遺言の種類と特徴|3種の遺言のメリットと注意点、オススメを解説
この記事では、3種類の遺言の形式の、それぞれの特徴とメリット、注意点を解説します。オススメの遺言形式や、専門家と相談…[続きを読む]
遺言の内容には、法的効力を持つ「法定遺言事項」と、法的効力はないが書いておくと良い「付言事項」の2つがあります。
法定遺言事項が遺言書にあれば、法的な効力を発揮します。一方で、付言事項を書いておけば、家族に想いを伝えることができます。
ここでは、遺言の付言事項とは何かを解説し、その文例をいくつかご紹介します。
目次
最初に、法定遺言事項と付言事項との違いをまとめておきます。
法定遺言事項は、遺言に書くことで法的効力を発揮する内容です。
法定遺言事項には、「相続分の指定」、「遺産分割方法の指定」など財産の処分・分配に関する事項や、「子の認知」、「相続人の廃除」など相続人に関する事項があり、原則として相続人は、遺言書に記載された法定遺言事項に法的に拘束されることになります。
遺言書に法定遺言事項の記載がなければ、遺言書を遺す意味がありません。
付言事項は、記載しても法的な効力がない遺言内容です。したがって、被相続人が遺言書に書いた付言事項に、相続人が法的に拘束されることはありません。
代表的な付言事項には、「感謝の気持ち」や「遺言を書いた経緯」などを挙げることができます。
付言事項によって被相続人の想いを伝えることで、被相続人の意思が尊重されやすくなります。その結果、相続トラブルを回避して、円満な相続ができるケースも多くなります。
遺言書には法定遺言事項をすべて書き、その後に付言事項を書きます。最後に、日付・住所・氏名を書き押印します。
遺言書
遺言者 相続太郎は次の通り遺言する。
1.長男相続一郎(昭和○○年△△月××日生)に下記預金を相続させる。
XX銀行 XX支店 普通口座123456
・・・
(付言事項)
病気の私のために最後まで尽くしてくれた、○○、△△に大変感謝しています。
財産は多くはないけれど、それぞれに少しづつ分けました。
どうか兄弟どうし争わずに最後まで仲良く暮らしてください。
平成28年11月30日
東京都新宿区新宿1丁目1番1号
遺言者 相続太郎 ㊞
上記サンプルのように「付言事項」と記し、その下に付言事項を書くことで、付言事項がどこに位置するのかが明確になります。
もっとも、「付言事項」と記さない場合でも、法的効力を持たない内容は、付言事項として扱われます。
実際に付言事項をどのように書くのか、いくつかの事例を基に文例をご紹介します。
最初に、遺言者の配偶者に大半の遺産を遺したい場合の付言事項をご紹介します。
これからの生活を不安なく送ってもらうために、私の人生を支えてくれた妻〇〇に感謝の意を込めて、遺産の大半を相続させることにしました。
子供たちは皆自立しており、それぞれ私の支えを必要としないほど立派に自分たちの生活をしています。これから1人老後の生活を暮らす母親のことを考え、この遺産配分になったことをどうか理解してください。
配偶者に感謝の意を伝えるとともに、子供には配偶者への遺産配分が多いことを理解してもらいたい旨を記します。
ただし、子供が持つ遺留分の権利は遺言書よりも優先するため、あくまで理解してもらえるようにお願いするに止めます。
次に、法定相続分と異なる遺産配分をした場合の付言事項です。
私の介護に尽力してくれたことを考え、長女〇〇には、自宅の家屋と土地、預金の半分を相続させることにしました。長女〇〇は、同居していたこともあり、よく尽くしてくれました。
色々と苦慮しましたが、他2人の子供たちは独立して立派に生活を営んでおり、この遺産配分に至りました。
他2人の子供たちが相続できる遺産は少なくなってしまいますが、この事情を理解して遺留分を請求しないようにお願いします。
法定相続分と異なる遺産配分をする理由を最初に述べ、遺留分を請求してほしくない旨を丁寧にお願いします。
本来であれば相続権のない長男の嫁に対して、遺贈する場合です。
長男の嫁である○○さんに私の介護をお願いすることになり大変な負担と苦労をおかけしました。介護中の○○さんはいつも笑顔を絶やさず一生懸命で、最期まで私の介護に尽くしてくれました。炊事洗濯はもちろんのこと、身の回りのお世話をしてくれたことには感謝の念で胸がいっぱいです。その苦労に報いるためにも、先に記載したとおり遺産を遺贈したいと思います。
次男や三男には言い分もあるでしょう。しかし、私は○○さんには感謝しても、しきれずにいます。どうかこの遺言内容で、兄弟が揉めることのないようにしてください。父の最後のわがままですが、どうかお願いします。
尽くしてくれた長男の嫁に、どんなことに感謝しているのか具体的に伝えます。また、本来の相続人に対しても不満を抱かず理解してもらえるように依頼します。
あくまでもお願いする立場で書けば、子どもたちは納得してくれる可能性が高くなるでしょう。
