死因贈与とは?登記や遺贈・相続との違い、遺留分などすべてを解説

死因贈与とは

「死因贈与」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

自分の財産を配偶者や子どもに残してあげたいと思った場合、遺言を残しておくという手段もありますが、それとは別に死因贈与によることも可能です。

この記事では、死因贈与について、遺言による贈与(遺贈)との違いや、関連する法律問題について解説します。

身辺処理の一つの選択肢として、死因贈与があるということを頭に入れておいていただければと思います。

1.死因贈与とは?

死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与をいいます(民法554条)。
死因贈与は、贈与者が生前に、受贈者(財産を受け取る人)の間で死因贈与契約を締結することにより行われます

1-1.死因贈与の例

たとえば、父親と子との間で、父親が亡くなったことを条件として、父親が子に対して自宅の土地と建物を贈与するという内容の契約を締結します。

そうすると、父親が亡くなれば、自動的に自宅の土地と建物の所有権が父親から子へと移転します。
これが死因贈与の一つの例です。

これはあくまで「死亡を原因とした贈与」であり、相続とは異なる財産の受け継ぎ方です。

1-2.負担付死因贈与について

死因贈与の一類型として、「負担付死因贈与」というものもあります。

負担付死因贈与とは、死因贈与をする代わりに、その条件として、受贈者に一定の義務を課す内容の契約をいいます。

たとえば、「自分が死ぬまで面倒を見てくれたら財産をあげる」というような内容の契約が典型的な負担付死因贈与になります。

負担付死因贈与については、その性質に反しない限り、双務契約(お互いに義務・債務を負う契約)に関する規定が準用されます(民法553条)。

通常の死因贈与との違いは、主に撤回の可否という点に表れます。
この点は「3.死因贈与は撤回できる?」で解説します。

負担付死因贈与は争いになりやすい

この負担付死因贈与は、遺言書や契約書を作ることなく、交換条件で死亡後に贈与できる便利なものです。
例えば、負担付き遺贈もありますが、これは遺言書を作成する必要があります。

実際に負担付き死因贈与が使われる例も少なくありません。

しかし一方で、遺贈のように明確な証拠が残ることはなく、口頭での約束でも成立するため、死亡後に非常に争いになりやすいものでもあります。
負担付き死因贈与の当事者になった方は、この記事で死因贈与の概要を理解し、一度でも弁護士に相談されることをおすすめします。

2.死因贈与と遺贈について

死因贈与と同じく、贈与者の死亡に際して行われる贈与として、遺言による贈与(遺贈)があります。

以下、死因贈与と遺贈の関係について解説します。

2-1.死因贈与と遺贈の違い

死因贈与は、贈与者の生前に受贈者と契約を締結し、その契約に基づいて行われます。
つまり、死因贈与は、贈与者と受贈者の合意に基づく行為であるということになります。

死因贈与は、民法上要式行為とはされていませんので、どのような形式で行ってもよく、口頭での死因贈与も有効です。

一方、遺贈は贈与者の遺言に基づいて行われます。
つまり、遺贈は贈与者が受贈者に対して一方的に行う行為です。

なお、贈与者が遺贈を行う場合には、民法に規定される遺言の方式に則って行う必要があります(要式行為といいます)。

関連記事
「遺贈」と「死因贈与」の違いは何?優先するのはどっち?
「遺贈」とは、遺言によって被相続人の財産を譲渡することを指します。 他方「死因贈与」とは、契約により、被相続人の死亡…[続きを読む]

2-2.死因贈与と遺贈・遺言はどちらが優先される?

たとえば、「父親が子に対して、自宅の土地と建物を贈与する」という内容の死因贈与契約が、父親と子の間で締結されたとしましょう。

しかし、その後父親の気が変わり、跡から作成された遺言書の中で「自宅の土地と建物は妻に贈与する」という内容を記載したらどうなるでしょうか?

つまり、死因贈与と遺贈の内容が矛盾する場合には、どちらが優先されるのでしょうか。

この点、結論から言えば、贈与の方式にかかわらず、日付の新しい方が優先されます。

このような結論になる理由は、死因贈与と遺贈の撤回に関する論点に関係しています。

すぐ下でまた触れますが、「先になされた死因贈与or遺贈が、後からなされた遺贈or死因贈与によって撤回される」ということになるので、後から行われた行為が優先という結論になる、と理解しておきましょう。

なお、一度合意した死因贈与について、後から撤回されたり、別の内容の遺言書を作成されたりということは少なくありません。受贈者が防ぐためには、後述する死因贈与の始期付所有権移転仮登記を行うことが有効です(登記ができる財産の場合のみ)。
この点は「4.死因贈与の仮登記について」詳しく解説します。

3.死因贈与は撤回できる?

