正しい遺言の書き方|自筆証書遺言の要件と書き方の5つのポイント

遺言書

相続では、被相続人がご自分の最後の思いを相続人に伝えるために、遺言書が重要な役割を果たします。しかし、万一、折角の遺言書が無効になってしまったら取り返しがつきません。

そこで、この記事では、無効とならない正しい遺言書の書き方を、要件やポイントをおさえて解説していきます。

要所に記入例を交えながら、わかりやすく解説していますので、これから遺言書を作成する上で書き方が気になる方は、ぜひ参考にしてください。

1.正しい遺言の書き方|5つのポイント

はじめに、正しい遺言の書き方(自筆証書遺言の書き方)のポイントを5つ挙げます。

これらのポイントをおさえることが、単に遺言が無効にならないだけでなく、円満な遺言の執行にもつながるため、とても重要です。

まずは下記「遺言の書き方の5つのポイント」を念頭に置いて、記事を読み進めていただければと思います。

書き方のポイント

  1. 法律の要件を満たす
  2. 遺産の内容は正確に、不動産の相続は登記簿等に沿って記載する
  3. 遺留分に気を配る
  4. 付言事項を記載する
  5. 遺言執行者は必ず指名する

2.自筆証書遺言の法律上の要件は3つ

一般的に広く採用されている普通方式の遺言には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。中でも、「自筆証書遺言」は、紙と筆記用具、印鑑さえあれば遺言者自身が書くことができる手軽なものとなります。

自筆証書遺言とは、本人が直筆で記載する遺言のことで、民法には、以下のように規定されています。

民法 第968条1項
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

簡単にまとめると、「自筆証書遺言」の法律上の要件は3つです。

  1. 本文は手書き
  2. 日付を自書する
  3. 署名・押印する

すべての要件を満たす必要があり、一つでも要件を欠くと無効になってしまいます。

2-1.本文はすべて自分で手書き(自書)する

自筆証書遺言の要件として、本文はすべて自書しなければなりません。

つまり、自筆証書遺言は、「パソコン・ワープロを使って作成してはいけない」ということです。

自筆証書遺言を書く際には、まず、紙と筆記具そして印鑑を用意しましょう。

民法改正により財産目録のパソコンでの作成が認められる

遺言書全てを自署するのは、意外と大変な作業です。
そこで2019年1月に民法が改正され、別紙で財産目録をつけるときは、その目録をパソコンなどで作成できるようになりました(民法968条2項)。

銀行通帳のコピーや、不動産の登記事項証明書も目録として認められるため、今まで自書していた負担が軽くなります。
ただし、偽造防止のため、目録にも署名押印は必要です。

2-2.筆記具は「消せないもの」を選ぶ

遺言書に使う用紙や筆記具は、法律上特に限定されておらず、どんなものを使っても構いません。
ただ、用紙は「長期保管」の観点から、出来れば高品質・高耐久のものを選んだほうがよいでしょう。

また、筆記具については「偽造/変造のリスク」の点から、特に注意が必要です。まず、鉛筆などの「簡単に文字が消えるもの」は、内容を改ざんされるリスクがあるので、避けるべきです。
ボールペンも、こすると消せるタイプ(フリクションタイプ)のものは避けたほうがいいでしょう。

万年筆や筆といったインクを紙に染み込ませるタイプのものであれば、執筆の気分も盛り上げやすく、筆記具として適切かもしれません。
ただ、使い慣れない方などは無理をせず、書きなれたペンの中から「文字が消せないもの」を選んで書くようにすればよいでしょう。

2-3.法的要件を満たす遺言書の文例

次に、法的要件を満たすための自筆証書遺言の大枠のサンプルをご紹介します。

遺言書

遺言者 相続太郎は次の通り遺言する。

(具体的な遺言内容)

平成28年10月26日
東京都新宿区新宿1丁目1番1号
遺言者 相続太郎 ㊞

日付については、「〇年〇月吉日」と書いても特定できず、遺言書は無効となります。また、「〇年〇月末日」、「〇年の元日」、「満80歳の誕生日」といった記載をすると、日付の特定は可能ですが、遺言書の無効を主張されてしまう可能性もあります。

