遺言の種類と特徴|3種の遺言のメリットと注意点、オススメを解説
遺言(普通方式の遺言)には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。ただ、3種類ある…[続きを読む]
一度遺言書を作成したとしても、その後に気が変わったり、相続人との関係性が変化したりして、遺言を撤回したいと考えることもあり得るでしょう。
民法では、遺言の撤回が認められています。
しかし、法的に有効な形で遺言の撤回を行うためには、その方法や注意点について正しく理解しておく必要があります。
この記事では、遺言の撤回に関して、民法の規定に沿って、その方法や注意点、および周辺の法律問題などについて解説します。
目次
民法1022条では、「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」と規定されています。
したがって、民法上は、一度遺言書を作成した場合であっても、遺言者はいつでもその遺言を撤回することが可能です。
公証役場で作成した公正証書遺言でも、撤回することが可能です。
民法1022条によれば、遺言の撤回は「遺言の方式」に従うものとされています。
つまり、撤回についても、遺言を残すときの方式によって行うことになります。
遺言の方式とは、原則として以下の3つとなります。
なお、撤回の対象となる遺言と同じ方式で撤回をしなければならないということではなく、どの方式によって残された遺言であっても、上記の3つの方法の中から任意に方式を選択して、撤回することができます。
次に、遺言を撤回する際の文例について解説します。
遺言を全部撤回する場合には、遺言撤回書の中で、遺言を全部撤回するという内容の条項を記載しておけばいいことになります。
その文例は以下のとおりです。
なお、もちろんその他の記載内容(署名捺印等)はそれぞれの遺言方式に従ってください。
<自筆証書遺言を全部撤回する場合>
遺言者は、○○○○年○月○日付で作成した自筆証書遺言を全部撤回する。<公正証書遺言を全部撤回する場合>
遺言者は、○○○○年○月○日○○法務局所属公証人○○作成の令和○○年○○号の公正証書遺言を全部撤回する。<秘密証書遺言を全部撤回する場合>
遺言者は、○○○○年○月○日付で作成した秘密証書遺言を全部撤回する。
遺言者は、既にした遺言の一部のみを撤回することもできます。
その場合、遺言中の撤回する条項を明示した上で撤回後の内容を記載し、また、それ以外の条項については従前の内容を維持する旨の文言を記載します。
文例は以下のとおりです。
<自筆証書遺言を一部撤回する場合>
遺言者は、○○○○年○月○日付で作成した自筆証書遺言中、第○○条の「遺言者は、別紙1記載の建物を妻○○に相続させる」とする部分を撤回し、「遺言者は、別紙1記載の建物を長男△△に相続させる」と改める。その余の部分は、すべて上記自筆証書遺言記載のとおりとする。
上記で説明した文例のように「遺言を撤回する」と明示的に記載しなかったとしても、一定の場合には、遺言者が遺言を撤回したものとみなされます。
ここからは、どのような場合に遺言が撤回されたとみなされるのかについて解説します。
ただし、遺言が撤回とみなされる場合、どの範囲の遺言が撤回されるのかが不明確になったり、みなし撤回が認められる場合であるのかどうかを判断するのが難しかったりするなどの問題が生じる可能性があります。
したがって、基本的にはこれまでご説明してきたように、遺言で明示的に「遺言を撤回する」旨を宣言して遺言の撤回をすべきでしょう。
そのほうが、相続発生後の争いも起きにくくなります。
遺言者が一度遺言を残した後、さらに別の遺言を残した場合において、2つの遺言に矛盾する内容が含まれている場合には、後の遺言が優先されます。
この場合、前の遺言は後の遺言により撤回されたものとみなされます(民法1023条1項)。
たとえば、「自宅の土地と建物を妻に相続させる」という内容の遺言を残していたにもかかわらず、後から「自宅の土地と建物を長男に相続させる」という内容の遺言を残した場合には、たとえ撤回するということが明示されていなかったとしても、「自宅の土地と建物を妻に相続させる」という内容の遺言は撤回されたものとみなされます。
遺言者が遺言を残した後に、遺言者がその遺言の内容と矛盾する法律行為を行った場合には、遺言中の矛盾する部分が撤回されたものとみなされます(民法1023条2項)。
たとえば、「自宅の土地と建物を妻に相続させる」という内容の遺言を残していたにもかかわらず、生前にその自宅の土地と建物を第三者に売却してしまったような場合には、「自宅の土地と建物を妻に相続させる」という内容の遺言は撤回されたものとみなされます。