死因贈与は、贈与者と受贈者の契約により行われます。

契約ということは、贈与者が勝手に死因贈与を撤回することはできないのでは?と思われる方もいるかもしれません。
法的にはどのように考えられるのでしょうか。

3-1.原則として撤回可能

原則として、死因贈与は贈与者が一方的に撤回することが可能です。

民法には、死因贈与の撤回について明文で認める規定はありません。

しかし、死因贈与については、「その性質に反しない限り」遺贈に関する規定が準用されるものとされています(民法554条)。
そして、遺贈は遺言者がいつでも遺言の方式に従って、その全部または一部を撤回することができるものとされています(民法1022条)。

死因贈与の場合、撤回を認める民法1022条が準用されるかについて、「贈与者の最終意思を尊重する」ことを根拠として肯定されています(最判昭和47年5月25日)。

したがって、遺贈と同様、死因贈与も贈与者の意思で一方的に撤回可能ということになります。これは、契約書等を作成した書面による死因贈与であっても同様です。

なお、死因贈与または遺贈を内容とする遺言書の作成を行った後、その内容と矛盾する死因贈与や遺贈を行った場合、後の行為により前の行為が撤回されたものとみなされ、後の行為が優先されます(民法1023条1項、2項)。

3-2.負担付死因贈与の場合の例外

負担付死因贈与の場合は、通常の死因贈与とは異なるルールが適用されます。

つまり、特段の事情がない限り、受贈者が負担の全部またはそれに類する程度の履行をした場合は、負担付死因贈与の撤回はできないとされています(最判昭和57年4月30日)。

これは、受贈者が先立って自分の義務を履行したのに、贈与者が一方的に贈与を撤回できるとするのは公平でないということを理由とします。

3-3.贈与者の死亡後は、相続人が死因贈与を解除できる場合がある

死因贈与が書面により行われていない場合、履行が終わっていない部分については、贈与者・受贈者のどちらからでも死因贈与を解除することができます(民法550条)。
そして、この解除権は相続の対象になると解されています(東京高判平成3年6月27日)。

よって、贈与者が死亡した場合、贈与者の相続人は書面によらない死因贈与を解除することができてしまいます。

そのため、受贈者の権利を守りたいと考える場合には、死因贈与は書面により行うべきと言えるでしょう。

4.死因贈与の仮登記について

先に解説したとおり、死因贈与は、贈与者が一方的に撤回することが可能です。

受贈者としては、贈与者に一方的に死因贈与を撤回されてしまっては、自分の得られるはずだった権利を得ることができなくなってしまいます。

このような事態を避けるためには、死因贈与について「始期付所有権移転仮登記」を行うことが有効です。

4-1.死因贈与の始期付所有権移転仮登記とは?

始期付所有権移転仮登記とは、「この不動産は死因贈与により〇〇さんに贈与することが決まっています」ということを登記簿上に表示しておくことと理解しておけばいいでしょう。

これにより、死因贈与の事実を対外的にアピールしておくことができます。

死因贈与の始期付所有権移転仮登記は、以下の2つを満たす場合には、受贈者が単独で行うことができます。

  • 死因贈与が公正証書によって行われていること
  • 贈与者が仮登記を行うことを認諾する内容が公正証書に記載されていること

そのため、死因贈与は公正証書の方式による契約として形に残しておくことがおすすめです。

4-2.始期付所有権移転仮登記の効果について

なお、法的には、死因贈与の始期付所有権移転仮登記を行ったとしても、贈与者は死因贈与を撤回して別の人に目的物を譲渡することが可能です。

ただし、譲渡の前提として死因贈与の仮登記を抹消することが必要となります。
死因贈与の仮登記を抹消するためには、受贈者の同意が必要です。
よって、受贈者の同意がなければ、実質的に目的物を他の人に対して譲渡することはできないということになります。

贈与者や、贈与者から目的物の譲渡を受けようとする人は、裁判によって、受贈者に対して仮登記の抹消登記手続きを行うこと(≒死因贈与の撤回に同意すること)を命ずる判決を得ることはできます。
そうすれば死因贈与の撤回・他の人に対する目的物の譲渡ができることになりますが、訴訟を起こす必要があるため、非常に大きな手間がかかります。

