遺産分割を禁止できる?最大5年の遺産分割禁止とその方法
遺言書や相続人全員の合意などによって、遺産分割を一定期間禁止することができます。この記事では、遺産分割禁止のメリット…[続きを読む]
被相続人の遺言があれば、原則としてその遺言に従って遺産が分配されます。遺言は被相続人の最後の意思表示として優先されるべきだからです。
しかし、どうしても遺言とは異なる遺産分割を行いたいこともあります。果たして、遺言と異なる遺産分割協議をするのは可能なのでしょうか?
結論を先に申し上げれば、遺言と異なる遺産分割協議を行うことは可能です。しかし、いくつか注意すべき点があります。
そこで本稿では、遺言と異なる遺産分割協議の有効性、登記、税金について解説します。
目次
遺言と異なる遺産分割が可能になるには、いくつか条件があります。
遺言と異なる遺産分割協議が可能となる条件
上記の条件をすべて満たせば、遺言書の内容と異なる遺産分割協議をすることは可能です。その理由をご説明しましょう。
相続人は、いつでもその協議によって遺産の分割をすることができますが、「被相続人が遺言で禁じた場合」は除かれています。(民法907条)。
一方、遺言者は、次の通り、5年を超えない範囲で遺産分割を禁止することができます。
民法908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)1項
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
遺言は被相続人の最後の意思表示であり、相続人は遺言を最大限尊重しなければならないため、遺言者が遺産分割を禁じていれば、相続人はその意思に従い、遺産分割はできません。
もし遺言内容に不満があれば、遺産分割で解決するのではなく、他の方法を探す必要があります。
遺言内容を知ったうえで、遺言とは異なる遺産分割に相続人全員が同意しなければなりません。
協議成立後に遺言の存在が発覚すれば、存在を知らなかった相続人から協議無効を主張される可能性もあります。
遺産分割協議の成立には相続人全員の同意が必要であることから、当然といえば当然です。
遺贈には、遺贈する遺産の割合を示した「包括遺贈」と特定の財産を指定して遺贈する「特定遺贈」とがあります。
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を持つため(同法990条)、遺産分割協議に参加して自分が受ける遺贈を具体化する権利があり、包括受遺者の同意があれば遺言と異なる遺産分割協議に参加することができます。
また、包括受遺者にも特定遺贈の受遺者にも「遺贈の放棄」に同意してもらえれば、遺贈された財産を相続人のものとして、遺言と異なる遺産分割協議をすることも可能です。
ただし、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つため、包括遺贈の放棄は、自己のために相続開始があったことを知った時から3ヶ月以内に包括遺贈の放棄の申述を家庭裁判所にしなければなりません(特定遺贈の放棄には期限が定めれられていません(同法986条1項))。
遺言と異なる遺産分割をしたい相続人は、包括受遺者には遺産分割協議への参加か遺贈の放棄について、特定遺贈の受遺者には、遺贈の放棄について同意を得る必要があります。
遺言執行者には、遺言の内容を実現するための執行に必要な一切の権利・義務を有しており、(同法1012条1項)、相続人がこれを妨害するために行った行為はすべて無効になってしまいます(同法1013条1項・2項)。
しかし、遺言執行者に指定されたとしても、自分の意思で就任しないことを選択することも可能であり、相続人は事前に遺言と異なる遺産分割をしたい旨を伝え、就任を辞退してもらう選択肢もあります。
また、遺言執行者が就任しても、遺言と異なる遺産分割をしたい旨を説明すれば、実際に反対する遺言執行者はそれほど多くはないでしょう。
遺言書は、遺産分割方法や相続分の指定をすることができます。
遺言の内容によって、遺言と異なる遺産分割協議をしたときに影響があるのかどうか確認してみましょう。
相続分の指定とは、遺言書によって、法定相続分とは異なる、各相続人が受け取る相続財産の割合を指定することを指します。
この遺言が遺されていると、遺言書の相続割合に沿って誰がどの遺産を取得するのか遺産分割について具体的に協議し、相続人全員が合意した協議に基づいて各財産の所有権が移転すると解されています。
協議の中で、遺言と異なる内容が決められても、それが、上記の条件すべてを満たしていれば有効な遺産分割協議となります。
特定財産承継遺言は、遺産に属する特定の財産を相続人の一人または数人に相続させる旨の遺言です。例えば「A不動産を相続人Bに相続させる」というような遺言は、特定財産承継遺言と解されます。
特定財産承継遺言では、相続開始の瞬間から、A不動産はBのものとなります。つまり、特定財産承継遺言が遺されていると、遺産分割協議を行う余地がないことになります。
最高裁判所も次のように判事しています。
したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。
しかし、この場合も実務上では、一旦、遺贈を受けたものを相続人間で贈与ないし交換的譲渡したと考えることはでき、そのような協議も有効であるとされています。
ただし、特定財産承継遺言が遺されていると、次項でご説明する通り、相続登記については注意が必要です。
特定財産承継遺言が遺されていると、登記においては、一旦遺言書に基づいた「相続」を原因とする所有権移転登記を経たうえで、贈与などにより所有権を移転させる必要があります。登記は、原則として権利移転の経緯をそのまま反映させなければならないとされているからです。
例えば、「A不動産を長男に相続させる」という特定財産承継遺言が遺されており、相続人である長男と二男が遺言と異なる遺産分割協議によって、A不動産は二男が相続することに決めたとします。
しかし、法律上A不動産の所有権は、相続開始と同時に被相続人から長男に移転しており、その後所有権は協議により長男から次男に移転していることになります。
そのため、登記の際には、まず、被相続人から長男に「相続」を原因とする所有権移転登記を行い、その後、長男から二男に「交換」または「贈与」を原因とする所有権移転登記を行う2つの登記申請が必要になります。
最後に遺言と異なる遺産分割についての相続税について解説します。
相続税の計算では、受遺者となる相続人が遺贈を放棄して遺言と異なる遺産分割協議を行っても、受遺者から贈与や交換があったと考える必要はありません。贈与税についても考える必要はありません。
通常の遺産分割協議を行った際の相続税の計算と同じで、相続税の課税価格が変わることはありません。
【参考外部サイト】「遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」|国税庁
例外として、相続人以外の特定受遺者がおり、遺言と異なる遺産分割を行った場合には次の問題が発生します。
例えば、遺言書では、相続人意外の特定受遺者がAという財産を遺贈されていたにもかかわらず、相続人との話し合いによって、Bという財産を取得することになったときには、まず、相続人以外の受遺者にも、取得した遺産に対して相続税が課されます。
次に、相続人ではない特定受遺者は遺産分割協議に参加することはできず、相続人との話し合いによってA財産の代わりにB財産を取得すれば、A財産とB財産とを「交換」したとして、その交換で譲渡益が出れば、その譲渡益に所得税が課されます。
こうしたケースでは、遺産分割協議をする前に、相続税に強い税理士に相談する必要があります。
遺言と異なる遺産分割は可能です。
しかし、ここまでご説明した通り、そこには満たさねばならない条件があり、慎重な検討が必要です。
遺言と異なる遺産分割を検討している方がいらっしゃいましたら、相続に強い弁護士にご相談いただくことをお勧めします。