「平成28年9月30日」といったように、明確に日付を記すことをお勧めします。

日付、住所の後に、遺言者であるご自分の名前を自書し、押印します。印鑑は可能な限り実印を使用するようにしましょう。

3.自筆証書遺言の内容|正確に書く

3-1.相続財産は正確に書く

遺言書は、本人の死後に開封されるため、本人が直接補足説明をすることができません。
そのため、相続財産についても一切の疑いが生じないよう細かく正確に記載する必要があります。

悪い例:「妻に実家を相続させ、長男に預金口座を相続させる」

上記の文例では、遺言者がどの財産を指しているのかが具体的ではありません。遺言書は、相続人が銀行口座や不動産の名義変更をする際にも、添付書類として使用します。そのため、家族や一部の人だけが分かるような書き方ではなく、誰が見てもどの財産を指しているのか分かるように客観的な記載が必要です。

相続財産を相続させる遺言書の文例は、次の通りです。

不動産を相続させる遺言書の文例

1.妻相続花子(昭和○○年△△月××日生)に下記不動産を相続させる。

土地
住所:東京都新宿区新宿1丁目1番1
地番:東京都新宿区新宿1丁目100番2
地目:宅地
地積:100平方メートル

建物
住所:東京都新宿区新宿1-1-1
家屋番号:東京都新宿区新宿1丁目100番2
種類:居宅
構造:鉄筋コンクリート造2階建て
床面積:1階部分 60平方メートル
2階部分 60平方メートル
名称:サンハイツ

相続財産が不動産の場合には、できる限り詳細に記載するために、不動産の登記簿通りに記載しましょう。わからない方は法務局で登記簿謄本を請求してご確認ください。

3-2.遺言書に預金の具体的金額は記載しない

銀行口座の預金を相続させるために遺言書に預金の金額を記載すると、遺産分割で揉めやすくなります。たとえば次のような例です。

悪い例:長男にxx銀行xx支店の預金3,000万円を相続させる

預金は利息が入ったり引き出したりすると金額が変化します。遺言を書いた時には口座の残高がちょうど3,000万円だったとしても、相続発生時の残高が4,000万円だったらどうなるでしょうか?

差額の1,000万円は相続人全員が法定相続分に従って取得することになりますが、生前贈与があったりすると、もめる原因となるため、預貯金を遺言書に記すときには、具体的な金額を記載すべきではありません。

銀行口座預金を相続させる遺言書の文例

2.長男相続一郎(昭和○○年△△月××日生)に下記預金を相続させる。
□□銀行 ▽▽支店 普通口座123456
口座名義 相続太郎

銀行の支店名、口座番号、名義までしっかりと書く、そして具体的な金額は書かないことがポイントです

記載漏れ対策

また、うっかり記載漏れがあったときの対策として、次のような文章も入れると良いでしょう。

3.その他遺言者に属する一切の財産を、長男相続一郎(昭和○○年△△月××日生)に相続させる。

このように記載すれば親族間で疑義が生じる心配もないでしょう。

3-3.その他の書き方|文例を一部紹介

その他の遺言書の文例を記しておきます。

株式を相続させる遺言書の文例

○○証券株式会社△△支店に預託している□□株式会社の株式の全部につき、下記の内容に従い相続させる。

長男相続一郎(昭和○○年△△月××日生) 6000株
長女佐藤紀子(昭和○○年△△月××日生) 4000株

未成年者後見人の指定に関する遺言書の文例

未成年者の三女相続美津子(平成○○年△△月××日生)の未成年後見人として、下記の者を指定する。

本籍 東京都渋谷区渋谷1-1-1
住所 東京都渋谷区渋谷1-1-1
氏名 青山雄一
職業 会社員
生年月日 昭和40年5月6日

遺贈に関する遺言書の文例

例えば、遺言者の孫に遺産を残したい場合には、次のように記載します。

下記の建物を孫である相続平太(平成○○年△△月××日生)に遺贈する。

建物
住所:東京都中野区中野1-1-1
家屋番号:東京都中野区中野1丁目1番3
種類:貸事務所
構造:鉄筋コンクリート造2階建て
床面積:1階部分 100平方メートル
2階部分 100平方メートル
名称:中野ビル

