非嫡出子の相続分|違憲判例で何が変わって、いつから適用?

非嫡出子 相続分

戸籍上の結婚をしていない両親から生まれた「非嫡出子」も、今では平等な相続が認められています。
しかし、過去には、戸籍上の婚姻関係にない男女間に生まれた子ども「非嫡出子」は、婚姻化関係にある男女から生まれた「嫡出子」の半分しか相続できないという民法の規定がありました。

今では、民法が改正されていますが、実は、現在でも、誰でもこの問題に巻き込まれてしまう危険があるのです。

この記事では、「非嫡出子の相続」について、民法改正前の内容、改正された新規定の内容、改正された理由、いつからの相続ならば平等となるのか、今でも問題となる危険があるとはどういうことか等について解説していきます。

1.非嫡出子が相続権を主張するには認知が必要

非嫡出子が父親の相続権を主張するためには、父親からの認知が必要になります。父親からの認知がなければ、父親との法律上の親子関係が生じないからです。

非嫡出子が認知されるためには、以下5つの方法があります。

認知の方法

2.非嫡出子の法定相続分

2013年に民法が改正されたことによって、法律上、非嫡出子と嫡出子の法定相続分は同じになりました。

2-1.現在の非嫡出子の法定相続分は嫡出子と同じ

嫡出子・非嫡出子にかかわらず子どもの法定相続分は以下の通りで(民法887条1項、同法900条1項)、いずれの場合も、子が複数人いるときは、人数割りとなります(民法900条4項)。

子供の法定相続分

2-2.以前の非嫡出子の相続分は嫡出子の1/2

しかし、かつての嫡出子と非嫡出子の相続分には大きな違いがありました。非嫡出子の相続分は嫡出子の半分とされていたのです。

(旧民法)900条4項ただし書前段
子(中略)が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし(以下略)…

非嫡出子 相続

3.非嫡出子の法定相続分はいつから変わるのか

上述した、非嫡出子に不利な旧規定は、平成25年に現行通りに改正されました。

ここでは、なぜ民法は改正されたのかを解説し、非嫡出子の法定相続分が変更になった時点を探ってみることにしましょう。

3-1.非嫡出子の法定相続分を巡る2つの最高裁判所判例

最初に、民法改正のきっかけとなった最高裁判所の判例とそれ以前の判例をご紹介します。

民法改正の契機となった最高裁判所平成25年の違憲判決

民法の非嫡出子の法定相続分が改正された理由。それは、最高裁判所が平成25年の9月4日に、非嫡出子に差別的な規定を「憲法違反」とする判例を出したからです。問題となったのは、平成13年7月某日に死亡した被相続人の遺産分割に関する事案です。

相続人にあたる非嫡出子が、「非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする決まりは、憲法14条1項に違反しており、無効である」と主張しました。憲法14条1項は、国民ひとりひとりが平等であることを定めたものです。

最高裁は平成25年9月4日決定で、上記の訴えを認め、嫡出子も非嫡出子も同じ「子ども」であることに変わりはなく、両者は平等だとしました。

さらに、最高裁は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたと判断しました。この年月は、問題となった事案の相続が発生した(=被相続人が亡くなった)時点を指しています。

平成25年9月5日以降に発生した相続に対しては、新法が適用され、嫡出子と非嫡出子の相続分は同じになります。

平成25年9月5日とは、上の最高裁決定が出された翌日です。
最高裁の違憲判断が出た以上、少なくともそれ以降は、非嫡出子に差別的取扱いをするべきではないとされました。

【参考】最高裁大法廷決定平成25年9月4日の全文

旧規定を合憲とした最高裁判所の判例

しかし、それまで最高裁判所は、平成15年3月31日の判決でも「非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定が憲法14条1項に違反するものでないことは,当裁判所の判例とするところである」とした通り、旧規定を合憲としていました。

この事案は、平成12年9月に相続が開始されたものです。

【参考】最高裁HP:※最高裁平成15年3月31日判決の詳細

3-2.平成13年7月~平成25年9月4日に発生した相続

この期間の原則

最高裁決定の事案は、「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた」と判示しているので、少なくとも平成13年7月以降に発生する相続については、原則として差別的取扱いは禁じられる(旧規定が適用されない)ことになります。

この期間の例外

ただし、この期間の例外として、すでに決着のついた事案については、以下のことが最高裁で定められました。

「既に関係者間において裁判、合意等により確定的なものとなった法律関係」は、旧規定を前提とするものであっても無効とはならない。

「既に関係者間において裁判、合意等により確定的なものとなった法律関係」とは、平成25(2013)年9月4日までに、次の状態となった場合です。

  • 遺産分割の協議(合意)が成立済み
  • 遺産分割調停が成立済み
  • 遺産分割審判が確定済み

非嫡出子の法定相続分の例外規定が認められる理由

なぜ、確定した事案については、差別的な取り扱いも認められてしまうのでしょうか。

最高裁による決定があった平成25年9月4日と、相続開始の時点である平成13年7月との間には、約12年間もの長い期間が横たわっています。

この期間中には膨大な数の相続が発生し、その多くは、当事者間の遺産分割協議、家庭裁判所での遺産分割調停や遺産分割審判で決着がついているはずです。

もちろん、その中には非嫡出子であるが故に、旧規定によって半分の相続分しか受け取れなかった方が多く存在します。
現代であればもらえたはずの相続分をもらえなかった方々は、旧規定による被害者といっても良いでしょう。

