「遺贈」と「死因贈与」の違いは何?優先するのはどっち?

遺贈」とは、遺言によって被相続人の財産を譲渡することを指します。
他方「死因贈与」とは、契約により、被相続人の死亡を原因として財産の譲渡を定めることを言います。

両者には、相違点や注意すべきポイントがあります。
この記事では、遺贈と死因贈与の意味と違いを解説します。

1.遺贈と死因贈与の違い

では、遺贈と死因贈与の違いについて、細かくご紹介しましょう。

1-1.遺贈と死因贈与の法的性質の違い

遺贈と死因贈与は、法律上の性質が異なります。そこから次のような違いが生じます。

遺贈は法律上「単独行為」

遺贈は、法律上遺言により成立する「単独行為」です。受贈者の意思や合意は必要ありません

ただし、遺言という書面を用意しなければなりません。

死因贈与は法律上「契約」

これに対し死因贈与は法律上「贈与契約」のため、双方の合意によって成立します。

双方の合意が明確であれば、特別の書面は必要ありません。もっとも法律上の要件でないというだけで、なんらかの契約書を作成するのが一般的です。

1-2.遺贈・死因贈与ができる年齢の違い

遺贈は遺言により、死因贈与は契約により財産を譲り渡しますが、この方法の違いから、遺贈と死因贈与は、有効に行うことができる年齢に違いが生じます。

遺贈ができる年齢は15歳

遺言は、満15歳に達すれば、することができます(民法法961条)。したがって、遺贈も15歳に達すれば、単独ですることができます。

死因贈与を単独でできるのは成年

契約は、法律行為なので、死因贈与は、成年に達していれば単独でできますが、未成年者の場合は、親権者など法定代理人の同意を得なければなりません(同法5条)。

1-3.撤回方法の違い

遺贈と死因贈与は、撤回方法が異なります。

遺贈の撤回は遺言の方式に従う

遺贈は、遺言によって行い、遺言は、遺言の方式に従って撤回することができます(同法1022条)。したがって、遺言者が遺贈を撤回したければ、遺言内容を変更することで、撤回が可能です。

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死因贈与の撤回には注意が必要

死因贈与も、民法1022条が準用されると考えられるため撤回は可能です。しかし、現実的には、一方的に死因贈与を撤回すると受贈者とトラブルになるケースがあります。

また、負担付死因贈与で、受贈者が、負担部分の履行を済ませている場合は、撤回にやむを得ない特段の事情がない限り、撤回することができません

1-4.放棄についての違い

遺贈と死因贈与では、放棄についても違いがあります。

遺贈は放棄可能

遺贈は、受遺者が放棄することができます。

ただし、包括遺贈は、相続放棄と同様に、相続開始を知った3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。

一方で、特定遺贈の場合は、特に放棄についての期間制限はなく、いつでも相続人または遺言執行者に対する意思表示により放棄することができます。

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死因贈与は放棄できない

死因贈与は、受贈者と受遺者の契約であることは前述した通りです。したがって、契約で受贈者からの解除を認めていない限り、受贈者の都合で一方的に、死因贈与の放棄をすることはできません。

1-5.受遺者・受贈者が先に亡くなった場合

遺言書に遺贈の記載をしても、死因贈与契約をしても、受遺者や受贈者が遺贈者や贈与者よりも先にお亡くなりになることはあります。

その際に「遺贈」や「死因贈与」がどうなるかにも違いがあります。

遺贈は失効

遺言者より先に受遺者がなくなると、遺贈は失効します(同法994条1項)。受遺者の相続人は、遺贈の権利を受遺者から相続するわけではありません。

死因贈与は契約で万一に備える

死因贈与の受贈者が先にお亡くなりなると、民法994条1項が準用され、契約が失効するかどうかについては、最高裁判所の判例がなく、下級審では肯定するものと否定するものがあり、個別の事情ごとに判断しているのが実情です。

