公正証書遺言の証人に誰がなる?資格は必要?|証人が負う役割も解説

公正証書遺言は、複数ある遺言書の中でも最も信頼度の高い遺言書です。
しかし、残念ながら被相続人ご本人だけでは作成できません。
公証役場にいる公証人に加えて、証人を2人以上用意しなければならないのです。
本記事ではどんな人が証人になれるのか、また作成日当日に証人はどんなことをするのか、作成後に発生する責任などを解説します。
1.公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、遺言者・証人2名・公証人の合計4名で、公証役場にて作成する遺言書です。
遺言書の種類には、他にも自筆証書遺言と秘密証書遺言がありますが、公正証書遺言はプロである公証人の立ち会いのもと作成するため、前の2つと比べて最も信頼度が高いといえます。
繰り返しになりますが、公正証書遺言の作成には証人2名以上の立ち会いが必要です。
証人を必要とする目的は、「遺言者本人が、正常な判断能力を持っている状態で、自分の意思に基づいて間違いなく遺言書を作成していること」を確認し、後からトラブルが発生するのを防ぐためです。
では、この2人の証人には、どのような人がなれるのでしょうか。
2.証人には誰がなれる?
証人になるために、特別な資格は不要です。
ただし、証人になれない人というのはいます。以下の通りです(民法974条)。
- 未成年者
- 推定相続人および受遺者(※)やこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
上記のいずれかに当てはまる人は、証人になることはできません。
逆にいえば、当てはまらなければ、誰でも有効な証人として連れていくことができます。
※推定相続人とは…もしも実際に相続が開始した場合に相続人になると考えられる人
受遺者とは…遺贈を受ける人
実際のケースで証人となることが多いのは、遺言者の信頼できる友人・親友、弁護士、司法書士などが挙げられます。
いくら親友でもさすがに遺言書のことまでは知られたくない、という方も多いでしょうから、そのような場合には、客観的かつ専門的知識も有している弁護士に依頼するのがおすすめです。
また、もしも適切な証人がご自分では見つけられないという場合には、公証役場で紹介してもらうこともできます。
証人1人あたり約6,000円なので、2人合計で12,000円程度の手数料がかかります。
3.証人はどんなことをする?
それでは、実際に証人となった人は具体的にどんな役割を果たすのでしょうか。
3-1.当日の流れや必要書類
当日の流れ
当日は、公証役場にて、所要時間30分~1時間程度で公正証書遺言書作成が行われます。
大まかな流れは以下の通りです。
- 公証人が公正証書遺言の内容を読み上げる
- 内容に間違いがなければ、本人の意思を確認した後、被相続人・公証人・証人2人で各自署名と押印をする
- 完成した遺言書は、以後、公証役場で保管される
つまり証人としての仕事は、遺言書が正しい内容であることを確認し、署名押印をするだけです。簡単な役割のようですが、証人である以上、もちろん責任も伴います。
詳しくは3-3.で解説します。
証人の必要書類
また、証人が当日持っていく必要があるのは、運転免許証や健康保険証などの本人確認書類と印鑑のみです。
印鑑は認印で構いませんが、シャチハタは不可なので注意しましょう。
3-2.公証役場に支払う費用(通常、被相続人が負担)
補足として、公正証書遺言作成にかかる費用の内訳を記載しておきます。
通常、遺言者(被相続人)が負担します。
手数料
遺言書作成で公証役場に支払う手数料は、相続財産に比例して増額します。
相続財産 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43,000円 + 5,000万円ごと13,000円加算 |
3億円を超え10億円以下 | 95,000円 + 5,000万円ごとに11,000円加算 |
10億円を超える | 249,000円 + 5,000万円ごとに8,000円加算 |
遺言手数料の加算
また、相続財産が1億円以下の場合には、上記の手数料に追加で11,000円かかります。
用紙代
公正証書遺言を作成するときには、一般的に、原本・正本・謄本の3部を作ることになります。
遺言用紙1枚につき250円、原本については4枚以上のときに用紙代がかかります。
通常かかる用紙代としては、おおよそ3,000円程度といわれています。
出張代
遺言者の足が不自由など、どうしても公証役場には行けない事情があるときには、公証人が出張して遺言書作成を行う場合があります。
その際には公証人が移動する出張代がかかります。
具体的には、前述した遺言手数料の加算(11,000円)を除いた目的価額による手数料額の1.5倍が基本手数料になります(公証人手数料令32条)。
この基本手数料に遺言手数料11,000円を加え、さらに規定の日当(1日2万円、4時間まで1万円)と交通費の実費を負担しなくてはなりません。
3-3.証人はどんな責任を負うのか
遺言書作成当日の流れはつかめていただけたでしょうか。
しかし、証人の役割は、当日だけでは終わりません。遺言書作成に携わった者として、当然、その後も責任を負います。
通常、証人がトラブルに巻き込まれることはありませんが、以下のように遺言書の有効・無効の争いで一定の役割が期待される場合があります。
ただ、事例としては少ないためそれほど身構える必要はありません。
遺言書の有効・無効をめぐる争いで、出頭が求められる可能性
公正証書遺言が有効か無効かをめぐって争われた際に、証人として出頭することが求められることがあります。
出頭の指示があった場合、正当な理由がないと欠席は認められません。
もしも正当な理由なく欠席すると、10万円以下の罰金または拘留(民事訴訟法193条1項)もしくは訴訟費用負担と10万円以下の過料(同法192条)に処される可能性があります。
とはいえ、こうした不出頭の制裁は、実際にはほとんど科されることはありません。
以上のように、証人には相応の責任が求められますから、証人を選ぶ際には慎重に、また証人に選ばれた際には自覚ある行動をとりましょう。
4.まとめ
本記事では、公正証書遺言の作成に必要な2人の証人について解説しました。
公正証書遺言の証人になるのに資格は不要ですが、未成年者など、証人にはなれない人については決められています。
また、証人になると、実際に相続が発生した際、その公正証書遺言が適切に作成されたことについて、作成時立ち会った人として一定の責任を負います。後々遺言書をめぐってトラブルが生じた場合に備えて、証人を選ぶ際には、その人が適任かどうか改めて考えることが必要です。
もしも妥当な証人がご自身の周りで見つけられないという場合には、弁護士などに依頼するのもおすすめです。弁護士は法律の専門家ですから、遺言書作成の段階から相談すれば、トラブルの芽をつむ助言もしつつ、万が一のときにも心強い味方になってくれるはずです。