3-4.債務についての記載

相続人は前述した通り、被相続人の義務をも承継します。したがって、相続人は、被相続人の債務をも承継するため、遺言書で債務の承継についても指定することも可能です。

ただし、債務については、遺言書で指定したとしても、あくまで相続人間で有効であるに限り、遺言書に記載されているからといって、債権者に対抗することはできません。裁判所は、債務を、遺産分割を経ずして各相続人の相続分に応じて承継されるものとしており、「遺産分割の対象となるものは,被相続人の有していた積極財産だけであり,被相続人が負担していた消極財産たる金銭債務の如きは相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて当然分割承継されると解せられ,遺産分割によって分配せられるものでない。」とした裁判例があります(東京高等裁判所昭和37年4月13日決定)。

遺言者は次の債務及び費用を長男相続一郎に負担させる。

財産目録〇の不動産を担保とする□□銀行の借入債務

葬儀、埋葬等の費用

法要等の支度費用

4.遺言書を書く際は遺留分にも気を配る

遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる権利で、相続財産に対する最低限の取り分です

例えば、子供が二人(長男・次男)いるときに、片方(長男)だけに遺産を相続させるという記載であっても、遺言としては有効です。
しかし、それでは、次男から長男への遺留分の請求が発生し、感情的な対立が生じます。

せっかく遺言を残すのであれば、円満な相続にしたいと誰もが思うものです。
後にトラブルにならないよう、遺留分にもしっかり気を配って書くことが大事です。

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5.付言事項を記して相続人への思い・配慮を示す

遺言の内容といえば、「遺産(相続財産)の分配」をイメージされることが多いでしょう。

ただ、自分の死後に読まれる文章であることを想定して、日頃の感謝や、葬儀のやり方などについて触れる遺言書もあります。

自筆証書遺言の要件でご説明した通り、遺言(自筆証書遺言)の成立要件と、「どんな内容を書くか」は無関係です。
したがって、「遺言書には何を書いても良い」ということになります。

ただし、書いた内容すべてが、法的効力を持つわけではありません
遺言で記載する内容には、「法的拘束力があるもの」と、「法的拘束力がないもの」があります。

5-1.法的効力のある「法定遺言事項」

遺言書に記載する内容のうち法的拘束力が発生する事項については、「法定遺言事項」として法律に規定されています。
具体的には、次のものが挙げられます。

  • 子の認知(民法781条2項)などの身分に関する事項
  • 相続人の廃除(民法893条)・廃除の取消(民法894条)
  • 未成年後見人の指定(民法839条1項)・未成年後見監督人の指定(民法848条)
  • 相続分の指定(民法902条)
  • 遺贈(民法964)などの財産の処分についての事項
  • その他遺言の撤回(民法1022条)
  • 祭祀継承者の指定(民法897条)
  • 特別受益の持ち戻し免除(民法903条3項)
  • 遺産分割方法の指定、遺産分割の禁止(民法908条)
  •  共同相続人の担保責任の減免、加重(民法914条)
  • 遺留分侵害額請求の負担方法の定め(民法1047条1項2号但書)
  • 遺言執行者の指定又は指定の委託(民法1006条)
  • 信託の設定(信託法2条)

5-2.法的効力のない記載事項

法定遺言事項以外の記載には、法的な拘束力はありません。

たとえば、葬儀の方法について遺言書の中で指定したとしても、相続人は、その記載に拘束されることはなく、別の方法により葬儀を行うことができます。

遺産の分割方法についても、極端に言えば、「遺言の内容と異なる遺産分割協議」をすることも可能です。「ならば遺言を書く意味はないではないか」とも言えそうですが、遺産分割で協議されるのは、故人が残した財産の分配です。よほどのことがない限り、遺言者である被相続人の意思は尊重されます。

