非嫡出子の相続分|違憲判例で何が変わって、いつから適用?

戸籍上の結婚をしていない両親から生まれた「非嫡出子」も、今では平等な相続が認められています。
しかし、ほんの数年前まで、「非嫡出子」は「嫡出子」の半分しか相続できないという民法の規定がありました。
今では、民法が改正されていますが、実は、現在でも、誰でもこの問題に巻き込まれてしまう危険があるのです。
この記事では、「非嫡出子の相続」について、民法改正前の内容、改正された新規定の内容、改正された理由、いつからの相続ならば平等となるのか、今でも問題となる危険があるとはどういうことか等について解説していきます。
目次
1.【基礎知識】非嫡出子/嫡出子とは
日本の民法は、結婚している男女の子どもと、そうでない子どもを区別しています。
その区別が、「嫡出子」と「非嫡出子」です。
「嫡出子」とは、戸籍上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子どものことです。
これに対し、戸籍上の婚姻関係にない男女間の子どもが「非嫡出子」です。
民法上は、「嫡出でない子」と表現されています(民法779条)。
2.現在:非嫡出子と嫡出子の相続分は同じ
はじめにお伝えしておくと、現在の民法では、親が死亡したとき、嫡出子であっても非嫡出子であっても相続分は同じです。
ちなみに子どもの法定相続分は、以下の通りです(民法887条1項)。
- 子と配偶者が相続人のとき……子:2分の1、配偶者:2分の1(民法900条1項)
- 被相続人に配偶者がおらず、相続人が子だけのとき……子が100%相続
上記どちらの場合も、子が複数人いるときは、人数割りとなります(民法900条4項)。
3.昔:非嫡出子の相続分は嫡出子の1/2
しかし、かつての嫡出子と非嫡出子の相続分には大きな違いがありました。
昔は、非嫡出子の相続分は嫡出子の半分とされていたのです。
(旧民法)900条4項ただし書前段
子(中略)が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし(以下略)…
4.判例と民法改正で変わった|平成25年の違憲決定
上述した、非嫡出子に不利な旧規定は、平成25(2013)年に現行通りに改正されました。
では、なぜ、改正されたのでしょうか?
それは、最高裁判所が平成25年の9月4日に、非嫡出子に差別的な規定を「憲法違反」とする判例を出したからです。判例を受けて、民法も同年中に改正されました。
どんな判例だったか、簡単にご説明します。
旧規定の憲法14条1項違反を認めた判例
問題となったのは、【平成13(2001)年7月某日に死亡した被相続人】の遺産分割に関する事案です。
相続人にあたる非嫡出子が、「非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする決まりは、憲法14条1項に違反しており、無効である」と主張しました。
憲法14条1項は、国民ひとりひとりが平等であることを定めたものです。
最高裁は平成25年9月4日決定で、上記の訴えを認め、嫡出子も非嫡出子も同じ「子ども」であることに変わりはなく、両者は平等だとしました。
さらに、最高裁は、「遅くとも平成13(2001)年7月当時において、憲法14条1項に違反していた」と判断しました。この年月は、問題となった事案の相続が発生した(=被相続人が亡くなった)時点を指しています。
ここまでの非嫡出子の相続まとめ
このように、昔は非嫡出子の相続分は嫡出子の半分でしたが、現在は法律が改正され、被相続人の子どもはみな等しく相続できるようになりました。
しかし、相続がいつ発生したかによって扱いが異なってくるので注意が必要です。
特に平成25年9月以前に相続が発生した人や、遺産分割を放置していた家の方は要注意です。
昔の相続問題が未解決のままで、今のあなたが当事者となって、祖先の法定相続分を争わなくてはならなくなる可能性があります。
ここからは、非嫡出子の相続に関して、かなり難しいところまで説明していきます。
上記に当てはまった方や、より詳しい内容にご興味のある方は、ぜひお読みください。
5.非嫡出子と嫡出子が平等になるのはいつの相続から?
これまでの説明で、何年の何月だとか、日にちが少しややこしかったのではないでしょうか。
非嫡出子の相続では、「相続が発生した時期」がとても重要になってくるのです。
結局、嫡出子と非嫡出子の相続分が平等とする規定は、いつ発生した相続に適用されるのでしょうか。
難しい説明になりますが、4つの時期に区分して考える必要があります。
はじめに、表でざっくりとご説明します。
相続が発生した時期 | 相続分について |
---|---|
1期 平成12(2000)年9月まで |
非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1 |
2期 平成12(2000)年10月以降 ~平成13(2001)年6月まで |
グレーゾーン。 ただし少なくとも「確定的なものとなった法律関係」は覆らないと推測される。 |
3期 平成13(2001)年7月以降 ~平成25(2013)年9月4日まで |
原則:非嫡出子と嫡出子の相続分は平等 例外:すでに確定した遺産分割に関しては非嫡出子を差別的に取り扱っていても有効 |
4期 平成25(2013)年9月5日以降 |
改正法により、非嫡出子と嫡出子の相続分は平等 |
以下で、それぞれの時期について詳しく解説します。
なお、本記事では、4期から順に遡って説明します。
4期<平成25(2013)年9月5日以降>の相続:新法の適用
まず、平成25(2013)年9月5日以降に発生した相続に対しては、新法が適用され、嫡出子と非嫡出子の相続分は同じになります。
平成25(2013)年9月5日とは、上の最高裁決定が出された翌日です。
最高裁の違憲判断が出た以上、少なくともそれ以降は、非嫡出子に差別的取扱いをするべきではないとされました。
続いて、新法の及ばない平成25(2013)年9月4日以前に発生した相続は、どのように取り扱われるか見ていきましょう。
3期<平成13(2001)年7月以降~平成25(2013)年9月4日>の相続
この期間の原則
