛子に対して1000万円を請求でき、太郎と次郎は愛子に対してそれぞれ500万円を請求できることになります。
ケース2
ケース1に追加で、更に被相続人一郎に銀行からの借金2000万円が残されていた場合
ケース1とは違い、今回は債務(借金)があるため、これを計算しないといけません。
まず、基礎財産の算定にあたって被相続人の債務全額を基礎財産から差し引きます。
遺産総額(土地5000万円 + 建物1,000万円)+ 愛子への贈与分(マンション4,000万円 + 預金6,000万円)- 債務2000万円 = 1億4,000万円
次に被相続人の債務は、相続分に応じて相続し、相続人が返済義務を負担します(899条)。
今回の場合は、この債務を花子(妻)、太郎(長男)と次郎(次男)がそれぞれ次の通り負担することになります。
妻:2,000万円 × 法定相続分 1/2 = 1,000万円
太郎・次郎:2,000万円 × 法定相続分1/4 = 500万円
基礎財産をもとに個別的遺留分額を計算します。
花子 1億4000万円 × 個別的遺留分1/4 = 3,500万円
太郎 1億4000万円 × 個別的遺留分1/8 = 1,750万円
次郎 1億4000万円 × 個別的遺留分1/8 = 1,750万円
次に、実際に侵害されている遺留分侵害額を計算するため、それぞれの債務承継額を加算します(民法1046条2項3号)。
各相続人の侵害された遺留分額
花子:3500万円 - 具体的相続分3000万円 + 債務承継額1,000万円 = 1500万円
太郎:1750万円 - 具体的相続分1500万円 + 債務承継額500万円 = 750万円
次郎:1750万円 - 具体的相続分1500万円 + 債務承継額500万円 = 750万円
花子の例でいうと、遺留分3500万円が保障されているのに対し、遺産額3,000万円を相続するので、差し引き500万円だけ遺留分が侵害されているようにみえます。
しかし、花子は1000万円の債務を返済しなくてはならないので、遺産取得額3,000万円というのは、実際は債務を差し引いて2000万円になってしまいます。
このため、債務承継額である1000万円を侵害額に加算するのです。
遺留分侵害額請求権には次の2つの期間制限があります。これを「消滅時効」と言います。
このいずれかに達すると、遺留分は請求できなくなってしまいます。
また10年の制限については、相続の開始の事実や遺留分侵害の事実を知らなくとも進行しますので要注意です(民法1048条)。
詳しくは、「遺留分侵害額請求の消滅時効と防ぎかた、起算点|1年と10年」をお読みください。
寄与分は、法定相続人の中に、相続財産の維持形成のために特に貢献した人がいる場合、その貢献度に応じて多めの遺産取得分を認める制度です。
民法には、相続財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができないとの規定があるため(民法904条の2第3項)、寄与分は遺贈の額を侵害することはできません。しかし、遺贈の額を控除した遺産総額の範囲内であれば寄与分の額を定めることは可能と考えられており、寄与分によって遺留分が侵害される可能性があります。
しかし、遺留分侵害額請求の対象となるのは、贈与・遺贈(遺言による特定財産の承継・相続分の指定を含む)に限られているため(民法1046条1項)、寄与分を遺留分侵害額請求の対象とすることはできません。
ただし、東京高等裁判所は平成3年12月24日の決定で、寄与分を定める場合には、遺留分にも配慮すべき旨を指摘しています。
また、寄与分は共同相続人の協議または家庭裁判所の調停・審判により定められるため、相続人間で十分に話し合ってほしいところです。
被相続人の死亡により特定の相続人が多額の生命保険金を受け取っていて、遺産より多い場合など、遺留分侵害額請求で取り戻したいと思われることもあるかもしれません。
しかし、残念ながら生命保険金については遺留分侵害額請求はできません。
一般に、生命保険金は受取人の固有財産となり、遺産として計算されないからです。
そのため、相続人の一人が生命保険金を受け取ったとしても、遺留分侵害額請求の対象には含まれません。
遺留分侵害額請求権の計算方法について、できるだけ事案を単純化した例でご説明しましたが、それでも複雑で、ここまでお読みいただけた方でも、すぐにご理解いただくことは難しかったと思います。
まして実際の相続問題となると、上にあげた例のように単純なケースのほうが珍しいと言えます。
遺留分侵害額請求権の問題は、弁護士にご相談されることをお勧めします。