親に遺言書を書いてもらうための王道テクニック

日本では高齢化が進み、遺言書を作成する方も多くなっています。

事実、日本公証人連合会によれば、2023年の公正証書遺言の作成件数は118,981件で、10年前の約114%となっています。

しかし、2023年の相続件数は、159万503件*であり、遺言書を書いているのはまだまだごく一部であることがわかります。

そこで、ここではなぜ遺言書の作成が少ないのかその原因を探り、遺言書を書いてもらうための有効な方法について考えてみたいと思います。

【出典】「人口動態統計速報」厚生労働省

1.遺言書を作成しない理由

2022年に日本財団が行った調査によると、遺言書を作成していない理由として挙げられているのは、以下の通りです(複数回答)。

遺言書を作成していない理由(上位5位まで)

遺言書を作るのは、手間がかかりそうだから 29.8%
遺言を書くほどの財産を持っていないから 27.1%
自分にはまだ早いから 20.2%
誰に何を相続させるか悩んでいるから 17.8%
法定相続通りに分けてもらえればいいと思っているから 17.8%

同調査では、今後も作成しない理由も聞いており、その結果は以下の通りです。

遺言書を今後も作成しない理由(上位5位まで)

遺言を書くほどの財産を持っていないから 43.3%
法定相続通りに分けてもらえればいいと思っているから 24.6%
家族や親族がうまく分配してくれると思うから 23.4%
遺言書を作るのは、手間がかかりそうだから 12.7%
ネガティブな事はあまり考えたくないから 10.2%

【出典】「遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査要約版」P.15|日本財団

2.遺言書を作成しない理由に反論できる?

次に、遺言書を作成しない主な理由を分析してみましょう。これらの理由に反論の余地さえあれば、遺言書を書いてもらうための説得材料になるはずです。

2-1.資産が少なければ遺言は不要?

「遺言書を今後も作成しない理由」として「遺言を書くほどの財産を持っていないから」が回答者の43.3%を占め、トップとなっています。

では、遺言書を書くほどの財産がなければ、遺言書がなくても相続人に争いは生じないのでしょうか?

2022年の司法統計によると、以下の通り、「遺産分割事件のうち認容・調停件数」のうち33.48%が1,000万円以下の紛争で、1,000万円を超え5,000万円以下になると42.8%と、75%以上が5,000万円以下の遺産を巡る争いです。

この数字からは控えめに言っても、遺産の多寡にかかわらず相続は紛争になる可能性があることが伺えます。

【出典】「令和4年司法統計年報(家事編)」P.66「第52表遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしないを除く)-遺産の内容別遺産の価額別-全家庭裁判所」|裁判所

2-2.作成に手間がかかるなら相続が争いになってもいい?

「遺言書を作成していない理由」のトップに挙げられている理由は、「遺言書を作るのは、手間がかかりそうだから」です。

しかし、後に相続人となるご家族やご親族に、遺された者たちが争うのを避けるために遺言書を書いてくれと頼まれて、手間がかかるからと断れる方はいるでしょうか?もし、いらっしゃるとしたら、その方は相当な面倒くさがりでしょう。

問題は、本当に遺言書が相続争い回避の有効な手段となるかです。

2-3.遺言書を書くのはまだ早い?遺言書の作成はネガティブ?

どんなに偉い人でもいつかは亡くなります。これだけは、現在でも避けられない厳然たる事実です。しかも、人は自分がいつ死亡するかを予測できません。遺言書を書くのに早すぎるということはありません。

では、ご自分の死後を考えることはネガティブなことなのでしょうか?

ご自分の死を意識すると、人生の有限性を感じて時間の大切さに気づくことができ、人生の優先順位を見直して、本当に大切なことに集中するきっかけとなります。

今はやりの終活をすれば、ご自分の死後に残したいものや、人生での目標を明確にすることができ、現在の生活スタイルを見直して、より豊かな人生を送ることができる可能性もあります。

遺言書を書くことが、ご自分の人生を振り返り、これからの人生を考え直す契機にもなるはずです。

2-4.遺産分割協議で争わずに遺産を分けられる?

遺言書がなければ、遺産分割協議で遺産を分割します。法定相続分に従った遺産分割でも、従わない遺産分割でも、相続人全員が合意さえできれば、遺産分割協議は成立します。

しかし、遺産は限られています。相続人の誰かが遺産をより多く得れば、他の相続人の取得分は少なくなります。遺産分割では、相続人の利害が対立するために争いになりやすいのです。

さらに相続人間に相続以前からの確執があれば、ヒートアップするのは目に見えています。

そこに、遺産の持ち主であった被相続人の遺言書があったらどうでしょう?