最高裁決定の事案は、「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた」と判示しているので、少なくとも平成13年7月以降に発生する相続については、原則として差別的取扱いは禁じられる(旧規定が適用されない)ことになります。
この期間の例外
3期の例外として、すでに決着のついた事案については、以下のことが最高裁で定められました。
「既に関係者間において裁判、合意等により確定的なものとなった法律関係」とは、平成25(2013)年9月4日までに、次の状態となった場合です。
- 遺産分割の協議(合意)が成立済み
- 遺産分割調停が成立済み
- 遺産分割審判が確定済み
なぜ、確定した事案については、差別的な取り扱いも認められてしまうのでしょうか。
最高裁による決定があった平成25(2013)年9月4日と平成13(2001)年7月との間には、約12年間もの長い期間が横たわっています。
この期間中には膨大な数の相続が発生し、その多くは、当事者間の遺産分割協議、家庭裁判所での遺産分割調停や遺産分割審判で決着がついているはずです。
もちろん、その中には非嫡出子であるが故に、旧規定によって半分の相続分しか受け取れなかった方が多く存在します。
現代であればもらえたはずの相続分をもらえなかった方々は、旧規定による被害者といっても良いでしょう。
しかしながら、もし、決着がついている昔の遺産分割まで蒸し返してしまうと、膨大の数の調停等がやり直しになり、大混乱になるのです。
また、分配された遺産金を使ってすでに経済活動を行ってしまった相続人も多いでしょうから、嫡出子がもらいすぎたお金を非嫡出子に返還することは容易ではありません。
上記をふまえて、確定した遺産分割については、蒸し返すことができません。
※注意:「可分債権」について
「可分債権」とは分割することが可能な債権のことで、貸金債権などがそれにあたります。たとえば、被相続人が第三者に金銭を貸し、返済されないまま他界した場合、相続人は法定相続分にしたがってこの貸金債権を相続することができます。
しかし、最高裁は貸金債権を相続しただけでは「確定的な法律関係」にはならないとしています。実際に借金の返済を受けたわけではなく、あくまで債権という不確実なものだからです。お金をきちんと受領して初めて、法律関係が確定したといえるでしょう。
1・2期<平成13(2001)年6月以前>の相続
さて、最高裁決定の事案は、平成13(2001)年7月某日発生の相続であり、旧規定が「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反」と判示しました。
では、平成13(2001)年6月以前に発生していた相続についてはどうなるのでしょうか?
1期<平成12(2000)年9月以前>の相続
前述の通り、「非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする規定が違憲無効である」と初めて認められたのは、平成25年のことです。
歴史的にそれよりも前から差別的取り扱いは憲法違反なのではないかと度々主張されていましたが、一貫して合憲とされてきました。
しかし、平成25年の違憲決定では、あくまでも「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反」としたものであって、最高裁がこれ以前に合憲としてきた判断を変更するものではないと明言しています。
また、平成25年決定の前に、旧規定を合憲としたのは最高裁平成15年3月31日判決(※)であり、その事案は平成12(2000)年9月に相続が開始されたものです。
したがって、最高裁の立場からすると、少なくとも平成12(2000)年9月までに発生した相続は、旧規定は憲法違反ではなく、不平等な規定は有効ということになります。
【参考】最高裁HP:※最高裁平成15年3月31日判決の詳細
2期<平成12(2000)年10月以降~平成13(2001)年6月>の相続
さて、本記事でみた2つの最高裁の判断を並べると、次のとおりとなります。
- 平成15年3月31日判決→平成12(2000)年9月の時点で旧規定は合憲
- 平成25年3月31日決定→平成13(2001)年7月の時点で旧規定は違憲
ここからわかるように、1と2の間、すなわち平成12(2000)年10月以降、平成13(2001)年6月までの間に発生した相続については、最高裁は言及していません。
そこで、果たして、この間、旧規定が有効か否かは不明なのです。
この時期の相続については、非嫡出子側が、旧規定の違憲無効を主張して争う余地があることになりますが、その結果がどうなるかはわかりません。
そのため、この空白の期間については、「グレーゾーン」といえます。
ただし、グレーゾーン中の相続でも、少なくとも、成立済みの遺産分割協議・調停、確定済みの遺産分割審判を覆されることはないと推測できるでしょう。
6.現在でも問題になる非嫡出子の相続分
本記事では、非嫡出子の法定相続分について説明しました。
ご自身や家族・親族が嫡出子でも非嫡出子でも、現在発生する相続については平等ですから問題はありません。
しかし今なお、非嫡出子の相続分に関する旧規定が絡むトラブルが発生する可能性があります。
例えば、亡くなったあなたの曾祖父(ひいおじいさん)が所有する山林の遺産分割が完了しておらず、曾祖父の名義のままであったとします。
名義が被相続人のままでも、その所有権は、相続によって、祖父の代や、父の代の共同相続人の共同所有に細分化されていきます。
このように遺産分割が不完全なまま次の代、また次の代と相続が進んで、自分の代で判明した頃には共同相続人が何十人にものぼっていた、というケースは珍しくありません。
何代にもわたる相続の中、グレーゾーンの時期に発生した相続の相続人に非嫡出子がいた場合、その時期における旧規定の適用が憲法違反となるか否かが問題となる可能性があります。その非嫡出子をさらに相続した次の代の共同相続人の相続分が、大きな影響を受けるからです。
あなた自身が非嫡出子でなくとも、さらにはあなたと同じ代の相続人に非嫡出子がいなくても、誰でもこの問題に巻き込まれる可能性があるのです。
非嫡出子の相続問題は、相続が発生した時期などによっても考え方が異なり複雑ですから、法律の専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。