生前に相続対策をするべき理由と各種対策方法のまとめ

seizen souzokutaisaku

「自分が築いた資産を誰が受け継ぐことになるか」というのは多くの人が気になることだと思います。
また、自分の遺産について争ってほしくない、というお気持ちの強い方も多いでしょう。

相続は、自分が亡くなったあとの話で遺言くらいしかできることはないと思われているかもしれませんが、実は生前にできる相続対策は意外と多いです。

この記事では、なぜ生前の相続対策が必要なのか、生前にできる相続対策はどのようなものがあるのかついて解説します。

相続の対策を生前にするべき理由

生前の相続対策を実行しておくべき理由は、大きく分けると①相続争いの防止②相続税対策です。

対策が必要な理由①|相続争いの防止

遺産は法定相続人が法定相続分にしたがって相続することが原則ですが、法定相続分は相続できる割合を定めたものに過ぎませんから、個々の法定相続人が承継する具体的な財産は、遺産分割で決めることになります。

遺産分割は、まず法定相続人間の協議を行って決めますが、ここで紛争が生じやすいのです。紛争が生じるパターンには主に次の2つがあります。

  • そもそも法定相続分どおりの遺産分割に不満を持つ者がいるケース
  • 法定相続分にしたがった相続については納得していても、具体的な遺産の分け方に不満を持つケース(ほとんどの場合、不動産の評価をめぐる対立です)

死後、家族が相続争いでもめることは悲しいことです。
防止する手段を講じておくことが、資産を持つ者のつとめではないでしょうか。

対策が必要な理由②|相続税対策

生前に相続の対策をするべきもうひとつの理由は、相続税対策です。

相続税法の改正により、2015(平成27年)1月1日以後に発生した相続については、基礎控除額が「5000万円+1000万円×法定相続人数」から、「3000万円+600万円×法定相続人数」に引き下げられ、相続税を支払うことになる家庭が増加しました。

生前に、しっかりと相続税対策をしておくことが、資産の流出を最小限にくいとめ、残された家族の生活を保障することになります。

生前にできる相続対策方法の種類

生前にできる相続対策方法の主なものは、次の各方法があげられます。
それぞれクリックするとこのページでの解説部分に飛びます。

以下では、これらを順番に解説します。

生前の相続対策①|遺言で相続割合を決めておく「相続分の指定」

例えば、遺言書で「長男の相続分を5分の3、次男の相続分を5分の2とする。」などと指定した場合が、相続分の指定です。

この場合、割合のみが指定され、具体的にどの遺産をどう分けるかという点は相続人の遺産分割に委ねられます。
そのため、例えば実家の土地建物がある場合のように、預貯金より不動産資産が多いときには、かえって相続争いになりやすいこともあります。

可能であれば、次にご説明する「遺産分割方法の指定」がおすすめです。

相続分の指定について詳しくはこちらの記事で解説しています。

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生前の相続対策②|具体的な分け方を決めておく「遺産分割方法の指定」

被相続人は、遺言でより具体的な遺産の分割の方法を定めることもできます(民法908条)。

この「遺産分割方法の指定」には、主に次の2種類があります。

  1. 分割「手法」を決めておく場合
  2. 具体的な遺産の「帰属先」を決めておく場合

分割「手法」の指定

分割「手法」を指定する場合とは、①遺産を売却して金銭を分ける換価分割、②遺産の現物を分け合う現物分割、③遺産の現物を分け合ったうえで代償金で利害の調節を行う代償分割のいずれかの手法を採用するように指定するものです。

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ただ、現物分割は誰が何をもらうかが問題となりやすく、代償分割は代償金の適正額が問題となりやすく、いずれも紛争の種を残します。

換価分割であれば、相続分にしたがって金銭を分けるだけですから、遺言で相続分を指定したうえで分割方法として換価分割を定めておくことが、最も紛争防止に役立ちます。

とはいえ、多くの場合、遺産の中には、遺族が居住する自宅など処分が困難な財産が含まれているので、全遺産を売却するという手法を採用できるのはレアケースとも言えます。

「帰属先」の指定(特定財産承継遺言)

