遺言書の撤回と方法、撤回とみなされる場合|公正証書遺言も撤回可能

遺言書 撤回

民法の規定では、「遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない」(民法1026条)とされており、何度でも遺言の撤回が認められています。

しかし、法的に有効な遺言の撤回を行うためには、その方法や注意点について正しく理解しておく必要があります。

この記事では、民法の規定に沿って、撤回の方法や注意点などについて解説します。

なお、普通方式の遺言には、以下の3種類がありますが、「秘密証書遺言」は、ほとんど利用されることがないため、ここでは割愛させていただきます。

  • 自筆証書遺言(民法968条)
  • 公正証書遺言(民法969条)
  • 秘密証書遺言(民法970条)

1.遺言の撤回は法律で認められている

民法には遺言の撤回について、次の条文があります。

民法1022条

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

この条文から、遺言者は、たとえ公証役場で作成した公正証書遺言であっても、撤回することが可能だと言うことが分かります。

遺言書には、作成した日付を記載しなければなりません。複数の遺言があり、後日付の遺言が前日付の遺言に抵触すると、遺言の方式にかかわらず、抵触した部分については撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。

したがって、前の遺言書を撤回する旨の新たな遺言を作成すれば、自筆証書遺言によって公正証書遺言を撤回することも、公正証遺言によって自筆証書遺言を撤回することもできることになります。

ただし、新たな遺言が、遺言書の方式に従っていなければならないことは言うまでもありません。

2.公正証書遺言の撤回方法

公正証書遺言の撤回には、次の2つの方法があります。

  • 撤回の申述を行う
  • 新たに遺言を作成する

2-1.撤回の申述を行う

公正証書遺言を作成した場合には、公証役場で撤回の申述を行い、公正証書を作成することで、遺言の撤回が可能になります。

公証役場での撤回の申述には、作成時と同様に証人2人と、発行後3ヶ月以内の印鑑証明書、実印を用意します。公証人に対して遺言を撤回する旨を申述した後に、以下の文言の公正証書を作成し、署名・押印します。

<公正証書遺言を全部撤回する場合>

遺言者は、○○○○年○月○日○○法務局所属公証人○○作成の令和○○年○○号の公正証書遺言を全部撤回する。

費用は、公証人手数料11,000円となります。

2-2.新たに遺言を作成して撤回する

公正証書遺言を撤回する自筆証書遺言の作成は可能です。しかし、自筆証書遺言の要件を欠いてしまうと、撤回まで無効になってしまいます。

そのため、公正証書遺言を撤回する際も、公正証書遺言を作成することをお勧めします。

公正証書遺言の一部を撤回する場合

撤回する箇所が一部であると公証人が判断すれば、「更正証書」を作成することで遺言の撤回が可能になります。

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公正証書遺言の全部を撤回する場合

しかし、公正証書遺言を撤回する場合には、改めて公正証書遺言を作成することが多くなります。その場合には、公証人は、以下の文言を入れることを勧めてくるでしょう。

遺言者は、令和〇年〇月〇日付け〇〇地方法務局所属公証人〇〇作成同年第〇〇号遺言公正証書による遺言を撤回し、あらためて以下のとおり遺言をする。

遺言撤回の効力に直接関係するわけではありませんが、こうした文言が入ることで、遺言撤回の意思が、より明確に伝わります。

撤回のための公正証書遺言作成であっても、方法は、最初に作成した通りです。

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3.自筆証書遺言の撤回方法

民法改正により自筆証書遺言は、法務局での保管が可能になりました。そのため、保管場所によって、自筆証書遺言の撤回方法は異なります。

3-1.法務局で保管している場合の撤回方法

保管の撤回を行う

自筆証書遺言を法務局で保管している場合には、まず法務局に対して保管の撤回請求をします。

保管の撤回は遺言者本人が法務局まで赴く必要があります。法務局では、本人確認をするため、マイナンバーカードや運転免許証、パスポートなどの、氏名と出生年月日又は住所の記載がある写真付きの身分証明書を持参します。

保管の撤回には、遺言者に氏名・住所・本籍などに変更がない限り、「遺言書の保管申請の撤回書」のみを提出すれば足ります。「遺言書の保管の申請の撤回書」は、以下サイトからダウンロードすることができます。

