遺言と異なる遺産分割協議を行う場合の注意点
遺言がある場合でも遺産分割協議をすることは可能なのでしょうか?遺言がある場合は、原則として遺産はその遺言に沿って分配…[続きを読む]
遺言書の内容の一つとして「相続分の指定」というものがあります。
相続分の指定とはどのようなもので、相続にはどのような影響があるのでしょうか。
この記事では、相続分の指定の概要や指定方法、注意点についてご説明します。
目次
相続分の指定とは、簡単にいえば遺言書で相続人の遺産の取得割合を定めることです。
被相続人は、遺言書で共同相続人の法定相続分とは異なる相続割合を定めることができ、その遺志が尊重されます。また、遺言書で、第三者に相続分を定めることを委託することも可能です(民法902条1項)。
これを「相続分の指定」といい、定められた相続分を「指定相続分」と呼びます。
例えば、法定相続分と異なる相続分を次のように記載して指定します。
各相続人の相続分は次の通り指定する。
1.妻 相続B子(昭和○年○月○日生)3分の2。 2.長男 相続C男(平成□年□月□日生)6分の2。 3.次男 相続D男(平成△年△月△日生)6分の1。 |
指定相続分は、紛争を防止する観点から、遺言でのみ定めることができるとされています。
ただし、残念ながら、相続分の指定とはいっても絶対ではありません。
相続人全員が合意するなど、一定の条件を満たせば、遺言とは異なる割合で遺産分割することも可能とされています。
一方で、「長男に実家を遺してやりたい」といった特定の相続人に特定の財産を承継させたいこともあるでしょう。この場合には、「長男に○○を相続させる」のように、「特定財産承継遺言」というものにする必要があります(民法1014条2項)。
これを「『相続させる』旨の遺言」ともいいます。
翻って、相続分の指定では、あくまで相続する遺産の割合のみを定めます。したがって、具体的にどの財産をどう分けるかは相続人たちが遺産分割協議で決定する必要があります。
そのため、実際に相続分の指定が用いられることはあまり多くありません。
ただ、相続財産に色々な種類があり、個別に指定するのは大変という場合などには一定の利便性があります。
次に、いくつかのパターンを挙げて「相続分の指定」について具体的に考えてみましょう。
相続人全員について相続分の指定をすると、原則として相続人は、その指定に従って遺産を取得します。
ただし、遺留分侵害の問題や、具体的に誰がどの遺産を承継するかの遺産分割の問題、遺産分割の際に遺産の評価をどうするかといった問題が残るため、相続分の指定さえすれば解決というわけではありません。
特に、不動産などの分割しにくい遺産があると、相続分の指定は適さないこともあります。もし、「この遺言内容で大丈夫かな?」と迷ったら、弁護士などの専門家への相談が欠かせません。
次に、共同相続人の一部についてのみ相続分の指定をすると遺産分割はどうなるのかについて考えてみましょう。
例えば、息子3人のうち、老後の面倒をみてくれた長男に遺産の1/2を、次男と三男には2人あわせて残り1/2とし、特に次男・三男の割合は指定せずに与えたいというケースです。
この場合は、指定相続分を除いた残りの遺産を他の共同相続人が法定相続分に応じて分け合うことになります(902条2項)。そのため、上の例での各相続人の相続分は、長男Cが1/2、次男Dが1/4、三男Eが1/4となります。
相続分の指定がない次男Dと三男Eの分については、法定相続分に従わず遺産分割で決めることも可能です。
ただし、このケースで、共同相続人の中に配偶者がいる場合は、相続分について次の2パターンの解釈が可能であり、判例もないため、争いになりやすいポイントです。
- 被相続人:夫A
- 相続人:妻B・長男C・次男D・三男E
- 相続分の指定:「長男C 1/2」
パターンA
- 配偶者の法定相続分を優先し、妻Bが遺産の1/2を取得する。
- 妻Bの法定相続分以外の遺産である1/2を、子ども3人の相続分とする。
- 遺産1/2を長男Cが1/2、次男Dが1/4、三男Eが1/4となるように分ける。
妻B:1/2
長男C:1/4
次男D:1/8
三男E:1/8
パターンB
- 長男Cは指定相続分である1/2を取得する。
- 長男Cの取得分1/2を除いた残りが、配偶者と子ども2人の相続分となる。
- 遺産1/2を妻Bが1/2、次男Dが1/4、三男Eが1/4となるように分ける。
妻B:1/4
長男:C1/2
次男:D1/8
三男:E1/8
こうしたケースでは、最終的にその遺言者がどちらのつもりであったのかを、その遺言者と相続人らの置かれた状況を考慮し、合理的な観点から推測して決めることになります。これを「遺言の意思解釈」といいます。
遺言を書く側としては、死後に真意に反する解釈をされないため、明確な内容を定めておくべきです。
その意味で、相続分を指定するなら共同相続人全員の指定相続分を定めておくことがベストであり、少なくとも配偶者の相続分は明確にしておくべきです。
最後に、遺言書で相続分の指定をする際の注意点をご説明します。
遺留分という被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の遺産の取得割合があります(民法1042条)。
相続分は遺言で自由に指定でき、たとえ遺留分を害する相続分を指定した遺言であっても、それ自体は有効です。
しかし、遺留分を侵害された相続人は、相続分の指定によって利益を受けた相続人に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます(民法1046条1項)。
このため、例えば遺産が自宅の土地建物だけというように換価処分(売却)の困難な遺産しかないケースでは、相続分の指定によって相続分を増やしてあげた相続人が自腹での金銭の支出を強いられ、かえって苦労させてしまうこともあります。
したがって、相続分の指定を行うときも遺留分への配慮が求められます。
遺言と遺留分については、次の記事もぜひお読みください。
相続分の指定は、あくまで遺産の取得割合のみの指定です。
前述した通り、具体的に誰がどの財産を相続するかは相続人たちが遺産分割で決定することになります。
遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成しなければなりません。
遺産に借金などの債務がある場合でも、相続分の指定にしたがって相続人に債務を相続させることができます。
ただし、それは相続人間内部の約束であり、債権者(貸主など)が拘束されることはありません。
したがって、債権者は、法定相続分どおりにそれぞれの相続人に請求することもでき、相続分の指定割合にしたがって請求することも可能です(民法902条の2)。
請求を受けた相続人は、いずれの請求をされてもひとまず銀行には弁済しなければなりません。
相続人は、弁済後、相続人同士での求償(本来の負担分より多く払った分を、少なく払った人に請求)をすることになります。
「相続分の指定」は、遺言書によって相続人の相続割合を指定する方法です。
相続分の指定をする際の注意点には、
などが挙げられます。
もし遺言書で相続分の指定する際に、記載内容が適切かどうか迷ったり、遺言書で相続分の指定をしても争いになりそうなときは、ぜひ一度弁護士に相談されることをおすすめします。