3.遺言書作成は相続争い回避のための有効な手段

遺言書があると、相続人全員が合意しない限り、遺産分割協議で遺言書と異なる遺産分割をすることができません。

別の言い方をすると、遺言書があれば相続人は遺産分割協議を経ずして、遺言書に従った遺産を分割することが可能です。

また、遺言書で遺言執行者を指定しておくことで相続手続きをスムーズに進めることができ、相続人が遺言書と異なる遺産分割を主張した場合には、遺言執行者の合意も必要になります。

つまり遺言書を作成しておけば、相続人が遺産分割協議をする必要がなくなり、相続が争いになる可能性を抑えることができるのです。

4.遺言書を書いてもらう方法

このように、遺産トラブルを避けるために効果的な遺言書ですが、被相続人となる方が、自から進んで書いてくれないケースが多いのは周知の通りです。

そこで、遺言書を書いてもらうための具体的な方法をいくつかご紹介します。

4-1.遺言書がないと相続争いが起こる可能性があることを説明

まずは、親自身に、遺言書がないリスクを分かってもらうことが役立ちます。上記のような理由を挙げて書かない方には、ここまで記載したことを伝えればいいでしょう。

また、遺言書がなければ相続人がどのような争いを繰り広げて、どのような悲惨な結果になる事例が多いのかを具体的に調べて、説明するのも方法です。

遺産トラブルを集めた本も出版されており、ネット上にも様々な具体例があります。まずは遺産トラブルがあるということを親に分かってもらうことが大切です。

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4-2.遺言書を書いて欲しいとストレートに依頼する

前述の通り、遺言書を書くことは、決してネガティブなことではありません。しかし、親族同士で面と向かって話し難いことは確かです。

しかし、推定相続人の立場から、ストレートに「遺言書を書いて欲しい」という希望を伝えることが役立つことがあります。

遺言書を書かない方は、「遺言するかしないかは、自分の気持ちの次第であり、親族は関心がない」と考えている可能性があります。

親族の立場から遺言がないことが気になっており、将来のために遺言書を作成してほしいという気持ちをはっきりと告げることにより、はじめて「親族も気になっていたのか」ということがわかり、「それなら遺言書を作成しよう」、という気持ちになる可能性があります。

4-3.遺言書の作成手続きを手伝う

上記の調査にもある通り、遺言書の作成手続きが面倒であると感じていたり、遺言書の作成方法がわからなかったりすることがあります。

例えば、遺言書の適切な作成方法を教えたうえで、公証役場への公正証書遺言の作成申し込みをし、一緒に公証人役場に行ってあげるなど遺言書の作成を手伝うと、親も遺言書の作成に対する抵抗がなくなる可能性があります。

ただし、遺言書の内容についてアドバイスをするのは、他の相続人との利害が対立可能性があるため、避けるのが賢明です。

4-4.ご自分の遺言書も一緒に書く

ご自分も一緒に遺言書を書いてみるというのも1つの方法です。

15歳になれば、誰でも有効に遺言書を書くことができます(民法961条)。結婚しているのであれば、遺言書の作成が得になっても損になることはありません。子どももいるならなおさらです。

そこで、一緒に遺言書を作成することを提案するのです。親族が自分の分を作成するのであれば、「それなら一緒に作ってもいいかな」と考える親もいるはずです。

親のタイプによっては有効な方法であり、ご自分の分の遺言書も作成出来るため一石二鳥の方法です。

4-5.弁護士に相談する

最後にご紹介するのは、弁護士に相談してみるです。

相続に強い弁護士なら、遺言書とはどのような役割があり、作成するとどのようなメリットがあるのか、作成方法などについて、分かりやすく説明してくれるでしょう。

親族などから勧められるより、客観的第三者から勧められたほうが、。

そのまま遺言書作成を弁護士に依頼することもでき、法的な問題にもアドバイスしてくれるため、「誰に何を相続させるか悩んでいるから」という理由を挙げている方には効果的です。

5.遺言書を書いてもらう際の注意点

遺言書を書いてもらう際には、注意点もあります。

5-1.遺言書は遺言者が自発的に書かなければならない

そもそも遺言するかしないか、どのような遺言書を作成するかの判断は、遺言者自身が行うべきものです。したがって、脅迫して書かせたり、騙して書かせた遺言書は無効となります(民法96条)。

遺言書を書いてもらいたいと考えても、無理やり書かせてはいけません。

5-2.遺留分に注意する

被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には、法律上認められる最低限の遺産取得割合である遺留分があります。

遺言書とはいえこの遺留分を侵害することはできず、遺言書により遺留分を侵害された相続人は、侵害者に対して遺留分侵害額請求が可能性があり、遺言書の存在が却って相続争いの原因になってしまう可能性があります。

遺言書を書いてもらう際には、この遺留分に十分配慮してもらう必要があります。

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5-3.遺言書の付言事項を有効に活用する

前述の通り、相続人全員が合意すれば、遺言書と異なる遺産分割が可能になります。そこで注目したいのが、遺言書の付言事項です。

付言事項を遺言書に記したとしても、相続人はその付言事項に法的に拘束されることはありません。しかし、遺言書は被相続人の最後のメッセージであり、相続人に遺言書の通り遺産分割をしてほしいことを伝えるには、付言事項は有効な手段です。

遺言者が遺留分を侵害しても構わないから遺言書通りに遺産を相続してほしいと考えている場合も、この付言事項が有効です。

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まとめ

今回は、遺言書を書いてもらう方法について解説しました。

遺言書を作成してほしい場合、相続に強い弁護士の力を借りるとうまくいくことがあります。

遺言書を書いてもらいたい方は、一度一緒に相続問題に強い弁護士に相談に行ってみると良いでしょう。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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