ただし、死因贈与の契約書に受贈者が先にお亡くなりなった際の処理について定めておくことで、万一のトラブルを回避することが可能になります。

1-6.登記の方法の違い

相続開始後、被相続人に不動産がある場合は、登記によって、所有権の移転を公示します(相続登記は義務化される予定です)。

遺贈でも死因贈与でも、不動産を譲り受けた場合には、登記をしておくに越したことはありません。しかし、両者には、登記についても違いがあります。

遺贈では仮登記できない

遺贈で、不動産の所有権を取得した場合には、遺言者の相続人全員と受遺者とで共同申請し、登記します。ただし、遺言執行者がいれば、不動産をもらった受遺者は、遺言執行者と所有権移転登記をすることができます。したがって、仮に受遺者が遺言執行者に指定されていた場合は、受遺者一人で登記することが可能です。

しかし、遺贈は、遺贈者の死亡を条件に効力が生じるため、遺贈者の生前に仮登記をすることはできません

死因贈与は「始期付所有権移転仮登記」が可能

死因贈与で所有権が移転した場合、贈与を受けた受贈者と贈与した贈与者の相続人全員が共同で登記をする必要があります。

また、贈与者が死亡する前に、「始期付所有権移転仮登記」という仮登記をすることができ、完全に所有権が受贈者に移転する前に、登記上、受贈者は、自分の権利を保全しておくことができます。

1-7.土地を譲り受けたときに負担する税金の違い

死因贈与と遺贈とで一番大きな違いは「税金」です。遺贈や死因贈与によって不動産を譲り受けた場合には、以下の2つの税金がしっかり計算され課税されます。

遺贈で負担すべき税金

土地を遺贈された場合に負担する税金は、次の通りとなります。

不動産取得税は、包括遺贈か特定遺贈かによりかかるかどうかが異なります。

登録免許税 受遺者が法定相続人の場合 固定資産税評価額 × 4/1000
受遺者が法定相続人以外の場合 固定資産税評価額 × 20/1000
不動産取得税 包括遺贈の場合 非課税
特定遺贈で受遺者が相続人の場合 非課税
特定遺贈で受遺者が相続人以外の場合 固定資産税評価額 × 4%(標準税率)

死因贈与で負担すべき税金

土地を死因贈与された場合に負担すべき税金は、次の通りです。

登録免許税 固定資産税評価額 × 20/1000
不動産取得税 固定資産税評価額 × 4%(標準税率※)

なお、不動産を死因贈与により取得した場合には、贈与税ではなく相続税の課税対象となります

2.遺贈と死因贈与はどちらが優先するか

では、同じ財産について、「遺贈する旨」の遺言書と、死因贈与契約がある場合には、どちらが優先するのでしょうか?

遺言書には書かれた日付、死因贈与契約書には、契約を交わした日付が記載されています。この日付が新しいものが優先されることになります。

民法上、遺言者が作成した後の遺言書がその前に作成した遺言書と抵触する場合には、抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(同法1023条1項)。

死因贈与についても、その性質に反しない限り、原則として民法の遺言書の規定が準用されます。したがって、死因贈与と遺言書の内容が抵触している場合には、日付の新しいものが、日付の古いものを撤回したと解することができるのです。

3.遺贈と死因贈与の違いまとめ

ここまで、ご紹介した遺贈と死因贈与の違いをまとめると、以下の通りです。

遺贈 死因贈与
法的性質 単独行為
遺言書に記載して行う
契約
可能になる年齢 15歳 成年に達した後
撤回 遺言の撤回方法で可能 可能
ただし、負担付死因贈与で、負担部分の履行が済んでいる場合は、原則できない
放棄 受遺者の放棄:可能 受贈者の放棄:原則できない
登記 遺言者の相続人全員と受遺者とで共同申請 受贈者と贈与者の相続人全員との共同申請
仮登記 できない 始期付所有権移転仮登記が可能

遺贈と死因贈与は、財産の所有を贈与者や遺贈者から受贈者や受遺者に移転するという効果は同じです。

財産を受け取る方が相続人の場合は、税務上のメリットは、遺贈のほうが大きいですが、どちらを選択するか判断に困ったときは、相続に強い弁護士にご相談いただくのも一つの方法です。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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