遺言者が故意に遺言書を破棄した場合には、破棄した部分については遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条前段)。
なお、公正証書遺言については、公証役場に原本が保存されています。
ですので、手元にある正本や謄本を破棄したとしても、公証役場に原本が保存されている限り、公正証書遺言の撤回は認められないとされています。
遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合には、破棄した遺贈の目的物に係る部分については遺言を撤回したものとみなされます(民法1024条後段)。
たとえば、「車を妻に遺贈する」という内容の遺言を残していたにもかかわらず、車を廃棄処分してしまった場合には、「車を妻に遺贈する」という内容の遺言は撤回されたものとみなされます。
上記の各場合において、遺言の一部が撤回されたものとみなされたとしても、他の遺言条項は原則として存続します。
ただし、撤回された条項の内容があって初めて意味を持つような条項はみなし撤回の対象となりますので、そのような条項がないかは注意して確認する必要があります。
遺言の撤回に関するいくつかの注意点について、以下で解説します。
先に説明したように、遺言の撤回は自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれの方式によっても行うことができます。
しかし、民法はそれぞれの遺言の方式について、多くの形式的な要件を定めています。
これらの要件を一部でも欠いてしまうと、遺言の撤回が無効と判断されてしまうおそれがあります。
公正証書遺言の方式による場合、遺言の撤回の形式的要件を満たしているかを公証人が確認してくれますので、形式面での不備を理由として遺言の撤回が無効となるおそれはまずなくなります。
したがって、遺言の撤回は公正証書遺言の方式によることが無難と言えるでしょう。
民法は、遺言については、故人の意思を尊重することに最も重きを置いています。
そのため、遺言者はいつでも自由に遺言を撤回することができる旨を定めると同時に、この遺言を撤回する権利を放棄することができないことについても規定しています(民法1026条)。
たとえば、相続人となる人が、遺言者に対して、「もう遺言の内容は決まったんだから、遺言の撤回など絶対にしないように」などと半ば脅迫気味に念押しするようなケースがたまに見られます。
しかし、このような念押しがあったとしても、遺言者には自由に遺言を撤回する権利があるということを覚えておいてください。
遺言が撤回された場合、または撤回されたものとみなされた場合には、その後に「遺言の撤回をさらに撤回する」ということが行われたとしても、撤回された元の遺言が効力を回復することはありません(民法1025条本文)。
ただし、「撤回の撤回」を行った遺言者の意思が、元の遺言を復活させることを希望するものであることが明らかなときは、例外的に元の遺言が効力を回復する場合もあります。(最判平成9年11月13日)。
また、遺言者が元の遺言を撤回(1回目の撤回)した際に、その撤回が錯誤、詐欺、脅迫によるものだった場合は、その後に「撤回の撤回」(2回目の撤回)を行った場合にも、例外的に最初の遺言の効力が効力を回復します(民法1025条ただし書)。
遺言の撤回とは異なる概念ですが、特に撤回と取消しは間違われることも多いため、遺言の無効と取消しについて簡単に解説します。
遺言の無効とは、遺言が当初から効力を有しないことをいいます。
民法に規定される遺言の形式的要件を欠く場合、遺言が遺言者の意思に基づかない場合、遺言の内容が不明確な場合などに、遺言が無効となります。
遺言の取消しとは、取り消されるまでは遺言が有効であるものの、取り消された時点で、当初に遡って効力を有しなくなることをいいます(撤回の場合、撤回された時点から将来に向かって効力を失うという点が異なります)。
民法1027条では、負担付遺贈(受遺者が何らかの義務を履行することを条件として行われる遺贈)を受けた者がその負担した義務を履行しない場合に、一定の手続きを経て遺言を取り消すことを認めています。
遺言の撤回とその方式についてご説明してきました。
遺言の撤回は民法で認められた遺言者の権利であり、いつでも撤回することができます。
ただし、その方法は遺言の方式に従って行う必要があります。
もし遺言を撤回したい場合、確実に行うためにも公正証書遺言の利用をおすすめします。
また、撤回方法や、撤回して問題が生じないかどうかなど、不安な点がありましたら、ぜひ一度お気軽に弁護士にご相談ください。