そのため、遺言を残す人が「どのような気持ちでいたか」を記すことは、極めて大切です。

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5-3.付言事項を記す重要性

そこで、遺言書の「付言事項」が重要になります。

付言事項とは、法定遺言事項以外の内容を記したものです。具体的には遺言者の「家族に対する感謝の気持ち」や「遺言を書いた経緯」などを記すことが多くなります。

付言事項の中では、「なぜそのような遺産の分け方にするのか」「相続人に対し、どのような感情を抱いていたか」など、相続人に対する遺言者の思いを伝えやすくなります。
付言事項を丁寧に書くことが、相続人の感情に働きかけて遺言者の意思が尊重されやすくなり、相続トラブルを防ぐきっかけとなります。

そのため、当サイトでは、遺言を書く際に、法定遺言事項だけでなく付言事項もしっかり書くことを推奨しています。
付言事項は次の記事で解説しています。ぜひ、参考にしてください。

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6.遺言執行者の指定

6-1.遺言執行者の意義と指定する意味

遺言執行者(いごんしっこうしゃ)とは、遺言の内容を適切に実現すべき職務を行う人です。
遺言書の実現には、遺産の名義変更・登記の変更、相続した不動産の売却など、やるべきことが山ほどあり、手間もかかります。
そこで、遺言執行者を定めておくと、相続人同士が遺産の分配を「誰がどのようにやる」かで揉めずに済むメリットがあります。

遺言執行者には、相続人の誰かを指定することも、弁護士などの第三者を指定することもできます。

なお、遺言執行者の選任方法などについて、以下の記事でご紹介しています。

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6-2.遺言執行者を指定する文例

実際に、遺言書で遺言執行者を指定するためには、次のように記載します。

この遺言の執行者として、下記の者を指定する。

住所 東京都千代田区丸の内1-1-1
氏名 丸山太郎
職業 弁護士
生年月日 昭和35年7月4日

7.自筆証書遺言の保管

7-1.封筒にもしっかりと「封印」を施す

遺言書を作成したら、封筒に入れて、しっかりとをしましょう。
このとき、封筒の糊付け部分には「封印」をしておくと効果的です。
封印_シーリングワックス(封蝋)
画像のように専用の封蝋(ふうろう。シーリングワックスとも言います)で封印をするのもオシャレですが、そこまでしなくとも、手元の印鑑で印を押しておくだけでも良いでしょう。見つけた人が気軽に開封しにくくなります。

7-2.第三者に保管してもらうのがおススメ

遺言書は作成者が死亡するまで保管する必要があります。しかし、保管方法については、次のような板挟みで困ることがあります。

簡単に見つかる場所に保管すると、相続人の一人が勝手に中身を見て、自分に不利益な内容であることを理由に捨てたり、書き換えたりする危険があります。一方で、遺言書は、発見されなければ意味がありません。あまりに発見が難しい場所に保管するのも考えものです。

こうした悩みを解決する方法として、利害関係のない第三者(弁護士などの専門家)に預かってもらう方法、銀行を利用した保管があります。

さらに、2020年7月10日からは、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになりました(法務局に保管してもらった場合には、検認も省略できます)。

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8.自筆証書遺言は専門家に相談して作成を

ご自分で自筆証書遺言を作成する際に、文例を参考にすることは必須だと思います。色々な文例を見比べながら作成すると良いでしょう。
当サイトでは、他にも文例集を作成しているので、気になる方はそちらもご参照ください。

色々な文例を見て、試行錯誤しながら遺言を書く方は多いでしょう。
実際に書いてみると、「どうしても書き方に迷う」「これで良いのか不安が残る」といったことも少なくありません。

そんな時は、相続問題に強い弁護士に相談すると良いでしょう。
相続問題に強い弁護士であれば、遺言を執行する際のことも考えながら、円満な相続に向けた遺言の書き方を適切にサポートしてくれます。

当サイトでも、遺言の書き方をサポートしている弁護士を複数ご紹介しています。気になる方は一度ご相談ください。

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  1. 遺産の分割方法で揉めている
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相続発生前後を問わず、相続に関連する問題に対して、弁護士があなたの味方になります。 まずは気軽に相談されることをオススメいたします。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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