つまり、死因贈与の仮登記をすることで、贈与者に対して死因贈与の撤回をしないようプレッシャーをかけることができます。

5.死因贈与を行う際の注意点

死因贈与を行う際に、注意しなければならない点について解説します。

5-1.遺贈よりも不動産取得税・登録免許税が高額

死因贈与と遺贈のそれぞれの場合における不動産取得税、登録免許税は次のとおりです。

<不動産取得税>
死因贈与の場合:固定資産税評価額の4%
遺贈の場合:法定相続人に対する遺贈であれば非課税

<登録免許税>
死因贈与の場合:4%
遺贈の場合:法定相続人に対する遺贈であれば0.4%

よって、不動産の死因贈与を行う場合には、遺贈の場合よりも不動産取得税、登録免許税が高額となる点に注意が必要です。

5-2.贈与者の真の意思によるものか争いになりやすい

生前贈与や遺贈の場合と同じく、死因贈与の場合にも、贈与者の真の意思によって行われたものかどうかが問題となる可能性があります。

あえて一般的な相続や贈与とは異なる方式によることになるため、他の相続人からも「本当に死因贈与があったの…?」と考えられがちです。

こうなると、口約束では証明・立証が難しく、例えばせっかく負担付き死因贈与の負担をしっかり行ったのに、財産はもらえないという事態にもなりかねません。

このような揉め事を防ぐために、公正証書による死因贈与契約書を作成しておくことがおすすめです。

5-3.遺留分侵害額請求の対象となる

死因贈与についても、遺贈や生前贈与と同様、遺留分侵害額請求の対象となります。

つまり、遺留分を侵害されたと主張する人がいる場合、相続により財産を得た相続人などとともに、死因贈与の受贈者も遺留分侵害額の支払い義務を負う場合があるということです。

なお、死因贈与については、遺留分侵害額請求の対象となるのは「遺贈よりも後」と解されています(東京高判平成12年3月8日)。

そのため、まずは相続や遺贈により財産を得た人が遺留分侵害額の支払いを行います。
それでも足りない場合には、死因贈与の受贈者が遺留分侵害額の支払いを行う、という順番になります。

5-4.受贈者が贈与者より先に死亡したらどうなる?

死因贈与契約を締結した後、受贈者が贈与者よりも先に死亡してしまった場合、死因贈与契約はどうなるのでしょうか。

死因贈与には遺贈に関する規定が準用されるものとされていますが(民法554条)、民法994条1項の「遺贈は、遺言者の死亡以前に受贈者が死亡したときは、その効力を生じない」という規定が死因贈与に準用されるかどうかは明らかになっていません。

裁判例は民法994条の準用を肯定する例(東京高判平成15年5月28日など)と、否定する例(京都地判平成20年2月7日、水戸地判平成27年2月17日など)に分かれており、最高裁の判例はありません。

したがって、死因贈与の場合に民法994条が準用され、受贈者の死亡により死因贈与が失効するのかどうかは、それぞれの事案によって判断されることになります。

5-5.無効な遺言書が死因贈与として有効になる場合もある

遺言は、民法上要式行為とされており、民法に定められた形式要件を満たしていなければ無効として取り扱われるのが原則です。

しかし、無効な遺言の内容に贈与が含まれていた場合、その部分は死因贈与として有効になる場合があります(東京地判昭和56年8月3日)。
これを「無効行為の転換」といいます。

無効な遺言に記載されている贈与が死因贈与として有効になるためには、贈与者と受贈者の間に贈与の合意があると認められることが必要です。

つまり、無効な遺言に記載されている贈与について、受贈者が贈与者と共通の認識を持っていることが必要となります。

6.まとめ

以上で解説したように、死因贈与の問題は多岐にわたります。

死因贈与は、他の贈与や遺贈と比べるとメジャーな選択肢ではありませんが、負担付き死因贈与の形式でよく争いになるものです。

そのため、死因贈与を行おうとしている方も、贈与を受ける予定の方も、法的な観点から処理すべき事項に漏れがないか、専門家である弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。

また、死因贈与で契約書等がなく、他の相続人と証明や立証の争いになりそうな方も、ぜひ一度弁護士に相談してみてください。

相続に強い弁護士が問題を解決します

相続に関し、下記のようなお悩みを抱えている方は、相続に強い弁護士にご相談ください。

  1. 遺産の分割方法で揉めている
  2. 遺言の内容や、遺産分割協議の結果に納得がいかない
  3. 不動産をどう分けるか、折り合いがつかない
  4. 遺留分を侵害されている
  5. 相続関連の色々な手続きが上手くいかず、困っている

相続発生前後を問わず、相続に関連する問題に対して、弁護士があなたの味方になります。 まずは気軽に相談されることをオススメいたします。

この記事が役に立ったらシェアしてください!
監修・執筆
阿部由羅(あべ ゆら) 弁護士
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。一般民事から企業法務まで、各種の法律相談を幅広く取り扱う。webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
プロフィール この監修・執筆者の記事一覧