経営者であった被相続人が、子どものうち一人を選んで全株式を渡し後継者としたい場合です。
私は○○年から○○会社を経営し、家のことは妻の○○にまかせっきりで大変苦労をかけました。また、子供たちにも父らしいことができずに申し訳ないと思っています。
次男の○○は大学卒業後、すぐに○○会社の経営に参加してくれました。業績が悪化した時や資金難に陥った時に、○○が一生懸命に働いてくれたからこそ、今でも経営が続いていると心から思っています。そこで次男の○○に事業を継いでもらいたいと考え、すべての株式を相続させることにしました。
家族の言い分もあることは承知しています。しかし、会社のことや従業員のことを考えると、私は次男の○○に相続させるべきだと判断しています。
「船頭多くして船山に上る」という諺がありますが、まだまだ小さい○○会社が競争の激しい分野で経営を確実に行っていくためには、○○に株式を集中させスピード感ある判断をしていく必要があります。また、株式を持つということは単に財産を受けつぐだけでなく、会社と従業員の運命も一緒に背負うことです。
どうかこの株式の相続で家族が揉めるようなことがないようにしてください。そして今まで私が最期まで経営に携われたのは、家族みんなのおかげです。本当にありがとう。
会社経営で家族に苦労をかけたことを詫びるとともに感謝の念を表します。そして、次男に事業を継がせたいことと、その理由を明確に記します。
全株式を次男に相続させると、明らかに不公平になり他の相続人は不満を抱くことになります。そこで、なぜそうする必要があるのかを本音で書いておきます。自分なりの経営哲学を書くのも良いでしょう。
付言事項には相続に関する以外のことでも書くことができます。たとえば、葬儀をやらず直葬(そのまま火葬)にしてほしい場合の付言事項です。
私が死んだ後は、葬式や告別式などは行わずに直葬で済ませて下さい。
妻の○○には最期まで付き添ってくれて本当に感謝しています。また、長男の○○も定期的に見舞いに来てくれて本当に嬉しい思いでいっぱいです。
ただ、そんな大変な思いをしてくれた家族に、これ以上の大きな負担をかけず、静かに葬儀を済ませて欲しいのです。葬儀もごく親しい身内のみで執り行ってもらえれば、私も静かに眠ることができます。
身内だけで葬儀をすることは私の強い希望です。こうした葬儀をすることで、決して家族皆が揉めることがないようにお願いします。私は、皆が笑顔で私を送ってくれるのを切に望んでいます。
自分の死後にどうしてほしいのか、理由とともに明確に記します。感謝の念も忘れずに書くと良いでしょう。
最後に付言事項を書く際のポイントについて解説します。
付言事項を書く上で、もっとも大切なのは感謝の気持ちを伝えることです。具体的に誰に対して何を感謝しているのかを伝えます。
実名で、その方との思い出やエピソードを書くようにします。
付言事項を書く上で、どうしてこのような遺言をするに至ったのか、経緯を書くことも大切です。付言事項で遺言者の想いを伝えるのです。
遺言書を遺しても、相続人の不平不満から、大きな相続トラブルへと発展するおそれがあります。
そのため、なぜそのような遺言の内容に至ったのか、その経緯を書くことで相続人の納得を促す必要があります。
付言事項には「感謝の気持ち」や「遺言したい経緯」のほかに、どんな人生だったのかなどを書いても良いでしょう。
また、遺言者が亡くなった後の葬儀についての希望や臓器提供、遺品の処分についてなどを記載しておくこともできます。
このように亡くなった後の希望を記すことで、相続人が迷うことが減り、結果として負担軽減につながります。
ほとんど顔も見せなかった親族や、嫌な目にあった親族がいると、愚痴や嫌味を書きたくなることもあるでしょう。しかし、否定的な内容を書くことはお勧めできません。
遺言者が亡くなった後に否定的な文章を読むと、その文章が独り歩きして親族間にしこりを残し、否定的なことを書かれた相続人は、自分を嫌った他の相続人が遺言者にあらぬことを吹き込んだのではないかと疑って、取り返しのつかない断絶につながる可能性もあるからです。
もちろん、付言事項には何を書いても自由です。しかし、遺言書で家族がばらばらになるのは本意ではないでしょう。愚痴や嫌味など書きたいことがあったとしても、控えるに越したことはありません。
遺言内容には、法的効力がある法定遺言事項と、法的効力がない付言事項があります。
付言事項自体には法的効力はありませんが、遺言を記した経緯や感謝の念を伝えることで、遺言を実行してもらうための強い影響力があります。
ここではいくつかの文例を紹介しましたが、あくまでもサンプルであり、これらにこだわることなく、自分なりの言葉で本音で書かれると良いでしょう。
遺言についてわからないことがあれば、相続に強い弁護士に相談することをお勧めします。