しかしながら、もし、決着がついている昔の遺産分割まで蒸し返してしまうと、膨大の数の調停等がやり直しになり、大混乱になるのです。
また、分配された遺産金を使ってすでに経済活動を行ってしまった相続人も多いでしょうから、嫡出子がもらいすぎたお金を非嫡出子に返還することは容易ではありません。

上記をふまえて、確定した遺産分割については、蒸し返すことができません。

3-3.平成12年10月以降~平成13年6月に発生した相続

さて、本記事でみた2つの最高裁の判断を並べると、次のとおりとなります。

  1. 平成15年3月31日判決
    平成12年9月相続開始の時点で旧規定は合憲
  2. 平成25年3月31日決定
    平成13年7月相続開始の時点で旧規定は違憲

ここからわかるように、1と2の間、すなわち平成12(2000)年10月以降、平成13(2001)年6月までの間に発生した相続については、最高裁は言及していません。したがって、この間、旧規定が有効か否かは不明なのです。

この時期の相続については、非嫡出子側が、旧規定の違憲無効を主張して争う余地があることになりますが、その結果がどうなるかはわかりません。

そのため、この空白の期間については、「グレーゾーン」といえます。
ただし、グレーゾーン中の相続でも、少なくとも、成立済みの遺産分割協議・調停、確定済みの遺産分割審判を覆されることはないと推測できるでしょう。

2-4.平成12年9月までに発生した相続では旧規定が有効

歴史的にそれよりも前から差別的取り扱いは憲法違反なのではないかと度々主張されていましたが、最高裁判所は、一貫して合憲としてきました。

それを裏付けように、最高裁判所は、平成25年の違憲決定でも、あくまで「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反」としたものであって、これ以前に合憲としてきた判断を変更するものではないと明言しています。

一方、旧規定を合憲とした最高裁平成15年3月31日判決の事案は、平成12年9月に相続が開始されたものです。

したがって、最高裁の立場からすると、少なくとも2000(平成12)年9月までに発生した相続は、旧規定は憲法違反ではなく、不平等な規定は有効ということになります。

2-5.非嫡出子の法定相続分はいつから嫡出子と同じになるのか

以上のことをまとめると、次の通りとなります。

相続が発生した時期 相続分について
~2000年(平成12)年9月 非嫡出子の法定相続分:嫡出子の2分の1
2000(平成12)年10月~2001(平成13)年6月 少なくとも「確定的なものとなった法律関係」は覆らないと推測される。
2001(平成13)年7月以降~2013(平成25)年9月4日
  • 原則:非嫡出子と嫡出子の相続分は平等
  • 例外:すでに確定した遺産分割に関しては非嫡出子を差別的に取り扱っていても有効
2013(平成25)年9月5日~ 改正法により、非嫡出子と嫡出子の相続分は平等

4.現在でも問題になる非嫡出子の相続分

ご自分や家族・親族が嫡出子でも非嫡出子でも、現在発生する相続については平等です。

しかし今なお、非嫡出子の相続分に関する旧規定が絡むトラブルが発生する可能性や、非嫡出子を巡って相続争いになる可能性があります。

4-1.非嫡出子の相続分に関する旧規定が絡むトラブル

例えば、亡くなったあなたの曾祖父(ひいおじいさん)が所有する山林の遺産分割が完了しておらず、曾祖父の名義のままであったとします。

名義が被相続人のままでも、その所有権は、相続によって、祖父の代や、父の代の共同相続人の共同所有に細分化されていきます。
このように遺産分割が不完全なまま次の代、また次の代と相続が進んで、自分の代で判明した頃には共同相続人が何十人にものぼっていた、というケースは珍しくありません。

何代にもわたる相続の中、グレーゾーンの時期に発生した相続の相続人に非嫡出子がいた場合、その時期における旧規定の適用が憲法違反となるか否かが問題となる可能性があります。その非嫡出子をさらに相続した次の代の共同相続人の相続分が、大きな影響を受けるからです。

4-2.非嫡出子を巡る相続争いを回避するためには

父親が認知すると、非嫡出子は嫡出子と同じ法定相続分を取得することができます。しかし、相続の場になって突然非嫡出子が現れると、面白い相続人はいないでしょう。

だからと言って、父親の死後、他の相続人が認知された非嫡出子を除いて遺産分割協議を行えば、遺産分割協議は無効になってしまいます。

非嫡出子が無事遺産分割協議に参加できたとしても、なかなかまとまらない可能性も高くなります。

そのため、遺言書に非嫡出子を含めて遺産の分割方法を指定しておくのも一つの方法です。ただし、非嫡出子を認知しないまま遺言書により遺産を遺贈しようとすると、相続税の2割加算の対象となるため、注意が必要です。

非嫡出子の相続問題は、相続が発生した時期などによっても考え方が異なり複雑ですから、法律の専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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