具体的な遺産の「帰属先」を指定する場合とは、特定の遺産についてそれを相続する者を指定しておくもので、これを「特定財産承継遺言」と言います(民法1014条2項)。

典型的には、「○○所在の土地は、Aに相続させる」という遺言です。「『相続させる』遺言」という呼び方もします。

この特定財産承継遺言で特定の遺産を相続する者を定めたときは、原則としてその遺産については遺産分割手続は不要であり、相続発生時から当然にその相続人が相続により承継するとされています(最高裁平成3年4月19日判決)。
【参考】裁判所HP判例詳細

その結果、特定財産承継遺言で不動産を相続した者は、自分だけで登記名義変更手続が可能となります。
建物や土地の名義変更に他の共同相続人の協力が不要なので、紛争予防に役立ちます

特定財産承継遺言について詳しくはこちらの記事で解説しています。

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生前の相続対策③|遺言で遺贈を行う

遺言によって相続人でない者に遺産を与えたい場合は、「遺贈」を利用します(民法964条)。

遺産の全てや割合を指定してを与える包括遺贈も、遺産の特定の財産だけを与える特定遺贈も可能です。

しかし、遺贈は相手によっては相続人が納得せず争いになることもありますし、次の生前贈与と同様に特別受益と遺留分にも注意する必要があります。
お世話になった人などに遺贈する場合でも、できれば弁護士に相談してから決めることをおすすめします。

遺贈についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

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生前の相続対策④|生前贈与する

遺産争いを防止するには、自分が生きているうちに財産を贈与してしまう「生前贈与」も方法のひとつです。

遺言のように、本人の死亡後に遺言書が無効となったり、遺言内容の解釈が問題となったりする危険がありません。

ただし、生前贈与については、特別受益、遺留分、贈与税の3つに注意する必要があります。

生前贈与の注意点(1)|特別受益

共同相続人に対する生前贈与が、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」とする趣旨で行われていたときは「特別受益」となります(民法903条1項)。
こうした目的で贈与することは、その者を他の共同相続人よりも優遇する趣旨ではなく、「遺産の先渡し」であると評価されるためです。

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このため、遺産分割にあたり、相続財産全体の価額を計算する際には、「遺産の先渡し」である特別受益の価額も含めて計算するのです。
これを特別受益の「持ち戻し計算」と呼びます。

特別受益とされても「持ち戻し計算」がされるだけで、その生前贈与が無効となるわけではありませんが、特別受益にあたる生前贈与の分も含めて、全体で公平になるように計算されるということです。

そこで、その相続人に特定の財産を生前贈与しておいたうえで、さらに残った遺産についても、他の共同相続人と平等に相続させたい(つまり贈与と累計で多く渡したい)ときは、その生前贈与が「遺産の先渡し」の趣旨ではないという意思を表明しておく必要があります。
これを「持ち戻し免除の意思表示」と呼びます(民法903条3項)。

被相続人の持ち戻し免除の意思表示は、必ずしも遺言による必要はないのですが、相続争いを防止するためには、遺言中にこれを記載しておくことが確実です。
具体的には、生前贈与を受け取った相続人名と生前贈与の内容を特定したうえで、「特別受益としての持ち戻しを免除する」と記載します。

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配偶者の場合の特例

民法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間における住居・敷地の遺贈・贈与には「持ち戻し免除の意思表示」があったと推定することになりました(民法903条4項)。

この推定規定は、改正法の施行日である2019年7月1日以後に行われた夫婦間贈与に適用されます。これより後に発生した相続であっても、これより前に行われた夫婦間贈与には適用されないことに注意してください。

ただ、法律の規定による持ち戻し免除の意思表示はあくまで「推定」されるだけなので、異議ある相続人が反証をすることが許されます。
相続争い防止の観点からは、このような夫婦間の生前贈与でも、やはり遺言に持ち戻し免除の意思表示を明記しておくことがおすすめです。

生前贈与の注意点(2)|遺留分

生前贈与も、次の場合には、贈与を受けた者(受贈者)が遺留分侵害額の支払請求を受ける可能性があります(民法1044条)。

この記事では、遺留分について解説します。遺留分とは何か、だれにどのように認められる権利か、割合はどの程度かなどを図表…[続きを読む]
  • ①相続開始前1年間の贈与
  • ②相続開始前1年より前の贈与でも、贈与者と受贈者が遺留分を侵害することを知っておこなった贈与
  • ③相続人に対する相続開始前10年間の特別受益にあたる贈与
  • ④相続人に対する相続開始前10年より前の贈与でも、贈与者と受贈者が遺留分を侵害することを知っておこなった特別受益にあたる贈与