【ダウンロード】「遺言書の保管の申請の撤回書」|法務局

遺言書を破棄するか新たに遺言書を作成する

保管を撤回しただけでは、遺言書自体を撤回したことにはなりません。法務局から自筆証書遺言を受け取ったら、その遺言を破棄するか、新たに遺言書を作成することで、遺言書の撤回が完了します。

保管の撤回が面倒であれば、前述の通り、新たに前の遺言書を撤回する旨の遺言書を作成しておくことで、前の遺言書を撤回したことになります。ただし、相続人が慌てないためにも、前に作成した自筆証書遺言を、法務局から受け取ることをお勧めします。

もちろん、新たな遺言は、公正証書遺言でも、自筆証書遺言でも構いません。しかし、後述する通り、自筆証書での撤回にはリスクが伴います。

3-2.自宅などに保管している場合の撤回方法

自筆証書遺言を破棄する

民法には、遺言について以下の規定があります。

民法1024条前段

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。

したがって、作成した自筆証書遺言がお手元にあれば、その遺言を破棄することで、遺言を撤回したものとみなされます。

新たに遺言書を作成する

万一、自筆証書遺言の保管場所を忘れてしまった場合でも、前述の通り、日付の最新の遺言書が法的に有効となります。

したがって、破棄せずとも、新たに前の遺言書を撤回する旨の遺言書を作成すれば、前に作成した自筆証書遺言は撤回されたことになります。

ただし、自筆証書遺言が有効となるためには法律上の要件があり、遺言者の死後、遺言が無効とならないためにも、新たに作成するのは、公正証書遺言をお勧めします。

4.自筆証書遺言を撤回する文例・記載例

次に、自筆遺言を撤回する際の文例について解説します。

4-1.自筆証書遺言を全部撤回する場合の文例

作成した自筆証書遺言をすべて撤回するには、新たに作成する遺言書に、前の遺言をすべて撤回する旨の条項を記載します。文例は以下のとおりです。

遺言者は、○○○○年○月○日付で作成した自筆証書遺言を全部撤回する。

もちろん、遺言の方式に従って作成する必要があります。

4-2.自筆証書遺言を一部撤回する場合の文例

遺言者は、自筆証書遺言の一部のみを撤回することもできます。

その場合は、遺言中の撤回する条項を明示した上で撤回後の内容を記載し、また、それ以外の条項については従前の内容を維持する旨の文言を記載します。

文例は以下のとおりです。

遺言者は、○○○○年○月○日付で作成した自筆証書遺言中、第○○条の「遺言者は、別紙1記載の建物を妻○○に相続させる」とする部分を撤回し、「遺言者は、別紙1記載の建物を長男△△に相続させる」と改める。その余の部分は、すべて上記自筆証書遺言記載のとおりとする。

5.遺言の撤回とみなされる場合について

ここでは、遺言を撤回すると明示しなくても、「撤回したとみなされる」ケースをご紹介します。

ただし、撤回とみなされれれば、遺言が撤回される範囲が不明確なケースや、みなし撤回が認められるのか判断が難しいなどの問題が生じる可能性があります。

そのため、ここまでご説明してきたように、「撤回する」旨を明記して遺言を撤回をしたほうが、相続発生後の争いも起きにくくなります。

5-1.前の遺言と後の遺言が抵触(矛盾)する場合

遺言者が複数の遺言書を遺し、遺言内容に矛盾する内容が含まれていれば、後の遺言が優先されます。この場合、前の遺言は後の遺言により撤回されたものとみなされます(民法1023条1項)。

たとえば、遺言者亡き後、「自宅の土地と建物を妻に相続させる」という内容の遺言と、「自宅の土地と建物を長男に相続させる」という内容の遺言が発見され、前者の日付より後者の日付が新しければ、たとえ撤回する意思が遺言に明示されていなかったとしても、「自宅の土地と建物を妻に相続させる」という内容の遺言は撤回されたものとみなされます。

5-2.遺言の後に、遺言者が遺言と抵触(矛盾)する法律行為をした場合

遺言者が遺言を残した後に、遺言者がその遺言の内容と矛盾する法律行為を行った場合には、矛盾する遺言の部分が撤回されたものとみなされます(民法1023条2項)。

たとえば、「自宅の土地と建物を妻に相続させる」という内容の遺言を作成したにもかかわらず、その後、ご自宅の土地と建物を第三者に売却してしまえば、「自宅の土地と建物を妻に相続させる」という部分は撤回されたものとみなされます。

