自分の遺留分はいくら?相続での遺留分の計算方法を具体例で解説
遺留分権利者である相続人の方は、実際遺留分侵害額請求によっていくら取り戻せるのか気になるところだと思います。遺留分が…[続きを読む]
公正証書遺言は、3種類ある遺言書の中でも、信頼性が高く、おすすめできる遺言書です。そんな公正証書遺言であっても、遺留分は侵害できません。
今回は公正証書遺言と遺留分の関係について解説します。
目次
作成時に証人という第三者や、法律の専門家である公証人が関わる上に、原本を公証役場で保管してもらえるという点で、公正証書遺言は広く普及する自筆証書遺言よりも法的に信頼性が高い遺言です。
しかし、公正証書遺言であっても、遺留分は侵害できません。
遺留分の制度は、相続人に最低限の遺産取得割合を法的に認めることで、親族間の対立を回避し、親族の経済的安定と法的公平性の両立を図る目的で設けられているため、遺言書にも優先します。
したがって、遺言書であっても遺留分を侵害すれば、遺留分侵害額請求の対象となり、公正証書遺言も例外ではありません。
公正証書遺言が遺留分を侵害していたとしても、遺言自体は有効です。その代わり、遺留分を侵害された相続人が、「遺留分侵害額請求権」を取得します。
遺留分侵害額請求権とは、不当に侵害された遺留分に相当する金銭を請求する権利であり、請求を受けるのは、「遺産を譲り受けた人」です。この請求権は、相続の開始と遺留分の侵害があった事実を知った時から1年で消滅します(民法1048条)。
請求権を取得した相続人が、実際に請求するかどうかは遺留分を侵害された相続人次第で、請求がなされなければ、遺言書の通りに遺産分割が行われます。
一方、請求されれば、請求された側は拒否することができません。遺留分相当額の支払いを拒否すれば、調停や裁判へ発展します。
このように、公正証書遺言をもってしても、遺留分をめぐるトラブルが起きることは珍しくありません。
遺留分侵害額請求を受けるのは「遺産を譲り受けた人」で、遺留分を請求する順序は、法律で決まっています。
遺言書で遺贈と贈与があれば、遺贈によって遺産を譲り受けた受遺者が先に遺留分侵害額を負担します(同法1047条1項1号)。
贈与については、死因贈与の受遺者が生前贈与の受遺者1よりも先に、遺留分侵害額を負担しなくてはならないと判示した裁判例があります(東京高判平成12年3月8日)。
遺贈や贈与によって受遺者や受贈者が複数いる場合には、譲り受けた遺産の額に応じて遺留分を負担します(同法同条同項2号)。
遺言者であっても、遺贈から死因贈与、死因贈与から生前贈与への遺留分侵害額請求の順序を変更することはできません。
しかし、複数の受遺者がいる場合や、同時に行われた贈与の受贈者が複数いる場合には、遺言者は書遺言で「遺留分侵害額請求がされたときに請求を受ける順番」を指定することができ、遺留分権利者は、その意思に従うことになります(同法1047条1項2号但書)。
たとえば、相続人が配偶者、長男、次男の3人で、配偶者と長男に遺贈をした場合には、「先に長男に遺留分侵害額請求を行い、その後に配偶者へ請求するように」と指定しておけば、次男はまず長男へ遺留分侵害額請求をしなければなりません。
では、なぜ遺留分が相続トラブルの原因となるのでしょうか?
前述の通り、遺留分を侵害した側は、遺留分相当の金銭を支払わなければなりません。遺産が現預金だけであれば、請求する側と請求される側とで遺留分の額についてもめることはさほど多くないでしょう。
しかし、遺産に土地が含まれていると、請求する側は土地をできるだけ大きく評価して「遺留分の基礎となる財産の価額」を大きくし、請求される側は土地をできるだけ小さく評価して「遺留分の基礎となる財産の価額」を小さくしたいのが世の常です。
そのうえ、土地の評価方法は複数存在します。そのため実際には、請求する側、請求された側の双方が不動産会社に査定を取り、それぞれの査定金額をもとに時価を争うケースが多くなります。
公正証書遺言とは言えども、相続人に負担をかけないためには、遺言書を作成する際に遺留分への配慮が重要なことがお分かりいただけると思います。
では、公正証書遺言による遺留分トラブルを回避するには、どのような対策があるのでしょうか。
遺言者が、各相続人の遺留分を侵害しない内容の公正証書遺言を作成することが基本です。遺留分の侵害が発生しないことになり、トラブルを防止することができます。
ただし、遺留分を正確に計算する必要があり、ご自分の考える遺産分割内容を一度弁護士に相談することをおすすめします。
遺留分の計算方法については、以下の記事をご一読ください。
どうしても遺留分を侵害する遺言書を作成したければ、遺留分侵害額請求に備えて、資金を準備する方法もあります。
例えば、相続人となるのが長男と次男の2人で、長男にほとんどの遺産を相続させる遺言書を作成し、遺言者を被保険者、長男を受取人とする生命保険に加入します。こうしておけば、死亡保険金は民法上受取人固有の財産とされ、遺産分割の対象にはならず、相続が開始しても長男は受け取った死亡保険金で、次男に遺留分相当の額を支払うことができます。
ただし、保険金の受取人である相続人とその他の相続人間に著しく不公平が生じると認められれば、保険金は遺留分の対象になり、相続税法上死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象です。
次に、相続人に遺留分の放棄を承諾してもらう方法も考えられます。
しかし、遺留分の放棄には、家庭裁判所の許可も必要で、放棄する相続人にはメリットがないため、承諾を得るのはなかなか難しいのが現実です。
ただし、予め一定の財産を事前に渡すことで同意してくれる可能性もあり、交渉のプロである弁護士に相談してみる価値はあります。
遺留の分放棄の方法については、以下の記事をお読みください。
遺言書を作成する際には、法的な効力がない「付言」を書き添えることができます。この付言に遺言者の想いを記載することで、遺留分減殺請求の抑止とするのです。
法的効力がないため、遺留分権利者はこの付言に縛られることはありません。しかし、被相続人の最後のメッセージだと考えれば、相応の抑止効果は期待できるでしょう。
公正証書遺言であっても、遺留分を侵害することはできません。
相続トラブルを防ぐために法的に信頼度の高い公正証書遺言を作成しても、遺留分をめぐって結局トラブルを招いてしまうおそれがあります。
そして、それらのトラブルを防止するためには、公正証書遺言の作成段階から、遺留分に配慮した文言を考えておくことが必要です。
弁護士の正確な指示を仰ぎながら作成していくのが最善の策といえるでしょう。当サイトでは、相続に強い弁護士を数多くご紹介しています。ぜひ、ご活用ください。