なお、③と④は民法改正で追加された規定で、2019年7月1日以後に発生した相続に適用されます。
施行日前に発生した相続については、相続人に対する特別受益にあたる生前贈与は、原則としてその時期を問わず遺留分の対象となります(最高裁平成10年3月24日判決)。
【参考】裁判所HP判例詳細

生前贈与の注意点(3)|相続税・贈与税

生前贈与には贈与税が課税されます。贈与税の目的は、相続税のがれを防止することにあります。

なお、相続開始前3年以内に相続人又は受遺者に生前贈与されていた資産は相続財産に加算されて相続税の課税対象となります(相続税法19条1項)。
そのため、生前贈与を検討している場合は早めの対策が必要です。

贈与税の節税手段には様々なものがあり、代表的なものは次のとおりです。
ここでは概要のみ解説していますが、より詳しく知りたい方は解説の下にある記事をお読みください。

暦年課税制度の利用

贈与に認められる毎年110万円までの基礎控除枠を利用し、徐々に資産を生前贈与してゆく方法です(相続税法21条の5、租税特別措置法70条の2の4)。

ただし、例えば毎年100万円を10年継続して贈与するようなケースでは、定期贈与とみなされ、基礎控除の枠内であっても課税される可能性があるため、注意が必要です。

相続時精算課税制度の利用

この制度は、60歳以上の父母・祖父母から、20歳以上の子や孫に対して行う生前贈与には、贈与者1名あたり2500万円までは贈与税がかからない代わりに、相続時に、相続財産に加算して課税するという制度です。

この制度を活用できるケースとしては、例えば相続財産に贈与資産を加算しても相続税の基礎控除枠に収まるケース、贈与時よりも相続時に贈与資産の価値が上昇することを期待できるケース、贈与資産が賃料などの収益を生むケースなどが考えられます。

住宅取得等資金の贈与

父母・祖父母から、子・孫に対する住宅用家屋の新築、取得、増改築等の資金贈与には、住宅の内容などにより、1500万円から300万円までの非課税枠があります(租税特別措置法70条の2)。

教育資金の一括贈与

父母・祖父母から、子・孫に対する入学金、授業料などの教育資金の贈与は、一定の要件のもと、1500万円までの非課税枠があります(租税特別措置法70条の2の2)。

結婚・子育て資金の一括贈与

父母・祖父母から、子・孫に対する挙式費用、新居費用、出産費用、保育費用などの結婚・子育て資金の贈与は、一定要件のもと、1000万円までの非課税枠があります(租税特別措置法70条の2の3)

生命保険の非課税枠の活用

被相続人の死亡による生命保険金で、被相続人が保険料を支払っていたものは、相続税の課税対象となりますが、「500万円×法定相続人の人数」が非課税枠となります(相続税法12条1項5号イ)。

こうした贈与税について詳しくはこちらの記事で解説しています。

関連記事(姉妹サイト)

生前の相続対策⑤|生前に処分して金銭にしておく

生前に金銭化しておくメリット

生前に資産を全部処分して金銭にしておくことは、相続対策として次のメリットがあります。

  • 不動産、貴金属、宝石、美術品、非公開株式などの資産価値を幾らと評価するかをめぐっての相続争いは防止できる。
  • 誰がどの遺産を取得するかをめぐっての相続争いも防止できる。

金銭化するデメリット

しかし、次のようなデメリットや注意点もあります。

  • 預貯金は遺産分割の対象となるとするのが判例(最高裁平成28年12月19日決定)なので、遺産分割協議は行わなくてはならない。
  • 寄与分や特別受益といった、相続分をめぐる争いは防止できない。
  • 処分してしまうと、小規模宅地の特例(租税特別措置法69条の4)を受けることができなくなり、遺産の評価が高くなって、相続税が増えてしまう危険がある。

生前の相続対策まとめ

生前にできる相続対策について、以下の5つがあることをご説明してきました。

このように多種多様な相続対策がありますが、ご自分の状況でどのような方法が適切で、例えば遺言書は具体的にどう書くのがいいかというのは難しい問題です。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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