したがって、公正証書遺言や自筆証書遺言を新たに作成せずとも、遺言と抵触する法律行為を行えば、遺言を撤回することは可能だと言うことはできるでしょう。

5-3.遺言者が故意に遺言書を破棄した場合

前述の通り、遺言者が故意に遺言書を破棄した場合には、破棄した部分については遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条前段)。自筆証書遺言や秘密証書遺言がこれに当たります。

一方で、公正証書遺言については、公証役場に原本が保存されているため、手元の正本や謄本を破棄したとしても、公証役場に原本が保存されている限り、公正証書遺言の撤回は認められないとされています。

5-4.遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合

遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合には、破棄した遺贈の目的物に係る部分については遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条後段)。

たとえば、「車を妻に遺贈する」という内容の遺言を作成していたにもかかわらず、車を廃棄処分してしまえば、「車を妻に遺贈する」という内容の遺言は撤回されたものとみなされます。

5-5.他の遺言条項は原則として存続する

上記の各場合に、遺言の一部が撤回されたものとみなされたとしても、他の遺言条項は、原則として存続します

ただし、撤回された条項がなければ意味のない条項があれば、みなし撤回の対象となります。そういった条項については、注意して確認する必要があります。

6.遺言の撤回に関する注意点について

遺言の撤回について、いくつかの注意点を以下で解説します。

6-1.遺言の撤回は公正証書遺言の方式で行うのが無難

遺言の撤回は、普通方式の遺言いずれの方法によっても行うことができます。

しかし、民法はそれぞれの遺言の方式について、多くの形式的な要件を定めており、要件を一部でも欠いてしまうと、遺言の撤回が無効と判断されてしまうおそれがあります

これに対して、公正証書遺言で作成すれば、遺言の撤回の形式的要件を満たしているかを公証人が確認してくれるため、形式面での不備を理由に遺言の撤回が無効となるおそれはまずなくなります。

遺言の撤回は公正証書遺言の方式によることをお勧めします。

6-2.遺言の撤回権の放棄はできない

民法は、遺言について、故人の意思を尊重することに最も重きを置いています。

そのため、遺言者はいつでも自由に遺言を撤回することができる旨を定めると同時に、この遺言を撤回する権利を放棄することができないとも規定しています(民法1026条)。

したがって、「もう遺言の内容は決まったんだから、遺言の撤回など絶対にしないように」などと脅迫気味に念押しするような推定相続人がいたとしても、遺言者には自由に遺言を撤回する権利があります

6-3.「遺言の撤回」をさらに撤回することはできない

遺言が撤回された場合や、撤回されたとみなされた場合には、その後に「遺言の撤回」をさらに撤回して、元の遺言の効力を回復することはできません(民法1025条本文)。

ただし、「撤回の撤回」を行った遺言者の意思が、元の遺言を復活させることを希望するものであることが明らかなときは、例外的に元の遺言が効力を回復することもあります。(最判平成9年11月13日)。

また、1回目の撤回が錯誤、詐欺、脅迫によるものだった場合は、その後に2回目の撤回を行っても、例外的に最初の遺言が効力を回復します(民法1025条ただし書)。

7.成年被後見人の遺言の撤回

最後に、成年被後見人が作成した遺言の撤回について触れておきます。

遺言書の作成には、遺言能力が必要とされています。成年被後見人は、事理弁識能力を欠く常況にあるため、原則として、遺言を作成しても無効とされてしまいます。しかし、成年被後見人であっても、一時的に事理弁識能力が回復することがあります。

そこで、例外的に成年被後見人が、事理弁識能力があるときに、医者2人以上の立会いがあれば、遺言をすることができることが法律で定められています(民法973条1項)。

遺言の撤回も同様に、事理弁識能力があるときに、医者2人以上の立会いがあれば可能です。

まとめ

ここまで、遺言の撤回方法についてご説明しました。

遺言の撤回は民法で認められた遺言者の権利であり、遺言はいつでも撤回することができます。ただし、その方法は遺言の方式に従って行う必要があります。

遺言を確実に撤回したい場合には、公正証書遺言の利用をおすすめします。

また、撤回方法や、撤回した場合に法的問題が生じないかどうかなど、不安な点がありましたら、ぜひ一度お気軽に弁護士にご相談ください。

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監修・執筆
阿部由羅(あべ ゆら) 弁護士
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。一般民事から企業法務まで、各種の法律相談を幅広く取り扱う。webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
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